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アラスカ・フェアバンクスからレポート! 小雀陣二氏の2泊3日「Chena Dome Trail」山行記

2017.08.03 Thu

現在、1ヶ月ほどの日程でアラスカを訪れているアウトドアコーディネーターの“チュンチュン”こと小雀陣二さん。仕事の合間をぬってプライベートで出かけたあるトレイルのレポートを送ってくださいました。歩いたのはわずか数日前という、まさに“取って出し”! こういった身近なトレイルがフェアバンクス周辺にはたくさんあるようです。

 今年で9回目のアラスカ滞在。なんで''チュンチュンがアラスカ?と思う人も多いだろうから、僕とアラスカの出会いを少し……。

 専門学校に通っていたころ、友人が読んでいた『フィールド&ストリーム』という雑誌にアラスカの川旅の記事があり、それが脳裏に焼き付いた。「あ〜こんなところに行ってみたいな」と憧れを持つようになった。その忘れかけていたアラスカへの憧れは、その後手に取った故・星野道夫氏のアラスカの写真、そして心をくすぐる文章が再熱してくれた。

 その後転職したREIジャパンで、現在もアラスカの記事をよく書いている村石“アラスカ”太郎と一緒に働く機会があり、「そのうちアラスカに行こうよ」と誘われていた。そして2006年、ホーボージュンさんも含めた仲間5人・アラスカの友人3人の計8人でフェアバンクス南部に流れるサーモンで有名なカッパーリバーをラフトボートで約10日の旅をすることになった。

 それはとてもいい経験になったし、本当にすばらしい時間を過ごした。

 旅を終えたあと、フェアバンクスを離れるときに「もうなかなかここには来ないだろう」と思ったことを覚えている。しかし、その後も訪れ続け、この夏も運よくアラスカに来くことができている。ここ数年はもっぱらガイド仕事としてクライアント(お客さん)とともに川旅とハイキングを夏に楽しんでいて、キャンプ泊数は合計すると100日くらいになる。ここ10年、アラスカとの繋がりは続いている。 今年は、アラスカ北部のブルックスレンジ山脈エリアあるNorth Folk Koyukuk Riverの8泊9日の旅と、その後同じエリアにあるAlatna River添いのTakafula lakeでのキャンプ&ハイキング3泊4日という、それぞれ違うクライアントとの仕事でアラスカ入りした。

 ひとつ目の川旅がぶじに終わり、片づけをしながら、次の旅までの1週間でどこかに歩きに行こうかと僕は頭を悩ませた。なんたって貴重な自由時間なのである。

Chena Dome Trailへ
 結果、僕はお世話になっている友人宅からほど近い「Chena Dome trail」というトレイルをソロで2泊3日で歩いて来た。

 場所は、フェアバンクス市内から車で約1時間。

 アラスカの中でもアクセスがよく、観光と合わせて歩くにはオススメなトレイルだ。ほかにも日帰りコースや1泊2日コースなどもあり、わりと時間の自由が利く。インターネット上に掲載されているトレイル「Chena Dome Trail」の情報によると、は29マイルの周遊コース。アルパイン的なすばらしい眺望や、高山植物、1950年代に起きたというとある事故の残骸がトレイル上にあるらしい……

Chena Dome Trail:Day1

 7月29日朝7時に起床し、いつもの友人とのコーヒータイム。ゆっくり支度を仕上げ、9時頃に友人の車で出発する。登山口であるUpper Chena Domeに到着し、友人に「2日後のお昼くらいには帰って来る」と言って別れた。ほかの短いトレイルと同じ登山口から歩き始め、10時ごろに分かれ道になり、Chena Dome方面へ。 トウヒやシラカバが立ち並び、地面には多くの花や植物、苔類が豊富。アラスカらしい植生が迎えてくれた。歩き始めて標高が上がってくると、大きな木々が減り、苔類と石のトレイルに変わる。ここ数ヶ月、以前やってしまった脚首の傷が癒えず、歩く・走るをしていなかったから思った以上に登りがきつい! あ、歳か!?

 僕は山ヤさんではないから、山に登る初日はいつもこう思う。「あーなんで山なんて登っているんだ、バカか俺は!」。そんな感じでいつもの心の葛藤が始まるわけだ。
 途中荷物を減らしたいがためにサンドイッチの予定からスープヌードルに切り替える。それを含めて4時間くらい歩くと冷たい風が吹き始め、雲行きが怪しくなってきた。

「あ〜雨だ……」

 アラスカの天気はつい先ほどまでサンサンと晴れていても、気がつくと雲に覆われてかけていることが多い。冷たい風はその傾向だ。案の定ポツリポツリと降り始めた。雨具を着て、パックカバーを装着。通り雨のようなことが多いからそれに期待して歩く。が、1時間経っても止まない。それから30分歩くと眼下に低い木々と苔類の広がったキャンプによさそうなコルがあった。

 予定より早かったが、雨風に心を折られていたから、1泊目のキャンプとした。雨は止む気配はない。

 今回のソロハイキングは、アウトドアショップ「WILD-1」と開発を進めているテントの第三弾「GRAND HUT 1」のテストも兼ねたアラスカだった。「GRAND HUT 1」※カラーはサンプルカラー

 川旅ですでにこのテントを使って7泊していたが、雨の中では2回目だ。荷物も少し様子が違う。それなりに風も吹いている。テントを広げ風上にペグダウンを2発。ポールを通し、テントと張り綱にペグを打つ。この3本ポールのテントは風に強い。片側の前室にバックパックを置き、ずぶ濡れの身体は反対の前室から入る。雨具の上を脱ぎ、前室に起き、インナーテントのジッパーを開け、レインパンツを脱ぎながら中に入る。シューズやソックスも脱いで一息。ホッとする瞬間だ。テントってすばらしいと感謝する。

 反対に置いたパックから着替え、寝袋、マットを取り出し、多少濡れているパンツとシャツを着替え、マットを敷き、寝袋を広げる。まだ17時前、夕飯には早いし、クマのいるアラスカだからテントの全室で食事は作れないし食べられない。食材がテント内にあるのもアラスカの山旅で厳守すべきレギュレーションでから逸脱している。がしかし、ベア缶に入っているし、ジップロックで密閉している。外は雨。甘えて、疲れたから2時間ほど昼寝をした。

 気づくと曇っていたが雨は止んでいた。冷たい風は吹いたまま。ベアセーフティの基準にそって40mほど離れた場所で夕飯。インスタントラーメンとお茶で済ます。 夏のアラスカは白夜で明るい。夜中の2〜3時に夕方のように薄暗くなる。19時はまだとても明るい。夕食を食べていたら晴れてきてさらに明るくなった。

 今回のアラスカは川旅がメインだったから、持参しているマットが山用と違い大きく重い。それだけでなく食糧もだ。歩いてる途中で「2泊3日で1人なんだから火を使わないメニューで構成すればよかった」と後悔しながら歩き、どんどん食べることで食料、水、ホワイトガソリンを減らした。 このトレイルで問題がひとつ。尾根をつないでいるトレイルなので基本、水場がほとんどないことだ(初日はなかった)。今回水場がないことを想定して、6リットル近く担ぎ上げている。トータルの荷物の重さは約19キロだった。

 この重さでも、最近あまり歩いていない僕にはきつかった。

Chena Dome Trail:Day2 2日目の朝は5時半過ぎに起きて6時に荷物がまとまった。

 朝日が差した薄曇りの安定した空だった。朝食は夜のうちに作っておいたサンドイッチを途中で食べることにした。荷物をまとめ、山を見上げる。「あ〜いきなり登りかぁ〜やだなぁ」というボヤきたい気持ちをひとり抑え、一歩一歩と登っていく。

 身体が慣れた2日目は随分と楽になっていた。今日は唯一山中にあるキャビンに宿泊予定だ。昨日あまり進めなかったから、予定では今日は9時間歩かなければならない。
 途中、1950年代に墜落したという米軍のエアプレーンの残骸と出会う。まだまだ原形を留めていて、生々しい。このあたりはトレイルがわかりやすいルートではないため、道を探しながら歩く。石と苔のトレイルだ。 標高を上げてやっとChen Domeが見えてきた。頂上には何やら建物が建っているようだ。アラスカの山々が広がる360度の風景を見ながら黙々と歩く。 朝10時ごろに頂きに立つ。建物は倉庫だった。滞在は約10分弱。キャビンに向けて歩き出す。 壮大な風景が広がりすがすがしい。歩き始めから7時間を超えたころからまた下り、登るコルになる。「これを下りて、登って、また下るとキャビンがあるはず!」と鼻息を荒くして歩く。完全に自己対話だ。 写真中央にちらりと見せるのが今回の宿泊地であるキャビンだ。キャビンが見えてからのダラダラの最後の下りは脚に響く。そうして約8時間半歩き、ようやくキャビンに到着。 見た目はきれいだったが、中はそれなりに散らかり床に穴も開いていた。ほうきで軽く掃除し、置いてあった厚手のエマージェンシーシートを敷き、マットを広げてひと休み。15時前だから昼寝をした。外には雨水が溜められている。昨日雨が降ったし、少しはフレッシュだろうと持ってきた水を使わず、お茶や夕食のパスタは沸騰させて雨水で作った。建物のなかはクマの心配がないからリラックスできる。 明日のサンドイッチも作り、水には紅茶のティーバッグを2つ入れ水出し紅茶を作る。2泊3日のつもりだったが、このノロノロスピードだ。もう1日どこかでテント泊しようと予定を変更することにこのときは決めた。衛星電話でピックアップは明後日にして欲しいと友人にお願いした。

Chena Dome Trail:Day3 3日目は6時に起床し、荷物をまとめて歩き出す。今朝は快晴、朝から太陽が輝いていた。
 
 もう1日伸ばしたからか心の余裕があり、身体も慣れ、気持ちも変わり、アラスカのトレイルを歩く充実感が強くなっていた。そして、この後半のキャビンからのトレイルはハッキリとトレイルとわかるところが多く、歩きやすい。前半とは違い植物が多くなる。全体的に標高が下がっていることがこの植生に現れていた。 何よりすばらしいのは野生のブルーベリーがそこら中になっているから食べ放題なこと。甘みを摂り、水分も補給できてうまい!

 6時間ほど歩き、キャンプを予定していたコルに到着したが、岩や木が多くテントを張る場所がない。さらに歩き進めて行ってもなかなかいい場所がない。途中水が溜まっている小さな水溜りはあった。浄水器があれば後半なら水が確保できる可能性はあると思う。

 さて、まだお昼過ぎ、体力もある。「やっぱり今日、帰ろう!」と、また予定を変更することに決めた。変更を伝えるために電話をする。友人は出かけていたので、奥さんに再度の予定変更を伝えた。 後半のコルエリアは木が多く、クマが怖かった。手を叩き、声を出して抜ける。途中ブルーベリーを食べながら。再度の電話連絡。衛星電話は便利だ。僻地からでも繋がる。16時半から17時には下山場所に到着予定と伝える。 しかし、そこからのダラダラとした下りがつらかった! 景色はいいが脚がつらい。 そして木が増えてくるから、どうしてもクマを警戒する。

 いよいよ行動時間は9時間を超え、まぁたいへん。ほどよい枝が落ちていたからポール代わりに持ち歩き進める。 こういう感じの登山の仕上げのトレイルは日本に似ているなぁと考えながら歩く。川の音が聞こえ、車の音がする。ゴールは違い。時間は16:20。 さらに歩き進めて16:38にゴールであるLower Chena Domeに到着する。道路まで歩き、パックに腰を下ろす。迎えを待ちながら「やはり歩いてよかった」と、初日に考えていたことはウソのような気分だった。

 アラスカには無数にフィールドが広がっている。ブルックスレンジなどさらに北部にはウィルダネスを求めて多くのハイカーが歩いている。もちろんそこには明確なトレイルはない。しかし、地図を頼りにみんな、歩いている。

 またフェアバンクスやアンカレッジからアクセスしやすいトレイルは地図もあるし情報もある。各自の旅の行程に合わせて場所や距離など選べる。このChena Dome Trailは2泊3日。この地で目にしたアラスカの広々とした山々の景色と、日ごとに変わっていくトレイルの感覚と植生などによって、ブルックスレンジなどの北極圏やそれに近いウィルダネスエリアに行かなくても、十分アラスカを味わうことができたと思う。ちょっとつらくてとても楽しい旅だった。

Chena Dome Trailのメモ:
 1日目歩行6.5時間・テント泊、2日目歩行8.5時間・キャビン泊、3日目歩行10時間……と、僕はスピードハイカーではないしそんなに健脚ではないから、日本の山々を歩いているそれなりに山に慣れた人であれば2泊3日で十分歩けるコースだった。水の問題を克服すれば余裕を持たせた3泊4日にするのもいいと思う。このトレイルの地図には行程は2〜4日と明記されている。
 ウエアは晴れて風がなければ夏はTシャツとショーツでもいい気候だ。が、アラスカは蚊が多い。今回もつねに蚊に追われていた。僕は蚊よけに上は風通しのいい薄手のフリースジャケットを着ていることが多かった。日が陰ると涼しいこともその理由だ。寝間着を兼ねた防寒着として、上はウールの少し厚手のフーディーと下は薄手のフリースのタイツを持っていた。ほかに着替えは持たなかった。食料はバックアップも含めサンドイッチのパン、ハム、チーズを多めに。行動食はアーモンドとビーフジャーキーを多めに持っていた。
 バックパックは、今回はキャンプギアとフォールディングカヤックとともにアラスカ入りしているので中型を選んだ。グレゴリーのパラゴン48。外付けで左右に大型のマットとテントポール。ボトムに食材の入ったベア缶。雨具はすぐに取り出せるようにアウトポケットに入れていた。

(文・写真=小雀陣二、山行日=2017年7月29日〜31日)

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