• 山と雪

けっしてマネをしてはいけません!! アスリート、藤川 健だからできること。“日本オートルート”を一日で走破しちゃいました。

2017.05.26 Fri

 日本を代表するテレマークスキー、山岳スキーのアスリートである藤川 健さんが、ゴールデンウィーク真っ只中の5月4日に「日本オートルート」をたったの一日で走破したという。

 日本オートルートとは、山スキー愛好家には憧れのロングルートとして古くから知られており、雪の北アルプスの山々をつなぎつつ、立山から槍ヶ岳を経て上高地までを縦走する春先の伝統的なルートだ。一般的には4日~5日ほどかけていくルートを、藤川さんは一日で行ってしまおうと計画。なんとムチャな、とは思うものの、この藤川さんは只者ではない。知る人ぞ知るスーパーマンである。自身のプロフィールによれば、

藤川 健/ばんけいスキー場所属のプロスキーヤー、山岳ガイド
テレマークスキーのスペシャリストとしてレースや技術解説などで活躍。国内テレマークスキーシリーズレース総合優勝6回。また、山岳スキー競技でも活動し、日本選手権7連覇。世界選手権をはじめ国内外のレースにも参戦、2015年の山岳スキー世界選手権にも選手選考される。2017年の今年はイタリアで行われた世界選手権に加え、同じくイタリアで開催された苛酷なレース「メッツァラーマ」にも日本人初参戦した。

 と、まぁオソロシキ記録がずらりと並んでいる。また、2014年には日本百名山連続登頂に挑戦しており、見事「早登り」の記録も樹立。2016年5月には北海道の富良野岳から旭岳までの雪のルートを13時間半で走破……というわけで、次は前々からやってみたかった日本オートルートの挑戦となったそうだ。凡人では考えられないこの発想にただただびっくりしてしまうが、それをやり遂げるのだからまたすごい。

 さて、いよいよオートルートの挑戦の様子を。
前日に立山入りし、5月4日の3時51分に室堂をスタート。基本は登りはスキーの裏にシールを貼って登り、下りはシールを剥がし滑っておりる。ところどころでスキーを担いで歩いて登るところもあった。めざす槍ヶ岳ははるか彼方。まだ見えない百名山の薬師岳山頂へは10時51分に到着北ノ俣岳を越え、ようやく槍ヶ岳が見えてきた。しかしまだまだ道のりは長い……
 最初のうちは雪が前夜の冷えで凍っていて滑りやすかったが、この日は気温も高くすぐに雪は融け出し、途中からは随所でストップ雪。快適に滑り降りれるはずのスキー滑走が登りよりも辛かったとのこと。ようやく槍ヶ岳が近づいて来たが、日が暮れてきた……
 そんなこんなで何度も何度も登り下りを繰り返し、槍ヶ岳に到着したのはすっかり陽も落ちた20時過ぎ。最後の楽しみにしていた槍沢滑走は、クラストと雪崩跡で、ガタガタ、ボコボコで恐ろしくひどいコンディション。疲れたカラダにはきつい斜面だ。槍沢ロッジまでなんとか滑り下り、ここでスキー滑走は終了靴に履き替え上高地まで走り、河童橋到着は23時58分。なんとか日付が変わる前に上高地へたどり着いた  

 一般人には到底一日で行けるとは思えない、およそ70kmのルート。でも、藤川さんには可能なのだった。山岳スキーで培った技術と体力があってこその挑戦だ。

 そもそもなぜ、ロングルートに挑戦するのかと本人に尋ねると、即、「おもしろいから」との返答がきた。ひと言でおもしろいと言われても、それはどんなおもしろさなのか、凡人には想像し難い。

 スキーが好きで、基礎スキー、テレマークスキー、山岳スキーなど、さまざまな滑りの技術を極めてきた藤川さんだけに、日々のトレーニングで培った体力とスキーの技術をもって「スキーで真剣に山を登ろうとする」と、ロングルートを一日で走破するこのスタイルにつながってしまうのだろう。

 ロングルートをただのんびり(一般の人にとってはいたって真剣に歩くスピードだが……)歩くだけでは藤川さんにとっては真剣な山登りとはならないらしい。藤川流の「本気で山に取り組む」ことは、自分の能力をフルに発揮しなければならないこと。話を聞いていると、異次元の、なんともストイックな藤川さんの素顔が垣間見えた。

 3年前には日本百名山を33日間で完登した藤川さん。そんなに速く通り過ぎては景色を楽しめないのでは? と思うが、藤川さんはのんびり歩くよりは速いけれど、景色はどこも十分に楽しんでおり、速く行くからこそ見えてくる景色、起伏の数々、越えて行く山々それぞれの全容を楽しんでいるとのことだ。

 うーん、なんとなく想像してみたが、到底自分では体感することはできない。山々を駆け回るウサギやシカ的な? はたまた山々を俯瞰する鳥? 動物的な感覚なのかなぁと勝手な想像を膨らませてみる。ぜひとも一日、藤川さんになってその世界を体験してみたいものだ。

 でもこの日本オートルート、想像していた以上に長かったみたいですよ、藤川さんにも(笑。

  
 
 
(写真=藤川 健 文=新井由美子/札幌在住フリーランスライター)

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