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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.7 金沢トレイルができるまで〜整備が進む第1区間をセクションハイク!

2018.08.20 Mon

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

ひがし茶屋街を参加者全員で歩く。早朝ならではの風景。古い街並みが、とてもうつくしい。
 Akimamaの連載企画「日本のロングトレイルを歩く」の第7弾は、現在開通に向けて整備進行中の金沢トレイルについてレポートします。

金沢といえば、JR金沢駅にあるこの鼓門(つづみもん)。設計は、建築家の白江龍三氏。伝統芸能である能楽・加賀宝生の鼓をイメージしているそうです。

 金沢トレイルとは、その名のとおり北陸の小京都、金沢を拠点にした現在整備中の全長70kmのロングトレイルです。戦国時代、前田利家が城主であった金沢城をスタート地点とし、重要伝統的建造物保存地区のひとつである「ひがし茶屋街」を通り抜け、街から里山に入っていく金沢らしい景観を楽しむことも考慮したルートを設定になっています。

金沢トレイルは、現在も整備中のロングトレイルです。まだ全セクションがオープンしているわけではありません。上記の地図は、今後も含めた予定ルートです。ルートの詳細は、金沢トレイル連携協議会にお問い合わせください。(地図製作=オゾングラフィックス)

 ルートの途中には、キャンプ場や温泉宿街、千本桜の名所もあります。とはいえ、まだ現在整備中のトレイルです。開通予定のルートの各所で、ハイカーのための宿泊所の協力要請や新規でキャンプ場を整備するなどの交渉は、現在も行なわれています。

 このトレイルを一気にスルーハイクするには、通常4泊5日かかる行程になっています。とはいえ、一気に歩くのは、なかなかむずかしい。そこで、トレイルを5つのセクションに分けて、日帰りハイクでつなぎ、踏破する「セクションハイク」もできるコース設定に。

 今回は、5/13(日)に行われた、金沢トレイル主催イベント「金沢トレイル・モニタリング セクションハイク【1区間】金沢城~医王の里」があるということで、取材に行って来ました。区間距離約15.9km、7時間程度となかなかの内容です。

 イベントの集合場所は、金沢城石川門。参加者やスタッフ含め、20名ほどが集合しました。この日の天気は、あいにくの雨。事前の天気予報では、昼過ぎから雨が降る予報でしたが、すでにスタート時点から降り出してしまいました。

 出発前に、金沢トレイル連携協議会理事長の河崎仁志さん(森林組合 組合委員)からイベントの行程や雨天時の判断などについて説明があり、つづいて会長の佐川哲也さん(金沢大学教授)から、参加者に向けての挨拶がありました。そして、今回のスペシャルゲスト! フリーの編集者であり、小冊子『mürren』編集・発行人である若菜晃子さんのご紹介も。

(左上)金沢トレイル連携協議会理事長 河崎仁志さん、(右上)会長の佐川哲也さん(金沢大学教授)、(左下)金沢トレイルのイベントを支える有志のみなさん。(右下)フリー編集者であり、小冊子『mürren』編集・発行人の若菜晃子さん。この企画の前日に、市内の古書店「あうん堂本舗」主催のトークショーがあり、そのままこのセクションハイクのイベントに参加してもらうことになったとか。前日のトークショーに参加された人も数名、このイベントに参加しているとのこと。

 残念ながら、雨はじょじょに強くなっていましたが、全員がレインウェアを着込んで、出発準備は万端です! 参加者やスタッフのみなさんの目はキラキラとしていて、雪解け後のトレイルを歩けることのほうが楽しみだと言わんばかりの表情です。出発前に記念撮影をして、いざ出発!

雨なんて問題ない! と、気合の入る参加者のみなさん。笑顔がすばらしい。

 金沢トレイルの特徴は、金沢城をスタート地点に設定しているところです。城中を通り抜け街中に入り、神社の脇道を通り抜け、裏道の暗がり坂から主計町茶屋街へ。

作家の五木寛之の小説にたびたび出てくる主計町茶屋街。主計町と書いて「かずえまち」と読みます。浅野川沿いの表通りにはお茶屋、小料理店、バーが並び、純和風の風情を醸し出しています。裏道の暗がり坂とあかり坂も風流です。

 そして浅野川の川沿いを歩き、浅野川大橋を渡って、対角線上に位置するひがし茶屋街へと歩を進めます。金沢トレイルは、金沢の街も楽しんでもらえるようにと、風情のある観光スポットを通り抜けるように設定されています。出発が朝の8時ですから、この辺りの観光地はお店のオープン前。人もまばらで、気持ちよく歩いていきます。

この時間はまだ観光客はまばらですが、ひがし茶屋街は日中は大変混雑する場所なのでご注意を!

 と、ここまでは「本当にトレイルを歩くの?」と思うような観光スポットを伝ってきましたが、町外れの「観音坂」を登ると景色が一変します。

北陸三十三番観音霊場「長谷川山観音院」へと続く石段。

 標高が上がり、だんだんと街が見わたせるような高さになっていきます。ルート的には舗装道路を歩いていますが、どんどん緑が濃くなり山の中へ。卯辰山公園添いの舗装道路を歩きながら、トレイルの先をめざします。

卯辰山公園がある道路添いから見る市街地。さすがお城のある街は、山に囲まれている立地にあるのだなとよくわかる、市街地が一望できる景色。

 気が付くとまわりは、すっかり緑色。歩道を歩いていると、立派な蓮の池「大池」が見えました。休憩ポイントの奥卯辰山健民公園に到着です。もともとゴルフ場の跡地を整備した公園です。園内は、とてもきれいに整備された広大な芝生広場でした。8:14に金沢城をスタートしてから、到着が9:52。行動時間は、約1時間18分。

 スタート時点から降り出していた雨は、次第に強くなってきており、風雨がしのげる場所での休憩はありがたかったです。ここでは、軽食をとったり、トイレに行ったり、荷物整理をするなどをして、これから歩く山間部のトレイルに向けて各自装備を整えます。河崎さんほか、金沢トレイルのメンバーが、雨のため予定のルートを少し変更して、本日の前半のメイン金沢大学にどのルートで向かうか話し合っていました。すぐに内容共有がスタッフ間で行われ、全員再スタートの準備に入りました。

 奥卯辰山健民公園から、さらに山間部に入っていきます。市街地から、こんなにすぐに景色の違う森に入っていけるのも金沢トレイルの特徴でしょう。ここから山道を歩き、次の目的地の金沢大学に向かいます。

山道を通り抜けると突如として現れる金沢大学、広大な敷地の中に複数の学部の校舎やグランドがあります。

 大学の敷地内にある「角間の里」は、金沢大学創立五十周年を記念してつくられた里山活動の支援の拠点施設です。本来のルートでは旧白峰村の古民家を移築再生した施設に向かい、ここで昼食の予定でしたが、雨が強くなって来てしまったために断念。大学の校舎内にある休憩スペースに集合しました。

 ここで、ちょうど本日歩くセクションの半分くらいが終了。大学から路線バスも出ているということで、参加者にここで離脱もOKですよと確認しましたが、誰も首を縦に振りません。とても今日初めてあったメンバーとは思えない、意志と団結力の強さです。
 
 河崎さんは、メンバーと話してから「今日の工程を最後まで歩き切ろう!」と宣言し、後半戦も雨の中を突き進むことになりました。軽く昼食や行動食をそれぞれとりつつ、すでに濡れた自分の装備を整えます。ここから山間部の集落、戸室別所町や田んぼの中を通り抜け、今日のトレイルの難所となる「戸室山」の登山道へ。

山間部にある、立派な田んぼたち。トレイルは、この田んぼの中の道を突き進みます。田んぼ用の溜池。とても、神秘的なたたずまい。

 トレイルは、さらに深く里山の登山道へ。金沢トレイルのルートとして、ここからは、もともとある戸室山の登山道に入っていきます。

戸室山山頂への道標。

 冬の北陸、日本海側の雪は相当きびしく、春になって雪の重みで倒れたり、曲がった倒木がたくさん。その木々をチェンソーで整備する作業を、登山道を管理する団体や金沢トレイルのメンバーがボランティアで行なっています。

 金沢トレイルには、ルート上にいくつかの山があり、それぞれの登山道を守っている人々がいます。ルート設定や整備にあたり、そういった場所もルートに含ませてもらうということで、それぞれの地域のみなさんと協議しながら整備を進めているとのこと。現在も、お互いにとってよい環境づくりとハイカーにとってよりよいトレイルの完全開通を目標に活動しているそうです。

登山道に突如として現れたお盆。じつは、熊避け用にと地域の人が設置したもの。戸室山の登山道では地元の人たちが、このようなお盆などの音が出せるものをブラ下げるなどクマ対策をしてくれていた。金沢トレイルのルートには、ほかの区間でもこういった本来その地域の人々が守っているルートがあり、ルート設定の際の相談や環境整備の協力体制を築くなどの取り組みも重要になっているようです。

 林の中を歩いているとあまり気にならなかった雨も、さすがに朝から降り続くと登山道も泥でゆるくなってきます。そんな中でも誰ひとりとして弱音も吐かず、むしろ和気あいあいと歩き続ける参加者たち。程よいペース配分で登山道を登りきると山頂に到着! が、ピークといった感じでもはなく、木々に囲まれた場所でした。

戸室山山頂は548m。土砂ぶりのなか、全員で記念撮影! みなさん、まだまだ元気です!

 小休憩を取り、いざ。本日のゴール医王の里オートキャンプ場へGO! 登山道の終盤。林の中を抜けると、長くて急な階段の最上部に到着。階段を下りきると、なんとお寺に出ました。トレイルのルートは、そのまま、お寺を通り抜け舗装道路に出ます。お寺の目の前は、医王山スキー場。草原に掛かるリフトが見えます。やはり、この辺りは冬になると雪が深くなるようです。

 ここまでくれば、今日のゴールは目前! みなさん、すでにびしょ濡れですが、最後にもうひと踏ん張り。医王山スポーツセンターを横切り、14:30にゴールの医王の里オートキャンプ場に到着。

林の中から、今日のゴール、医王の里オートキャンプ場の施設が見えてきました!

 ひとりの脱落者もなく、雨の中を約15.9kmを全員で踏破したこのイベント。参加者のみなさんも、もちろん達成感に満ちた表情をしていました。河崎さんからの最後の挨拶は、最後まで歩ききった労いの言葉。そして「金沢トレイルのファンになって欲しい! 今後の活動にも参加してもらいたい!」という言葉で締めくくられたのでした。

最後の挨拶では、河崎さんや参加者のみなさんからも「やりきった!」という安堵の笑顔があふれました

 今回のイベントに参加して感じたのは、主催者のトレイルや里山に対する愛情でした。あいにくの雨でしたが、セクションハイクをしながら感じた「こういった愛情に満ちた人たちによって、金沢トレイルはつくられているんだ。」ということを体感し、参加者のみなさんはきっと「今後も、応援していきたい」と思うあたたかい気持ちで、みなさん帰路に着いたことでしょう。

 金沢トレイルは、全部で5区間に設定されています。トレイルの整備やハイカーの宿泊場所として、テント泊可能な場所の整備、水やトイレなどの確保も、それぞれのセクションの人たちと進めているとのことでした。ほかのもっと山深いエリアのセクションハイクや整備活動のイベントは、これから秋までにたびたび行なわれることになっています。

 金沢トレイルは、里山保全に重点を置いた「みんなでつくり続けているロングトレイル」でした。今後の成長も楽しみです!

 

【文=北村哲 写真=古瀬美穂】

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