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【T字路s INTERVIEW】メジャーデビューし、新たなフィールドへの一歩を苗場でしるす。
2025.07.11 Fri
菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ
結成15年を迎え、ついにメジャーデビューを果たしたT字路s。昭和歌謡から脈々と受け継がれてきた日本のブルースを奏で熱唱するスタイルは唯一無二のものだ。苗場の空気感はふたりにマッチしている。

–––– 今年5月に結成15年を迎えました。
伊東妙子 最初のライブが2010年の5 月でした。渋谷のライブハウスのHOME。友達からこじんまりとした企画をやるんだけど、出てくれないかっていう依頼があって。前のバンドを解散して、弾き語りをはじめていたら、音が少なくて寂しいと感じてしまって。篠ちゃんに何曲か弾いてって参加してもらったのがはじまりです。
篠田智仁 T字路sっていう名前は3回目のライブくらいからかな。最初はピスタチオスというふざけたユニット名で。ふたりで続けていく気持ちもなかったしね。
伊東妙子 当時、私がリクガメを3匹飼っていて。アーモンド、マカダミア、ピーナッツっていう名前だったんです。それで適当に決めて。
–––– 何かきっかけがあって続けていくことになったのですか。
篠田智仁 在籍していたCOOL WISE MANのメンバーの結婚式でライブすることになったんですよね。多くの音楽仲間の前で演奏したら、みんなが「すごくいいね」「続けてやったほうがいい」って言ってくれて。それでなんとなくやってみようかって話して。
伊東妙子 ドラムがいないスタイルで演奏するっていうのがはじめてだったんですよね。ふたりだったらバーなどの小さなところでもライブができる。どこでもやれる楽しさと、至近距離で聞いてもらえる喜びがあったんです。それとドラムがいなくなったことで、自分の歌がもっと伸びるなって感じて。バンド時代は、ドラムに負けないように張り上げるだけみたいな感じだったんですけど、ふたり編成だといろんな抑揚がつけられるっていうことに気づいて。まだまだ自分の伸び代があるかもしれないって感じました。
–––– ふたりの演奏はブルースにもたとえられています。
伊東妙子 結成当時も今も、ブルースをやっているっていう意識はなくて。スタイルと私の歌い方でそう受け取ってくださる方が多のかもしれないですね。
篠田智仁 アメリカの黒人音楽はブルーズって言われるじゃないですか。僕らはその黒人音楽のブルーズではなく、昭和歌謡などに脈々と流れている日本のブルースかなって思っているんです。それがふたりで演奏することで自然と出てきたんですね。
伊東妙子 ブルーズを日本語に訳すとしたら「演歌」だと思うんです。ブルーズにしても、レゲエにしてもスカにしても、日々の生活の泣き笑いから生まれてきたっていうか。それとはちょっと違っていて、T字路sは大衆文化としてのブルースっていうか。
篠田智仁 みなさんにブルースだって言ってもらえるのはうれしいことなんです。3コード12小節っていうブルーズの基本的な構造ではやったことがないんだけど、歌でブルースを感じていただいているっていうことだから。
–––– フジロックのことをお聞きします。最初に出演したのは?
伊東妙子 2011年の苗場食堂でした。
篠田智仁 その体験は本当にすごかったんですよ。ちょうどグリーンのヘッドライナーが終わった時間のライブでした。最初はまだグリーンではフェイセスのライブが続いていて、チラホラ人がいるなっていう感じだったんですけど、フェイセスのライブが終わってから人がグワっと流れてきて。
伊東妙子 どんどん人が増えてきて、地鳴りみたいになって。
篠田智仁 ものすごい盛り上がりになって、T字路sとしてのはじめての手応えを感じて。あのライブがあったから、今に繋がっているのかもしれない。俺たちにとっての大きなターニングポイントになっています。
伊東妙子 広く受け入れられる音楽ではないって思っていたんですね。自分たちを知らない人たちが、自分たちの音楽を「良い」って感じてくれる音楽だとは思っていなかったから。私たちの音楽に反応してくれたことがすごく嬉しくて、その夜は大興奮して一睡もできなかったことを覚えています。

–––– その後も2年に1回くらいのペースで出演なさっています。
伊東妙子 アバロン、カフェドパリ、パレス、ヘブン。前夜祭でもライブをしています。
篠田智仁 2017年の前夜祭のライブも、苗場食堂と同じくらいのターニングポイントになりました。
伊東妙子 あの前夜祭が今までの15年の活動のなかで、一番のライブだと思っているんです。
篠田智仁 妙ちゃんに、何かが降りてきたようなんです。
伊東妙子 ナウシカになった気分っていうか、青き衣をまとって金色の野に降り立ったような感じになって。何千人かの上で踊っているような気分になったんですね。本当に何かが降りてきた。あれが何だったのか、今でもわかりません。
–––– そんな感覚になるときがあるんですね。
伊東妙子 現実にあったんです。なんか、ふわ〜っていう感じ。いつ降りてくるかわからない。あれと似たような感覚になったことはあるけど、それでも前夜祭の半分くらいかな。
–––– それだけ特別な時間だったのですね。
伊東妙子 ステージに立って、ひと音出した瞬間にゾーンの扉を開けてみたいな感じになりました。
篠田智仁 妙ちゃんはライブで緊張していることが多いのだけど、そのときは自信満々で「自分について来い」みたいな雰囲気がありましたから。
–––– そこにいた多くの人のエネルギーがそうさせたのかもしれないですね。今年のフジロックではどんなライブを思い描いていますか。
伊東妙子 フジロックって不思議な高揚感がありますよね。子どもの頃に遊園地に遊びに行くときに持っていたワクワク感と同じ。そのワクワク感は、フジロックにいる時間はさらに大きくなるっていうか。とにかく気合を入れて、万全のコンディションで臨みたいと思います。
篠田智仁 今年のフジロックでは、T字路sとして今までにやっていなかったアプローチのライブをやろうと思っています。楽しんでください。
T字路s
July 27 (Sun) 11:30-12:10 RED MARQUEE
2010年5月に結成。 伊東妙子、 篠田智仁によるギターヴォーカル、ベースのデュオ。バー、ライブハウス、野外フェスなど、多様な場所でライブを展開してきた。2017年に初のオリジナルアルバム『T字路s』をリリース。インディーズから3枚のオリジナルアルバムと3枚のカバーアルバムを発表。結成15年を迎えた今年4月、メジャーから初となるEPをリリースした。フジロックには2011年に初出演。フィールド・オブ・ヘブンへの出演が発表されていた2017年には前夜祭でのライブでも会場を熱狂の渦に包んだ。
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