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畳の国の人だもの。熱帯夜キャンプのマットは「い草」がいいぞ

2019.08.08 Thu

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 キャンプ用のマットに求められる機能が「緩衝」と「断熱」だ。その厚みで地面の凹凸を吸収し、熱の伝導率の低い素材が地面に体熱が奪われるのを防ぐ。

 しかし、夏場はこの機能が裏目に出る。断熱・保温を目的とするマットは、自分の体温がこもって暑い。

 その点、体を支えるパネルが宙に浮くコットは地面が凹凸でも問題がなく、背中の下を風が通るので涼しい。夏の野外の寝床として理想的だ。しかし、マットよりもだいぶかさばるうえ重たい。バックパッキングの旅で使うのは難しい。

 寝心地のコットか、暑いが携行性に優れるマットか。長い間、日本人はこの二者択一に悩ましい夜を過ごしてきた。そこに、彗星のように第三の選択肢が現れた。

 現れたというか、第三の選択肢は私たちの生活のなかに潜んでいた。あまりに身近すぎて気づかなかった。そいつの名は「い草」である。

 い草の再発見は、とある南の島で起きた。砂浜×マットの寝苦しさに打ちのめされ、何か良いものはないかと入ったホームセンターで目に飛び込んできたのである。お値段は999円。キャンプ用のマットとしては破格である。簡素なパッケージに書かれたキャッチも良い。「い草の良さをご存知ですか!?」「綿の約2.5倍の吸湿力」「汗のニオイを消臭」。い草だけに畳み掛けてきた。
 畳表やござに使われるい草の効果、性能については改めて説明する必要はないだろう。吸湿性に優れ、さらりとした質感で熱をよく逃す。さっそく砂浜に張った蚊帳の床に広げると、非常に具合がいい。

 厚さが数ミリのい草でも、砂浜や芝生でのキャンプなら地面の凹凸は気にならない。テントのシートに直に寝るのと違ってベタベタせず、湿気を隙間から逃し、体の熱を地面に通す。手足に着いた砂をその凹凸で払い落とし、入り込んだ砂は外で叩けばぱらりと落ちる。

タープと蚊帳と合わせれば、炎暑のビーチも一気におばあちゃん家化。甲子園のサイレン、繰り返される「タッチ」の再放送、刻々と近づく夏休みの最終日と終わらない宿題……。うたた寝から目覚めれば、頰にはばっちり畳の目の刻印。あの夏が蘇ってくる。

「熱も湿気もこもらなくてよさそうじゃん」ムラサキオカヤドカリも羨む通気性。

 くるりと巻けば収納はコンパクト。ウレタンのマットよりは重たいが、収納サイズはひと回り細い。バックパッキングの旅でも十分携行できる。

 自然なのは使い心地だけではない。素材も天然由来で、使えなくなったら庭の片隅に埋めればいずれ土に還る。エコでサステナブルなマットでもある。

 夏に涼しく、コンパクトで、環境負荷も低い。世界のマットメーカーがい草に進出するのは時間の問題だ。日本人ならひと足先にこのブームに乗っておきたい。

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