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すぐそこにある外国! ホーボージュン「オホーツクの風と謎だらけの巨大島サハリン」前編

(2017.07.24)

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ロシアのビザとヴァシレンコからの手紙
 いろいろ調べてみるとロシアの観光ビザを取るのはけっこう面倒くさいということがわかった。
 
 それもこれもロシアの「バウチャー制度」のせいだ。

 外国人旅行者がロシア国内を旅するためには、あらかじめ現地での宿泊や交通機関を予約し、支払いを完了しておかなければならない。それを証明する書類がバウチャーで、ビザ申請にはこのバウチャーと現地受け入れ先機関からの「旅行確認書」が必要となる。しかも受け入れ先は政府に登録された旅行会社でなければならず、申請には登録番号と社印が必要なのだ。

 これが自由旅行をさまたげている。向こうに知り合いやツテがあればともかく、一般市民がこれを手に入れようと思ったらロシア専門の旅行会社に依頼し、パックツアーに参加するしかないのだ。

 でもさー。
 そんなのバックパッキングじゃないよね。
 自由気ままに街を歩き、予定外のハプニングを楽しむ。
 風の行方を追いかけ、誰もいない原野で野宿をする。
 それこそがリアルバックパッキングじゃないか。

 それに旅行会社のツアーはどれも目玉が飛び出るほど高価だ。正直僕には手が出ない。それに山に登って野宿するのにバウチャーもないだろう。僕はなんとか自分の力で旅する方法はないかと、せっせとリサーチを続けたのである。

 そんな中で見つけたのが「Сергей Василенко」という人物のVK(ロシア版フェイスブック)ページだった。

 そこには広大な連なりを持つ山の稜線や、オホーツク海を望むナイフリッジを歩く登山者たちの姿が何枚もアップされていた。登山だけではない。バックカントリースノーボードやマウンテンバイクを楽しむ姿もあり、写真を見る限りかなり本格的かつプロっぽいのだ。
 文章はロシア語なので何が書いてあるのかまるでわからなかったが、本文や写真につけられたキャプションをコピペしてせっせとGoogle翻訳にかけてみると、どうやらこのСергей Василенкоさんは山岳ガイドかなにかで、サハリンを中心に各種の冒険的ツアーを主催しているみたいだった。

 僕はダメモトでСергей Василенкоさんにメールを送った。

「Hallo。はじめまして。あなたのVKページを見ました。どの写真もファンタスティックですね。僕は日本に住むバックパッカーで、この夏サハリンの山々をトレッキングしたいと思っています。ついては現地ガイドをお願いするか、あなたのツアーに参加させていただくことは可能でしょうか? BestRegard」

 英語が通じるかどうかわからないので、なるべく平易な文章にした。そして今回の旅が取材を兼ねることもカメラマンを連れて行くこともまずは伏せておいた。なんといっても極東ロシアである。KGBが見張っているかもしれないじゃん。

 そして待つこと7日間。僕の元にこんな返事が来たのである。

「Hallo.Thank you for writing to us. Our company will gladly help you organize the tour.

We can arrange an individual tour with an English speaking guide.

Do you have any experience in walking tours? What is your physical preparation?」

 おおおおっ! これはすごい。
 なんかすごくうまくいきそうだぞ!

 メールはすべて英語だったが、文末には
「C уважением,генеральный директор АДРЕНАЛИН ТУР」とロシア語で書いてある。いったいこれは何だろう??

 文節に分けてGoogle翻訳にかけてみる。するとそれはそれぞれ「BestRegard,」「General Manager」「ADRENALINE TOUR」という意味だということがわかったのである。

「アドレナリンツアーだって!やっぱりこの人、サハリンで冒険ツアーやってるんだ!」

 この時点で僕は大興奮だった。もうアドレナリン出まくりである。

 さらに署名欄の「Сергей Василенко」は英語読みすると「Sergei Vasilenko」だということがわかった。

「セルゲイ・ヴァシレンコ! この人セルゲイさんて言うんだ! それにしてもなんてロシアな響き! ああ、セルゲイ・ヴァシレンコ!」

 調子に乗った僕は今度はGoogleの画像検索にかけてみた。セルゲイさんはいったいどんな人なのだろう。アウトドア好きの爽やか青年なんだろうな、と思いながら……。

 ところがどっこいぎっちょんちょん。

 最初にヒットしたのはロシアの軍服を着たイカツイ軍人だった。つり上がった太い眉毛の下にゴルゴ13みたいな目がぎらついている。胸にたくさんの勲章をぶら下げているが、いったい何人殺したのだろう……。(画像=Google画像検索より)

 続いて出てきたのはブラックスーツに赤いシャツを着たヤサ男だ。まるで映画に出てくるロシアンマフィアで、蛇のような目をしていた。もしこいつに捕まったら間違いなくロシアンルーレットをやらされるだろう……。

 さらにファイティングポーズを取りこちらを睨むセルゲイ・ヴァシレンコ、ミルコ・クロコップのようなセルゲイ・ヴァシレンコ、焚き火で生肉を焼くセルゲイ・ヴァシレンコ、素手で大鷲を抱えるセルゲイ・ヴァシレンコなどなど、出てくるのはどれもプーチン張りのタフガイばかりである。しかもどの顔も1ミリも笑っていない。まったく冗談の通じない殺し屋タイプばかりなのである。

「セ、セルゲイさん……」

 僕はまだ見ぬセルゲイさんにちょっと怯えてしまったのであった。

 その後セルゲイさんとはメールで何度もやり取りをし、7月上旬にサハリンに行くことになった。サハリンの夏は短いが、この時期なら山頂の雪も溶け、高山植物も楽しめるという。僕は自分の登山レベルと装備一覧を伝え、サハリン滞在5日間、山中3日間ぐらいで登れる山を教えてもらった。

 旅の起点となる島南部のユジノサハリンスクへは北海道の新千歳から直行便が飛んでいたが、僕はもちろん船で行くつもりだ。最果ての港からロシア航路に乗り込み、さらに北へ……。これぞオトコのロマンなのだ。

 ちなみにバウチャーとビザ取得は予想通り苦労した。詳しくは別ページにハウツーをまとめておくが、在日ロシア領事部はひどくお役所的で窓口が大混雑するし、問い合わせ電話はいつも繋がらない。おまけに日本語が通じないのだ。そのために多くの旅行者はビザ取得を専門の代行業者に依頼していたし、ガイドブックでもそれを薦めている。でも、もしリアル・バックパッキングを目指すならこの面倒くささをぜひ自分自身で経験して欲しい。それを含めて初めて「自分の旅」になるのだ。

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ライター
ホーボージュン

全天候型フリーライター。6,000mの高所登山からシーカヤックの外洋航海まで、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。『山と渓谷』『ビーパル』『PEAKS』『Field Life』などアウトドア各誌で連載中。公式Twitterアカウントは「@hobojun

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