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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.10 群馬・新潟・長野をつなぐ、全長307kmのロングトレイル「スノーカントリートレイル」がついに開通!

2018.09.27 Thu

 2018年9月8日、雨がぱらつく天気の中、谷川岳の麓の一ノ倉沢出合にある駐車場で「スノーカントリートレイル」のオープニングセレモニーが開かれていた。雪国観光圏という新潟県の湯沢町・南魚沼市・魚沼市・十日町市・津南町、長野県の栄村、群馬県のみなかみ町ら3県7市町村を円を描くようにつくられている、全長307kmにもなる日本屈指のロングトレイルがついに開通した!

(左・右上)開通式はテープカットではなく、登山で使うスリングとカラビナを7市町村で繋ぐ「リングベントセレモニー」を行ない、雪国観光圏で一つの大きな輪をつくった。(右下)SCTコース道標を設置するアドベンチャーレーサーの田中正人さん。公式サイトでダウンロードできる地図に道標の位置と管理番号が記載されており、同じ地点に同じ管理番号の道標が設置されている。

 実は、2013年6月のAkimamaにて『全長280km 雪国観光圏を結ぶ日本最長のロングトレイルがこの夏にOPEN!』と紹介したことがあるのだが、いまだに開通が実現せずにいたのだった。

 なぜ開通していなかったのか……。そんな疑問を、今回のスノーカントリートレイルのコースディレクターを務めたプロアドベンチャーレーサーの田中正人さんに伺ってみた。
 


 

―― 一度開通しかけたスノーカントリートレイルですが、なぜ頓挫してしまったのですか?

 許認可ですね。国立公園と国有林の省庁の許可を取るというのが難しくて。ただ人が歩くだけじゃないかっていう話なんですけど。すでに登山道がある、そこを歩くのはなんら問題はないんですが、公のものとしてルートを設置するとなると、やはり監督省庁としてはキチッとした手続きをふんでもらわないと、諸手を挙げて賛成というわけにはいかない。一度頓挫したのはそこです。

 一度、中越の森林管理署の署長さんを怒らせてしまったことがあって。手続きをしっかりふんでないうちに、「オープンします」とイベントをやってしまったら、それで激怒されてしまい、一度白紙撤回しました。それから地に足をつけ、もう誰からも文句の言われない手続きをふんでいこうと、4年前にワーキンググループを設置し、7市町村の役場の職員に担当を決めてきてもらい、環境省と森林管理署にオブザーバーで、あと県の振興局の方にも入ってもらいました。

 それで毎月ほぼ一回、本気でみんな集まって、それを4年間ずっとやったんです。環境省からは、こういう手続きをふんで欲しいですという説明を受け、各市町村の方がそれを揉んでもらって。国有林でいったら、道を自治体が借りてくれと。借りると、維持管理とか、事故があったときの責任が全部自治体に移るわけですよ。それは自治体も覚悟がいりますよね。でも、みなかみ町と湯沢町はそれでやると。一部の自治体はそれは一切できませんと。なので一部国有林を外しました。それで越後駒ヶ岳へ抜けられなくて、向こうからピストンになっているというのはそれが理由なんです。そのかわり寺院を周れたりするんで、それはそれで面白い。あと、坂戸山という六日町の市民の山、みんなが登山するような低い山なんですけど、そこをコースに入れることで、それはそれで違う魅力が増していいのかなと。

 そういう感じで、とりあえず誰からも文句の言われないキチッとした手続きを完璧にやるってことと、それが実現できるコースを組んでいくっていうことで、自治体の職員の方、7市町村の職員の方に本当に頑張っていただいて、それが一番大変でした。
 


 

田中正人さん「山歩きで気持ちいい所は、みなかみ町の清水街道。本当は清水峠を越えたかったんですが、清水峠は先のほうが許可が出なくてですね。新潟県側なんですが、清水集落の手前に林道があって、砂防ダムの工事でずっとダンプが走っているんです。そこと登山道が一緒になっていて、普通の人は歩けるんですけど、新潟県が公な形で許可は出せないと言うことでした。そこが越えられなくなってしまったので、蓬ヒュッテの先から下りるっていうコースになっているんです。でもそれまでの間もすごくいい雰囲気です。」
(左上)清水街道の白樺尾根。10月上旬は紅葉の季節で絶景が広がる。(右上)谷川岳の稜線上にある蓬ヒュッテ。(左下)七ツ小屋山近くから見た谷川岳稜線。(右下)「上越のマッターホルン」とも呼ばれる大源太山。

 スノーカントリートレイルには、苗場山と越後駒ヶ岳の2つの百名山や、古道や旧街道、寺社に温泉などが点在し、山歩きだけではなく歴史や文化が感じられるルートとなっている。寺社めぐりや、酒蔵めぐり、温泉めぐり、A級グルメめぐりなど、トレイルを歩くだけではなく、好きにアレンジできるところが魅力的だ。

 必要日数は、田中正人さんいわく「1日十数キロくらいなのかなと思っています。20日くらいが一般的で、ゆっくり見たり、寄り道したりすると、1ヶ月くらい。」とのこと。コース全部を一気に踏破する「スルーハイク」もよいが、公共交通機関でのアクセスが良いので、コースの一部だけを歩いたり全区間を複数回にわけて歩く「セックションハイク」で楽しむのも良いだろう。

田中正人さん「本当は南魚沼のほうから山越えをして、兎岳とか中ノ岳を歩いて駒ヶ岳に抜ける予定だったんですけど、国立公園とかの関係で、あと、ちょっと難易度が高そうだということで、今回は諦めました。それで裏から回って往復みたいになっているんですけど、そこの集落の農家の方がどこも春先になると、ゼンマイをとって道路に並べて干したりだとか、生活がすごく感じられて、歩いてるだけでもすごく非日常的な感じがしてよかったですね。時期にもよるんですけど、十日町・津南町さんは「大地の芸術祭」だったり、温泉地の松之山温泉だったり、結構いろんなところがそれぞれの特徴をもっている。南魚沼はお寺も有名で、東洋のミケランジェロと呼ばれている石川雲蝶の彫刻が彫ってある西福寺もコースの脇にあったり。あとは酒蔵もいっぱいありますね。(笑)」
(画像)越後駒ヶ岳の山頂直下にある駒ノ小屋。

 スノーカントリートレイルという名前だが、雪国観光圏の「雪国」からもじっているだけで、雪のない春から秋がハイクの適期となる。今年はもうまもなく雪の時期になってしまうが、9月末から10月上旬は山の紅葉が美しいので、谷川岳・越後駒ヶ岳・苗場山近辺だけでも歩いてみてはどうだろう!?

田中正人さん「山の上で言えば苗場山の山頂も良いです。栄村から湯沢の赤湯温泉。赤湯温泉がほんとすごい秘境でいいところ。」
(左)池塘と木道が広がる、苗場山山頂。(右)天然の露天風呂が楽しめる赤湯温泉。


田中正人(たなかまさと)プロアドベンチャーレーサー。スノーカントリートレイル実行委員会コースディレクター。1993年第1回日本山岳耐久レースで優勝し、それがイベントプロデューサーの目に留まり、レイドゴロワーズ・ボルネオ大会に間寛平チームとして出場。日本人初完走を果たす。以降、8年間勤めた化学会社を辞め、プロアドベンチャーレーサーに転向。数々の海外レースで実績を作り、国内第一人者となる。

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