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冬がなくなったら、あなたはどうしますか? POW JAPANが起こす、気候変動を解決するムーブメントとは!?

2020.03.03 Tue

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

「本当にやらなきゃいけないのは大人なんですよ。私たちなんです。だから、それを持って帰ってください。自分もそうだし、自分の伝えられる仲間だったり、家族だったり、伝えられる範囲でいいので、それを持って帰って欲しいんです。諦めないで行動するしかないんです」
 
 この言葉は、東京・神田で行われたイベントの最後に、POW JAPAN代表の小松吾郎氏が、会場にいた130名の参加者に向かってストレートに語った言葉の一部を抜粋したものです。とてもシンプルで、心にズシンと響く言葉でした。

イベント会場に入ると、目の前にストレートなメッセージが飛び込んで来ました。

 POWとスノーコミュニティを直接繋ぐ場として、2/3(月)、4(火) の2日連続で開催されたフィルム上映会イベント「Snow Activism フィルム上映&トークイベント」は、POW JAPAN(Protect Our Winters JAPAN)と、その活動に共感しサポートしているパタゴニア日本支社の協力によって行なわれました。気候変動問題に対しての映像作品の上映やトークショーでメッセージを伝え、アクションしていくきっかけを投げかけたものです。

■POW(Protect Our Winters)とは?

Pow Japanのスローガン “スノーコミュニティの情熱を、気候変動を解決するムーブメントに変える”。

 POWとは「Protect Our Winters」の頭文字をとった略称です。2007年、プロスノーボーダーのJEREMY JONES氏が、スノースポーツ(スノーカルチャー)のスタンスから気候変動にフォーカスを当てた団体を立ち上げました。
 
 現在のPOWは、たくさんの賛同者が集まり、全世界で13万人以上のサポーターに支えられ、意識ある人々とコミュニティーを活性させ、有意義な活動へと繋がる法案の策定に向けた政府への働きかけなど、気候変動に対する社会的なムーブメントを起こしています。

 同じく日本でも雪不足にはじまり、気候変動を問題だと感じていたスノーボーダー、スキーヤーの中で、JEREMY JONES氏と交流のあったスノーボーダーの小松吾郎氏が代表理事となって、2019年2月に一般社団法人 Protect Our Winters JAPANが発足しました。代表理事 小松吾郎氏からのこちらのメッセージを、ぜひ一読ください。

小松吾郎氏の豪快なライディング

 映画上映のあとは、小松吾郎氏とパタゴニアのスノーボード・アンバサダー玉井太朗氏によるトークセッションが、雑誌『Fall Line』編集長 寺倉力氏のナビゲートのもとに行なわれました。

 この日本を代表するスノーボーダーと編集者が、2月上旬に雪山ではなく、東京に集まってトークショーをしているなんて、まさに今回のテーマを象徴するおかしな話です。なぜなら、本来の冬が例年どおりやって来ていれば、登壇している3者は全員雪山にいるはずであり、東京にいるなんてあり得ない時期だからです。 

玉井太朗氏のうつくしいスプレー。

■今年のニセコについて

 ナビゲーターの寺倉氏の質問を受けて、玉井氏は、ゆっくりと厳しい口調で話し出しました。
「いちばん目につくのがニセコでも雨が降り、もう2月だというのに一度雪が降っても解けて凍るのを通り越して、道路が乾いてしまいます。1990年からニセコに住んでいますが、こんなことは初めてです。(気候変動に関しては)2006年ぐらいから顕著になっていて、とくにこの2年はひどい状況に感じます。それは、雪だけではなく、川の水にもすごく影響していて、昨年は川の水位もずっと低かった。極端に減るわけではないが、農作物にも少しづつ影響が出てきている。木が枯れきたりもしている。海では、南の魚が上がって来ていると聞く。気温に関して、朝イチの気温は-15〜-18度になるのに、10〜11時くらいにはTシャツで歩けるくらいに気温が一気に上がる。それが、どういう影響が出るかわからないが、そんな状況です」。

実は、2000年代前半から付き合いがあるというおふたり。小松氏は、小学生までニセコで過ごしています。現在の玉井氏の家の前を通って小学校に通い、冬はナイターでスキーをしていたそうです。その後、カナダのウィスラーに移住してからスノーボードを始めたそうです。出会った当初のお互いの印象やいっしょに行ったイタリアでの撮影など、昔話で談笑も。

■今年の白馬について

 次は、小松氏が「今年は、冬が始まる感じがしなかった」と話し出します。「あたたかい日が来て、でもそのあとに寒い日が来るはずなのに、今年は満遍なくあたたかい。先日、自分の家の隣に住んでいる、毎朝スキー場に行って、昼前にコーヒー飲んで家に帰っている70代のおじいさんと話したときも"こんなこと一回もない"と言っていた」と語ってくれました。

 また、このイベント当日に立ち寄った近所の道の駅で「ふきのとうが売っていた」と嘆いていました。本来なら「ふきのとうが採れるのは、早くても3月後半なはずだ」と。そして、こういった状況で懸念していることは、玉井氏と同じく森の木への影響だといいます。「野菜などは、霜が降りてしまったとしてもあたたかければまた作ればいいが、森の木はそうはいかない。木は、新芽がでて葉が落ちてしまうと、その後は芽が出ない木が結構ある。芽吹いてしまって、それが寒波で落ちてしまうようなことがあると、木が枯れてしまい、山の動物も食べるものがなくなってしまうではないかと、個人的に思っていて、とても心配している。なので、山に入るときは、木々の様子をチェックしている」と言います。

■なぜPOW JAPAN代表になったのか?

白馬村は、2019年12月4日に”白馬村気候非常事態宣言”を表明。壱岐市、鎌倉市に次いで日本国内で三番目の自治体であり、長野県内では初の表明となった。続いて、長野県も、2019年12月6日に「気候非常事態宣言」を表明しました。

 寺倉氏は語弊はあると前置きをしつつ、スノーコミュニティに向けて、環境問題や気候変動に関することを口にすることのへの風当たりもある。家族や仕事があり、自身のライディングを追求する時間も必要な状況で、一般社団法人の代表になれば、その活動に対して多くの時間を費やさなければならないのに、なぜPOW JAPAN代表に小松氏がなったのかを問いかけます。

 それに対して、小松氏は、こんな経緯を話してくれました。
「札幌で生まれ、3〜12歳はニセコで過ごし、その後カナダのウィスラーで17年間暮らし、プロスノーボーダーにもなった。2005年に帰国してからは、白馬で暮らしている。世界有数のスノーリゾートで、なりたかったプロスノーボーダーにもなれて暮らして来て、すごく恵まれていると思っているのに『このまま何もしないで死んでいくのはマズイぞ』と思っていた。
 自然のために何かやりたいと思っていたが、環境問題に対して正面から訴えても、自分も楽しくないし、まわりもついて来れない。なので、自分の活動の中に、楽しいこと、カッコイイことをしながら、その活動の裏に環境のことなど伝えたいことをひとつかふたつ仕込んで発信してきた。雪板で遊ぶとか、スノーボードよりもダウンスケールして、リフトもいらない、環境に負荷がかからない遊びを流行らせたりとか、そういった活動の中で、みんな楽しいことをしていたら、環境にいいことをしていたという状況を作りたいと思ってやってきた。
 そのような活動が、じわじわと伝わっていて、もともと繋がっていたPOW代表のJEREMY JONES氏から『おまえが、やったほうがいいんじゃないか?』と言われたが『環境活動家なんてできない』と思っていた。ただ、考えていく中で途中から『どうせやるなら、同じ考えをもった世界中の仲間といっしょにやったほうがいいんじゃないか?』って思う気持ちが、どんどん強くなって来て、POW JAPAN代表になることを決意したんです。正直、それで生活が成り立つか? とか、いろんなことを考えたりもしましたが、そういう問題ではないし、なんとかやっていく形を作っていくしかないなと思ってやりはじめました」と。

■スノーコミュニティーに対して発信したメッセージや、小松吾郎氏の活動をどう思っているか?

スノーコミュニティに精通している寺倉氏ならではの軽快なナビゲーションで、より深くこのイベントのテーマや登壇者のふたりの意見が引き出されていきました。

 寺倉氏から玉井氏に、質問が続きます。

 玉井氏は「ただ言えることのは、とにかく自分たちが立ち上がる以外ないということです。諸々、いろいろなことがありますが。もともと、スノーボードを始めたのも、若いころいろいろな社会へのアンチテーゼ的なこともありました」と話が続きます。「いろいろとあると思うんです、むずかしいこと関係性や、政治的なこととか。それを気にしていたら、何も始まらないとわかっていた自分がいて、自分がやらなきゃいけないのか? 自分たちでやらなけらばいけないのか? とわかっているのにモヤモヤしていた。そんなときに、(POW JAPANが立ち上がり、代表を)小松吾郎が始めたと聞いて、自分としては意外なところから(その行動を起こす人物が)出てきたと思った。
 みんな隠してるんですよね。それ(環境問題や気候変動について)を言うと、つまらないやつだとか、面倒臭いやつだとか、スノーボーダーの中にも思っている人たちが絶対たくさんいると思っている。でも、なんとなく感じているところはあって、(吾郎のことが)それは心配だった。敵もいっぱいできるだろうし。なので、半分心配、半分ヨッシャ! 来たぞ! これでやれるぞと。誰かがやらなきゃいけなかった、スタイルはちがえどスキーヤーやスノーボーダーの相当な数の同じ考え方を持った仲間がいて、大きな敵に立ち向かっていかなければならない、大きなチャンスが来たなと。自分たちが、これから政治的、社会的に、どこまで発言力が持てるかわかりませんが、その第一歩が始まるのかなと思っています。
 僕のみんなに協力したいと思うモチベーションは、雪山でスノーボードをするという、すばらしい体験や海での活動が、自分たちの子どもたちに残せないというのは、一体どういうことか? そんな勝手なことがあるのか? ということです。なので、本当によく立ち上がってくれたということです」。

 この玉井氏の話に、小松氏が付けたいしたいと話を続けます。

「実際、敵というか反対意見はある。それは、以外と近いところから上がることもあって、ちょっともったいなと思うこともあったり、そこ大事なんだなと思うこともある。ただ逆に、意外なところからポジティブな環境の話を聞くこともある。環境の話というのは、なかなか切り出すのがむずかしいところがあるが、いま自分はPOW JAPANの代表をやっていることによって、友人をはじめ声をかけてくる人たちが第一声から環境の話をするんです。それが、なんて手っ取り早いんだ、これはいいなと思ってます。
 環境のことについて、知識が浅くても思いはいっしょだと言ってくれる人には、伝えられることもあるし、活動に対して心配してくれる人もいれば、反対意見をいう人もいる。でも、そこでともに(環境問題や気候変動について)話せることは、贅沢というか、すごくいいことだと思っています。そして、話こんでいくと結果、自然を守りたいというところで意見は一致するんです。だから、そこまで話し込んでいくわけですが、その時間は、すごく有意義というか、いい会話ができているなと感じるんです」。

 玉井氏も、「いろんなレベルで、いろんな考え方があって、でも向かっていく方向はひとつだったら、それでいいんじゃないか」と、この話に続きます。

■会場のみなさんに向けたメッセージ

 最後にと寺倉氏が登壇者のふたりにひと言ずつ、会場のみなさんに向けた言葉を求めると、こんなメッセージが伝えられました。

まだまだ時間が足りないという雰囲気の会場でしたが、最後にふたりから来場者に向けて熱いメッセージが送られました。

玉井太郎
「僕もハードコアな環境活動家ではないが、(気候変動問題に対して)意識を常に持っているということは大事なことだと思うんです。小さい力ではない。集結すれば、相当な力になる。(冬がなくなるということは)スノーボーダーやスキーヤーだけの問題ではないんです。(みなさんの)力を貸して欲しい。(私自身)普段から(気候危機に関して)意識を持って考えるということをしたいと思っている」

小松吾郎
冒頭のコメントを含む、以下の言葉が語られました。
2/2(日)に白馬のスキー場で行なった気候マーチは、白馬高校生2年生の3人組が主催してくれたものでした。それを見て(近くにいた人たちは、)微笑ましいなという感じでいてくれた人もありました。実際現場の雰囲気もよく、スキー場に来ているたくさんの人たちの前で高校生が話してくれたりしてよかったんですが、僕はいっさい微笑ましいなんて思わなかったというか、これはもうマズイと思ったというか、ある意味悲しいことだなと思ったんです。
 こんな高校生たちが環境を守ろうなんて、世界でグレタちゃんもそうですが、発信している感じは異常なことだと思うんです。もちろん彼ら、彼女も、想いは本当に持っているからやっていることではあるんですが、でも、本当にやらなきゃいけないのは大人なんですよ。私たちなんです。だから、それを持って帰ってください。自分もそうだし、自分の伝えられる仲間だったり、家族だったり、伝えられる範囲でいいので、それを持って帰って欲しいんです。諦めないで行くしかないんです。
 大人は諦めてないようなこと言って、奥で諦めてるような人、薄く諦めてる人がすごい多いなと正直思うんですが、いまここに来てくれた人は、そうじゃないんだと思うんです。だから、子どもたちのためにも、自分のためにも、諦めずにやっていけたらと思います。お願いします」

 POW JAPANの活動は、SNSでも発信されています。Facebookinstagramをフォローして、活動に参加したり、発信されている情報を知ったり、自分のまわりの人たちに伝えるなど、身近なところからアクションを起こしていくのはいかがでしょうか?

一般社団法人 Protect Our Winters Japan
Patagonia「環境的および社会的責任」


POW JAPANのイベントレポート
【ご来場ありがとうございました!】

 2/3(月)神田と2/4(火)白馬の2会場で開催された「Snow Activism フィルム上映&トークイベント」は、おかげさまで450名のお客様にご来場いただき、ラッフルドネーションでは294,400円のご寄付をいただきました! ご来場いただいたみなさま、ご協力いただいたみなさま、このイベントにご尽力いただいたパタゴニアのみなさまに、心から感謝いたします。ありがとうございました。

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