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【トルデジアン走ってきた #5】ワ~ォ(*/▽\*)衝撃のシャワー事情、無双モードからの睡眠不足、迫る関門…レース中盤もドラマチックだ

(2018.03.05)

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9月13日、深夜、Rif.Coda 2,224m。

 外の温度計は-15℃を指していた。風速は15~20m/hくらいだろうか。山での体感温度は気温と風速の足し合わせなどという。だとすれば、-30℃だろうか。稜線では強い風が吹いていて、風に飛ばされて滑落しそうだった。ボトルの水も、食べ物も、髪も鼻水も凍っていた。“生き残る”には、走るしかない。

 Codaからの下りは走りやすかった。
 わたしには「無双モード」という戦闘モードがある。何かよくわからないスイッチが入ると、ギアチェンジできる機能が備わっている。これは自分ではコントロールできなくて、突然オンになったりオフになったりする。それが、奥秩父によく似た雰囲気の森にさしかかったところで急に発動された。

トルデジアンのコースで、こういう細かいアップダウンが続く樹林帯はめずらしい。

 想定タイムの半分ほどで次の小屋に着いた。夜が明けていたことすら気が付かなかった。天に届くような石が折り重なるトレイルで、機嫌悪そうに歩く金髪の若い女性選手に道を譲ってもらった時に「She is crazy!」と捨てゼリフのように言われた声すらもすぐに谷底に消えていった。後ろにぴったりついている男性がいたことにも気づかなかった。稜線に出て小屋が見えたところで声をかけられて初めて気付いた。

「ねぇ、君、すごいスピードだったね!」

 Rifuge Barmaは湖のほとりの天国のような場所だった。
 レース中に立ち寄ることのできる小屋のなかでも群を抜いて綺麗で、ホテルのような建物だった。

 カレー風味の野菜スープがあまりにも美味しくて、何度もおかわりをした。なんだか興奮状態で、1時間近く滞在した割にはただスープを5杯飲んでだらだら過ごしただけだった。これが大失敗だった。睡眠計画ほど大事なものはない。そういえば、前日の夕方に寝て以来、夜通し走っていた。4日目までの睡眠時間は合計6時間以下だった。

 天国のあとは地獄だった。ジープが似合いそうな単調なダートの登りが続き、眠気を誘う。太陽の光に照らされてまぶしくてまばたきする度にそのまま目を閉じてしまった。右にフラフラ、左にフラフラ。広い林道を大胆に蛇行した。

地獄の林道。道も蛇行しているがわたしも蛇行。

 眠い! 眠い! 眠い!
 自分の頬を平手打ちしてみたり、ふとももをつねってみたり、大声を出したりしてみたけれど、とにかく眠かった。無双モードが台無しだ。予定の2.5倍かかっている。エイドでは、バーベキューが振る舞われていて、分厚いハムステーキに生ハム、大きな塊のチーズ、ビールにワインもあった。昼寝してピクニックでもしたい。なんで走っているのかよくわからなかった。

陽気なお兄さんがハムステーキにワインはどうだとすすめてくれる。正直ピクニックがしたい。

 やっと目が覚めたのは、それから数時間後。びっくりするような角度の岩の登りが眠気を吹き飛ばした。日本には「浮石」なんていう言葉があるが、馬鹿でかい浮石でできたジェンガのようだった。こんなの、日本なら確実に破線ルートじゃないか。躓きでもしたら一瞬で谷間へ真っ逆さまな根性試しの急登と足幅ほどのトラバースの先に、コルはあった。

急すぎやしませんか。
コースマーキングもちょこんと挿してあるだけ。
控えめに言って崖。
写真では伝わりにくいが下りもなかなかの斜度だった。4日目の脚でここを下るのは酷だ。

 このあたりから、脚の疲労を感じるようになってきた。2日目のハンガーノックで筋肉を壊してしまった感覚があった。食あたりから回復して以降、内臓トラブルはなくカロリーは取れていたものの、脚全体が重く、膝から上の大きな筋肉がかなり筋肉痛だった。レース中に筋肉痛になったことなどなかった。もっとラクに楽しもうと思っていたのに、という思いにまた苛まれて、息が詰まった。メンタルもまた、巨人達に弄ばれていた。

 山の谷間にある小さなエイドNielには、DONNNASで会った友人が待ってくれていた。まさかもう一度会えると思っていなくて、抱きしめられて、その温もりと共に弱音があふれた。自分が思っている以上に疲れていた。

「大丈夫、エマちゃんは強いよ。強い。必ず間に合うから」

 次のライフベース手前の町で、道に迷った。近くにいたイタリア人選手が通行人に道を聞いてくれて、案内してくれたが、緩やかな上りでもわたしはついていけない。悪気はないはずだけれど、彼の面倒そうな顔と舌打ちがわたしの心をエグる。
 ライフベースの灯りが見えたところで彼に女性が駆け寄ってきてハグをした。わたしのことなど振り返りもせずにふたりでライフベースに走っていってしまった。

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ライター
中島 英摩

ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。特技は走りながら取材すること。

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