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「第二次火起こしブーム」到来。今回のトレンドは「その辺のもので火起こし」だ!

2015.09.21 Mon

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 近ごろ、アウトドア界で世界的にブームになっているのが「火起こし」。

「え? 火起こしなんて誰でもキャンプの度にやってるし、焚き火は野遊びの不動の王様だよね」
と思ったあなたにはノンノン!

 今回ブームになっている「火起こし」は「着火」ではなく「発火」。そう、ライターなどの道具を使わずに火を起こすほうなんです。

 日本に「火起こしブーム」が到来するのは、実は今回が二度目。一度目が訪れたのは90年代後半のこと。三内丸山遺跡の発掘・復元とともに日本で盛り上がった「縄文ブーム」がきっかけでした。

 課外授業や野外活動では、縄文時代の習俗を学ぶコンテンツとして「摩擦式発火法」が取り入れられ、この時代に小学生だった人は、実際に体験した人も多かったのではないでしょうか。

 その後、火起こしは総合学習などに取り入れられ「誰にでも火が起こせる」効率重視の教材が普及。しかし、その結果火起こしは「火が起きやすい教材を使わないと成功しない難しいもの」にもなってしまいました。

 便利な火起こし具の普及とともに、火起こしにおいて重要な、使う木の材質や熱についての知識などが置き去りになってしまったのです。

 それから20年。今回の火起こしブームの火付け役となったのは、世界的に愛好家が増えてきた「ブッシュクラフト」でした。ブッシュクラフトとは「少ない道具で野山に入り、野山の産物で命をつなぐ生活技術」とでもいえばいいでしょうか。減らした道具のかわりに、知恵と知識で補う、という思想に基づく野外活動です。

 ブッシュクラフトを初めて耳にした人は、YouTubeを開いて「bushclaft」で検索してみましょう。世界中のむくつけき男児が投稿した、ワイルド自慢動画を数多く目にすることができます。そして、これらの動画のなかでも人気のコンテンツが「発火」となっていることに気づくはずです。

 数ある発火方式のなかでも、いちばん実用的でスタイリッシュなのが「野にあるもの」だけで火を起こす「錐揉み式発火法」。いくつかある摩擦式発火法のなかでも必要な部材や道具が少なく、慣れれば素材集めから発火まで20分程度でこぎつけることができます。

 それでは、順を追って学んでいきましょう!

1. その辺で材料を集める

 最も需要な素材が「火きりぎね」。板と摩擦させる丸棒のことです。これは①なるべくまっすぐで ②ある程度の長さがあり ③よく乾燥している ④直径1㎝程度のものがベストです。木の枝でも草の茎でも構いませんが、ある程度の強度は必要です。

まずは火きりぎねを採集。この日使ったのはヒメムカシヨモギという外来種の立ち枯れ。都会や郊外なら道端で簡単に見つけられます。これの小枝を払ってまっすぐな棒にしました。立ち枯れた草や木はは地面から離れているので含水量が少なく、火起こしの材料にうってつけ。
 
「火きりぎね」と同じくらい重要なのが「火きり板」。これは①1㎝程度の厚みが取れる枝や板などで ②硬い繊維が疎に集まった質感で ③油分が少なく ④よく乾いているものがベスト。手に入りやすい樹種としてはスギがおすすめです。

 ほかに必要なのは、火を育てるための細い枯れ草の束と、火種を受ける厚めの葉っぱです。枯れ草の束は多いにこしたことはありません。
 
その辺で枯れ草を収集。これの倍程度の量があると安心です。火きり板を拾うシーンは撮り忘れ! 次のカットを参照してください。

材料一式。左からその辺で拾った火きりぎね、その辺で拾った火きり板(になる枝)、その辺で拾った厚手の葉っぱ、その辺で拾った枯れ草の束。今回、火きり板はマツの枝を使いました。

 
2.材料を整える

 素材の品質と同じくらい、発火の成否に影響を及ぼすのが事前準備。ここで手を抜くとあと一歩のところで火がつかず、最初からやり直すことになったりします。火起こしに近道なし。丁寧に段取ることが成功への早道です。
 
 段取りの手順は、①薪を組み ②枯れ草を整え ③火きり板と火きりぎねを調整、となります。薪を先に組んでおかないと、せっかく発火できても火が無駄になってしまいます。ご注意あれ!
 
薪を組むシーンは割愛。枯れ草は軽く揉んでから皿状に整え、集めたもののなかから細めのものを選んで皿の中心部を構成します。この枯れ草の塊は握り拳大の大きさがあると安心。

次に、火きり板を整形。枝を削って1㎝程度の厚みにしたら、端から2㎝程度内側に皿状のくぼみを作ります。

続けて整形済みの火きりぎねをこのくぼみに当て、両手で揉んで火きり板のくぼみをきれいな円形に加工。

その後、材の端からこの円形のくぼみに向かって三角形の切れ込みを入れます。三角形の頂点がくぼみの中心にわずかに届かない位置がベスト。また、切れ込みの大きさが広すぎても狭すぎても火つきが悪くります。自分で挑戦するときはこの写真を参考に大きさを調整してください。


3.火を起こす

 材料が整ったらあとは腕力! 火種が起きるまで一心に摩擦を繰り返しましょう。短時間で火を起こすコツは摩擦面の温度をできるだけ高く保つこと。日陰よりも日向のほうが、風のある場所よりもない場所のほうが摩擦面の温度を高くできます。

これが火起こしの基本姿勢。厚手の葉っぱを敷いてその上に火きり板を置いたら足で固定。火きりぎねを火きり板のくぼみに合わせたら、垂直方向に体重をかけながら手の平を前後させて摩擦します。手の平は指先から手首までを使ってストロークを長くとり、手が下まで下りきったら素早く上にもどり、摩擦面が冷える前に次の摩擦へと移ります。

摩擦を繰り返していると摩擦面から煙が! この段階ではまだ温度は低め。温度が高くなると周囲に出ている木屑の色がこげ茶になります。煙の量がこの写真の2倍程度になり、摩擦面ではなくたまった木屑から煙が出だしたら火種ができた証拠です。

起きた火種。火種を崩さないようにここからそっと枯れ草の皿に移します。受け皿の葉っぱが薄いとこの段階で焼けて穴があきやすく、またこの葉っぱは断熱と湿気を遮る役割も果たしてもいるので、とにかく厚めのものがおすすめ。

火種を枯れ草の皿の中心にイン! 全体から草を集めながら、火種が草の中心部にくるようにして包みこみます。この枯れ草は、火種の燃料であるとともに、温度の低い空気から断熱、保温する役割も果たしています。この段階では酸素の供給よりも断熱と保温のほうが重要です。起きたばかりの火種はそれほど酸素を必要としません。

火種を包んだら枯れ草を手の平でじんわり握り、枯れ草へと燃え広がろうとする火種に外側から少しずつ燃料を供給します。強く握りすぎると火種に酸素が供給されずに消えてしまい、握力が弱すぎても火種に燃料が供給されず消えてしまいます。手の平で少しずつ大きくなる火種の温度を感じつつ、じっくり育てましょう。

手で握れないほど熱くなるか、細く煙が出だしたら、今度は酸素を供給するべき段階。口元よりも上に枯れ草を捧げ持つようにして、枯れ草の中心に向かって細く長く息を吹き込みましょう。すると煙の量が増え続け……

煙は視界を覆うほどの量に! ぐいぐい息を吹き込み続けると……

ボン! と発火。枯れ草はこんな形にしておくと、薪に入れるときに扱いやすいです。

あとはあらかじめ用意しておいた薪の下に押し込むだけ!

 いかがだったでしょうか。以上が世界でもっともスマート火起こし方法である、錐揉み式発火法のノウハウとなります。

 便利な道具がある現代ではまず使わない技術で、かつ、雨の多い日本では適切な素材が集めにくくもあります。

 しかし、火起こしをマスターすることは二度と消えないライターを手に入れるようなもの。また、火起こしには火の起こる原則である「熱」「燃料(木など)」「酸素」のコントロールのエッセンスが凝縮されているので、火起こしをマスターすると、ふだんの焚き火まで劇的に上手になります。

 焚き火の腕に自信がある人にこそおすすめしたい技術です!

〈写真=田村かすみ〉

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