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“NEW GENERATION CLIMBER” 茨城の天才少女クライマー、森 秋彩の実力

2017.03.31 Fri

森山憲一 登山ライター

 新たなオリンピック競技となったことで、さまざまな角度から注目されるクライミング。そんななか、3年後のメダル候補として日々壁に取り付き技を磨くユースたちがいる。現在、中学2年生の森 秋彩(あい)さんもそのひとりだ。まだまだあどけなさの残る彼女の実力は、大人顔負けの戦歴ばかり。茨城の天才少女が世界の舞台で活躍する姿も、そんなに遠い未来ではない。彼女の素顔に迫るべく、過去の記事を再編してお伝えしたい(出典は好日山荘『GUDDÉI research』2016年冬号より。※記事は2016年12月現在のもの)。

「クライミングが楽しい。ずっと登っていたい

3月、リード日本ユース選手権優勝
5月、ボルダリング日本ユース選手権優勝
6月、リードジャパンカップ優勝
8月、ジュニアオリンピック優勝
7月、グラビティリサーチカップ優勝
9月、アディダス・ロックスター・トーキョー優勝

 これらはすべて、2016年に12歳の女の子が残した戦績である。そのことにまず驚いてほしい。
 
 さらに言えば、ユース選手権とジュニアオリンピックは年齢制限のある大会だが、残りの3つは無制限。つまり実力のある大人も出てくるオープン勝負だ。なかでも、1年に1度開かれるジャパンカップは、日本選手権に次ぐ格を誇る大会。小林由佳や大田理裟、野口啓代など、ワールドカップで活躍する選手こそ欠場したが、国内トップを決める場である。そこで表彰台の頂点に立ったのが12歳だというのだ。アディダス・ロックスタ―では、優勝者はドイツで開かれる本戦に招待されるのだが、本戦の年齢制限に引っかかり、出場は3年後までお預けになってしまったという!

 その12歳は、茨城県に住む森 秋彩さん。2016年の9月に13歳になったばかりの中学1年生だ。すごいね! というと、困ったようにはにかみながら「うん」と答えるだけ。心も体もこれから成長期を迎える小さなクライマーだ。東京オリンピックの時点でもまだ16歳。次世代クライマーというより次々世代クライマーかもしれない。それでも実績はすでに国内トップレベルなのだ。

 秋彩さんがクライミングを始めたのは小学校1年生のとき。自宅近くのスポーツショップにクライミングウォールがあり、家族でやってみたところ気に入ってしまったのだという。
ジムはいつも父親の正夫さんと
 当初クライミングにハマったのは父親の正夫さん。しかし正夫さんがクライミングジムに出かけるたびに秋彩さんも「行きたい」とねだるようになり、いつの間にか立場は逆転。クライミングに行きたい娘に父が付き添ってあげるというかたちになっていった。

 小学校低学年のうちからさまざまなキッズコンペにも出場して活躍。3年生のときには、イタリアで開催されたコンペにも出場し、なんとボルダリング、トップロープ、スピードの3種目を全制覇。天才少女現ると一気に注目を集めるようになる。

 2016年2月にはテレビ番組にも出演している。10代の有望クライマーが勝負するというものだ。惜しくも決勝で17歳の田嶋あいかさんに敗れてしまったが、出場選手中ダントツに幼いながらも2位。番組中では司会を務めたナインティナインの岡村隆史さんに、月200円というおこづかいをいじられ、放映後にテレビを見た人からは、2位という結果よりもおこづかいのことばかり聞かれたという。中学生になった現在は、番組中で約束したとおりめでたく500円に増額!

「才能があったのかどうかはわからないんですが、とにかく登るのが好きな子でした。ジムに行くと、私が『帰るぞ』と言うまで、ずーっと登り続けているんです」

 正夫さんはそう振り返る。

「そしてそれは今もそうです」

 確かに。取材時は撮影のために「とりあえず自由に登って」と頼むと、すぐにこちらの存在も目に入らなくなったかのように登り続けている。クライミングでは、ひとつの課題をトライしたらしばらくレストをするのが普通だが、秋彩さんはほとんど休まない。まさに、止めるまで永遠に登り続けてしまうかのようだ。
クライミングを始めると周囲が目に入らなくなるようで、ひたすら壁に集中。考えている時間も短く、すぐにトライを再開する得意技はヒールフック。逆に苦手なのはランジ(飛び付き)だという。体が小さく筋力が少ないのでこれはしかたない。すぐにうまくなるだろう
 秋彩さんは現在のところ、リードもボルダリングもどちらもやり、専門を決めていないが、コンペの成績としては、どちらかというとリードのほうが結果を残している。秋彩さんのもうひとつのホームジム「つくばスポーレ」にはリード壁がある。ボルダリング専門ジムが圧倒的に多い現在、小学生時代からリードも強かったのは、ジムに恵まれていたこともあるはずだ。ただし「本当はボルダリングのほうが好き」という秋彩さん。今はボルダリングは体格的な不利があるが、この1、2年ですぐに結果を出してくるだろう。

 好きなクライマーを聞いても「とくにいない」、今後の目標も「まだわからない」。そんな具体的な何かよりも、今の秋彩さんにとっては、とにかく登っているだけで幸せであるらしい。この邪心のなさが、秋彩さんの強さのカギだ。これが失われないかぎり、茨城の天才少女が世界の舞台で活躍する姿を、そう遠くない未来に見ることができるだろう。

 
 

PERSONAL DATA
出身地 茨城県つくば市
生年月日 2003年9月17日
クライミング歴 6年
主な戦績
2017年 ボルダリングジャパンカップ4位
2016年 リードジャパンカップ優勝
2016年 日本ユース選手権優勝(ユースC)
2016年 グラビティリサーチカップ優勝
最高グレード
ボルダリング三段、リード5.14b
ホームジム
Rocky つくば阿見店
スポーレクライミングジム

 

(文・写真=森山憲一)
〔出典/好日山荘『GUDDÉI research』2016年冬号〕

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