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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.14 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:第二章「未開の地グンマー? 新規開拓ルートに挑む」

(2018.11.22)

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ロングトレイル開通の裏側、過酷すぎる整備作業を目の当たりに

 ムジナ平にはテントが4張にタープが1張。どうやら整備の方々が泊まり込みで作業してくれているらしい。台地のそばに細いトレイルが付いていて、水場への道らしかったが、こんなにも乾いた山に水が出ているとは思えなかった。その後改定されたマップにはやはり水場マークがあったが、「枯れることあり」と記載されていた。また、マップで紹介されているこの区間の最難縦走コースは、ムジナ平[テント泊]と書いてあり、幕営想定のようだ。ここまで2日分の水と食料を担いで登ること自体が相当体力を使うだろう。
 整備の人達は、登山の荷物だけでなく重い機械を担いで何時間も歩いていて、山に閉じ込められたようなエスケープルートも水場もないこの場所で、ひたすらに草を刈っていると思うと、本当に頭が下がる。こんなに“通勤”がハードな仕事場、なかなかない。ツワモノすぎる。

おそらく自力で担いでここまで来たと思われる

刈っては伸びる、刈っては伸びる。おそらく何度目かの草刈りだろう
 
 ムジナ平から先がまた、なかなかだった。
 大黒ノ頭までの登りはせいぜい500~600m程度ながらひっくり返りそうな急坂。笹は広く刈られているが、まだトレイルが切ってない状態で、つるんとした斜面に笹が敷き詰められた感じと言えば伝わるだろうか。ステップがないので、笹の滑り台状態だ。なるほど、登山道を作るには、藪を刈るだけで終わりではない。幅を広げ、土を固め、斜面は歩きやすいように九十九折れにしたり、段差を作ったりしてできていくのだろう。土砂袋や木段、石段を運んで埋め込んであるトレイルだってある。

公式MAPではわたしの行程とは逆方向、野反湖から四万温泉まで歩くコースが紹介されている。1日目が9時間強、ムジナ平でテント泊、2日目は7時間強。日の長い季節に幕営装備+たっぷりの水を担いで10時間を2日間歩ける体力が必要じゃないだろうか。

 登山道ができる途中を体感したのは初めてだ。荒れたトレイルの整備や草刈りを手伝ったことはあるが、「作る」過程を目前にして、これまで登ってきた山を歩けるようにしてくれた人達に心から感謝した。

ブーーーーーン、ブーーーーーーン、ブーーーーーーーン

 朝から遠くで聞こえていた飛行機かへリだと思っていた音が、草刈り機だとわかったのは、上ノ倉山で人に出会った時だった。

「こんにちは!」
「わ! びっくりした!」
「すみません、整備ありがとうございます!」
「1人で歩いているの?気を付けてね!」

 しばらく歩くとまた、草刈り機を持った人に出会う。

「こんにちは!」
「あぁ、こんにちは!」
「何人で整備されているんですか?」
「5人だよ、今回は明日までだね。佳境だからね~!」

こんなに整ったトレイルができていた

 委託で整備を請け負っているそうで、毎週のように数名で山に入り、テントで泊まり込みで少しずつ草刈りをしているのだそう。明日は天気が崩れそうだけど、いまは佳境だから今日は下山できないという。来週もまた来るのだと言っていた。午後からまだ先へ行こうというわたしを心配してくれたが、ここまでの行程と時間、装備を話したら、そうかそうか、と送り出してくれた。

「前にも数人いるから、声かけてやってね。気をつけてね!」

 こうやって、登山道はできていく。必ずだれかが汗を流して作ってくれているのだ。美しい景色を楽しめるのは彼らのおかげだ。山が好き、なんて言っているが、山は自然そのもの。それを人間が歩くように整えているのは人間だ。誰も手をつけなければたちまちまた山は動植物だけのものに戻っていく。自然への気持ちはもちろんのこと、山を守ってくれている人達にももっと感謝しなければ。

ただの破線だった場所は、エスケープがない山深い場所だからこそ静かで、派手さはないものの遥か遠くまで見渡せる眺望の良い場所だった。いくら地図を見ても、山の様子や景色はやっぱりその場に行かなければわからない。ここを人々が歩けるようにしよう!と、考えた人の想いに納得した。整備途中の片足ほどの幅しかないトラバースは、伸びかけの笹に足を取られ、横からの木々に遮られながら、逆側の崖に落ちないかと冷や冷やしたけれど、これがきっとさらに良いトレイルとなっていくのだと思う。

これが稜線トレイルができていくところ

核心部の険しく長い道のりを制覇! 野反湖へ

 上ノ倉山、中次郎山、上ノ間山の山頂には手作りのプレートが控えめに置いてあり、いずれも山岳部や山岳会の名前が記されていた。完全未整備の状態で、ここを一体どうやって歩いたのだろう。凄い人達がいるもんだ。

これをバックパックに入れて、藪を漕いできたのだろう

トレイルがあるように見えるけれど、まだまだこれから作られていくところ

 白砂山に着いたのは14時だった。この区間のコースタイムは9時間半。60%で歩いた計算だ。普段はせいぜい80%、そんな速く歩かないものだから、緊張しっぱなしで身体は固くなり、脚もガクガクだった。

“登山道”に出た! なんて安心感があるんだろう!

「無事に登山道に出ました! これから下山します!」

 Akimamaスタッフにメッセージを送った。できることならまだ歩かれていないこのロングトレイルを誰よりも早く一発踏破したかったけれど、なんど天気予報とにらめっこしても、明日も明後日も雨だ。それにこの疲れ切った身体であと2~3日歩くことが良いと思えなかった。楽しめなければ意味がない。故障をしては意味がない。そんなわけで、野反湖をゴール地点として前半を終える決断をした。

 故障が少ないね、膝壊さないの? などとよく聞かれるが、無理しないからだと思う。冒険冒険と言っているわりには、結構保守的なのだ。白砂山ですっかり旅を終えた気分のわたしに、ぐんま県境は優しくはしてくれない。「甘いんだよ」とでも言うように、幾度も繰り返すツンデレな登り返しに苦笑いしながら、のんびり下山した。

白砂山から野反湖が・・・見えない

 野反湖は売店も食堂もシャッターが閉まっていたが、トイレと自販機がわたしを迎えてくれた。温かい便座とミルクティーが身体に沁みる。人間の発明ってすごいな。文明の利器ってすごいな。山から帰ると、恵まれた生活に感謝するんだよな。そういうところも好きなのかもな。車を待つ間、泥だらけになった全身を拭きながらそんなことを考えていた。

3日目、平標山の家から野反湖までのギザギザ

* * *

第三章につづく

(文・写真=中島英摩)

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ライター
中島 英摩

ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。特技は走りながら取材すること。

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