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播きっぱなし植えっぱなしでOK! 無精者でも育てられるほったらかし菜園作ろうぜ

2020.05.15 Fri

藤原祥弘

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 コロナを感染さず感染されず、近所で楽しめる外遊びといえば、庭での土いじりで決まりである。「緑豊かな環境」に行けないなら、自分で作ってしまえばいいじゃない。この春楽しむべき外遊びは、出かけずに完結する庭づくりだ。

 わがやではコロナがやってくる前から庭の菜園化を進めていた。お洒落っぽくいえば「エディブルガーデン(=食べられる庭)」である。しかし素人園芸なので、種子を播いても苗を植えても思うようには育たなかった。

「ガーデン」どころか市民農園の野菜クズ捨て場、といった惨状を数年続けて学んだのは「痩せた建設残土に種子を播くだけでは野菜は育たない」「手間ひまをかけて、はじめて野菜は育つ」という至極当たり前な事実だった。ほとんどの野菜は、栄養のバランスの取れた土に植えなければ望むようには育たない。

 しかし、技術を向上させずに種子ばかり播き続けたから学んだこともある。ある種の野菜や果樹は、手入れをせずとも収穫を楽しめる。敷地の土は痩せ、農業技術もなく、しかし収穫は楽しみたい、という調子が良い人は、厳しい条件でも育つものを植えればいいのだ。ほったらかしで育つものなら農薬もいらない。というわけで、今回おすすめするのは、ものぐさ向けの野菜作りである。

とにかくニラを播け!
 キックベースができるほどの庭をもつ人はともかく、都市住まいならせいぜい数畳ぶんの庭があれば御の字。わがやの庭も6畳ほどしかない。限られた敷地を生かして収量を高めるには、生育が早くて何度も収穫できる野菜がいい。

 この条件を満たす夢の野菜がニラである。種から育てると収穫まで1年ほどかかるが、日向でも半日陰でもよく育ち、一度育ってしまえば一年に何度も刈り取れる。数十株も育てれば、週に1、2回料理に使ううちに最初に刈り取った株は再生している。ニラの無限ループである。

 病気にもかかりにくく、害虫もたまにアブラムシがパラっと着く程度なので農薬も必要ない。やる気も向上心もない人は、ひとまずニラの種子を買って庭にばら播こう。それだけで、1年後には浴びるほどニラが食べられる。株は真冬に一度枯れるが翌春には球根から再び芽を伸ばす。条件が合えば2年目以降はこぼれ種子でも殖えていく。

 ニラを播いて収穫したが最後、あなたは家庭菜園の魅力に囚われていろんな野菜の種子を播き、野菜の面倒を見るのが楽しくなってしまうだろう。

グリーンカーテンはナガイモで
 おなじく、省スペースで農薬いらずの作物がナガイモ。こちらは1年に1度しか収穫できないが、つるを縦方向に伸ばすので敷地が狭くても栽培できる。秋に収穫して根塊の上部を埋め戻しておけば、翌年も収穫できる。肥料なしでもよく茂り、ほかのつる植物よりもつるが伸びるのが早い。病気や害虫にも強いのでグリーンカーテンにもぴったりだ。キュウリやゴーヤと比べても、痩せた土でもよく葉を茂らせる。

 秋にはたくさんのムカゴをつけ、このムカゴを播いておけばどんどん株が殖える。写真は市販の苗3株から殖やした(というか殖えちゃった)ナガイモ。毎年少しずつ種芋とムカゴで株を殖やしていけば、数年後にはうんざりするほど芋掘りを楽しめる。細長く成長する品種は掘るのが大変なので、根塊が丸くなるタイプのほうが家庭菜園では扱いやすい。

1本目の果樹はビワ
 果樹もいろいろ植えてみたが、ほったらかし栽培で圧倒的なパフォーマンスを見せつけたのがビワだった。同じタイミングで植えたモモ、ナシ、ウメなどは、受粉や害虫の防除にとても手間がかかっているが、ビワはほったらかしで問題なし。害虫が来ないから薬いらずで、受粉も虫や鳥がやってくれて、1本だけでも実がよくつく(ナシは2本ないと受粉しない)。労せずして収穫の喜びを味わいたい人が植えるべきはビワである。

極小スペースには薬味系もいいぞ
 少ないスペースで育ちながら、食卓への貢献度が高いのが薬味系野菜。大葉、バジル、ネギなどはそれぞれ数株植えておけば薬味を使うときに必要量を刈り取れる。大葉は3〜4日休ませれば新たに再生するので、秋に枯れ落ちるまで何度も楽しめる。

 バジルはちょっと栄養や衝撃にうるさいけれど、大葉は痩せた土でもそこそこ育ち、雑に水をやっても風に吹かれても傷まない(バジルは水やりの水勢が強いだけでも傷む)。土が痩せていれば2、3株植えれば必要量をまかなえるし、1株を植えるのがやっと、という場合は大葉の根本に培養土を入れるとわさっと茂る。

 ネギは根っこがついてる泥ネギを買ってきて、根元を5cmほど残して植えればぐいぐい再生する。

 放任でもすくすく育つ薬味としてはミョウガも優秀だ。しかし、地下茎でワサワサ増殖し、春から晩秋まで庭で大きな面積を占める割には収量が少ない。日陰でも育つ、というか日陰を好むので、家の北側などほかの野菜が育ちにくいスペースに植えるのがおすすめだ。

レタスはときに裏切るがサンチュは裏切らない
 春先に初心者が葉物を植えるなら、サンチュがいい。結球するタイプのレタスは土が痩せているとうまく育たないこともあるが、サンチュはどうやっても葉を茂らせる。育った葉を数枚かき取って利用すれば、2、3日あとには新しい葉が伸びている。1×1m程度のスペースで育てれば、トウ立ちするまで毎日サラダをボウルいっぱいに楽しめる。初めて植える葉物は断然サンチュがいい。

暖地なら水前寺菜もいいぞ 
 南九州や沖縄でハンダマ、石川では金時草で呼ばれる水前寺菜も手間をかけなくてもよく育つ。苗を手に入れたらぶすっと地面に挿すだけでOK。これも葉をかき取りながら何度でも収穫ができる。株の根本が混んできたら、切り取って別の場所に挿せば根を出して新しい株が育つ。

 東南アジア原産なので霜に当たると枯れ落ちるが、土が凍結しない地域なら春には根株から復活する。東京郊外のわがやの株は、屋久島の道端で野生化していたもの。根株を数本植え付けてから、もう7〜8年、葉っぱを提供し続けている。南九州や南西諸島では、野生化したものをよく見かける。

ウドの大木はいいぞ
 人気の山菜・ウドもよく育つ。というか育ちすぎる。ホームセンターなどで売られている根株を植えると2、3年後には背丈を越すような大きな株になる(冬には一度枯れて、春に芽を出す)。ある程度育った株では、若い芽が伸びるたびにかき取っていくと半月ほど収穫が楽しめる。食べ頃の新芽は、濡らした新聞紙に包んで冷蔵すると3〜4日保つ。新芽は毎日展張するので、数日ぶんをためて一度に調理すると無理がない。

 収穫を遠慮すると途端に大きく育つので、生かさぬよう、殺さぬよう新芽を摘み取ると、株のサイズを程よい大きさに調整できる。ウドは晩秋にたくさんの花をつけるが、その蜜を吸いに来た虫たちを眺めるのも楽しい。

トマトを植えるならミニトマト!
 ミニトマトは痩せた土でもよく育ち、長期間収穫が楽しめる。ミニトマトがOKならトマトもいけるかといえば、そんなことはなくて、土が豊かでないとトマトは味も収量もがくっと落ちる。その点ミニトマトはヒョロヒョロ伸びた株でもたくさん実をつける。脇芽を摘んだり成長点を摘芯すると収量が伸びるようだが、伸びるに任せてその都度支柱を足すだけでも収穫はできる。

便秘気味ならミツバ
 ミツバもどこでもよく育つ。しかし、あっという間に育って硬くなってしまうので、市販されているミツバのように束にしておひたしなどに使うのは意外と難しい。うちでは春先の若いものをバサっと刈り取り、サグカレーの要領でペースト状のカレーにしている。

 すると、なんということでしょう! 晩に食べれば、翌朝には怒涛のお通じが! 食べた以上に出る。ドバドバ出る。胃腸が空っぽになるまで出る。

 ミツバのカレーを作るたびに、一緒に食べた家族全員が怒涛のハップンを見せているので、これはもうミツバのせいとしか思えない。興味がある人はミツバを植えて休日の前夜に試して欲しい。平日の夜はダメだぞ。

 以上が5月上旬からでも植えられるほったらかし菜園の仲間たちである。そろそろ、ホームセンターでも春植えの野菜がなくなり始めるころだ。食べられる庭を作ってみたい人は売り場に急ごう。春植えの苗を買いそびれたら、とにかくニラの種子をばら播こう。ニラは人類を裏切らない。播けばわかるさ!

<おまけ>
 庭の菜園化を進めるうちに、地面に限りがあれば収穫も有限だと学んだ。何を当たり前なことを言っているのだ、と思うだろうか。しかしこの当たり前を実感している人はどれくらいいるだろう。スーパーに行けば、旬ではない野菜も望むだけ購入でき、野菜どころか庭では飼えない豚も牛も手に入る。しかし、それらを買い込むとき、食物を育むのに必要な地面の大きさや費やされたエネルギーを考えることはない。

 買い物は欲望の大きさに合わせて際限なく拡大できるが、庭の野菜は地面の大きさに制限される。自分で菜園を作ってみて、ひとつの野菜が実るまでに必要な地面の大きさ、エネルギー、時間をイメージするようになった。都市生活をしていると気づかないが、食物は有限の世界からやってくる。

 今のところ、美食を追い求めたり、心ゆくまで食べることは悪とはみなされてないけれど、菜園を作るようになってから自分の胃袋に世界を合わせることを疑い始めた。みんなが際限なく欲望を実現したら、世界はあっという間に食い尽くされる。そろそろ、地面の大きさに胃袋や欲望を合わせるタイミングではないだろうか。

 食べ物の作り方についても考えるようになった。収量の最大化を図るのはそれほど難しくない。指南書をいくつか読み、買ってきた堆肥と肥料を本の通りに配合し、市販の苗を植え、農薬をかけながら育てれば、それなりのものがきちんとできる。農薬と化学肥料を使って育てた野菜と、使わなかったものを比べてみると、育ちかたがまるで違う。化学と技術の力に驚く。

 しかし、痩せた土を豊かにすることは、その豊かさを外部から引き寄せることでもある。自分の敷地を堆肥で豊かにすることは、堆肥の生産地の豊かさをぶんどることでもある。痩せた土地では、痩せた土地なりの野菜の作り方をしたほうが無理がない。

 そして、収量の最大化をめざした菜園とほったらかし菜園では、収量と生き物の量が逆転する。薬を使わない菜園のほうが(当たり前だけど)生き物が多い。化学の力で野菜を作ることは、本来そこで育まれたはずの命を野菜と引き換えることでもある。

 わがやの菜園には、毎日アシナガバチがやってきて青虫を狩り、花の時期にはミツバチがやってきて受粉をしてくれる。これらのサービスは、近所に健全な自然があるから受けられるものだ。目先の収量に目が眩んで害虫に農薬をかけてしまったら、これらの益虫のサービスも受けられなくなり、それどころか自分の敷地の外にある豊かさまで損なってしまう。

 自分の菜園に薬をかけても、周囲に自然があれば益虫は供給され続ける。収量だけを伸ばすなら、受粉や除虫を助けてもらいつつ彼らの命を使い捨てるのがいちばん賢いやり方だろう。しかし、その一帯のすべての畑が命の使い捨てを行なったら?……いったい誰が受粉をしてくれるのだろう。

 自分とそのほかの生き物の双方にとって豊かさを最大化する菜園とは何か。その菜園からの自分の正当な取り分はどこまでか。庭を通じて自分の身体と近所の自然をひと続きにできないか。 虫食いのある野菜を摘みつつ、考えている。

そんなわけで日夜ナメクジを割り箸でつまみ取り、近所の原っぱからお招きしたテントウムシをサンチュにばら撒いている。

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