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Freedom is Beautiful! 廃刊に追い込まれた香港「リンゴ日報」がフジロックを通して伝えたかったこと

2021.07.02 Fri

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

 自由と民主主義を愛し、香港だけでなく多くの人に支持された新聞「蘋果日報」Apple Daily(アップルデイリー)が、当局の圧力により、6月24日、最後の朝刊の発行をもって廃刊、オンライン版もあわせて配信を停止した。日本では「リンゴ日報」とも呼ばれ、香港の今をリアルに知ることができる貴重なインディペンデント系メディアであった。

雨の中の悲しい別れ……。私たち香港人はリンゴを支持します。廃刊号の一面の見出しも最後の抵抗か

 昨年6月末に施行された「国家安全維持法(国安法)」により、香港当局から反体制的な言論や民主派を支持する内容が違法であるとされ、幹部の逮捕や関連企業の資産凍結といった強行措置により、報道、言論の自由が奪われたことは、もっとも危険で深刻な事態として世界中の注目を集めている。これは対岸の火事ではなく、私たちメディアの危機でもあり、ジャーナリズムに対する暴政といってもよい。

 廃刊ともなった最後の朝刊の1面には、多くの香港市民から寄せられた「リンゴを支持する」とのメッセージが写真とともに大きく掲載された。同じニュースメディアの端くれとして、アキママも「リンゴ日報」を応援している。

 そんななか、アキママ編集部では「蘋果日報」(オンライン版)」が、昨年配信したフジロックのレポートを入手。あらためて見てみると、ていねいな取材編集から垣間見えるのは、日本のアウトドア文化に対するリスペクトやフジロックフェスティバルへの憧憬や賞賛だけでなく、「露営文化」と題し、本当の自由とは何かをアウトドアカルチャーの本質から問いかけているのではないだろうか。

よろず相談所で、Apple Daily(アップルデイリー)のインタビューに答えるチャムスのサイモンさん。英語、広東語、北京語、そして日本語の4ヶ国語が話せるサイモンさんのおかげで、いままでどれだけの外国人が救われたことだろう

 誰が決めたわけでもなく、監視する人間がいるわけでもないのに、フジロックでは日本人をはじめ、国籍も性別も趣味も多様な人々が、入場待ちやオフィシャルグッズ・ショップ、飲食店、トイレなどの待機列に割り込むこともなく、順番に列をなして整然と並ぶ光景が映し出される。そして、場内では徹底したゴミの分別や資源リサイクルが積極的に行なわれていることをレポート。ストーリーが説明されたゴミ袋が配布されること、ゴミステーションでは、ボランティアをはじめ、協賛企業もお客さんもいっしょにゴミの分別に協力、それぞれが自発的に参加していることなどに来場者の同胞も共感の声をあげる。

晴れた朝にはシャワー待ちの列が伸びるが、青空の下、爽やかな高原の風に吹かれながらのんびり待つのもわるくない

 その姿や光景は、どれも美しいとニュースの中では伝えている。教条主義的な道徳ではなく、そこには、自分たちが決めた価値観や美徳に基づく、意思と行動がある。自由は自らの手で作りあげるものであり、多様な価値観が集う混沌としたロックフェスティバルだからこそ、互いに尊重しあい、秩序と規律を重んじ、自由を守って楽しむ。厳しい自然環境の中だからこそ、自然を敬い助け合う。それこそが、アウトドアであり、フェスティバルカルチャーの醍醐味なのではないだろうか。

英語、韓国語、中国語。各国のアウトドアのプロたちがサポートをするキャンプよろず相談所は、まさに多様性豊かな個性の集まり。SDGsなんて当たり前

 また、年々増えている大陸からの中国人をはじめ、外国からの来場者を迎えているキャンプサイトでは、キャンプに不慣れなビギナーのための相談窓口「キャンプよろず相談所」を設置。英語はもちろんのこと、広東語から北京語、韓国語とさまざまな外国語に対応できるスタッフを配置して、国籍を問わずキャンパーのサポートにあたっていることなどを、長年いっしょによろず相談所を支えているチャムスのサイモンが答える。そして、苗場の夏の天候のことや、打ち捨てられていくテントやギアの話など、リンゴ日報の記者は、来年フジロックに来る香港の人たちに向けて、何かアドバイスやメッセージをということで、私もコメントさせていただいた。

香港のみなさん! フジロックで待ってまーす。ここには秩序と規律ある自由があります。

 廃刊に追い込まれた「リンゴ日報」のスタッフの中には、職を追われ、厳しい弾圧からエスケープするものなど、香港では自由を守るための戦いはまだ続いているという。連日のニュースを聞くにつけ、あの記者たちは大丈夫だろうか? 今はどうしているのだろうか? と思いが募る。コロナ禍のなか、フジロックは今年、2年ぶりに開催される。私たちフジロッカーは「リンゴ日報」を応援している。私たちは自由を守るためなら、いつでもいっしょに戦うつもりだ。そもそもカウンターカルチャーを母とするロックとアウトドアは義兄弟のようなもの! 自由は美しい! 自由は正義だ! またフジロックで再び会おう! 再見!

(写真=sumi☆photo)



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本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。

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