• 山と雪

FOR THE EARTH  海から雪山を見つめ、地域とともに地球で生きる!

2021.12.27 Mon

滝沢守生(タキザー)

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

 北海道ニセコで20年にわたってバックカントリーガイドのパイオニアとして、POWDER COMPANY GUIDESを率いてきたプロスノーボーダーの高久智基さん。「自然を楽しむことの本質を伝えたい!」という思いは、雪山だけにとどまらず、川や海でのSUPツアーを専門に行なうSUP nisekoを立ち上げ、季節を問わず、海、山、川を縦横無尽に楽しんでいる。そんな高久さんが、海までわずか10秒! 湘南鎌倉にある築100年の古民家にPOWDER COMPANY SHONANを開いたのは2017年のこと。湘南でパウダーと言われても、なかなかピンとこないが、もともと高久さんは湘南の出身だ。

 海から雪山のことを考え、ここから地球のことを考える! そうして、出会うべくして出会ったのが現在、アースデイ東京の事務局長を務める河野竜二さんだ。ふたりは、『For The Earth Project』と題し、ここを拠点に“地球のための”アクションを起こしていくプロジェクトを2021年7月からプレスタートした。店舗の2階を企業のサテライトオフィスやワーケーションスペースとしても利用できる宿泊施設「KOYURUGI STAY」としてオープンし、ビーチクリーンをはじめとした地球環境のことを考えるイベントも開催。この場所を拠点に、人と自然の新たな関係性づくりをめざし、2021〜2022年のウィンターシーズンにあわせて本格始動する。

高久 「いつかは湘南に戻って、何かやりたいという思いはありました。そんなことを考えていた2017年頃、パウダーカンパニーのお客さんとして、よくニセコに来てくれていたサーフライダーファウンデーション・ジャパンの代表理事を務める中川淳さんと湘南で食事をする機会がありました」

 サーファーとバックカントリースノーボーダーとの相性が悪いはずはない。そもそも高久さん自身がサーファーでもあり、ガイドのなかにも、お客さんもサーフィンとスノーボードの両方を楽しんでいる人は多かった。その席で「湘南で何か考えてないの? 」と漠然と聞かれた。海と雪山との出会いはその時だった。

高久 「僕はここで育てられてきたということもあり、将来的にサーフィンを通して、みなさんがニセコにも来てくれるように、サーファーにスノーボードのことを伝えたい。サーフィンとスノーボードを繋いでいくようなことがしたい・・・と言ったら、おもしろい場所があるんだけど見てみない? と紹介されたのがこの物件でした」

七里ヶ浜から小動岬を望む。手前が小さな入江になっていて、奥に見えるのが江ノ島だ。

 鎌倉から江ノ島に向かって国道134号線を江ノ電と並走するように走っていくと、海に面した鎌倉高校前のホームを過ぎ、道は小動岬で腰越駅に向かう江ノ電と分岐する。その道の角にある古い漁師町にありそうな佇まいの建物がPOWDER COMPANY SHONANだ。

高久 「この建物の前は昔からよく通っていました。腰越漁港といったら、今は江ノ島側のコンクリートでつくられた大きな港ですが、昔はこの建物の下、岬の入江が漁港だったので、今もワカメを干したり、船揚げ場があったり。波は立たないけど、話を聞いた時から、ここは間違いなく一等地だって思っていました」

当時の漁師町の面影を感じさせる民家が、「POWDER COMPANY SHONAN」だ。看板がなければ、それとは気づかないかもしれない。

 築100年は越えるというこの民家は、魚屋だった建物で、下の港から水揚げされた魚をここで売っていた。その後、何度か人手に渡ったが、かろうじて取り壊されることなく、運よく高久さんが借りることになった。そして、2017年7月に「POWDER COMPANY SHONAN」としてオープンした。

高久 「ニセコに来るお客さんのほぼ半分は東京の方です。最初思っていたのは、そんな人たちがニセコに来られなくても、ここで僕たちに会いに来てくれたり、宿泊して交歓できたりするクラブハウスのようなものができたらいいなと思っていたんですよ。でも実際にここで住みながら、オープンに向けて準備をしていると、人の流れがよく見えてくる。当時はオリンピック前で、インバウンドの外国人が、湘南や鎌倉にたくさんやってきた。アニメのスラムダンクの影響もあって、鎌倉高校前の踏切が大勢の外国人で大変なことに・・・。オープンしてみると、そういうお客さんが毎日たくさん泊まってくれて、やりがいもあったんですけど、アニメがきっかけのお客さんたちはサーフィンやSUPといった海のアクティビティに興味がありませんでした。海と雪山をつなぐことに力を入れたかったんですけど、上手くいかなくて・・・」

 そんな矢先、2018年に湘南地方に大きな爪痕を残した台風24号によって、屋根がほぼ全壊するほどの被害を受け、営業休止に追い込まれる。そして、ようやく修繕できたのが19年の秋。そうして、さまざまな準備をしてきて、春に集客を始めて、さあこれから! というところ、20年からのコロナ禍に見舞われる。

『地域即地球』

 ちょうどその前後に出会ったのが、現在、アースデイ東京の事務局長でもあり、地元の湘南藤沢エリアを中心に、地域の魅力や活力を引き出すような活動を続けてきた河野竜二さんだった。河野さんは、新卒で就職した教育業界で10年間勤務したあと、都心で働き続けることに違和感を感じ、地域のコミュニティや環境に関わることがしたいと、地元でフリーランスとして活動していた。

河野 「ちょうど震災の翌年にサラリーマン生活をやめました。震災によって劇的に世界が変わっていく体験をして、自分自身がもっとリアルに、自分が好きだと思えることをして、後悔のない人生を送りたいと。当時は東京に勤務しながら、まったく海や自然のフィールドとは、関係のない暮らしや仕事をしていたわけですが、自然とともに生きている人に、とても憧れがありました。もともと、僕は横浜で生まれて15年くらい前に湘南に越してきた。それからサーフィンを始めました。やっぱりサーフィンをやっていると、ローカルの友達ができたり、地域と繋がっていく。そうしたところから、自然の偉大さやありがたみを教えてもらえるんです」

 サーフィンを通して自然を体感することの喜びを強く感じていた河野さんは、フリーランスとなってから、ビーチクリーンをはじめ、海や自然環境を守るような活動にも携わってきた。そんなとき、イベントが開催できるスペースとして地元の方からPOWDER COMPANY SHONANを紹介してもらう。ちょうど高久さんも、ここをベースにしてイベントやアクテビティにも力を入れようとしている時だった。

国道134号線、小動の交差点に面し、義経の腰越状でも有名な萬福寺の近く。

高久 「海の近くに来たとしても、僕たちがここで訴求できる一番のものは、やっぱり雪山であり、スノーボードなんです。もちろん、ここのポテンシャルは、やはり海であり、サーフィンなんだけど、いきなり他所から来て、サーフィンだなんだと言って始めても、まわりの人間はどこのどいつだよ? って思いますよね。自分がもし逆の立場だったらニセコでもそう思いますし、自分にとってオンリーワンのものって、雪山とガイディングだったんですよ」

店舗の前、小動岬周辺には美しい海が広がり、波も穏やかで、SUPが初めてという人でも安心して楽しむことができる。(Photo by Hideyuki Kon)

 そうして、高久さんは、ここをベースにSUPのガイドツアーや「海と雪山をつなぐ」というテーマと向き合い、イベントなどにも力を入れるようになる。四方を海に囲まれた急峻な山岳地形を有する日本のアウトドアフィールドを考えるときにいちばん大切なのは、海と山の関係性だ。世界一とも言われるニセコのパウダーも、冬の日本海からの北西風がもたらす恩恵にほかならない。

高久 「海のことから、山のことまで両軸でフィールドを広げてやるっていうのはとても難しいことなんです。サーフィンやスキー・スノボードというのは、いい意味でも悪い意味でも、その場所やエリアに限定されたルールや地形、気象条件などをちゃんと理解しないとできない非常にローカライズされたものなんです。でも、ニセコのことだけを考えて、ニセコだけにいい雪が降ればいい、サーフィンでも自分だけがいい波に乗れればいい、と思ってやっていたらダメだと思います」

 いっぽう、河野さんもここでイベントを開催したりしているうちに、この場所をもっと多くの人に知ってもらいたい! この場所から、海のこと、山のこと、地球のことを考えて、自然を体験してもらいたい!という思いが募り、ふたりの縁をつなぐ。

河野 「東京でのサラリーマン勤めを辞めて戻ってきたときから僕も、湘南で何かをやっていきたい、環境のことや自然に関わることがしたいと思っていました。そうして、アースデイ東京に関わるようになり、イベントなどに集まってくる人たちと、環境についての話などをよくするようになったのですが、そういう人の中には、山や海など、リアルな自然から離れている人もいたりします。もっとそういう人たちに自然を体験してもらう場所であったり、なんかそういうリアルの機会をつくったりするようなことをやりたいと思っていました」

 自然体験の機会は、なにもアウトドア・アクティビティだけではない。河野さんが湘南のコミュニティを活かして、鎌倉の農家と鎌倉野菜の文化を継承し、地域でサポートする新しい農業の仕組み「ニュー農マル」を立ち上げたのもこのころだった。

高久 「河野くんのバッググラウンドを知って、いっしょにやるようになって、なにか可能性のようなものを感じました。環境のことや地球のことなど、スノーボードやサーフィンが好きなだけでは伝わらないことがありますし、逆に環境のことだけをやっているだけではわからないことがあると思うんです。ぼくたちのやっていることは、どうしても自然環境に依存しています。ふたりでいっしょにやることで、パウダーカンパニーのお客さんにとってもいいことだと思いました」

河野 「高久さんと出会って、ここでイベントなどをやるようになって、自分自身がこの最高のロケーションに惚れ込んでしまいました。これは間違いないという実感が自分の中にはあったので、絶対にこの場所を自分自身の活動のひとつとして、多くの人に知ってもらいたいと思いました。そこで、まずはここで仕事ができる環境を整えました」

部屋からは海が望め、そよぐ潮風がとても心地よい。部屋には大型のスクリーンやホワイトボードも設置され、WIFIも完備。こんな環境でMTGができたら、いい企画も生まれるに違いない。

高久 「毎日、ここで海を見ながら仕事して、いい波がくれば空いた時間に海に入って、そんな生活が送れたら最高じゃん! みたいな発想だよね」

河野 「本当にその通りです。暮らしや仕事などのライフスタイルが、ナチュラルに自然とつながっているようなイメージ。こういうことは僕だけではなく、いろんな人に体感してもらいたいし、こんなライフスタイルを求めている人は、結構いると思います」

高久 「今までのニセコのパウダーカンパニーのお客さんが、ここ湘南に来てくれるのもうれしいけれども、本当にまったくアウトドアを知らないような人に、こんな場所があるということを知って欲しい。環境問題のことを真面目に考えていても、そういう人はフィールド感がちょっと欠けている。それとまた逆な話で、アウトドアに出て、フィールドを知っている人間には、環境のこと、地球のことを知ってもらいたいし、そういう人たちを繋いでいきたい」

 賛否両論あった今回のTOKYOオリンピックでも、サーフィンやスケートボードが初めて正式種目として採用され、日本人の選手が世界に伍して次々と好成績を収めていくのを世間が目の当たりにした。このことがきっかけで、いわゆる横ノリ系スポーツそのものの社会的認知度が上がったのではないかと、高久さんはいう。

高久 「今後はサーフィンや、スノーボードの立ち位置が、ただの遊びからもう少しベースが上がってくる。市民権を得たことで、社会的な責任も出てくるわけです。遊びではあるけれど、しっかりと自然のことや環境のことを考えながらやっていくと、もうちょっと文化の方まで持っていけるんじゃないかなぁと思います」

すぐ下の浜で行なわれたビーチクリーンのイベントにて。身体的感覚を伴う共同作業をすることで、お互いの理解も深まる。

河野 「逆にアースデイやビーチクリーンなどのイベントも、とてもいい活動で、僕も好きなんですけれど、それに参加するだけでは、体感することができないんです。フィールドワークという部分では、やはり実践と場所が掛け合わされることで、価値が出てくると思います。環境を考えるときには、個々の「場所」という感覚が大事なんだと思います。ということで、ここをベースにプラスチックSUPという企画をやりました。実際に浜でビーチクリーンをするだけではなくて、SUP体験とあわせることで、もっとその場所の魅力や環境を知ってもらえる。そしてSUPをしたあとに、ビーチクリーンをして実際にゴミを手にとってみるとショックなんですよね」

「環境」という言葉を使うとき、考えなければならないのは、誰のどの場所のどんな「環境」なのか? という主体が肝心だ。その主体を取り巻く世界を「環境」というならば、ふたりがイメージする環境は、それぞれ違うが、場所や地域に深く関わることで、さまざまな環境問題が見えてくる。サーフィンもスノーボードもまた、その場所やポイントの自然環境や条件、ルールなどを知らなくては、楽しむことはできない。

河野 「やはり、暮らしとか仕事とか、自分のライフスタイルの中に、自然環境がナチュラルに溶け込んでいるような生活、そういう体験をこの場所でしてもらいたいと思っています。このコロナ禍でますます、そういう暮らし方、生き方を模索している人って増えたような気がします」

高久 「僕はこの場所で20歳まで育って、それからはニセコに育ててもらいました。そういう意味でも海と雪山というのが、いつも近くにあったんですけど、湘南とニセコが本当に姉妹都市のようなものになったらいいなと。例えばニセコ観光圏というエリアと、湘南観光圏というような市町村や行政を飛び越えたところで、何かお互いに関係性をもって助け合えたり、ユーザー同士が、それぞれの地域の恩恵を得られたりするようなことになってくると、もっと自分の地域に誇りを持てると思います」

 この場所から、海と雪山をつなぎ、フィールドと人をつなぐFor The Earth Project。地域から地球のことを考え、自然を身近に感じ、自然を深く楽しむ。二人のこれからの活動がますます楽しみになってくる。イベント情報や活動に対する問い合わせなどは、以下For The Earth Project 公式サイトから。

(スノーボード写真すべて:Photo by KAGE / SUP写真:近秀幸

●For The Earth Project 公式サイト

*河野さんは、2022年1月15日から16日まで幕張メッセで行なわれる[TOKYO OUTDOOR SHOW]のエコロジーエリアの統括実行委員として、高久さんは登壇者として、フィールドからの環境変化や地域コミュティからアクションなどについてレポートする予定だ。

滝沢守生(タキザー)

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。

Latest Posts

Pickup Writer

ホーボージュン 全天候型アウトドアライター

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター

森山伸也 アウトドアライター

Muraishi Taro アウトドアライター

森 勝 低山小道具研究家

A-suke BASE CAMP 店長

中島英摩 アウトドアライター

麻生弘毅 ライター

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

宮川 哲 編集者

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

渡辺信吾 アウトドア系野良ライター

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

Keyword

Ranking

Recommended Posts

# キーワードタグ一覧

Akimama公式ソーシャルアカウント