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スラックラインの到達点。アスリートGappaiの超絶美技。なにも言わない。まずは、この画像を見て見てほしい。

2017.04.26 Wed

久保田亜矢 フォトジャーナリスト、編集者

■Gappai Slackline Bring Back Static Sesh
http://youtu.be/p3IkarCdyQM
 
 ここでアクロバティックな技を見せているのは、スラックラインの第一人者、Gappaiこと大杉 徹。多くのトリックの生みの親として、国内のみならず海外でも多くの支持を集めている注目のアスリートだ。

 細長いラインの上で、飛んだり跳ねたりと技を競い合い、見るものを魅了するスラックラインだが、国内外では競技会や体験イベントも数多く開催され、プロとして活躍する選手たちも少しずつ増えている。そのスラックラインの魅力を探るべく、フリーライターの久保田亜矢が、Gappai本人に話を聞いた。
ラインを張れる場所であれば、地球上のどこでもがスラックラインの舞台となる
スラックラインとの出会いのきっかけは?

 大学生のころ、フットサルをやっていたのですが、卒業したあともなにかスポーツをしたくて、クライミングジムに通っていたことがあるんです。ある日、ジムから帰宅してテレビをつけると、ある旅番組が放送されていたのです。

 ヨーロッパが旅の舞台で、その人が公園に行くと若者がロープを張ってその上でジャンプをしている映像が映し出されたんです。旅人が「これはなんですか?」と聞くと「ロープライディングっていうんだぜ! イケテルだろう」と口にしながら、ロープの上でピョンピョンと跳ねているんですよ。とにかくそれに釘付けでした。

 翌日、大学時代の友だちといっしょに、ネットで「ロープライディング」で検索をしてみるんですが、なにも出てこなくて……。ようは名前がまちがっていたから出てこなかったのですが、そんなことすらわからないぼくらは、ホームセンターに行って、黄色と黒のいわゆる「寅ロープ」を買ってきたんです。それを木に張って、見よう見まねで遊んでいたんです。

 友人と寅ロープで何度も挑戦するんですが、やっぱりどこかがちがうんです。映像では、ロープの上で跳ねていたのですが、寅ロープでは絶対にできないんです。それが2008年のときでした。

 翌2009年、YouTubeで何気なくチェックしていたら、スラックラインの映像が見つかったんです。「なんだ、スラックラインっていうんだ!」と、そこで正式な名前がわかり、国内に1店舗だけ取り扱っているクライミングジムを見つけました。現物を取り寄せて、たしか15mの「クラシック」というタイプを注文したはずなのですが、届いたのはなぜか25mでした(笑)。

 寅ロープではグリグリと回転しちゃうのですが、スラックラインは回ってもすぐにもとに戻ります。夢中になって挑戦して、3、4日程度で端から端まで歩けるようになりました。とにかく楽しかった。

トリックはどうやって身につけていったのですか?

 当時、ぼくらが参考にしたのはYouTubeの映像だけでした。海外選手の技を真似ることしかできなかったんです。とくにアンディ・ルイスがライン上で跳ねている姿がすごく楽しそうで、見た瞬間に「これだ!」と。以来、彼に憧れて練習していました。

 2010年に日本オープンが始まりました。大会ではたしかに競い合うのですが、ぼくのなかにはあまり競うという意識はなかったのかもしれません。そもそも競うような技を持ってなかったので、まずは自分で技を生み出すことの方が先でした。

 このころになると海外の映像を見ながら真似るよりも、自分で技を作ることのほうが楽しくなっていたのです。

これまでにどんな技を生み出しましたか?

 細かなモノを入れると、けっこうたくさん作りましたね。代表的なのは「フリーフォール」。お尻で跳ねてクルッと回って胸で跳ねる。あるいは、お尻で跳ねてラインを手で掴んだ状態で180度回転して胸で落ちるという「ナスティチェスト」は、日本だけでなく世界でスタンダードな技になりました。
トリッキーな技を繰り広げるGappaiこと大杉 徹。思わず魅了される観客たち
 技は、スラックラインの練習中に偶然でき上がるとかではなくて、まずは頭で考えてから挑戦するというのがぼくやりかたです。いまはマットを敷くことが当たり前になっていますが、当時はマットという概念はなくて、じかに地面に落ちることもあって、打撲するのはしょっちゅうでしたね。技を生み出そうにも「基本」というものがまったくなかったので、すべてが手探りの状態。どうしたら安定するのかを見つけるのが第一で、新しい技はその先に、といった具合でした。

Gappaiがトリックラインに特化した理由はなんでしょう?

 スラックラインにはいくつかのジャンルがあります。ハイラインやロングラインはスラックラインが生まれたころからあるジャンルです。そして、ラチェットが装備されるなどスラックラインが商品化されてからは、アクロバットに技を魅せるトリックラインのほか、フィットネスやヨガなどに取り入れられエクササイズを目的とするジャンルなど、いろんな楽しみ方が増えました。

 最終的にぼくは、これらすべてを含むスラックラインを楽しみたいと思っているし、いろんな技を生み出していくオリジナリティある選手であることをめざしています。

 2010年に世界中から集まった動画コンテストで優勝し、プロライダーとなりました。そして、トリックラインのワールドカップ杯で勝つことを意識し始めたのが、12-13シーズンでした。「いましかない」という具合でしたね。でも、優勝をするには、技のバリエーションの多さだけではなくて、大会を意識した技に集中して練習しなければ勝てません。

 YouTubeなどを通して、世界中にいろいろな情報がすごいスピードで発信され、挑戦する人たちの上達するスピードもとても速かったのです。ぼくは、特別に能力が高いわけではなくて、気合いと練習量でカバーしていただけ。でもあのときは、いまなら本気でやればなんとか優勝できるかもしれないと思い、仕事を辞めて、気持ちをシフトしてスラックラインの練習に打ち込んだんです。

いま、ライバルはいますか?

 大会のために世界を転戦しているときは、ほとんどがライバルでした。なかでもアンディ・ルイスやマイク・ペイトン、カルロス・アンドレフはぼくにとって特別な存在の選手たちです。
Gappaiのライバルでもあり、仲間でもあるカルロス・アンドレフ。ラインから跳ね上がり、想像を絶するジャンプを見せる
 アンディは独創性にすぐれた選手で、YouTubeなどにお互いの新しい技をアップし、見せ合いながら刺激し合っています。

 また、マイクとカルロスはジャンプがすばらしいんです。じつは、ぼくがいちばん好きなのはジャンプです。最初にテレビでスラックラインを見たときに惹かれたのもジャンプで、これこそスラックラインのよさを凝縮していると思うのです。単純なようでいて、お尻で跳ねてバク宙をするよりもむずかしいんですよ。

 なぜジャンプがむずかしいのかといえば……。ラインの上を歩くロングラインは、体の重心を横に移動させることを追求しています。いっぽう、アクロバティックな技を追求するのがトリックラインで、上下の伸縮を利用して技につなげるんです。

 これらのふたつ、つまり重心移動と上下の収縮が合わさっているのがジャンプ。超複雑なんです。大会を見ているとわかりますが、お尻や胸を使って跳ねることはしていますが、足でジャンプ移動する選手は少ないと思います。なぜなら、リスキーだからです。

今後の活動は?

 いまは技術を研究したり、技を開発したりしながら、多くの人にスラックラインの技術をきちんと説明できるようになりたいと思っています。世界的にもこれらを追求している選手があまりいないのが現状なので。トリックラインだけをやっていても、スゴさは伝わるものの、裾野を広げることにはつながらないと思うのです。

 抜群の運動神経のよさから、簡単に技ができてしまう選手もいるのですが、教えられるかというとそうでもない。なので、いまは自分の体を実験台にしながら、研究を続けています。そして、それがいつしか、教えられる側になれるといいなと思っています。

  


Gappai/大杉 徹 日本人で唯一、スラックラインのワールドカップで優勝した男。さまざまなトリッキーな技を生み出してきた世界基準を牽引するライダー。1984年11月16日、岡山県生まれ

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