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【連載】日本のロングトレイルを歩くvol.16 路面変化に富むロングトレイルでシューズ性能をレビュー ~サロモンX ULTRA 3 GTX

2018.12.07 Fri

中島英摩 アウトドアライター

 ぐんま県境稜線トレイルで実際に使用した、ゴアテックス素材を使った防水の軽量トレッキングシューズ、サロモンの「X ULTRA 3 GTX」。330kmを一週間走るトレイルランニングレースでも、夏の時期の日本の山でも、ほとんどトレイルランニングシューズを履いているわたしが初めて履いたこのシューズ。さて、100km超を歩いてみてどうだったのか、正直にレビューします!

わたしの靴選び

 わたしは、夏場はどこでもだいたいトレイルランニングシューズ。岩稜が多いルートの時にはややソールが硬めで耐久性のあるものを履くけれど、それでもやっぱりどちらかというとトレイルランニングシューズがわたしの定番。登山を始めたばかりの頃にほんの少しだけ軽めのミッドカットのトレッキングシューズを履いてた経験はあり。

 じゃあ登山靴は履かないの? と言われるかもしれないけれど、雪山になると一変、めっちゃくちゃでっかい冬用登山靴を履く。片足800~900gくらいあるもの。軽くも柔らかくもなく、鉛みたい(笑)。

 そういう意味では、トレイルランニングシューズも、トレッキングシューズも、登山靴も履いている。

見た目とサイズ感はゴツめのスニーカー?

 さて、わたしにとっては、ちょっとゴツめな「X ULTRA 3 GTX」。でも、ハイカットの登山靴を履いている人にとっては逆にスニーカーのように感じるかもしれない。

 ミッドカットのモデルもあるので、いきなりローカットには抵抗があるならばミッドでもいいかも。でも、雨や砂利対策はゲイターを履けば良いので、わたしはローカットを選ぶ。ちなみにローカットはコードで締めるQuicklace™だが、ミッドカットは通常のシューレースタイプとなっている。足首までしっかり締め上げたい人にはミッドカットがおすすめだ。

 顔はブラックでシンプル。ウィメンズのシューズって優しいピンクとか爽やかなブルーとかが多くて、シブめの色が好きなわたしはいつもシューズ売り場の前でがっくり。世の中、キラキラ山ガールばっかりじゃねぇんだよぅ、メンズいいな~うらやましいな~って。だから黒があると知ってガッツポーズ。控えめにピンクが入ってるけど(笑)。

 いつも選んでいるトレイルランのシューズは街履き靴(23.5cm)の0.5cmUPで24.0cm。今回も24.0cmにして特に問題なし。靴下は日頃から登山やトレイルランニングに使っているものと同じにしてみて、窮屈でもなく、下りで前に当たる感じもない。ちなみにわたしは「甲高でも幅広でもなく標準的ですね」と言われたことがある。普通がイチバンだけど、なんかそれはそれで何とも言えない切なさがあった。ただ、そのおかげなのか何なのか靴擦れがほとんどない。サイズさえ間違わなければどんなシューズでもだいたいオッケーというアウトドアライター冥利に尽きる足を持っている。

ぐんま県境稜線トレイルの路面の種類

(1)樹林帯や土の稜線 (2)笹 (3)木段 (4)ガレ、ザレ、岩 (5)舗装路 (6)泥、沼
 写真を振り返りながら、どんな路面だったかなと思いだしていたら、こんな風に結構変化の多いトレイルだったことがわかった。

(1)樹林帯

 白毛門からの登りや三坂峠からの一部、後半の毛無山以降などはほとんどが、一般的な樹林帯。稜線もまた、やわらかい土のトレイルがある。湿った木の根や倒木で滑りやすいところや、葉っぱの下に石が隠れているところもあるけれど、安定感はばっちり。葉っぱや小石は入りやすいかな。ささっと脱いで取り除くべし。

(2)笹

 路面の種類の多い順で言うと1、2を争うくらい、ぐんま県境稜線トレイルの大半が笹のトレイルだ。前半も後半も、全ルートを通して笹が生い茂っている。下りで刈りたての笹や枯れた笹が敷き詰められたようなトレイルで滑りやすい時にはさすがにグリップしないけど、登山靴に比べて軽量で動きやすい分、そんな「おっとっと」というシーンにも足さばきはいい。もうひとつ、トレイルランニングシューズよりもいいなと思ったことは、ちょっと伸びた笹対策。これだけ笹があるわけだから、時期によっては、一面がトゲトゲの剣山みたいになる。まー、これが下から横から刺さるわ刺さるわ。そういう時にシューズのアッパーが屈強ならガシガシ歩ける。ランニングシューズを中心に今流行り? のニット素材や薄い素材のシューズでは穴が開いていたかも。

(3)木段 

 木段も、案外多かった印象だ。平標からの下り、三国山からの下り、万座温泉の下り、四阿山からの下りなど。登りの木段あったかな? 下りばかり覚えているのは、滑らないように気を付ける必要があったからかもしれない。濡れた木段は結構厄介だけど、これに関してはしっかりグリップ力を発揮してくれて安心感があった。ツルン! なんてこともなく。段差の大きな長い下りをフットワーク軽く歩きやすいのもやっぱり軽量トレッキングシューズならではのポイントかも。

(4)ガレ、ザレ、岩 

 100km全部歩ききった後に振り返ってみればそんなに多くない印象だけれど、馬蹄形と谷川主脈にはガレや岩場もそれなりにある。濡れていたら滑りやすいことは言うまでもないが、突き上げで足が痛くなる心配もある。なにせ土合からスタートするなら前半に多い岩の部分で手こずりたくないもの。その点は木段同様に、しっかりとしたソールのグリップが効き、やや重い荷物でもサポート力は感じ、摩擦などで外側のいずれの箇所も破れることがなかった。

(5)舗装路

 第三章の万座温泉から毛無峠までは11kmの舗装路! 舗装路って疲れるんだよなぁ、ほんとに。山帰りに温泉地まで山麓を移動する時、自宅まで帰る街中の道路、季節運行のバスがない時期に林道ゲートまでガポガポと歩く時。もちろんテン場用のサンダルや履き替える靴を持っていくのもアリだけれど、靴もう1足は結構荷物になるし、サンダルで舗装路を11km歩くわけにもいかない。そんな時にこのシューズなら小走りもできるほど。もちろんトレイルランニングシューズほど走りやすいわけではないけど、どんな路面にも対応するという意味では、舗装路を含むことを忘れないようにしたい。

(6)泥、沼

 最後に、樹林帯とは別に項目として設けたいくらい大事だと思ったのは、泥。後半に特に多く、前日や縦走中に夕立でも降ればたちまち泥んこになるくらいに水が溜まりやすい場所や、土そのものがヌルヌルの場所があった。こういう時に防水はやっぱり大事だ。ゲイターを履かなかったので、あまり深くハマれば泥が入ったかもしれないが、幸いにも凍っていて助かった(笑)ゲイター持とう・・・。また、夏場でも標高が高ければ、晴れの日でも朝イチは朝露で足元が濡れる。防水じゃないと一瞬でビショビショになる。
 防水のシューズの弱点は、中を濡らしてしまった時に水抜けや乾きが悪いことだと思う。そのために、あえて防水じゃないものを選ぶこともあるけれど、気温が低い時期に歩いたので「足を濡らさないこと」が最優先。思ったよりも蒸れが少なく、多少の湿り気は夜にインソールごと外して乾かしておけば翌朝には乾いていた。

ロングトレイルで意外と大事なシューズの脱ぎ履き

 国内外のロングトレイルや長距離のトレイルランニングレースの経験から、長距離・長時間縦走ならではのポイントも紹介してみたいと思う。

 これは私がトルデジアンというイタリアのレースで148時間半連続で走った(ほぼ歩いた)直後の足裏。ふやけもないし、マメも靴擦れもない。これは、先輩から教わったノウハウを全力で実践した結果で、それ以来ほぼトラブルがなくなったのだ。

 それは、とにかく足をドライに保つこと。
 乾燥してパリパリという意味ではなく、湿ったり濡れた状態で放置しないことがポイントだ。どんなに速乾性に優れたシューズとソックスの組み合わせを探しても、包まれている限りは足の汗や熱で蒸れるもの。長い時間歩いているとだんだんふやけてきて、足の皮膚がやわらかくなり、擦れや水膨れ、マメを作りやすくなってしまう。そのために、ワセリンやスポーツタイプの足用保護クリームを毎晩、あるいは長い休憩の度に塗り直す。その時に、シューズを脱いで、靴下も脱いで、乾かすのだ。面倒でも靴下まで脱ぐようにしている。さらに、足指をグーパーしたり、土踏まずや足首周りを動かせば、血行も良くなるし、長い距離での足の疲れを軽減できる。

 そんなの面倒~! という人の理由は靴紐だと思う。そこで、コードタイプのQuicklace™はやっぱり便利だった。ささっと脱いで、ささっと履ける。ちょっとした休憩の時も脱げるし、小石が入った時もめんどくさがらずにすぐに取り除ける。シューレースにくらべれば締め方の細やかな調整ができないデメリットはもちろんあるけれど、歩きなら問題なかった。コードの先が収納できるシステムも良く、紐がほどけたり、枝に引っかける心配もなく藪漕ぎ(笑)も自由だった。

ロングトレイルでは、とにかく疲れにくく、頑丈で、最後まで歩ききれること

 ロングトレイルは長い距離を移動するからこそ、どんどん山の雰囲気が変わっていくことも魅力のひとつ。景色が変われば、土や岩、植生だって変っていく。時には山域を繋ぐために、山麓へ下りて町や峠の舗装路を歩くこともある。さらに、長くなればなるほど、天候も移り変わっていく。正直なところ、小難しい専門的なインプレッションはできないけれど、わたしに言えることは・・・どんな状況でも、無難に対応できるのがイチバン! ということだ。これは、ロングトレイルですごく大事なことだと思っている。ギアだけでなく、自分自身も、ね。

(文・写真=中島英摩)

 

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