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本当にそれ、頼みの綱に? 「着せていたのに……」という事態を避ける ライフジャケットを選ぶには

2023.07.19 Wed

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

「命を左右するギアなのに、ライフジャケットは軽視されている?」と思わせる水難事故が今年の3月と5月に起きた。

 保津川の川下り遊船の転覆では、急流に向かない「膨張式」のライフジャケットを客に着せていた。転覆などしないからこれでいい――だったのか?

 水上峡(利根川上流)のラフティングツアーの死亡事故では、発見時に犠牲者の体からライフジャケットが失われていたという。自然の力に対して、ときにライフジャケットは無力なのか――ならば、無力になる状況を避けられなかったのか? それとも、ライフジャケットが脱げてしまう着用だったのか――着用の甘さをチェックできなかったのか?

そのライフジャケット、命(ライフ)を守れる?

「ライフジャケット」と呼ばれるが、どんな状況・扱いでも命を救うわけではない。「浮力があるだけ」のものから、水難救助のプロが使うものまで種類は幅広い。性能によって大まかに分ければ、「急流で通用するか、しないか」だろう。
カヤックやラフティングなどリバーガイドのライフジャケット。ナイフやロープなど、アクシデントに対応するギアも装着。
 急流で「通用する」ライフジャケットは、カヤックやカヌーで流水を漕ぐ人に愛用されている。まともなラフティングツアー業者なら客にこれを着せる。
「急流で通用する」ライフジャケットは、こういうことに対応する。
 特徴は、激しく波立つ流れのなかでも死なない程度に呼吸を確保できる浮力と構造。きちんと着用すれば脱げるなんて想像できないほど胴体にフィットし、パドルを漕ぐとき、泳ぐときに体の動きを妨げない形状をしている。フィットがいいので保温性もややあり、冷水で低体温症になるまでの時間稼ぎをしてくれる。
急流カヤック愛好家のライフジャケット。腕をまわしやすく泳ぎやすいデザイン。フィットもいい。このタイプのライフジャケットを着て、ラフティングガイドの指示通りの姿勢をとれば、急流での安全性は格段に高まる。
 急流で「通用しない」のは、「救命胴衣」として船舶に積んであるオレンジ色のものや、飛行機でおなじみの「膨張式」をイメージしてもらえればいいだろう。特徴はフィットがゆるめなこと。激流では脱げる可能性があるが、穏やかな水面であれば(そしてきちんと着用していれば)問題ない。

 また、膨張式ライフジャケットのほうは、熱射病対策にもなる。落水の可能性が低く、迅速な救助が望めるまたは水温が高めで、長時間、暑い環境にいるのなら、こちらのほうが快適だ。
こういうライフジャケットでも、急流以外なら役に立つ。

適応範囲の広いライフジャケットの見つけ方

 とはいえ、いろんな状況に対処できるのは「急流で通用する」ライフジャケットだ。どうせ買うならこちらを、となるのは人情だが、問題は「どこで」買うか。現物を試着できるのはカヌー・カヤックの専門店だが、マイナースポーツゆえにそんな店は少ない。

 となるとネット通販。ポイントは、冒険でもこなせるカヌー・カヤック用品のブランドを見つけること。そのブランドのwebサイトに、激流をカヤックで下っている、準備万端なコーディネートでカヤックフィッシングしている、シーカヤックで大海原を航海しているなど、とにかくカッコいい画像があれば有望だ。
クールな画像を掲載しているブランドのライフジャケットは有望。
 また、北米のカヤック・カヌー用品ブランドのライフジャケットであれば、USCG(米国沿岸警備隊)承認が目安になる。承認にはタイプⅠ~Ⅴまであり、タイプⅢがカヤック、カヌー、SUP、セーリングなどのアクティブスポーツ用だ。タイプⅢの膨張式ライフジャケットもあるが、もちろんこれは急流下り向けではない。 
※北米ではタイプⅠ~Ⅴのライフジャケット/LifejacketをPFD(Personal Flotation Device)と表記している。

USCG承認番号とタイプはライフジャケット(PFD)の内側に記してある。

日本にも安全基準を満たす承認品はあるのだが……

 日本にもライフジャケットの安全基準はある。国土交通省型式承認がそれで、適合するライフジャケットには「サクラマーク」が付く。そして、国内では一般的に4種類(タイプ A、D、F、G)が流通している。

 さて、このタイプだが、ライフジャケットの色、反射材とホイッスルの有無、浮力で分類されている。つまり、サクラマークが付いていても、カヌー・カヤックなど川のスポーツや急流で通用するかは不明だ。
 
 日本の遊漁船や渡船、プレジャーボートなどでは、サクラマーク付の着用が義務づけられている。川下り遊船(ラフティングを除く)で、急流で通用しないライフジャケットを着せているのは、こんなところにも理由があるのだろう。国の基準は満たしているのだ。
動きやすくてきちんと浮くライフジャケットを渡せば、子どもはもっと川の友だちになれる。
 昨今では、「水辺の遊びでは子どもにライフジャケットを」という声が聞かれるようになった。しかし、ライフジャケットの選び方や着用・使用についてはまだ言及が少ない。ぜひ、こだわりと審美眼で最適なものを選んでほしい。もし事故があったとき、「着せてはいた」と、免罪符にしかならないライフジャケットでは悲劇であります。

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