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【OutdoorResearch③ 使いこなす人たち】スノーボーダー・西田洋介さん/ヘリウムビビィ〜最高の一瞬を逃さないための装備

2021.01.29 Fri

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林 拓郎

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

 これまでお話してきたようにOutdoorResearch(アウトドアリサーチ 以下OR)は製品に明快なコンセプトを与え、そこに求められる機能性をむだなく実現することを信条としてきました。だからこそ製品には揺るぎのない信頼性やどっしりとした安心感がともなっているのです。

【OutdoorResearch①】アウトドアでの実践をもとに、ロジカルな思考で問題を解決していく“OR”

>【OutdoorResearch②】フィールドに必要な機能を見極め、熱意とテクノロジーを全力で投入する

 ORはコンセプチュアルなブランドだからこそ、その製品をどんな状況でどんなふうに使うのか、が大事になってきます。そこで今回と次回は、ORの製品を使いこなしているユーザーのお話を聞いてみたいと思います。どんな人が、どんな製品を、どういった想いで選び取っているのか。それを知ることはORが製品に込めたマインドが、いかにユーザーに真っ直ぐに伝わっているかを確かめることにつながるでしょう。

 
 西田洋介(にしだようすけ)さんはプロスノーボーダーであり、TJ BRAND(ティージェーブランド)という国内スノーボードカンパニーの創業者でもあります。西田さんのホームマウンテンは群馬県の谷川岳。この山に惹かれてから30年以上、谷川岳のさまざまな斜面を滑ってきました。降雪量が多く、斜度も天候もきびしい。生半可な気持ちでは滑り切ることができない山ですが、ここは本格的な山岳スノーボーディングと、そこに手応えを求める多くの滑り手たちをひきつけてきました。西田さんは谷川岳のスノーカルチャーを牽引してきたひとりです。

 その西田さんが愛用しているのが、ORのHelium Bivy(ヘリウム ビビィ)です。


Helium Bivy/本体はPertex® Shieldを2.5レイヤーで使用して高い防水性と通気性を確保。さらにリップストップ加工を施すことで引き裂き強度も向上させている。こうした工夫によって旧モデルと比較しても14%という軽量化を実現。ポール込みで445gという軽さが大きな魅力。価格:33,000円(税込)

 ビビィとは寝袋サイズのテントのようなもの。防水性をもたせた生地で構成することで、横になるだけのスペースを備えた超ミニマムなシェルターとして活用することができます。

 テントのように中で座れるほどの高さはありませんし、居住性の点からいっても荒天時に長く滞在することはきびしいのが実情です。しかし、なによりも旅を続けることが目的というコアなバックパッカーたちは、テントサイトについても眠るだけ。それなら最小限のスペースさえ確保できれば上等です。

 とはいえ、タープでは虫を防ぐことができないし、なによりもペグを打ってガイラインを張って、という設営に時間を取られたくない。

 そこで軽く、設営が簡単なうえ、虫や雨からも身体を守ってくれるビビィが誕生しました。

 野外での機能性を重視するORが、このフットワークを重視したエッジーな装備を見逃すはずがありません。長くビビィをラインナップさせ、製品をデザインしてきたなかで確立させたのは、小さな接地面積で設営でき、長期にわたる旅でもへこたれないタフさを備えていること。そして荷物として運んでいるときの軽さです。

 この、日本ではあまりなじみのないビビィをバックカントリーを主体とするスノーボーダーが使いこなしている。その状況を伺ってみました。 

滑り続け、旅を続けるからこそ、この装備が必要になる

—— まず、西田さんの現在のポジションを教えていただけますか。

西田:プロスノーボーダーとして30年近く活動してきました。そのなかで1997年にTwelve Snowboards(トゥエルブスノーボード)を設立し、2008年にはサブブランドとしてTJ BRANDを起ち上げました。こうしたブランドは自分たちが求めているスノーボードを創り上げることをコンセプトにしているので、僕自身がすべての製品の開発やテストに関わり続けています。

—— スノーボードブランドの経営者でありながら、開発スタッフのひとりである。プロスノーボーダーとしてのキャリアが、そのまま自社の製品づくりにつながっているわけですね

西田:そのとおりですね。ですから開発や製品のテストなど、滑る機会は多いと思います。同時に製品ができあがっていく過程を記録しています。誰が、どこで、どんなふうに製品を磨き上げてきたのか。それを語ることが、できあがったものの重要な説得力になるからです。

プロスノーボーダーというキャリアがあるからこそ、自分たちで試し、考え、トライし、修正していくことができる。現場のプレイヤーが開発者であるという点は、まさにOutdoorResearchの創業者であるロン・グレッグに重ねることができる。

—— 興味深いのは、ビビィというかなりニッチな製品をとりいれていることなんですが。どういった使い方をしていらっしゃしますか?

西田:おそらく僕の使い方は、本来のそれとは少しちがうと思います。というのが、避難小屋の中で使っているんですよ。

—— 詳しく教えて下さい。

西田:製品の開発のために谷川岳を滑ることはしょっちゅうです。そのなかでも撮影を兼ねてということになると、日の出直後の山頂直下を狙う事が多いんです。理由は光がうつくしいことと、もっとも気温が低い時間帯なので雪質がいいからです。そうなると夜明け前から山頂で待機していたいんですよね。そこで前日の明るいうちに「熊穴(くまあな)」と呼ばれている避難小屋まで行くことがほとんどです。熊穴からなら山頂まで1時間ほどで歩くことができるので、そこで夜を明かして翌朝にアタックするんです。

—— なるほど。

西田:避難小屋は決して広くはありません。そこに開発や撮影のスタッフ6〜7人が入るのでぎゅうぎゅうです。ひとり分のスペースは、ホントにエアマット一枚分しかありません。ビビィはそこで使っています。自立してくれるし、狭い中でも自分の空間をしっかりつくることができる。そのことで気持ちも落ち着くし、ここいちばんの撮影に対しても気持ちや体調を整えて望むことができます。

—— 屋外で使うわけではないんですね?

西田:屋外で使ったこともあります。ただビビィは構造上、体と本体との間が狭いんです。雪が積もると重みで体に触れてしまって冷たさを感じることがあります。厳冬期の野外で使うなら雪が降っていなかったり、風が穏やかだったりと、かなり条件が限られると思います。

熊穴避難小屋でのビビィの使用風景。自分の空間を確保するというシェルター本来の機能を、ビビィというミニマムな装備に求める。ニーズとコンセプトが一致することで、思いもよらなかった使い方が生み出される。

—— 製品自体、そうした冬の環境で使うようにはつくられていない?

西田:そう感じています。雨なら流れていってくれるのでさほど気になりませんし、風が吹いたとしても夏なら問題ないでしょう。実際、夏に波乗りに行ったときには、よくビビィで寝ています。サッと組み立てて体を伸ばすことができるし、持ち運びもコンパクトだし。家族で旅行に行ったときも、妻や子どもはクルマの中で休んで、僕はビビィを広げてることは多いですね。そうやって一年中使っているからこそ思うんですが、冬は静穏な空間で使ったほうがビビィのよさを感じやすいと思っています。

—— その静穏な空間というのが、避難小屋の中だった?

西田:そうなんです。大げさにならず、接地面積が小さく、最小限だけどじゅうぶんな空間を確保することができる。いってみれば集団生活の中で自分の部屋をつくることができる。こういう使い方があることも、もっとたくさんの人に知ってほしいと思っています。

地元愛の象徴としてのOutdoorResearch

—— 西田さんが最初にORに触れたのはいつごろでしょう?

西田:おそらく1990年代の初頭だと思います。ですからおおよそ30年前ですね。そのころ僕はプロスノーボーダーとしてハーフパイプのコンテストに出場してたんです。ホームマウンテンは谷川岳の天神平スキー場でした。というのも当時の天神平スキー場にはハーフパイプがあって、ワールドカップのような大きな大会も開催されてたんですよ。ですからそこには世界中の有名なプロスノーボーダーがやってきていて、ある意味では世界の最先端を知ることができる場所だったんです。90年代初めの日本のスノーボードは黎明期で、アメリカのスノーボード雑誌や毎年発売されるスノーボードビデオが最新情報でした。そうしたメディアに登場しているプロスノーボーダーを間近に見ることで、スノーボードのカルチャーに触れていったんです。

—— 日本にスノーボードが上陸して間もないころですから、まだ国内にはスノーボードのカルチャーは根付いてないわけですね。

西田:そのとおりです。ですから目にするものすべてを貪欲に吸収していました。そうしたなかに雑誌やビデオでも有名な若手でイケイケのライダーがいたんです。その彼が、ちょっと見たことがないようなオーバーミトンをして滑ってるんですよ。それがORのオーバーミトンでした。

—— それって誰だったんですか?

西田:マイク・ランケット(Mike Ranquet)です。マイクはワシントン州の出身で、マウント・ベイカーっていう山で滑ってるっていうんですよ。マウント・ベイカーは斜度もあって、なによりも雪が多い。そういうところで滑ってると、とにかくスプレーを浴びまくるわけです。それに斜度のあるところでターンすると雪面に手が触れて雪煙を上げたりしますしね。そのころ、ふつうのスノーボーダーが使っていたような5本指の手袋だと冷えるし、カフが短いと雪が入ってきたりして役に立たないんです。だからオーバーミトンで冷えないようにして、カフの長い、いかにもアルパインなグローブをしてたんですよ。つまりオーバーミトンをしてるイコール、本格的な山で滑ってるヤツ、だったわけです。

—— ある種のアイコンだったわけですね。

西田:そうなんです。で、そうしたオーバーミトンのなかでいちばんあたたかくて動きやすくて防水性がしっかりしてるOutdoorResearchを使ってるんだって聞いたのが最初ですね。しかもそのマウント・ベイカーを滑る連中らはみんな、地元をものすごく愛していて、地元のブランドを大切にしてる。だから同じワシントン州のシアトルにあるORが大好きなんだっていうんですよ。

自分のルーツはここにあると語る西田さん。いい雪といい山、そしていい仲間たち。それらに囲まれた瞬間は幸せであると同時に、どっしりとした充足感に満ちている。

—— 当時のスノーボーダーはみんなそういう考え方だったんでしょうか?

西田:アメリカの北西海岸の連中は特にそうだったんだと思います。マウント・ベイカーを滑ってるスノーボーダーたちの精神的なリーダーとも言えるクレイグ・ケリー(Craig Kelly 1966〜2003)っていう人がいたんですが。マイクに、ローカルなブランドを応援することを教えたのもクレイグだったんですよ。当時のクレイグは出場する大会でたいてい表彰台に乗るような実力者なんですけど、コンテストで天神平に来てもハーフパイプの練習なんかロクにしないで、どっか滑りに行っちゃうんですよ。どこ行ってるんだと思ったら、山を滑ってる。そのころの僕らはスノーボードっていうのはジャンプしてスピンするものだと思ってたんですけど、クレイグは自然のままの山を滑ってるんですよ。で、だんだん話してるうちに仲よくなって、スノーボードの芯の部分はフリーライドにあるんだ、ってことを学ばせてもらって。その後、クレイグは何年も天神平に滑りに来てたんですよ。で、来るたびに雪崩のことやレスキューのことや、ブランドを応援するっていうことや、自分のホームマウンテンを大事にするっていうことを教えてもらったんですよね。それまで僕は天神平スキー場のハーフパイプに来てたんですけど、クレイグに出会ってからは天神平スキー場の周りの斜面にも目が向くようになって、やがて谷川岳っていう山をトータルで見るようになりました。

—— 歴史の黎明期の話ですね

西田:東京からこんなに近いところに、世界のトップライダーが足げく通うようないい雪と、いい斜面がある。そこに目を向けて、そこを大事にしてるうちに30年が経っていまにいたっているんです。ですから僕にとってOutdoorResearchというブランド名は、なにを大事にするべきなのかっていうことを知ったあのころのフレッシュな気持ちを蘇らせてくれるキーワードみたいなところがあって、なにかしらORの製品は身の回りにおいておきたいんですよね。

■Mt Baker Modular Mitts/ORにとってマウント・ベイカーは身近にある本格的な雪山。その名は1990年代から綿々と引き継がれている。2021年秋には山の名を冠したスキーウェアとともにインナーグローブ付きのミトンが登場。本格的な雪山での使用を見据えて、アウターには3レイヤーでGORE-TEX®を使って防水性と防風性を確保。さらに表地は70デニールとすることで頑強さも与えられている。脱着可能なライナーは濡れに強いPrimaLoftを使用しており、極寒時や荒天時の活動を確実にサポートする。

西田洋介★にしだようすけ 1970年東京都出身。20代からプロスノーボーダーとして活動を開始。そのアグレッシブな行動力と面倒見のいい性格で、多くの若手から慕われる。現在はTwelve Snowboards、TJ Brand、AFD ICEGEARなどをプロデュース。10年前からはSunrise Shred Serviceを起ち上げてハンドメイドスノーボードの製造にも着手。現在はTwelveやTJのサンプルボードは自分たちで創り上げるまでになった。また2020年には第10回を迎えた「TENJIN Banked Slalom」のオーガナイザーでもある。

(構成・文=林 拓郎 写真=神森正義、YoshiJosefToomuch)



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