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【ミステリーランチを巡る鼎談】デイナ・グリーソンがバッグづくりにこだわり続ける理由

2017.08.10 Thu

4月に世界初となるミステリーランチのオンリーショップが、原宿のキャットストリートにオープンした。モンタナ州ボーズマンでミステリーランチが誕生したのが2000年。使う人とって大切な機能とは何なのかを追い求め、質実剛健さのなかから育まれるバッグたち。ミステリーランチの創業者のデイナ・グリーソンと、デイナの息子でありデザイナーも務めるデイナ3(D3)、A&Fの赤津孝夫がバッグへの思いを語り合う。

●ミステリーランチとA&Fの出会い

—— おふたりの出会いを教えていただけませんか。

赤津孝夫 5年くらい前のことです。デイナさんはバックパックの世界においては有名な人ですから、ご本人のことはもちろん、作られているバッグのこともだいぶ前から知っていました。

デイナ・グリーソン わざわざ、私たちの会社があるボーズマンまで来ていただいたのですから光栄でした。

赤津 ボーズマンに行って、実際にお会いしてから会社としてのお付き合いがスタートしたんです。

デイナ ミステリーランチの前はデイナデザインというブランドを80年代から90年代にやっていたので、日本の赤津さんのこと、赤津さんの会社のA&Fのことも知っていました。私たちがA&Fと一緒にやるなんて、5年前に話があるまで想像もできなかったんですね。ミステリーランチを立ち上げた当初はミリタリーだったり森林消防隊だったり、ミッションがある特殊なバッグつくりに集中していたんです。アウトドアのアイテムは少しだけ。リテイルでのビジネスということにはあまり関心がありませんでした。ボーズマンのファクトリーにある小さなショップに足を運んで買いに来てくれる日本の方が目立ちはじめた頃に、A&Fから連絡をいただいて。赤津さんはミステリー・ランチのものつくりに対する情熱や姿勢をきっちりと受け止めてくれました。私たちはA&Fとの可能性を信じて、一緒にものつくりをしていくことを決めたんです。アウトドアやライフスタイルなどにもシフトしていく。そんな変化のきっかけになってくれたのが赤津さんでありA&Fでした。だからものすごく感謝しています。

赤津 ボーズマンのファクトリーに行ってみたら、ものづくりに対して真摯に向き合っているという雰囲気が伝わってきました。自分たちでつくるという根本を忘れない。アメリカではものをつくるということがどんどん少なくなってきているんだけど、それがミステリーランチには残っている。ちょうどアウトドアにも向かおうっていうタイミングでの出会いでした。ですからタイミングがすごく良かったんですね。

D3 赤津さんがボーズマンに来たとき、彼女と長い旅行から帰ってきたばかりで、その旅行で彼女にプロポーズしたんだ。だからその1週間は本当にいろんなことがあって、自分にとってもとてもエキサイティングだったね。

●アメリカの小さな町からの発信

—— ボーズマンとはどういう場所なのでしょうか。

赤津 イエローストーン国立公園のゲートシティで、デイナさんもそれが気に入って住み始めたくらい、アウトドアが盛んなところです。

デイナ 「いいところだし、ちょっと住んでみようか」というような軽い気持ちで暮らし始めたのが1975年。それから42年も同じ町で暮らすなんて当時は思っていませんでしたね。

赤津 それだけデイナさんはボーズマンを気に入ったということですよ(笑)。私は残念ながら会いに行った一回だけ。

デイナ 生まれたのは東部のボストンで、海の風景に慣れしたんでいたんですけど、ずっと山の魅力に惹かれていて。ボーズマンは5つの山に囲まれていて、アウトドアに最適なところだって一瞬でわかったんですね。いろんな場所を移動するのが好きで動き続けていたんだけど、ボーズマンで集中するようになった。ボーズマンというところは、常にチャレンジを与えてくれるところなんですよ。

赤津 70年代にバックパッキングというスタイルが出てきて、使いたいと思うアイテムを自分でつくるブランドがどんどん生まれた。A&Fが誕生したのも70年代。ですからすごく共通性があると思います。

●バッグづくりの原点に戻る

—— アウトドアの魅力あふれるボーズマンに、ミステリーランチが誕生したのはいつだったのでしょうか。

デイナ それにはロングストーリーがあります(笑)。1995年にデイナデザインを大手企業にに売却しました。売却後もバッグつくりをしていたのですが、その企業では海外で大量にバッグをつくる方針にシフト変更して行ったんです。それが自分のスタンスに合わないと思い、98年に辞めました。私は48歳になっていましたから、もう仕事で悩んだり、あくせくしなくてもいいやと考えたんですね。リタイヤして世界中をスキートリップで巡る。ヘリコプターでバックカントリーに向かって、誰も滑っていないところを降りてくる。そんな生活を3ヶ月くらい続けていたら、スキー自体が楽しくなくなってしまったんです。ヘリスキーもエキサイティングなのだけど、でも朝起きたときに乗り気になれない。何も目的がない。そんな時間が続いて、スキーで遊ぶだけじゃなくて、何か違うことをしなければと思っていたんです。そんなときに19歳だった娘が「シンプルなヒップサックが欲しい」と。機能が欲しいわけでもなく、テクニカルなものでもない。すごくシンプルなヒップサック。それまで自分がつくってきたバッグとは違って、すごく大変だったんだけれど、3日か4日かけてヒップサックをつくり上げたんです。そのつくったバッグを娘に渡したときに、娘が笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。その瞬間に大きなビジネスをやろうと思っていた自分が消えて、自分はバッグをつくることしかできないんだと改めて実感したんですね。バッグをつくることが自分の人生なんだって。

赤津 リタイヤしても、ミシンと生地を持っていた。やはりバッグ作りから離れられない。デイナさんにとって、バッグをつくることが人生のこだわりなんでしょうね。バッグつくりから離れていても、バッグつくりを諦めていなかったということなんですよね。

デイナ 頭だけで考えて何かをするというのとは違っていて、そこには必ず気持ちも必要なんです。だからミステリーランチは、頭だけで考える物つくりではなく、気持ちも入れることを大切にしています。

●バッグをつくられる人が一番の存在

—— 今もアメリカにファクトリーを持ち、自分たちの目の届く範囲でものづくりをすることにこだわっているわけですね。

デイナ 自分でものをつくれないと、本当の意味でものが理解できないし、他の人に伝えることもできない。スーパーバイザーにしても、デザイナーにしても、技術者にしても、教えられるのは実際につくっている人だけ。大きな工場に対して、同じクオリティの同じミステリー・ランチのアイテムをつくるための技術を教えることが大切で、アメリカというよりも、自分の近くにファクトリーが絶対に必要なんです。ものはどう壊れていくのかを理解していないと。そこからしか新しいデザインは生まれない。はじめにデザインありきではなく、バッグの構造を深く理解してからではないとデザインは生きてこないんですよ。

赤津 ボーズマンのファクトリーでつくられたものは、つくった人のサインがバッグのなかに刻まれているんですね。それだけ責任をもたせているということ。

デイナ 新入社員は、もともとバッグをつくっていた人であろうと、ミシンを触ったことがない人であろうと、必ずプロダクションラインに入ってもらって、ミシンを使ってひとつのバッグをつくる研修を課しているんです。2週間から3週間くらい。ミステリー・ランチのなかではバッグをつくれるという人が一番なんですよ。すべての部署、すべての役割は、そこをサポートするためのものでしかないんですね。

赤津 デイナさん自身がクラフトマンなんですよね。ブランドが時代によって変わってきたとしても、バッグにかける思いは変わらない。だから素晴らしいバッグを生み出し続けられる。

デイナ A&Fのリペアの担当者も、ボーズマンに2週間程度滞在して、実際にバッグをつくった。バッグをつくれるということが第一にあるっていうことを、A&Fも理解してくれています。だからアメリカと日本のふたつの会社が同じビジョンを描いていると感じられるんです。

●ミステリーランチのミッション

—— ミステリーランチの特徴を、ご自身ではどう考えていらっしゃいますか。

デイナ 極度の環境下においても、活動をしなければならない人たちの声を聞いて、彼らのミッションに対して解決策を提供すること。バッグというひとつのギアで、なるべく彼らのパフォーマンスを上げられるようにするバッグつくりがミッションです。

赤津 今はライトウェイトの流れがあるじゃないですか。それとはまったく逆ですよね。ミリタリーでも森林消防隊でもアウトドアでも、使う人に即した機能を有している。軍隊も森林消防隊も生死をかけて現場と向き合っている人たちだし、アウトドアも自分のことは自分で守らなければならない。

D3 僕の場合は単純にデザインを書き出すのではなく、誰かを思い描いて、その人のライフスタイルだったりニーズだったりをリサーチしてから、バッグのデザインをスケッチしていくんです。ニーズに対しての解決策を見い出すというコンセプトは、父が持っているものと変わっていないんですね。

デイナ もちろんミステリーランチのバッグを使ったからといって、彼らの仕事が楽になることはないのだけど、ほんの少しでも彼らをサポートできればと思っています。特殊な環境下で使えるものなのだから、それを山で使ったり街で使ったり汎用できるわけですから。特殊な環境下でのニーズやチャレンジをミステリーランチでは解決していければと思っています。

—— 世界初のミステリーランチのショップが原宿にオープンしました。

デイナ この原宿という東京の街で、しかもA&Fが運営する形で自分たちの店が出せるっていうことが、本当に夢のようですよ。

赤津 キャットストリートは、日本の方はもちろん、海外の人も多いところ。ミステリーランチの世界観を、ここから世界に向けて発信できればと思っています。

MYSTERY RANCH TOKYO
渋谷区神宮前6-15-7
営業時間: 11:00~20:00
電話番号: 03-4578-8827
定休日: 不定休

文=菊地崇、写真=須古恵

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