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「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」で実証した、メレルシューズと "世界チャンプ" ジョセフの実力

(2017.11.07)

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スカイランナー・ジャパンシリーズ最終戦、「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」。フィニッシュゲートの向こう側に、スカイランニング界で“皇帝”と呼ばれる無敵のアジアチャンプ、宮原徹が厳しい表情で立ちすくんでいた。今シーズン、ジャパンシリーズ負けなし、これまで出場した5戦すべてにおいて表彰台の一番上に登っていた。だが、本大会は違った。トップに2分差をつけられてのフィニッシュ。悔しさを滲ませ、しばらくその場を動くことができなかった……。
「おめでと!」
宮原を上回る走りを見せ、本大会優勝を飾った米国のトップアスリート、ジョセフ・グレイが宮原に歩み寄り、声をかけた。2016、2017年の「パイクスピーク・アセント」2連覇を始めとした、世界のメジャーレースをことごとく制し続けている世界チャンプである。少し違和感のあるジョセフの言葉だったが、不思議な温かみがあった。

 

写真:金子雄爾 文:山本晃市Photo by Yuji Kaneko Text by Koichi Yamamoto(DO Mt. BOOK)

ジョセフ・グレイ(Joseph Gray)
1984年、米国ワシントン州生まれ。現在、米国コロラド州在住。山岳ランニング・スカイランニングのスペシャリストとして活躍する世界のトップランナー。2016年、「山岳ランニング全米選手権」「山岳ランニング世界選手権」「パイクスピーク・アセント」などなど、数々のメジャーレースを制覇し、快進撃を続けている現在大注目のアスリート。

 

日本国内でも人気急騰中のスカイランニング

 スカイランニングという山岳ランニング・スポーツをみなさんはご存じだろうか。イタリア・チェルビニアが発祥の地とされ、現地の登山家たちが行なっていたスピード登山(快速登山)が進化した山岳ランニング・スポーツだ。村の教会から周囲のシンボリックな山のピーク、空へ向かって一気に駆け登り、山頂から折り返して再び教会へと舞い戻る。そのスピードを競ったことから始まったものがスカイランニングと呼ばれている。

雲間に散見する上州群馬の山々をバックに、スタート直後の急登を駆け登るスカイランナーたち。あまりの急登に四つん這いになって登る選手がいるなか、ジョセフはグングンと標高を上げていく。本大会は20秒間隔のインターバルスタート(ウェーブスタート。一定の間隔でひとりずつスタートし、実績の高い選手が最後に出走する)を採用。最終スタートしたジョセフだったが、あっという間に現れた。写真提供=室伏那儀(尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター)

 現在、日本国内でも人気急騰中の山岳スポーツで、2013年には「日本スカイランニング協会(JSA)」も設立されている。同協会会長には世界で活躍するトップアスリート松本大氏が就任、翌2014年より「スカイランナー・ジャパンシリーズ」を開始。シリーズ戦は日本各地で開催され、獲得ポイントによって年間チャンピオンが決まる。日本国内では「バーティカル」部門と「スカイ」部門が行なわれており、「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」は「バーティカル」部門の最終戦として開催された。

最大斜度50%という傾斜区間もあるジャイアント・ウォール。前夜の雨により多量の水を含んだ路面は超スリッピー。ひとたび体勢を崩せば転がり落ちてしまう……、まさに怪物のような壁。ほとんどの選手が、両手両足を使って慎重に登り詰めてゆく。

「バーティカル」部門とは、簡単に説明すると「距離5km以内のコースで、獲得高度1,000m以上。かつ傾斜角度30%以上の坂をコースに含む」といったもの。「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」(距離5km/獲得高度1,000m)ももちろんこの国際基準を満たしている。標高約1,000mのスタート地点からいきなり約400mの激坂を直登、直後その激坂を約200m以上下る。さらにコースを進み、国体スキー競技でも使用されているジャイアント・ウォール(平均斜度約40%、最大斜度約50%。この登り区間は合計約300m)を登り詰め、最後の1km区間でダメ押しのように約300mを一気に駆け上がる。最終的に標高約1,700m地点に設置されたフィニッシュゲートを潜り抜けて完走というコース設定だ。

コース中腹の緩斜面区間。曇りがちの天候だったが、みごとな紅葉が選手を出迎えてくれる。ジョセフ曰く「故郷ワシントン州のフィールドに似ていてとても気分よく走れたよ」

 ほぼ空身(選手によってはパック等の装備を持つ)でのランニングとはいえ、この一気登りは正直キツイ! だが、ここにこそスカイランニングの魅力がある。短時間で標高を稼ぎ空がグングンと近くなる感覚、直線的な急登を制覇した後に眺めるピークからの大パノラマ、そしてなによりも限界越えに挑戦しフィニッシュゲートを潜り抜ける達成感……。年々増え続けるエントリー数や大会の盛り上がり様が、スカイランニングの魅力をそのまま物語っている。それは、観戦しているだけでももちろん伝わってくる。ましてや参戦すればなおのこと。百聞は一見、いや一験に如かず。ぜひエントリーして、体感体験してみてほしい。
 ちなみに世界では、「国際スカイランニング連盟(ISF)」が競技レギュレーションを設定し、「スカイランナー・ワールドシリーズ」を展開している。現在、「バーティカル」「スカイ」「スカイエクストリーム」「スカイウルトラ」の4部門のほか、高層ビルを駆け上がる「バーティカル・ワールド・サーキット(VWC)」(階段垂直マラソン。日本では国内最高層の大阪「あべのハルカス」で開催)が世界各地で行なわれている。レースのカテゴリーやレギュレーション等は年々試行錯誤され、進化整備が続けられている。詳細は、「日本スカイランニング協会(JSA)」のホームページ(http://skyrunning.jp/)をご覧いただきたい。また、2年に一度、世界選手権も開かれているので、こちらも注目だ。

距離1kmで約300mを駆け上がる最後の難関。ここを登破すれば、フィニッシュゲートが現れる。大会当日は深い霧が立ち込め、どこまで登ってもフィニッシュゲートが見えてこない。そんな状況のなか、選手は必死にゴールを目指す。

 さて、話を「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」に戻そう。
 本大会は、去る10月14日、群馬県片品村の「ホワイトワールド尾瀬岩鞍」を舞台に「スカイランナー・ジャパンシリーズ」の「バーティカル」部門最終戦(第7戦)として開催された。
 結果は、米国から初参戦したジョセフ・グレイが総合優勝。アジア選手権を2年連続で制していた“皇帝”宮原徹をみごと打ち破った。
「How do you say congratulations in Japanese?(コングラッチレーション<敬意を込めた祝辞、Good jobのような意>は、日本語でなんていうの?)」
 フィニッシュしたジョセフが、ゲート周囲にいる人たちに聞いた。直後、宮原の元へ歩み寄り、声をかけた。
「おめでと!」
 正直、悔しい思いもあるはずの宮原だったが、ジョセフの言葉とともに表情が崩れた。ふたりは笑顔でハグ、お互いの健闘を讃えた。
 一方、女子は宮原同様アジア選手権2年連続覇者であるアジア女王の吉住友里が貫禄の優勝、ジャパンシリーズ全7戦完全制覇という偉業を成し遂げた。2017年度の「バーティカル」部門年間チャンピオンは、男子が宮原徹、女子が吉住友里に確定した。

優勝したジョセフを囲んで、2017年度「スカイランナー・ジャパンシリーズ」年間チャンピオンとなった宮原徹(左)と同吉住友里の三人でフィニッシュ後に記念撮影。コングラッチレーション&グッジョブ!

※本大会リザルトの詳細は、「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」大会HPをご参照ください。
http://www.ozevk.com/result.html#2017result

 

 優勝したジョセフは、天候とコンディションの変化に合わせてシューズを変えていた。スカイランニングにおける「シューズ選び」という戦略について、彼はどんな考えを持っているのだろうか。Akimamaはレース翌日、この疑問を投げかけてみた。

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ライター
A kimama編集部
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