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【ROAD TO HURT100 #1】初めての100マイルへの挑戦。チームメイトにそそのかされてエントリーして…

2018.03.26 Mon

otsubell

otsubell コロンビア

女性トレイルランナーの短期連載企画第二弾は、某スポーツアパレルメーカー勤務のotsubellさんの100mileレース挑戦記です。つい数年前まで「ランニングなんてまったく興味ない」とか言ってた女性がいつの間にか100mile(160km)に挑戦するなんて……。果たして無事完走できたのか? 短期集中連載でお届けします!


 Akimamaの読者のみなさんなら、トレイルランニングはご存知だろう。山を走ることを楽しむアクティビティである。
 そのトレイルランニングの世界に、100マイル(mile)というジャンルがあることをご存じだろうか。100マイル、すなわち160㎞である。日本にはまだトレイルランニングの100マイルレースは5つしか存在しないため、走らない人にとっては、あまり馴染みのないカテゴリーだと思う。いや、走る人にとっても、100マイルは少し異次元の存在だ。「いつかは走ってみたいな」と思っているランナーが大多数、自分には無理だと思っていたり、興味ないと思っているランナーもいるだろう。当たり前だが、気軽にエントリーできる距離じゃない。経験と走力を積み上げたランナーでないと、チャレンジしようとする意欲すら生まれない距離、それが100マイルだ。
 そんな100マイルのレース、しかも海外で開催される難易度の高いレースに、運命のいたずらで突如チャレンジすることになった、走力も経験も不足気味のわたし otsubell が、いかにしてこの無理難題を乗り切ろうとしたのか、珍道中をお届けしようと思う。

* * *

 わたしは、もともと運動とは無縁の生活を送っていたのでよくわかる。山の中を160㎞走ると聞いて普通の人がどう思うか。

ランニングも登山も辛いのに、え? 山、走るの?
しかも、160㎞って、それ東京から静岡くらいまで行けるよね?
それって寝ないで走るの??
ていうかそれお金払ってするようなことなの??

 と、いうのが普通の人の反応だと思う。わたしも33年間生きた中で、32年と半年位は同じ意見を持って生きてきたので否定はしない。「私、山を160㎞走るのが趣味なんです♡」なんて言われて浮足立つ男や、憧れを抱く女なんて街中にはそうそういない。だいたい「ちょっと変わってる人」というレッテルを張られるのが常だ。

 そんな、160㎞山の中を走るトレイルランニングのレースに、ひょんなことからチャレンジすることになった女がいる。




わたし、だ。

 8月某日の朝、わたしは1通のメールを受信する。

「HURTおめでとう!」

 そこには、こう書かれていた。

 HURTとは、The Hawaiian Ultra Running Team’s Trail 100-Mile Endurance Runの略で、簡単に言うと1月にハワイで開催される160㎞走るトレイルランニングのレースのことである。

 ハワイといえば 青い空、白い雲。ビーチにビキニギャル、サーフィンするイケメン。おいしいビールに、アイスクリーム、etc... どこをどう切り取ってもそこは地上の楽園である。そんな楽園ハワイに、人はバカンスを楽しみに行くのが普通だ。新婚カップルはワイキキでお揃いのアロハを着て横行闊歩する。

 そんな浮かれた場所からたった5㎞。クルマでわずか10分くらいでたどり着ける場所にあるネイチャーセンターをスタート / ゴールとし、1周20マイル(32km)のコースを5周する、というのが、このHURTというレースだ。聞いただけでも“絶望”の二文字を連想させ、ハワイという楽園から想像できないほど過酷な100マイルレースなのである。

これがHURTのコースマップ

 しかも、このコースマップを見てもらえばわかるように、1周、というのはラウンドではない。スタートのNature Centerから白いルートを通ってparadise parkへ、緑のルートでNuuanuへ、そしてオレンジのルートで再びNature centerへと戻るY字のコース。要するに同じところ登って下って登って下って、を繰り返すコースなのだ。

そしてこちらが160㎞の高低図である。

 まさに“We wouldn’t want it to be easy - 難しいからこそやりがいがある”、“Not for the weak!- 強者たれ!” (意訳:otsubell)そんなレースである。そして、このレースに参加できるのは全世界で125人のみ。出走権は走力も経験も関係なく、抽選で決まる。2018年の当選倍率は4倍ほどだ。

 わたしは、エントリー時点で人生最長走行距離が63㎞ 最長行動時間が13時間。両方とも奥三河という71㎞のレースに出走した時、完走できずにあえなく途中で制限時間を迎えた時の記録である。それにさらに100㎞と、23時間の行動時間がプラスされる。そんな走行距離160㎞、制限時間36時間のレースに、何のめぐりあわせなのか、はたまた神のいたずらなのか。わたしは出走権を獲得してしまったのである。

 出走権獲得を知ったのが、先のメールである。HURTに毎年のように出ている「トモさん」からのメールだった。チームの仲間にそそのかされてエントリーしていたものの、当選倍率が9倍と嘘の触れ込みを信じていたため、「どうせ当たらないだろ」と思っていたわたしは、ハワイで行われたレース出走権抽選会(時差の関係で日本では早朝)の様子に一喜一憂することはまるでなく、スヤスヤと眠りについていた。そんなわたしの眠りを遮るように軽快なメールは届いた。

「HURTおめでとう!」

 眠い目をこすり、メール通知のボックスに踊る文字を見て、悟った。当たってしまったのだ、と。震えた。震えてから少し笑った。そしてそっと携帯を閉じた。(厳密にはiPhoneなので裏返した)…やばい、まじで当たってしまった。

 そう、この時点でわたしのトレイルランニングの経験も走力も中の下くらい。60㎞以上走ったこともないし、日常のランニングはいつまでたっても好きになれないポンコツランナーだった。そもそも「いつかはぜったい100マイラーになるぞ!」という志すら持っておらず、50~70㎞位のレースが楽しく走れれば満足だと思っていた。ていうか50~70㎞位のレースが楽しく走れる時点で、3年前に「ランニング? え、全く興味ないです。辛いし」と鼻くそほじくってた自分に比べたら十分すぎるくらいすごいことだ。

 100マイルを走る準備なんて精神的にも肉体的にも、これっぽっちもできていない。そして、100マイルという距離が異次元過ぎて、これからいったい何を準備したらいいのかさえ皆目見当もつかない。そんなわたしがいったいどうやってこのHURTという数あるアメリカのレースの中でも難易度が高いと言われているレースを乗り切ればいいのだろうか。考えてもわかるわけがないので、とりあえずわたしは、すべての思考回路を止めて目を閉じるのであった。(二度寝)

 困ったわたしは、「トモさん」に相談することにした。

「トモさん」とは、100マイルレースを100本完走することを生涯の目標に掲げているトレイルランナーで、すでに40本以上完走しており、その独特のランニング哲学や精神力の強さに憧れる人も多くいる存在だ。わたしのようなうっかり当選してしまい、ワタワタしているような末端ランナーとは人間レベルそのものが天と地くらい差があるわけだけど、そんなわたしにも優しく接してくれる神のような人だ。そんな「トモさん」にHURTを完走するために何をすればよいのか相談しようと連絡を取ったら、こんなメールが送られてきた。

【HURTレッスン1】
HURTは5周です。
先ずは5という数字を大好きになってください。
5という数字が好きか好きじゃないか、
5という数字を良く理解しているか、していないかではレースの命運を分けます!
何でも5回やってみるのも良いと思います!
例えば皇居5周やサウナに5回入るとか、ジュースを5本買うとか!
何でも5回やってみると5という数字が身体に染みつくので是非やってみてください!

以上。

 もはや、なにからどう突っ込んだらいいのかよくわからないが、とりあえずこれは神の啓示か何かの類なんだと理解することにした。わたしには、神の言葉を信じる以外の選択肢はなかった。この啓示に従い、とにかくHURT完走に向けて5という数字をよく理解する、という哲学的なチャレンジにトライしてみることにした。

 とりあえず携帯の待ちうけを5にしてみた(結果:あまり効果なし)

 週に1回朝赤坂日枝神社の周りをぐるぐる5周する、という練習をはじめた。けっこうアップダウンがあるので、そこそこ精神削られる練習だった。(結果:神社の周りを掃除している社人さんと10回くらいすれ違うので気まずい思いをするが、最終的には仲良くなれる)

 上野毛自然公園の階段と坂を1㎞分狂ったように上ったり下りたり繰りかえし、さらにそれを5ループするという練習も取り入れた。(結果:傍から見ればほんとに気の狂った人に見えたと思う)

 HURTが開催される1月は、日本は真冬だがハワイは常夏で、しかも雨季なので湿度も高い。そんな環境に身体を慣れさせるためにもサウナに行くのが効果的というのも教えてもらったので、週に1回以上銭湯に通い、サウナと水風呂を5往復するようになった。(結果:銭湯に2時間以上いることになり、いろんな銭湯コミュニティに詳しくなった)

 さすがに缶ジュース5回買うのは気が狂っているとおもわれそうなので結局やっていない。

 そして、5を理解する、という哲学的なチャレンジを始めてみて、5回、というのがいかに精神的に辛いものかというのを思い知った。なるほど神の啓示は非常に奥深い。5を深く理解しようとしたら、2と3という数字を驚くほど憎らしく思えたのも人生初めてだ。そして5にこだわった生活をする上で編み出した精神戦略がこちらである

1 フレッシュな気持ちで乗り越える
2 この周回が終わったら絶対完走できる! と言い聞かせる
(残りの周回数のことは考えない)
3 もう後半! もう後半! と言い聞かせる
4 あと1周! あと1周! と言い聞かせる(今走っている周回はカウントしない)
5 ラスト出し切る

 これで5という数字を乗り切るのだ。どうだ。5よ。思い知ったか!

 そして、そんな哲学的チャレンジ以外にも、5とは関係ないがHURTまでに信越五岳110㎞(台風の影響でまさかの50kmに短縮)、斑尾フォレストトレイル50㎞、OMM、伊豆トレイルジャーニー72kmといくつかのレースに出走した。レース以外にも青梅高水山22㎞を3ループしたり、自分なりに練習を積んでいった。ちなみに青梅高水のループはHURTのサーフェスに似ているし、精神的にもキツイのでものすごく効果的な練習だったと思う。

 そして迎えた12月の後半。トモさんから、もうハードな練習やゆっくり長い距離を走るような練習は無意味なので、短時間集中した練習(3-5㎞を追い込んで走る)を3日に1回くらい、あとはとにかくサウナに行くように、と連絡をいただいた。この連絡の直後、わたしは風邪を引いた。しかも、サウナで「サウナ入ってると高温で菌が死ぬから風邪ひかないらしいぜ~」と友達にドヤ顔で豪語していたクリスマスの夜に風邪をひいた。

 そして、その時にサンタからもらった風邪は菌を入れ替えて身体に居座り続け、なんと出発当日まで残り続けた。そのため、わたしは2週間以上走るという行為を全くしないままハワイへ旅立つことになる。身体が休まってよかった部分があるのかないのかよくわからないが、やはり精神的にはすごく不安だった。しかも、12月にちょこちょこ山を歩いたりしていたので、筋肉は少し張っており、風邪を引いたことでマッサージや鍼などにも行けず、あまりちゃんとケアができていなかったのも気がかりだった。

 けれど、もうレースはすぐそこだ。もう、飛び込む以外の選択肢なんてない。

 レースが開催されるのは現地時間で1月13日の6時~1月14日の18時まで。わたしがハワイにたどり着いたのは1月11日の朝である。

 今回の旅の仲間は、同じトレイル鳥羽というチームのバヤさん、バヤさんのペーサーであり、わたしのお兄ちゃん的存在のまさしさん、去年完走して今年はサポートのアンディ、そして私の相棒でありペーサーをしてくれるエマちゃん(Akimamaで「トルデジアン走ってきた」の連載していたライターでもある)の4人。

 ハワイは日本語が比較的通じやすいので旅行しやすいこともあるが、それでもやはり馴染みの土地ではないストレスというのはある。今回この旅の仲間たちがいたことで、わたしはレース以外のことで何も困ったり迷ったりすることなく過ごすことができたのは本当にありがたかった。

 11日は、到着してレンタカーを借り、コースの下見に行った。Manoa Fallsという滝まで1㎞くらいの観光客にも人気のトレッキングコースで、ジュラシックパークの世界のようなジャングルを感じることができるエリアだ。

これがManoa Falls。試走していた日本人ランナーの野間さんペアに出くわした。

 実際にコースを試走する人もいるが、わたしたちはゆっくり歩いて滝まで進んだ。すでにコース上にはレース用のマーキングがされていて、気分も高まると見せかけて、途中スリッピーなところも多く、わたしは転んでしりもちをついて早速どろどろになってしまい、テンションが下がった。

ハワイに到着してまだ3時間くらいでこの有様。

 わたしたちはこの日はゆっくり過ごすことにした。ワイキキビーチを散歩しながらフラダンスを見たり、海に沈む夕日を見ているカップルを冷やかしたりして過ごし、夕飯は日本から参加している他のランナーと合流してみんなで楽しくご飯を食べて就寝した。

 12日、レース前日。スタート地点のNature Centerで選手登録とコース説明会があるため、午後にNature Centerへと向かった。Nature Centerへ着いて、わたしはあることを悟った。ま、まわりにいるのは、エ、エ、エリートランナーだけかもしれない……。

 HURTは出走者が125人と少なく設定され、ほぼボランティアによって運営されていることもあり、とんでもなくアットホームなレースだったと後から思えば感じる。

ここが選手受付である。

 この時のわたしは初めての海外レースで、さらに初めての100マイルなので、とにかく周りの人すべてが自分より圧倒的に早いスーパーエリートランナーにしか見えなかった。女性も男性もスタイルがよくみんな足が長い。日本のレースでは「この人この体型でほんとに走れるのかな?」や「この人はわたしと同じくらいのレベルかな~」と思うような人が何人かはいるが、そんなランナーなんて一人もいなかった。わたしはとんでもないところに来てしまったのかもしれない……、そう思うと自然と顔が引きつった。

サングラスをしているにも関わらず伝わる引きつった笑顔がこちらです。

 選手受付を済ませるとゼッケンと一緒に参加賞がもらえる。参加賞のTシャツは毎年同じデザインで色だけ変わるのだが、わたしは2018年度の青色がまじで死ぬほど似合わなくて、嫌がらせか何かかと思った。

Tシャツはサイズ交換もしてくれる。色は変えてもらえない。

 14時から行われたコース説明はもちろん全部英語だ。

これが説明会会場。

 わたしは一応留学経験があるのだが、もう12年前だしもう語学力はかなり衰えていて半分くらいしか聞き取れなかったが、まぁさして問題はなかったと思う。たぶん。コースはleg1が白、leg2が緑、leg3がオレンジでマーキングされているので、それを追えば絶対に間違えないとのことだった。説明会の前に少しコースを歩いた時も、結構短い間隔できちんとマーキングされているので、よっぽどのおっちょこちょい以外は間違えないだろうな、と思った。後は、コース上で寝てはいけないこと、エイドに30分以上滞在するときはボランティアに声をかけることなどが伝えられた。

 最後に選手が腕に付けるバンドを聖水(その辺の川でくんできた水だと思われる)にくぐらせるという恒例の完走祈願おまじないをしてもらい、コース説明会は終了した。

 説明会終了後、今回エントリーしている日本人ランナーの皆様にお会いした。2018年HURTに出走した日本人ランナーは10人。

 去年HURT3位の藤岡さん(前列左から2番目)をはじめ、日本のレースを上位でゴールするトップランナーが多く、HURTを走りたいという意志と、さらに走れる走力を兼ね揃えた人たちの集まりだった。このレースにうっかり当たってしまったのは完全にわたしと、チームメイトのバヤさんだけだった。

 そしてわたしを一番恐縮させたのは、そんなトップランナーたちに「ブログ読んでますよ~」と言われたことだった。わたしはHURT100に出るにあたり、主に「どうしてこうなった」という気持ちをぶつけたブログを書き始めていた。こんな足の速い方々にあんなふざけたものを読まれていたなんて絶対鼻で笑われてるにちがいない!!! 爆発して死にたい!!! そう思った。

 そんな消えて無くなりたい羞恥心を抱えながらも、公式のカメラマンにマグショットを撮ってもらい、帰路についた。

ゼッケンナンバーは92 チップはついておらず、名前は手書きというアナログ感。

 ホテルに戻り、レースの準備を始めた。コース上に3つあるエイドは、すべてにドロップバッグといって自分の荷物を置いておくことができる。ライト、麦茶、おにぎり、テーピング、予備の行動食などをParadice park とNuuanuのドロップバッグに入れ、Nature Center用のドロップバッグには着替え、靴、周回ごとの行動食を入れた。

ジェルは1時間に2本計算で、70個持参。荷物が死ぬほど重かった。

固形物は日本の心、おにぎりで取る算段だ。

くそ似合わないTシャツを着てうどんをすする夕食。

 明日は、どんな旅になるのだろうか。はたしてわたしは160㎞完走できるのだろうか。どんな楽しさや、トラブルが待ち受けているのだろうか。期待と不安でそわそわと落ち着かないまま夜の8時にはベッドにもぐりこんだ。

つづく

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