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場所の感覚を取りもどすために 天狗に会いに行く。アキママ編集部は高尾へ引っ越しました!

2021.12.06 Mon

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

 酔っ払って中央線に乗って、終点の高尾駅まで寝過ごしてしまうことを自虐的に「天狗に会いに行ってきた」と言うのだそうです。寝ぼけ眼で降りた中央線の高尾駅のホームには、いかめしい顔をした大きな天狗の石像がドドーンと鎮座していて、その迫力に眠気がいっぺんに吹き飛びます。

 そんな忘年会シーズンも押し迫る12月1日、私たちアキママ編集部は、渋谷のハチ公に別れを告げて、天狗様のおわす高尾山の麓へと引っ越しました。一昨年から始まったこのコロナ禍は、まさに都市構造の崩壊でもあり、アウトドアカルチャーを発信するメディアとして、大都会の渋谷に編集部を置く意味とリスクについて、さまざまな角度から検討を重ねるいい機会となりました。

霧に霞む渋谷の高層ビル群。渋谷はこの数年で劇的に変化した東京の街のひとつ。いつ終わるとも知れない工事は今も続いている。

 アキママを運営する株式会社ヨンロクニは、アウトドアを舞台に活躍する、フリーランスの編集者やライター、カメラマンなど、アウトドアのプロフェッショナルたちが協働するキャンプよろず相談所を母体とし、渋谷で創業して来年で10年を迎えます。

 このコロナ禍は、人間という生命共同体に等しく試練を与えました。これまで私たちは、都会という物理的な空間から、安穏としてアウトドアやエコロジーを標榜してきましたが、そこは、永続性のある生命の循環が営まれている場所ではなかったのです。

 しかし、ひとたび渋谷の高層ビルから周囲に目を向けてみると、眼下には代々木公園から明治神宮の森が広がり、ビルのすぐ向こうには山々が連なっています。

 今年行なわれた東京オリンピックは、自転車のロードレースから始まりました。どこのオリンピックでも第1競技はロードレースということは決まっています。ロードレースを最初に中継することで、開催される都市と国の景観を世界に見せるわけです。

 国立競技場の開会式から始まったオリンピックは、東京の郊外、武蔵野丘陵地をスタートし、多摩丘陵を抜け、丹沢山塊の北麓を通り、富士山へと向かいました。大都会から亜高山帯の富士山へ。山がこれほどまでに近くにある大都市、東京の特異なランドスケープです。

多種多様な樹木の多い高尾山は、東京の紅葉の名所でもある。

 なかでも高尾山は、東京中心部から西へわずか50キロのところに位置し、古くから信仰の霊山として殺生が禁じられ、人の手によって多様性に満ちた自然が守られてきた場所なのです。ところが、1984年、高尾山にトンネルを掘る計画が発表されます。近隣住民をはじめ、私たちアウトドア業界は、一堂に反対運動を展開。賛否両論は今も続いていますが、皮肉なことに2012年に開通した高尾山トンネルにより、圏央道が関越自動車道と中央自動車道ともつながり、上信越方面にも湘南方面にもアクセスしやすくなり、高尾山I.Cはアウトドアフィールドへのハブとして、その機能を十分に果たしているといえます。しかし、天狗様の祟りはいつ来るのか、今もびくびくしながら、トンネルを利用しています。

新事務所の前には畑が広がり、さながらダーチャを彷彿とさせる。

 この10年の間、都市空間で仕事をしながら、私たちは自然の近くに拠点を移すことができないか、絶えず考え続けてきました。人間が生命共同体の一員でありながら、同時にサスティナブルなアウトドアビジネスの可能性を模索しつつ、自然生態系に責任をもち、自然を再学習しながら、アウトドアビジネスにおける自分たちの位置の再発見につながる場所はどこか。自然と人間の相互依存関係をエコロジーというならば、自分たちは都市空間からまさにアウトドアへと踏み出し、「場所の感覚」を取りもどさなければならないと思っていました。そうして、東京のアウトドアフィールドの拠点ともなった高尾への移転を決意しました。

昭和3年に建てられた中央線高尾駅の駅舎。編集部は高尾駅から徒歩10分ほど。

 SENSE OF PLACE(センスオブプレイス)「場所の感覚」は、まさにアウトドアに必要な重要な感性です。エマーソンやH・Dソローや、ジョン・ミューア、そして、今も私たちの思想的な背景にいるゲイリー・スナイダーと続くアウトドアカルチャーのベースとなった先達たちはみな、自然や「場所」に想像力をかき立てられ行動と創作に結びつけてきました。

近くを流れる南浅川の清流。春には桜が咲き、夏には水遊びもできる。

 私たちアキママ編集部も、自分たちが選択した場所の自然生態系や文化、歴史をつぶさに深く学びながら、東京という稀有な場所に根ざした新しい、働き方と生き方、価値観を模索し、未知なる場所で、未知なる出会いを求め、アウトドアカルチャーの新たな挑戦を展開していきたいと思います。長くなりましたが、引っ越しのお知らせでした。

引越し前の1階の建屋内部は、まだ空きママ……

 これから高尾周辺のフィールドを自分たちの足でくまなく開拓していきます。随時レポートもしていきますのでお楽しみに! おすすめの場所や楽しみ方などがありましら、編集部まで一報を! お近くの方はぜひ、いっしょに遊びましょう。

絶賛引越し中! ガレージのようなMTGスペースにとりあえず椅子と机を置いて、これまでお世話になったイラストレーターの作品を飾ってみた。奥にはスタジオと倉庫が続く。

●移転先新住所


〒193-0834 東京都八王子市東浅川町 313-2
株式会社 ヨンロクニ  Akimama編集部
 
※キャンプよろず相談所もこちら 


滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。

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