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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.8 金沢トレイルができるまで〜インタビュー編

2018.08.28 Tue

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

今回のイベントでは、街から山へ。金沢トレイルの特徴的なルート設定の第一区間を歩きました。

 連載「日本のロングトレイルを歩く」の第8弾は、整備が進む金沢トレイルの第1区間をセクションハイクしたフリー編集者の若菜晃子さんにインタビュー。そして、トレイルのキーマンでもある金沢トレイル連携協議会理事長・河崎仁志さんに「金沢トレイルのできるまで」を語ってもらいました。
 


【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.7 金沢トレイルができるまで〜整備が進む第1区間をセクションハイク!


 

■トレイルについて、若菜さんにうかがいました!

 今回のセクションハイクイベントに参加した若菜晃子さんに、イベント終了後にいくつか質問させていただきました!

若菜 晃子(わかなあきこ)編集者。大学卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)『街と山のあいだ』(アノニマスタジオ)など多数。『mürren』編集発行人。

金沢トレイルを歩いた感想

 金沢近郊の山を歩いたのは初めてでしたが、トレイル最初の区間だったこともあって、街から山へと入っていく過程が実感できてとてもよかったです。コース取りも工夫されていて、金沢の街並みから始まり、街を展望する卯辰山、緑に包まれた金沢大学、田圃の広がる農村、森のうつくしい戸室山など、風景がどんどん変化していって、とても充実したトレイルでした。続きも歩いてみたいと思います。

 また、主宰者のみなさんが個性的で、それぞれの方法で愛をもってトレイルづくりに関わっておられるのがごいっしょしてよくわかりました。各県や地域ごとに、山域を熟知している地元の人たちによってこうしたトレイルがつくられていくことはすばらしいと思います。

地域のことを熟知している、地元のメンバーによってコース設定など考えられてつくられているのも魅力のひとつ。

金沢トレイルの今後の活動について期待すること

 トレイルはまだ全部は完成されておらず、これから地権者と折衝する部分もあるとおっしゃっていたので、開通を楽しみにしております。

 どの区間もそれなりの距離(15㎞程度)があるようなので、エスケープルートの整備なども随時必要かと思いました。それがはっきりしていると、初心者や、楽な部分を少しだけ歩きたい人にも興味をもっていただけるのではと思います。

 また、主催者が、道標も大げさなものでなく、山や地域に溶け込んだ、手づくりの小さな目印のようなものにしたいとおっしゃっていたのも印象的でした。

 こうしたトレイルは、通常、地元の山岳会や自治体などが中心となってつくられることが多いですが、金沢の場合は森林組合が母体になっているところが特徴に思います。今回も歩く途上で、山上の石の由来や杉林の枝打ちの方法など、登山者とはちがう視点で山をよく知る人たちと歩けるのがとても興味深かったので、こうした主催者のお話を山中で聞ける機会をつくっていただくと、山や自然への関心も深まるのではと思いました。

現在整備中であるため、エスケープルートや道標など、今後も取り組んで行くべき課題もある。

登山ではなく、ロングトレイルを歩いたり、セクションハイクをすることについて、どう思いますか?

 ロングトレイルの場合は、地方の名山をピークハントだけして帰ってくるのではなく、長距離を長期間歩くことによって、山域、地域全体を身を以て体感することができるので、各地の自然や歴史、現状を知る意味で大変意義があると思います。

 また、長大な山域もセクションで区切られていると、各々の経験や生活スタイルに応じて気に入った区間を誰でも歩くことができますし、少しずつつないで歩くこともできるので、長期休暇を取れない人などにも継続する楽しみがあると思います。こうした地域のトレイルは、街に近いほど踏み跡程度で不明瞭な箇所も多いので、一度きちんと整備されると、後に続く人たちが長く楽しめるのではないでしょうか。

ロングトレイルを歩くことは、セクションハイクでつなぐなど、登山と違った魅力もある。金沢トレイルを歩くことで、この地域の自然や歴史を感じたり、安全に楽しめるルートの整備と開通を期待したい。

■金沢トレイル・ロングトレイルができるまで

 現在も整備活動やテント泊の場所づくりなど、全ルート開通に向けて取り組みを続けている「金沢トレイル」。今回のセクションハイクイベントに参加して、スタッフのトレイルづくりの愛情が非常に強く伝わってきました。市民によるロングトレイルづくりのきっかけや今後の展望など、金沢トレイル連携協議会理事長の河崎仁志さんにうかがいました。

河崎仁志(かわさきひとし) 金沢トレイル連携協議会理事長の河崎さん。金沢森林組合の職員でもあり、金沢トレイルをを立ち上げるきっかけをつくった人。現在でもトレイル活動を牽引し続けています。

市民による手づくりのトレイル

 金沢トレイルは、もともと「里山保全」が大きく掲げられています。代表の河崎さんは、信越トレイルの生みの親、故・加藤則芳さんの著書『メインの森をめざして-アパラチアン・トレイル3500キロを歩く』(平凡社)を読んで、ロングトレイルというものの存在を知ったそうです。海外に行くこともできないし、どうしたものかと考えていたときに、友人と「自分たちでつくってしまおう」という話になったのが、現在の活動のきっかけのひとつだったと言います。現在も金沢森林組合 のスタッフであり、「ロングトレイルの整備 = 里山保全につながっている」と考えていることもあり、ルート整備やイベント運営などに参加している有志のスタッフは、みなさん「里山保全」や「過疎地域の活性化」という共通認識のもとに集まり活動していただいているメンバーも多いそうです。

トレイルの整備は、里山保全につながる。トレイルは、有志メンバーや参加メンバーを募るイベントでも行なわれている。

インデペンデンス ボードウォーク「ぬくもりの木道」の製作

 河崎さんに金沢トレイルの整備活動スタートのきっかけをうかがうと、2004年に医王の里オートキャンプ場にバリアフリーの木道500mを製作したインデペンデンス ボードウォーク「ぬくもりの木道」の製作だったといいます。車いすの人や高齢の人、ベビーカーを利用している人などさまざまな人たちが、自分の意思で森林散策ができるようにという思いで製作したもので、当時のテレビ金沢の会長の後押しなどもあり、多くの人たちの支援で製作したものだそうです。

先日行われた改修工事の様子。14年の歳月が過ぎ、修繕が必須な状況に……。ここも金沢トレイルのルートの一部となっている。

活動の始まりと現在の活動体制

 その後、「金沢チャレンジ事業」というものがあり、そこに「金沢トレイル」で応募した結果、見事に当選! 2013年8月に、キックオフイベントなど行い活動がスタートしたそうです。当初は、2012年に設立された特定非営利活動法人「角間里山みらい」という里山の活性化と再生を目的とした活動団体内で、金沢トレイルの整備活動は行なわれてきました。2014年4月には、セクションハイクのイベントを開催しています。河崎さんは、この団体の専務理事でもあります。現在は、里山みらいから独立し、金沢トレイル連携協議会として活動を続けています。

 ロングトレイルをつくる際に、当初構想にあったのは「北陸トレイル」だったそうです。富山〜石川〜福井を立山から金沢を経由して白山までつなげるのは河崎さんの夢だったそうです。この構想は、壮大すぎたので、まずは金沢トレイルということでこの全長70kmのトレイルの整備を続けているといいます。現在のルートマップでは、倉ヶ岳が最終地点になっています。ただし、河崎さんの「白山まで繋げたい」という思いが、このマップには記してあります。倉ヶ岳から、後高山・獅子吼高原を経由し最後に「白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)」までルートは延びています。この区間は、金沢トレイルの指定区間ではないのですが、このトレイルをつくる際の話を聞くと、やはりここまで歩いてみたくなりますね。

第五区間の倉ヶ岳が最終地点で、金沢トレイルは終了する。なので、点線で白山比咩神社まで記載しているのは、ハイカーに白山まで歩いて欲しいという気持ちの提案なのだ。(地図製作=オゾングラフィックス)

モデルは「信越トレイル」

 「トレイルづくりは、信越トレイルを真似せてもらっている。」と、河崎さんが公言しています。金沢トレイルをつくる際に、信越トレイルの木村 宏理事(当時)を金沢に招き、公演していただいているとのこと。その際に「信越トレイルを真似せていただきます」と伝え、パンフレットなども同様のものをつくっているそうだ。

日本ロングトレイル協会」が発足すると、金沢トレイルも加盟することになります。河崎さんは、ここでも理事として名を連ねています。2016年10月には「全国ロングトレイルフォーラム」が金沢で行なわれました。2017年の「日本ロングトレイルシンポジウム」では、中村 達理事長から「JAPAN TRAIL」の構想も発表されたそうです。協会としては、北海道から九州まで、ロングトレイルをつなげたいという目標があるそうです。その際に、北陸の金沢トレイルもその一部になるようです。

2016年に金沢で行われた「全国ロングトレイルフォーラム」のフライヤー。

「活動資金」と「人材」

 このトレイルの整備活動を続けていくうえで必要なのが「活動資金」と「人材」です。「活動資金」に関しては、先の団体から独立して行なった経緯を見るとおり、公的な活動資金もかつてはあったそうですが、今年からは100%独自で活動資金を捻出しているそうで、現状の活動費は、微々たるものだそうです。先日のセクションハイクイベントの参加費もその一部になっているそうです。関係者が森林組合の所属ということで、チェンソーの免許保持者など山に精通したメンバーが多いのも、整備費用を抑えられる強みだといいます。

 金沢トレイルの「人材」は、今回のイベントにも参加していた有志の方々の存在が非常に大きいといいます。有志のみなさんは、山好きと里山保全をしている方々。スタート時は10名程度でしたが、仲間が仲間を誘うと行った感じで、40〜70代のメンバーで活動しているそうです。

イベント時の有志のみなさん。イベント中も終始笑顔で、サポートしていただきました。

ルート設定

金沢トレイルを作る際に、ルート設定をどのようにするか話し合った結果、いくつかのキーワードをもとにルートを決めたそうです。そのキーワードとは、「金沢らしい場所」「里山保全」「過疎地域の活性化」だったといいます。スタート地点が「金沢城」であったり、「主計町」や「ひがし茶屋街」がルートに入っているのは、そうゆうことだったのです。

 里山に入ると元々登山道の整備をしてる方がいる場所や、森林組合の地の利を生かし「鉄塔路(てっとうみち)」と呼ばれる、山間部の高圧電線の鉄塔をつなぐ道なども組み込んでいきました。また、竹久夢二も歩いたという湯涌温泉の古道も。この湯涌の古道は、荒廃していた古道を地域の方が整備して復活させたものだそうです。3〜4区間に設定されているエリアは里山保全区域が点在しています。湯涌温泉の先にある「玉家の森」、寺津町の「米沢の森」、荒廃した竹林を千本を超える桜を植樹している「千本さくらの里」など。これらの地域もルート設定する際の重要なポイントとなっています。

 また、ハイカーのための宿泊地の問題もあります。現在のマップでは、それぞれの区間に宿泊可能な場所を設けるような設定となっています。3区間の熊走町と4区間の新保町では、現在テント泊予定地の準備を進めているそうです。寒さが厳しい北陸。歩ける期間は、5〜11月。2区間の横谷峠など、降雪の際に危険が及ぶ地域もあるので、ハイクする際は事前に状況を調べて計画をたてるようにしたいですね。

金沢城からスタートし、ひがし茶屋街も歩く。金沢ならではのルート設定だ。

今後の展開

 河崎さんに、今後の展開を伺うと面白い答えが返ってきました。 「完成に向けて、常にメンテナンスをしていく為、完成しないトレイルなんです。」とはいえ、各セクションも繋げていきたく、今回のようなハイクイベントも続けていくとのことでした。今年は、5つのセクションをそれぞれ日帰りで歩くセクションハイク。来年は、全区間をスルーハイクするイベントもできたらいいなとのことでした。こういったイベントに参加してもらうことによってファンを増やし「みんなが、愛着を持つトレイル」にしていきたいといいます。

 またルートの看板について聞くと、「プラスチックでつくったものや道標を立てるのではなく、木の看板がそっとかけてるようなものにしていきたい。それが朽ちても土に帰るし、なくなったら気がついた人が、またかけてもらえるようなトレイルだといいなと思うんです。」とのこと。

 金沢トレイルは、ファンが集まり「市民がつくるトレイル」をめざしている。これからも、応援したい! 活動に参加したい! トレイルでした。
 
金沢トレイルは、今後もファンが集まり「市民がつくるトレイル」をめざします!

 

【文=北村 哲 写真=古瀬美穂, 金沢トレイル】

 
 

【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.7 金沢トレイルができるまで〜整備が進む第1区間をセクションハイク!

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