• 山と雪

雪が年々減ってきている。いつか雪山登山ができなくなる日が来るかもしれない。静かに迫りくる危機

2020.04.01 Wed

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

「今年は雪が少ない」
 毎年そんなことを言っている気がする。本当に雪が少なくなっているのか? と、ふと疑問に思うこともあっただろう。しかし、今年はいつもと様子が違う……。

 毎年、何かしらの理由で営業ができないスキー場はあるのだろうが、今シーズンは雪不足で営業ができないというスキー場が目に見えて多くなっている気がする。もともと豪雪地帯でない地方や、新潟でも標高の低い場所では、滑れるほどの雪が降らなかったようだ。SNSでは各地から悲痛な叫びが聞こえてきていた。

 そして、雪不足はスキー場だけではなく登山にも深刻な影響を与えている。実際に、雪山に足を運んでいる人は身をもって感じているのではないだろうか。あきらかに雪が少なく、さらに気温上昇から氷瀑は凍らず例年より細い。

馬場島 堰堤雪が多ければ沢沿いを歩いていけるが、少ないと尾根を乗っ越さなければいけない。(photo:Taro Inomata)

 この画像は剱岳の登山口のひとつ、富山県の馬場島から1時間ほど歩いたところにある「取水口」と呼ばれている場所だ。アルパインクライミングのルートである「小窓尾根」や「剱尾根」へ行く途中にあるので、一般的な登山道はない(「山と高原地図」にある取水口とは別)。左が2012年のGWに撮影したもので、右は2016年GWのもの。一目瞭然、雪が少ない。2016年は記録的な暖冬であったために雪が少なかったとも言えるが、画像はないが2019年も同じような状況であった。さらに何十年も前から剱岳に通っている山ヤに聞くと、2012年の状況でも、もっと昔よりは雪が少なくなっているという。

芝倉沢 バックカントリー
雪がさらになくなれば、渡渉箇所が増えるだろう。(photo:Shintaro Higashiyama)

 これは谷川連峰の一ノ倉岳と茂倉岳にある茂倉沢の下部での一枚。撮ったのはつい数日前の2020年3月末である。例年通りだと、茂倉沢を滑降し虹芝寮に着くまでの間で渡渉する箇所はない。しかし、今年は沢が埋まらず渡渉する必要がある。

南沢大滝あたたかくなっていけば、アイスクライミングできる場所が少なくなり、時期も短くなっていく。

 この氷瀑は、八ヶ岳のアイスクライミングゲレンデで人気のある南沢大滝だ。左は2013年12月半ばで右は2020年1月初旬。約1ヶ月の差異があるにもかかわらず、2020年のほうは氷瀑の発達があまい。これも一目で今年はあたたかいことがわかるだろう。

 逆に「災い転じて福となす」ではないが、雪が少ないため、深雪によって今まで入れなかった山奥まで入っていけるようになり、未登であろう氷瀑に登れた。といったいい報告も耳に入ってきている。しかし、そこだって温暖化が進めば登れなくなってしまう可能性は大いにある。

唐沢岳 幕岩 堰堤2020年2月末、北アルプスにある唐沢岳の幕岩をめざす途中にある堰堤なのだが、凍っておらず渡れない。例年ならば凍っているはず。(photo:Toshihide Matsuda)

 と、ここまで読んで、スキーもスノーボードもしないし、雪山も登らないから関係ないと楽観視しているあなた。そんなに無関心ではいられないのではないか。雪が少ないと生活に欠かせない「あるもの」が減少してしまう。

 そう「水」だ。

 雪解け水が少なくなれば、当然、川の水も減る。川の水が少なくなれば、飲み水が減り取水制限がかかったり、稲作に影響が出たりと日常に影響が出てくるだろう。登山でいえば、沢登りで沢の水量が少なくなるかもしれない(良し悪しは別として)。ただ、春以降に雨が多くふれば水量は増えるので、一概に雪不足=水不足とはいえないだろうが。

 スノーアクティビティをしているかどうかに関わらず、この豊かな生活を守るため、温暖化、そして気候変動を、すぐそばにある危機として考えなければいけなくなってきたのではないだろか。

(画像提供=杉並勤労者山岳会の仲間たち 文=河津慶祐)

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

高山縦走からクライミング・沢登り・トレラン・バックカントリーと一年中オールラウンドに山を楽しむ。山道具好きが高じてライター・編集者に。典型的な器用貧乏で、やりたい事が多過ぎ、広く浅くになってしまっているのが悩み……。
Instagram:@k.suke5

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