line_box_head

【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.15 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:第三章「4ヶ月越しの後半戦はー7℃の世界! からの湯めぐりで締め」

(2018.12.04)

カルチャーのTOP

icon

長い舗装路を経て、いよいよ毛無峠へ

 翌朝5時半。前日に売店で買ったおやきと、部屋で煎れた温かいお茶で朝食をすませ、さっさと準備をして出発した。今日1日で終点の鳥居峠までぶっ通しで歩きたい。さらにその数キロ先の鹿沢温泉郷まで歩きたい。ちょっとだけハードな湯めぐり旅みたいなもんだ。一般的には、万座温泉の次は浦倉山から嬬恋へ下りてキャンプ場に泊まるのが良い。なにせ鳥居峠にはなにもない。電車の駅もない。バス停もない。オフシーズンだからとかいう理由でなくて、もともとな~んにもない。

 ぐんま県境稜線トレイル踏破録、5日目となる今日。万座温泉から鳥居峠までの区間は、三分の一くらいは舗装路を歩く。本来の県境は舗装路から北に数百メートルのところにあるが、トレイルらしいトレイルがないのだろう。

朝イチでロード練習みたいだ

充電を忘れた時計はただのゴツいブレスレット

舗装路といっても景色がいいからさほど退屈しない

 途中、スウェット姿で朝ランしている人に出会ったが、どんだけの距離を朝から走るのか。周りの村は相当遠い。トレイル入口となる毛無峠までは11km、ひたすらアスファルトだ。重くて固い登山靴で歩くと、もしかするとちょっと足が痛いかもしれない。普通の徒歩(1kmあたり約20分)の倍くらいのスピードで歩き、たまに小走りして2時間かかった。だいたい4時間前後のコースタイムだろうか。

 舗装路ルートと本来の県境が交差する部分で、トレイルがあるか茂みを覗いてみたが笹に覆われていてまるで踏み跡がない。標高で260mほど登れば御飯岳山頂に行くことができるはずだが、視界が悪いわ気温が低いわで、なにもこんな時に不明瞭なバリエーションに突っ込むことはないなと後退り。足元には「遭難多発地域! 危険!」という文字の錆びた看板が転がっていた。

「群馬県」と「長野県」の看板が向かい合って立っている

御飯岳方面をちらりとのぞいてみたが、とにかく藪が深かった

 舗装路がぐるっと大回りするので御飯岳に登った方が近道のように感じるが、この分岐のあとは毛無峠までほぼ下りですごく楽な道だった。山をひとつまるっとカットしたわけだ。そしてついに毛無峠に到着した。

毛無峠。

 検索すると、秘境だの最果てだの天空の荒野だのと書かれている。立ち入り禁止の看板が立っており、その先はかつて栄えた硫黄廃鉱山があるそうだ。

鉱山跡の残された鉄塔

やっとトレイルだ。破風山から取り付く

 破風山からのトレイルは、迷うほどには荒れていなくてほっとした。なにせ毛無峠が車があったとしても容易に行ける場所でないものだから、毛無峠~四阿山の間など歩く人がいるんだろうか、と心配していた。たまに左右の藪がトレイルを覆いかけているところがあるものの、笹は刈られ、道幅のある整備の行き届いたトレイルだった。

めちゃくちゃ歩きやすい

たまにだけど、道標もちゃんとある

土鍋山の手前に少しだけ岩の急登がある

 ほどなくして土鍋山に到着。山頂と書かれた矢印の道標が地面に置いてあるのを見つけ、トレイルから逸れて山頂に立ち寄る。視線の先に山頂看板らしきものが見えた。

おー、あれが土鍋山かー。

ん? 根元になんか・・・

ある・・・気が・・・す・・・

る・・・!

土鍋!これはまぎれもなく土鍋!

看板が銅(どう)っぽいのはギャグか

しかも三角点のある地図上の土鍋山はその先の別の場所だった(地味)

 色々突っ込みどころのある土鍋山を堪能して満足いくまで笑い転げた後は、ゆるやかなアップダウンを繰り返す笹の道と樹林帯をのらりくらりと歩き続けて浦倉山へ。わたしは好きだな、このトレイル。景色がなくても、歩いていて足が喜ぶトレイルに出逢うことがある。足が嬉しければわたしも嬉しい。ここまでのぐんま県境稜線トレイルにない新たな感覚は、わたしを最後の最後まで楽しませてくれて、つくづく面白いところだなと感心しきりだった。
(しばらく水場がないので夏は注意したい)

思ったよりも早くに着いた浦倉山でHIPHOP的なドヤ顔

最後のひと山、四阿山からフィニッシュへ!

 四阿山には夏と冬に一度ずつ登ったことがあるけれど、いずれも菅平からのピストンだ。車を持っていない(どころか免許もない)わたしは、いつも電車とバスを乗り継いで山に行くので、バスでアクセスしやすい菅平から登っていたというだけの理由だ。一度は四阿山の山頂から向こう側に行ってみたいと思っていた。浦倉山の少し先には、ゴンドラリフトの山頂駅があり、グリーンシーズンも営業していて、天気と季節と時間によっては、麓の嬬恋のキャンプ場までゴンドラで下りられるかもしれない。そんな風に楽したっていい。レースでもあるまいし、楽しければいいのだ。嬬恋の温泉やキャンプ場で泊まって、朝8時のゴンドラ始発に乗って、翌日またここから登ればいい。山頂駅から2時間弱で四阿山山頂だ。

標高2100mあたりからはすっかり冬の様相

やや険しい場所を乗り越え

稜線に出たらもう山頂は目の前

 山頂に着くと、瞬く間に雲が消えてゆき、厚い雲を纏っていた空が別人のように青く晴れ渡った空へと姿を変えた。長い長い旅の、最後の最後の山頂で、こんなご褒美だなんて出来過ぎ! 群馬の山々に祝福されているような気分。ありがとう! ぐんま! ありがとう稜線!

最終日はずっと朝から曇っていたのに

 山頂には男性がひとりいて、わたしがひょっこり逆側から出きたもんだから「えっ? そっちから来たの?」と驚かれたが、「はい」とだけ答えて野反湖から来たと言う話は伝えなかった。とにかく行程を説明するのがややこしくてすぐ端折ってしまう。話し始めると長くなるし。お互い写真を撮り合いっこしたが、わたしはあまりにヘンな顔をしていたもんだから、おじさんがいなくなるのを見計らってそのあともう一度自撮りした。

GO PROで記念写真

 いままでみた四阿山とはまるで違って見えた。

 自撮りの顔もたいしてキマらないから感動もそこそこに下山を開始。もうこの道をただただ下っていけば、ぐんま県境トレイルを全踏破できるんだ! そう思うとちょっと寂しい。山はいつだってそう。どんなに大変なルートでも、最後には「早く帰りたい」だなんて思ったことがない。いつだって、なんだかちょっと終わりが惜しく思う。

途中、嬬恋清水なる道標を発見。恋って文字はやっぱそれだけでインパクトある。

寂しい寂しいと惜しんでいると現れる「下りのはずが何度も登り返すから全然標高下がらない」パターン

県境とはいえなんで鳥居峠なんていうなんもないルート方面を終点にするんだ、と思ったらこの景色。これはいい。たしかにいい。自慢したくなる素晴らしい景色だ

山の上から見下ろす紅葉も案外いい

降りてみれば、こんな美しい色のコンビネーション

 それなりにアップダウンを繰り返しながらもどんどん下り、浅間山方面を眺めながらも下り、ひたすら下り、登山口の駐車場に出た。

 鳥居峠から四阿山のピストンをする人は車で来て駐車場に停めるようだ。なかなかの高低差なのでそれなりにハードだけれど、このコースは日帰りにもすごくいい。たった2度登っただけで知った気でいたわたしは、四阿山のこんな表情を全然知らなかった。

 登山口で終わりでないところが、ぐんま県境稜線トレイルのにくいところ。駐車場からもダートをしばらく下らなければならない。降りてくる車をよけながら、つまづきそうな砂利道を歩く。たまに車がわたしの横でゆっくり止まって、『乗っていきますか?』と言ってくれたけど、御礼を言ってそれでも歩いた。なぜなら、地味な砂利道が、わたしにはレッドカーペットに見えていた。100kmも歩いて来たんだから、最後まで歩きたい。あとほんの1、2kmでこの冒険が完結するんだから、この足で歩きたい。

最後のゲートが見えた瞬間

あーーー!きたーーーー!

 こういう時にほかに言うことなんて特にない。あーあーあーあー、で十分。十分!

ここがFINISHだ!

見てみて! やりきったぜ!

ぐったり、でもただただ嬉しい

 最終はすっかりぐんま県境に慣れたのか、計画よりもずっと早く鳥居峠に到達した。ひとしきり浸ったあとは、ここから帰路につかなければならない。後泊の場所は新鹿沢温泉。温泉、温泉! それに、元気だったら翌日も浅間山麓まで縦走しようという目論見だった。

国道沿いを歩く。右に見えているのは浅間山。

古いけれどきれいに維持されているいい旅館

 温泉に入り、ビールをひっかけ、畳の上でテレビをぼーっと見ながらダラダラしていたら、完全にスイッチが切れてしまった。宿の人が、近くの「JR万座・鹿沢口駅」まで翌朝送ってくれると言ってくれて、もう他の選択肢は浮かびもしなかった。その夜は、一度も目が覚めないほど深い眠りについた。

 総距離100km。いや、もっとある。ちょっとがんばって5日間で踏破したが、おそらく1週間前はかかるトレイルだ。でも、長いほどに旅になる。スルーハイクじゃなくたっていい。区間ごとのセクションハイクを何年もかけて踏破、なんてのもいい。歩いた年によって人生様々な変化きっとあって、それぞれに感じ方が違うかもしれない。厳しくもおおらかに色んな表情を見せてくれるトレイルだから、“わたしなりの” “あなたなりの” 色んな楽しみ方ができる。

 ぐんま県境稜線トレイルはわたしが「いちどでいいから行ってみたい」と思っていたところの宝庫だった。電車でも車でも行きにくい場所に、歩いて行くって究極だ。お金はないけど、比較的強い脚ならある。脚があるなら歩けばいい。わたしにとって最も便利で手軽でどこにでも行ける最強の移動手段だ。旅するトレイル。旅する脚。この脚で、見れない景色を見に行ける。だから、ロングトレイルが好きなんだ。

やっぱり電車がいちばん、便利かも。はは

(文・写真=中島英摩)

1 2 3
 
 
ライター
中島 英摩

ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。特技は走りながら取材すること。

line_box_foot