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【特別企画】知られざるアウトドアの楽園・台湾 第二の高峰「雪山」に登ってきました<申請準備編>

2017.01.06 Fri

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

 現在の日本のアウトドアカルチャーは、世界でも独自のカルチャーとして進化しています。もはやアニメやコミックと並ぶ「クール・ジャパン」と言ってもいいでしょう。テクノロージーを結集した最新のULギアをはじめ、フェスに代表されるアウトドアファッションや、スタイリングされた魅せるキャンプサイトなどは、新しいアウトドアのカタチとして世界からも注目されています。また、フィールドを見ても春夏秋冬、山から海、フェスからバックカントリーと亜高山帯から亜熱帯まで、縦横硬軟取り混ぜて、これほどまでに多様性に満ちたアウトドアが楽しめる国はほかにはありません。
 ところが、そんなアウトドアカルチャーの最先端にいる私たちは、気づいてしまったのです。こんな近くにアウトドアの楽園があったことを!
日本でもおなじみのブランドショップは台湾でも数多く見受けられます。台北の渋谷・原宿と言われる西門にもやはりノースがありました
●今注目される台湾のアウトドア 
 アキママでは今「台湾ブーム」が来ています。なぜなのかを説明し始めるとキリがないのですが、はっきり言って台湾には、未開のアウトドアフィールドが無限に広がっていると言っても過言ではありません。
 日本からこんなに近くて、1年を通して温暖な台湾は、登山やキャンプをはじめ、海ではシュノーケリングやカヤックにサーフィン、そのほかにもマウンテンバイクにクライミング、沢登りと日本にはないスケール感を持ったフィールドで、アウトドアスポーツがいつでも楽しめるアウトドアの楽園なのです。
 また、最近では台湾でも日本のアウトドアカルチャーにインスパイアされ、音楽フェスやキャンプイベントなども開催されるようになり、日本のフェスに出演しているアーティストや飲食出店者などが、日本のオフシーズンでもある冬にこぞって台湾にやってきているのです。
今回、私たちの留守人役を引き受けてくれた台湾と日本ののフェスティバルカルチャーの橋渡し役でもあるショップ「サイババエスニーク」。オーナーの土井さんは長野修平さんやグラビティフリーなどを招き、野外イベントを主催するなど精力的に活動している
 そこで私たちアキママ編集部でも、一昨年より台湾に通いはじめ、手始めにまずは山登りをしてみようということになりました。台湾にはなんと3000m峰が144座もあり、富士山より高い山もある登山大国です。(詳しくは、ホーボージュンさんの連載「ASIAN HOBO BACKPACKING」台湾編を!)そうして今回は、集中登山ということで、台湾の山に3隊の登山チームを送り込みました。
 ひとつは、台湾の中で2番目に高い雪山主峰(3886m)を山小屋泊まりでめざすチーム。もうひとつは、台湾にある3000m峰のなかでも、その美しさから帝王之山とも呼ばれ、人気の高い南湖大山(3740m)をテント泊でめざすチーム。そしてもう1チームは、森林鉄道に乗ってお茶で有名な阿里山からミニハイキングで玉山から昇るご来光を拝むというお手軽トレッキングチームです。 
台北市内、駅近くにある清朝時代の台北府城の北門をくぐり、いよいよ出発
 しかし、日本の山と違ってメンドくさいのが、台湾の山に登るためには許可がいるということです。これはオーバーユースから原生自然を守るという自然保護の観点からも、安全登山という点からもとても優れたシステムです。ハイキング程度の低山ならば許可は必要ありませんが、国家公園内にある3000m峰を登るためには、台湾の国家公園管理處のホームページから入園許可を申請しなくてはなりません。ネットを検索してみると、許可申請に関してのベーシックな手続きの手順は、いくらでも出ています。また、「ASIAN HOBO BACKPACKING」の台湾編でも、ホーボージュンさんがこれ以上ないくらいに懇切丁寧に解説しています。しかし、私たちもよく読んでいたつもりでしたが、実際にやってみると、ネットには書かかれていないことがたくさんあったのです。

●メジャールートの申請はミスチルのライブなみ
 なかなか一筋縄ではいかないのが、海外登山です。今ではネットにこれだけ情報が氾濫しているというのに、実際にスタートラインに着くまでが本当にひと苦労でした。エクスペディションでよく言われる「日本を出発できたら、ほぼ半分は成功」というのは、まったくその通りです。
 許可申請のシステムや手順に関しては、実際にアキママでページにしているので、ほぼ理解しているつもりでした。しかも季節は12月、そろそろ雪も降りはじめようという晩秋の高山です。日本の感覚でいえば、夏のハイシーズンに対し、ほぼシーズンも終わりかけのオフシーズン……と思っていたのが甘かったのです。
 国家公園内の山に登るには入園許可が必要です。雪山は雪覇国家公園内に位置する台湾でもっとも人気のある3000m峰で、各ルートには定員が決まっています。雪山の入園許可の上限数は、ルート上にある山小屋の宿泊可能人数で決まってきます。
雪山登山口から見る南湖大山(中央)を含む北一段の山並みは、雰囲気としては日本の南アルプスを彷彿させる
 私たちが当初予定していた行程は、雪山へのノーマルルートで、初日は登山口から登りはじめ、最初の山小屋である七卡(シチカ)山荘を過ぎ、その次の三六九山荘に宿泊、翌日、頂上にアタックして七卡山荘まで下り、3日目に下山をするという予備日も含めた計画でした。このコース設定で申請をするとなると、三六九山荘に宿泊できる上限の数が、その日の入園許可の上限数となります。つまり三六九山荘の収容可能人数は106名ですから106人分の許可しか出ないのです。また、申請は宿泊日のちょうど1ヶ月前から7日前まで申請でき、3日ほどの審査の後、先着順で受理されます。また、注意しなくてはならないのは、申請ができるのは行程上の最終宿泊日から起算して1ヶ月前から。ここもかなり重要で、ちょうど入山日の1ヶ月前だと思ってPCの前に座って入力を始めたものの、いっこうに申請ができず、ようやく、そのことに気づき、翌日に再度申請を行なうことに。
 翌日、再び申請しようとサイトを開いてみると、なんと私たちが予定していたルートは、すでに規定の人数以上の申請がされており、これから申請するにしてもキャンセル待ちになってしまうとのこと。まったく、なんということでしょう。よく見てみれば、ほとんどの申請は、申請開始が始まった午前7時から30秒間の間に提出されているではありませんか。嵐かミスチルのチケットなみの激戦と倍率です。
よく見てみると上位の申請者はみな受付開始の7時からの数秒間に申請が提出されている
 雪山のある雪覇国立公園の申請サイトでは、雪山山脈の各ルートの開放状況と各小屋の各日の宿泊人数と申請数、申請者の情報を見ることができるのですが、このページを事前に見ていればこの激戦も予想できたはずです。しかも山行日は、ちょうど週末の土日にかけて。シーズンオフだと思っていたのは日本の感覚で、台湾の山岳シーズンは、暑くもなく梅雨や台風の影響がない、ちょうど今がベストシーズンで、どの週末も定員でいっぱいです。登ってみてからわかったのですが、台湾では今、登山が若い人たちにとても人気なのです。
 
●申請のカギは余裕を持った計画と台湾人の友だち
 入園許可は提出された申請の内容を審査し、約3日後に合否が出されます。計画書の不備がないか、設定された行程に無理がないか、また外国人の場合は在台湾の留守人員(家族などではなく、救援体制をとることのできる在京本部)の連絡先などを細かく審査された上で許可が下ります。
 ホーボーさんも連載の中で書いていましたが、日本人が個人で申請する場合に問題となるのが、在台湾籍の身元引き受け人の有無です。雪山の場合は、ルートが容易なため、外国人であるならば、あまりここは問われないという話だったので、タカをくくって身元引き受け人を事前に探していなかったのですが、キャンセル待ちとなって審査があるとなると話はちがってきます。申請書の不備があったら審査で弾かれてしまいます。
 台湾に知人のいない私は、慌ててフェイスブックを駆使し、あちこちに連絡を取り、ようやく留守を引き受けてくれるという台湾の方をご紹介いただき、やっとのことで申請を完了することができました。
ようやく申請が受理されたことを伝えるホームページの画面
 とはいえ申請をしたとしても、この日程だとキャンセル待ちの人数も多く、入山許可が下りるのはほぼ絶望的です。そこで、いったんは申請したものの、日程を変更して再申請することに。日程を週末から1日ずらして平日にすれば、申請数も少なく許可も取れそうでした。ところが、ここでまた難題が起こります。この申請を取り消したうえでないと、新たな申請ができないのですが、何かの手違いで申請書の取り消しと変更ができません。翌日、モタモタしている間に、また次から次へと申請が出され、変更するはずの日程もほぼ定員が埋まってしまったのです。
 申請の取り消しができない旨をメールで国家公園管理處に問い合わせると、原因はわからないが、もしキャンセルするならば、今すぐ申請を抹消するので、すぐに再申請しなさいとのこと。こうなったら、いささか強行軍になるものの、初日に七卡山荘に泊まり、翌早朝、ここからアタックをかけ、三六九山荘に荷物をデポして頂上を目ざし、登頂後に三六九山荘に戻って宿泊というかなりの長時間行動を強いられる行程に変更して、再度申請を行なうことにしました。
 もう失敗は許されません。ひとつひとつの手順を確認しながら慎重に入力をすすめ、最後に祈るような気持ちでポチ!
 すると、ようやく受理された旨の返信メールが届きました(ふーっ)。いやはや、まだ許可は出ていませんが、何とか一安心です。ここまでの数日間は本当に長かったです。そうして3日後に、燦然と輝く入園許可証がメールで交付されたのです。
念願の入園許可証。これでようやく登山ができることに安堵する
 ところがこれで終わりではありません。入園許可証が交付されたら次に警察署へ入山許可証の申請をしなくてはなりません。入園許可証が送られてくると同時に、警察への入山許可申請をオンラインで行なうことができるURLが送られてくるので、そこから申請をします。するとすぐに入山許可がメールで返信されるので、入園許可証と、入山許可証、それとメンバー表をそれぞれ2部づつプリントアウトし、登山口でそれらを提出すれば登山が可能となるのです。
 文章で書くと、えらくメンドくさいのですが、一度やってしまえばもう簡単です。次からはバタバタせずに、スムースに申請できるに違いありません。

●出国から現地での準備、そして登山口へ
 台湾へは飛行機でおよそ4時間。毎日、いくつもの航空会社が主要な国内の空港から何便ものフライトを出しています。冬のシーズンであれば航空券代も2〜3万円ほど、LCCを使えばもっと安いチケットもあります。
 東京から出発するのなら、羽田空港から出発するフライトが断然便利です。羽田なら搭乗の約1時間前までにチェックインすればOKなので、時間も節約できます。
 今回の装備は、日本の晩秋の北アルプスに行くことをイメージして準備をしました。山小屋泊とはいえ自炊になるのでシュラフとストーブ、そして炊事用具は必携です。また、熱帯の台湾とはいえ、4000m近い高所のため、冬には降雪もあり気温もマイナスになります。ダウンなどの防寒着に加え、積雪が多くなれば、アイゼンとピッケルの携行が義務付けられ、登山口で装備チェックを受けないと入山できません。今回は念のため、アイゼンとピッケルを携行しました。
 そんなこんなの荷物の総重量はブーツを入れて14、5kgほど、これに旅の着替えやPC、カメラ、バッテリーなどを加えても、余裕で預け入れ荷物の規定重量内に収まりました。
ホテルで明日からの出発に備え、食料や行動食のパッキングをする
 台北の松山空港に降り立った私たちは、地下鉄(MRT)でホテルのある西門まで行き、さっそく、スーパーで明日からの食事や行動食の買い出しをしました。台北にはカルフールやWELLCOME、JASONといったスーパーマーケット(超市)があり、ラーメンやレトルトなど、山で使えそうなインスタント食品がいろいろと売っています。特にオススメなのが種類豊富なインスタントラーメンで、パッケージから味を想像してあれやこれやとメニューを立てるのも楽しみのひとつです。また、SOGOなどのデパ地下には日本製の食品もあるので安心です。
台湾の登山用具店には所狭しとギアが並ぶ。日本でも少し前の登山用具店は、この店のような何かとっておきの掘り出しものに出会う感じがあった
 台湾は登山が盛んな国なので、市内には日本でおなじみのアウトドアブランドの看板を掲げる登山用具店やアウトドアショップが数多くあり、日本から持っていくことのできないガスや燃料をはじめ、たいていのアウトドアグッズは現地で購入することができます。物によっては、日本よりも安い商品もあったり、日本では手に入らない珍しい商品や、メイドイン台湾のドメスティックブランドもあったりと、アウトドアショップ巡りも楽しみの一つでしょう。
台北のバスターミナルから宜蘭行きのバスに乗る。長距離バスの座席にはUSBの端子などもあり、とても快適
 そうして、ようやく準備も整い、私たち4人は台北から長距離バスで入山口の町となる宜蘭まで移動しました。

入山編と続く

 

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。

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