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ラフティング世界大会で大活躍の日本代表。 そのメンバーの多くを輩出した、 大歩危小歩危のラフティングガイドとは!?

(2019.06.29)

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 日本代表がすばらしい結果を残した今年5月のレースラフティング世界選手権(オーストラリア)。男子「R6masters」が総合優勝、女子「ザ・リバーフェイス」が準優勝しました。「R6masters」「ザ・リバーフェイス」ともに総合優勝の前回大会(2017年日本開催)につづく快挙です。ザ・リバーフェイスについては主将の阿部雅代さんが、TBS「情熱大陸」で密着取材されていたのでご記憶の方も多いのでは?

 ところでこの両チーム、メンバーの多くは四国吉野川の峡谷「大歩危小歩危」でラフティングガイドをしていた、またはしている人たち。世界と戦える激流人間を輩出した大歩危小歩危のラフティングガイドとはどんな仕事なのか? 現役のベテランガイドにインタビューしてきました。

■この人に聞いてきました。
宇都宮信昭さん
大歩危小歩危でのラフティングガイド歴はまもなく20年。小さな会社ならではのアットホームな川下りツアーで人気の「ラッキーラフト」を経営。

●大歩危小歩危のラフティングガイドの仕事
——「日本一の激流」ともいわれる大歩危小歩危の商業ラフティングの歴史は30年近くになります。「ラフティングガイド」という呼び名が一般的だとは思いますが、正確には「リバーガイド」ですよね。

宇都宮:吉野川(大歩危小歩危)では、カヤックやSUPでの川下りとキャニオニングのガイドをしている人もいます。「リバーガイド」の一部門が「ラフティングガイド」ですかね。

——ラフティングガイドの仕事をざっと説明してください。

宇都宮:川という大自然をリスペクトして準備を怠らず、お客さんに楽しんでもらう、という仕事です。

——いわゆる「ネイチャーガイド」のような、自然の仕組みや動植物について説明する仕事も含まれますか?

宇都宮:川によってです。たとえば四万十川みたいに穏やかな流れだと、ラフティングガイドにはネイチャー観察系の知識と経験が必要でしょう。吉野川の大歩危小歩危は流れが激しく、アクティブ系のツアーになりますから、より安全にラフティングする能力がガイドには求められます。

小歩危、曲り戸の瀬

——1日の仕事スケジュールはどんな感じですか?

宇都宮:ラフティング会社の規模によってちがいますが、だいたい朝8時から夕方6時ぐらいまでが就業時間です。半日ツアー(午前または午後)だと、川の上で実際にガイドするのが約1時間半で、それ以外は陸上でお客さんにツアーの説明や安全講習をしたり、準備と片付けをします。

——ちなみに宇都宮さんのラッキーラフトの場合は?

宇都宮:川の上の時間は長めです。うちは小さな会社で、リピーターさんを増やすことも大切なので、より楽しんでもらおうとハリキッテます(笑)。

——ツアー運営以外の業務もありますよね。

宇都宮:川のチェックは欠かせないですね。ここ吉野川では、雨で一晩のうちに水位が1mぐらい増えることもある。流されてきた巨木など、危険な障害物を把握しておくことが必要です。

●ラフティングガイドへの道
——どうやってラフティングガイドになるのですか?

宇都宮:このあたりの吉野川の場合ですが、まずラフティング会社に入ります。そして、各会社が定めるラフティングの技術を習得して、なおかつ、各会社が所属する商業ラフティングの協会の基準をクリアする必要があります。ここで注意したいのは、たとえ協会の基準をクリアしても、各会社が求めるスキルを満たさなければガイドはできません。

ラフティングガイドの仕事の一場面。

——ラフティングの技術について、もう少し具体的にいうとどうなりますか?

宇都宮:重いラフトボートを川の流れのなかで操れること。アクシデントに適切に対応すること。川の流れを、水面下のことも含めて熟知して、それを利用したり、危険を察知できることなどでしょうか。それから救急救命についても学ばなければ。

——どんな人が向いていますか?

宇都宮:基本的に体力がいります。人と接するのが好きなことも最低条件。川や自然については、「一般レベルより好き」ぐらいでいいかな。虫が苦手なラフティングガイドもいますから。それから、「時間厳守」など社会的なルールを守る人じゃないとまずい。

大歩危小歩危のラフティングガイドは、仕事がオフでも激流で遊ぶ人が多い。

●吉野川(大歩危小歩危)ラフティングガイドってこんな人
——そういえば、大歩危小歩危のラフティングガイドって、基本的なところは真面目な人が比較的多い気がします、見た目はいかにも自由人でも、チャラそうな雰囲気の人でも。

宇都宮:ここはすごく田舎ですからね。四国の山奥の激流ということで、ふるいにかけられるのでしょう。田舎の不便さを気にしないし、都会的な価値観にしばられない。都会に近い川のガイドだと、ゲームの話とかする人が多かったりします。

——大歩危小歩危では、どんなガイドが多いですか?

宇都宮:冒険家、体育会系な雰囲気の人、チャライ人、季節的にふらふらしてやりたいことを探しながら流れてきた人(笑)でしょうか。基本的に、いろんなことにチャレンジできる性格の人が多い。そして賢い人も。ラフティングガイドをやめても、仕事でもなんでも次にやるべきことをすぐに見つけられる人たちです。

こんな感じでキメてくれましたが、この全員、すごくまじめなナイスガイです。

——アマゾンで樹上生活してたとか、靴を履いているのを見たことがないとか、古民家を自分で修繕して住んでいるとか、面白い人生を送るガイドがけっこういますよね。

宇都宮:大歩危小歩危がオフになると南米やアフリカの激流へカヤックを漕ぎに行ったり、オーストラリアやニュージーランドでラフティングガイドをしていた人もいます。冬はマグロ一本釣り漁師になる人も(笑)。東北のほうで。自分のマグロ漁船を持っているらしい。

——大雨で増水してすごい激流になった大歩危小歩危を、カヤックでうれしそうに下るラフティングガイドを何度も見たことがあります。今となっては、ネットの世界で「無謀だ」などと炎上しそうですが。

増水した吉野川。ラフティングツアーは中止になる水量。

宇都宮:さすがに落ち着いてきたようです。生き方も性格も個性的なガイドたちですが、ベテラン勢はもはや50~40代前後。大歩危小歩危の山里で家庭を築き、子どもたちも大きくなりました。

●地方移住への入り口に
——大歩危小歩危は超過疎高齢化の地域でしたが、商業ラフティングのおかげでガイドやスタッフの移住が進んでいきました。宇都宮さんもそのひとりですよね。

廃屋寸前の山奥の古民家とラフティングガイド。この後、彼は自分で家を大規模リフォームし、沢から生活用水をひき、庭に露天風呂までつくった。

宇都宮:田舎暮らしの入り口として、ラフティングガイドになるというのはいい手だと思います。寮があるラフティング会社もあるので、しばらくは体験的に田舎暮らしができます。そして移住となれば、借家を見つけやすい。定住している先輩ガイドは地域とのパイプになります。

——ラフティング会社の雇用形態はどんな感じですか?

宇都宮:むかしは1本ガイドしていくら、という雇われ方が多かったですが、契約社員や正社員など月給制が増えてきました。多くはラフティングシーズンの半年間雇用ですが、農園経営など冬場の仕事を確保して通年雇用する会社もあります。しかし、サラリーマンをしながら週末だけガイドをするとか、ツアーごとに報酬をもらうというスタンスの人もいます。自分のライフスタイルに合わせて雇われ方を選んでいます。

——半年間雇用だと、冬場はスキー場でバイトしたり、海外で働くわけですね。

宇都宮:そのあたりが、この業界のネックのひとつなのでしょう。ここ数年は田舎暮らしブームで、ラフティングに関係なくこの地域への移住者は増えていますが、「ラフティングガイドを仕事にしよう」という人はあまりいません。

日本有数の大自然が仕事場だ。

——「自然を求めて田舎に移住」なのに、自然相手のラフティングガイドは魅力的に映らないのでしょうか。

宇都宮:田舎暮らし系の移住者は急流下りの世界を知らない人がほとんどだし、体力的にもきついですしね。でも、2週間ぐらい耐えてラフティングのトレーニングをしたらなんとなる。続けていける。そしてガイドデビューできると思います。

——ラフティングは自然を損なうことなく楽しめるレジャーで、過疎の田舎には貴重な産業です。大歩危小歩危の商業ラフティングが未来へと受け継がれていくことを願っています。今日はありがとうございました。

(文・写真=大村嘉正)

 
 
ライター
大村嘉正

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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