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アウトドアライター村石太郎が 友人たちを訪ね歩く「旅する地球」 ニュージーランド 番外編

(2017.09.11)

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アウトドアライター、
村石太郎が友人たちを訪ね歩く、旅する地球。
第3回目となる今回は番外編として、
クイーンズタウンでニュージーランド初の
日本酒造りを始めた「全黒」を尋ねます!

 寿司にラーメンは、すでに当たり前。トンカツや天ぷら、はたまた居酒屋スタイルの飲み屋さんも世界進出するなど、いまや日本食は世界各地で親しまれる料理となった。かつては品質が高いとは言いがたいものがほとんどだったけれど、いまや日本で食べるのと遜色ない味を楽しむこともできる。欧米の人たちはラーメンをすすって食べることができないとか、ずずずっと音を出すのを嫌うなんていうのも、すでに過去のこと。大都市圏では日本での生活を経験した人をはじめ、麺をすすって食べている姿も決して珍しくない。日本食店のなかでもとくに人気なのは寿司屋だが、店内では箸を持って寿司をつまみながら、日本酒で乾杯というのは、ちょっとおしゃれなデート・コースとして定番化している。

 しかし、本当にいい日本酒を飲めるのは、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンジェルス、パリやロンドンなど、国際的な都会に限られているのも事実だ。
 先々週、この短期連載で紹介したシャノンの家で日本からの土産に持っていった日本酒を飲んでいたら、彼から「クイーンズタウンでも日本酒を造っているんだよ」と聞いた。日本酒好きの僕はさっそく、彼らに連絡をとって訪れることにしたのである。

 ちなみに、ニュージーランド初の日本酒の酒蔵「全黒」は、杜氏のグレイグ・マクラクランさんと、デイビッド・ジョールさん、今回酒蔵内を案内してくれたリチャード・ライアルさんが中心となって2015年に立ち上げられている。そして、彼らに加えて4人目のオーナーとして、日本人の河村祥宏さんが参加しているのだ。

ニュージーランドで初めて
日本酒造りを始めた「全黒」へ

「おはようございます!」
 流暢な日本語で挨拶してくれたリチャードさんは、大きく「全黒・ZENKURO」と書かれた垂れ幕が張られた表玄関から室内へと僕を案内してくれた。

「ここにあるのは、吊るし搾りと言って、もろみを木綿の袋に入れて木の棒に吊して、自然に落ちてくる滴でつくる製法なんです。通常は、桶に入れたもろみに重しを乗せて絞り出すんです。吊るし搾り製法は古い作り方で、いまでは日本でもやっているところは珍しいんじゃないかな」

 現在、彼らが作っている日本酒は、全部で5種類。通常の製法で作り、アルコール度数を14%に抑えた「全黒オリジナル純米酒」、アルコール度数16%の「ワカティプ・スリーピングジャイアント純米酒」、吊るし搾りで作った「滴搾り純米酒」(アルコール度数16%)のほか、「純米にごり」(同14%)や「プラム酒」がある。ちなみに、「全黒」とは、ニュージーランドの誇りであり、国民的スポーツのラグビーNZ代表チーム「オールブラックス」からのネーミングだ。また、アルコール度数16%の「ワカティプ・スリーピングジャイアント純米酒」は、クイーンズタウンの街があるワカティプ湖には“眠れる巨人”が住んでいるとの先住民の言い伝えに由来しているというから面白い。

 リチャードさんの好意により試飲をさせてもらったのだが、もっとベーシックな「全黒オリジナル純米酒」は、アルコール度数が14度に抑えられているということもあり、すっきりとして飲みやすく、日本酒というよりも白ワインを飲んでいる感覚に近い。そんな感想を伝えると、リチャードさんは「そうなんですよ」と笑顔になった。

西欧料理にもよくあう
日本酒づくりをしたい

「ニュージーランドの日本酒文化は、まだ始まったばかりなんです。まだあまり知られていなくて、どうしてもテキーラやウォッカのようにアルコール度数がすごく高いと勘違いされているんですね。でも違いますよね。どちらかというと、ワインに近い。とくに純米酒は飲みやすく、醸造アルコールも入っていないから飲んだ翌日も頭が痛くなりにくい。普通の日本酒は15〜16%程度で、ワインは普通13〜14%ぐらいの度数です。これにあわせて、全黒オリジナル純米酒も14%にしているんです。こうすることで、日本料理以外でも西欧料理、とくにニュージーランド料理にあうようにと考えているんです。日本酒の歴史は、本当に長い。だから日本の酒蔵と勝負しても勝ち目はないですよね。そのため、あくまでもニュージーランド人が好むような味、ニュージーランドならではの美味しい日本酒を目指しているんです」

 出荷本数は、年間で2000本程度と決して多くはない。そのため、現在はインターネットでの販売が中心となっている。また、ニュージーランドにある日本食レストランのほか、ニュージーランド料理屋でも人気が出てきているという。こうした状況に対応して、今年は生産数を倍増して4000本を目指すという。

 全黒が立ち上がったのは2年前だが、それまでの彼ら3人は「探検ツアーズ」という名前で日本人向けの登山ガイド・サービスを行ってきた。なんと、オーナーのうちのひとり、グレイグさんは外国人ではじめて日本百名山の全山登頂を果たした人物だと聞いてびっくりした。百名山のほかにも日本列島徒歩縦断や、30日間での四国八十八ヵ所巡礼などを行っている。20年程前、日本のアウトドア雑誌などでも頻繁に姿を見せていたので覚えている方もいるだろう。
 そんな彼らが、なぜいまクイーンズタウンで酒造りを始めようと考えたのだろうか。

「デイビッドとクレイグが出会ったのは、大学生の頃なんです。本当に昔からの友人。ふたりとも日本に住んで、長いこと一緒に働いていてね。ニュージーランドに戻って探検ツアーズを始めたときは、20代だった。けれども、いまはみんな50代半ばになってしまった。体力も落ちてきたし、いつか登山やハイキングのガイドも難しくなってくる日が来る。夏の仕事は、体力仕事ですからね。全黒を始めたのは、そんな思いもあったんですよ(笑) 酒造りは夢でもあったし、これからも長いあいだできる仕事ではないでしょうか」

ZENKURO 全黒 NZ SAKE
日本とカナダでの日本酒の杜氏修行をしたデイビッド・ジョールさんを始めとしたオーナー4人で始めたニュージーランド初の日本酒ブランド。手がけるのは、すべて酒米と酒こうじで作る純米酒。これに、ニュージーランドのサザンアルプスの湧き水を加えている。飲みやすくすっきりとした味わいの「全黒オリジナル純米酒」のほか、より濃厚な「ワカティプ・スリーピングジャイアント純米酒」などが揃う。

 
 
ライター
Taro Muraishi

アウトドアや登山専門誌を賑わすアウトドアライター。精力的に世界各地のアウトドア・ブランドへの取材へと出掛け、そこで得た登山装備と登山道具史についての知識は国内随一。過去20年にわたって、アラスカ北部に広がる原生自然帯での遠征活動を続ける冒険旅行家としての顔も持つ。

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