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大都会のウィルダネスで「ヌシ」に挑む

(2013.04.30)

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パンプカ

獲物を手に、嬉し臭い表情のヌシハンター。いつか本当の大自然に出る日まで、ドブ川で研鑽中

パンプカ

仕掛けは竿、リール、糸、針、パンのみ。食パンに針を忍ばせ、ポイントへと流し込む。いわゆる「パンプカ」という釣法だ

大物釣り

「ああ見えてコイって神経質なんだよ」気づかれぬよう、動きを極力抑えつつ、自然に餌を流していく

ナチュラルドリフト

「うっし!」パンくずが消えてから一拍おいて竿をあおると、いきなり竿は弓なりに。

ナマズ釣り

「珍しいね」パンではなかなか釣れないナマズも登場。意外に高い(?)ドブ川のポテンシャル

 現代に残るウィルダネスの多くは、高い、遠い、寒い……といった理由で人を近づけないが、「汚い」という理由で、大都会にありながらもう一度ウィルダネスにかえった場所がある。

 ドブ川だ。

 山であれ川であれ、そこが利用できる場所なら、あらゆる形で人の手が入り続ける。川や山に生きる動物にとって、人によって加え続けられる狩猟圧は大きな脅威だ。ところが、人が近づかないドブ川には手が加わらない。その結果ドブ川は、過酷な水質に耐えられる生物たちの「野生の王国」になった。

 汚染というふるいにかけられ、ひどく単純になった生態系の頂点に君臨するのはコイ。中型になるまではほかの生物に食われることがあるが、大型になればもはや川のなかに敵はなし。サギなどの捕食者の前でも悠々と泳ぎ、流れてくる浮遊物を飽食する。

 そんなドブ川の王者の唯一の天敵が釣り少年。遠く離れた釣り場へ遠征する財力のない彼らにとって、コイこそ挑みえる最強の相手だ。
 自分が獲りえる獲物のうち、最強のものに挑むというその意気やよし。狩猟本能のままに「コイを、ヤる」という少年の釣りに同行した。

 釣りの舞台は、横浜の住宅地から水を集めて東京湾にそそぐ鶴見川。毎年発表される全国の河川水質のランキングで必ずワースト5以内に名を連ねるこの川の水は、まったくの黒色。川岸から深みへと目で追っていくと、水深が10cmほどになったところで川底はもう見えない。夏場には瀬の下の川面は白く泡立ち、川の周囲は石鹸分の脂くさいにおいが立ち込める。

「さすがにここではちょっとね」という少年が向かったのは、比較的水のきれいな上流部。釣りのポイントには、田園地帯からの用水が流れ込み、さらに水が澄んでいる。

 安い磯竿に結ばれた彼の仕掛けは、浮きもおもりも、目印もなし。極太のラインに極太の針を直結しただけの男らしいもの。

「おもりはなし。浮きと目印と餌はこれ」そういいながら彼が取り出したのは食パン。これに針を埋め込み、浮かせながら流すとコイが食いつくのだという。寄せ餌として細かくちぎったパンを流し、針をつけたパンをその中に紛れさせる。

 プカプカと流れていくパンが波間に見えなくなったその瞬間、少年が大きく竿をあおった。それと同時に竿が弓なりにたわみ、リールのドラグはギリギリと鳴りだした。数分の格闘の後、上がってきたのは丸々とした金色のコイ。

「くっせー! うれしー! でも、まだまだ小さいね」といいながら少年はそのコイを惜しげもなくリリース。このあとも何匹か釣り上げたが、この日「ヌシ」クラスは釣れなかった。「ま、簡単に釣れないのがいいんだよ」と少年。

 このポイントでヌシが狙えるのは、水がぬるんで魚が活発になり、水もある程度澄んでいる今の時期だけ。水温があがり、微生物が繁殖するとこのポイントの水も濁り、人の手の及ばない「ウィルダネス」へとかえっていく。

(文=藤原祥弘)

 
 
ライター
藤原祥弘

野生食材の採集と活用、生活技術につながる野外活動などを中心に執筆とワークショップを展開。twitterアカウントは@_fomalhaut

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