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DILL連載第11回「冬の山ごはんQ&A」軽く簡単で、おいしく山で体が温まるのは……!

2016.12.16 Fri

DILL eat,life.山戸浩介・ユカ夫妻 DILL eat,life. オーナー

DILL eat,life.』はアウトドア好きの
山戸夫妻が切り盛りする八ヶ岳南麓の食堂。
DILLの連載第11回目となる今回は、
オーナーシェフであり、料理研究家の山戸ユカさんが
冬の山ごはんに関する質問にお答えします!

 
 みなさん、こんにちは。

 八ヶ岳もようやく冬本番。毎日八ヶ岳おろしと呼ばれる北風がびゅーびゅー吹き付けるようになり、あちらこちらからスキーやスノーボードの初滑りの知らせが届くようになりました。私たちもいつ滑りに行こうかとそわそわした日々を過ごしています。

 さて今回は、これからの冬山をより一層楽しむために、みなさんが普段困っている冬山ならではの食の疑問にお答えする「冬の山ごはんQ&A」と題し、個人的見解も交えながらお話してみたいと思います。

Q1、体を温める食材があるように、体を冷やす食材もあるのですか?
(東京都在住/クライミング大好き!アウトドアメーカー勤務のMさんからの質問)

A1、食べ物には体を冷やす陰性と、体を温める陽性があります。

 基本的に暖かい場所や夏にできる野菜は陰性なものが多く、逆に寒い場所や冬にできる野菜は陽性なものが多いと言われています。

 ですので寒い冬に南国のフルーツや野菜を食べるよりも、その季節その土地でとれる食べ物を食べるほうが体にとっての負担が少なくなります。

 行動食の定番であるドライフルーツのマンゴーも、冬なら干し柿やドライフルーツのリンゴに変えると良いでしょう。食べ物の陰陽についてもっと知りたい方はぜひご自分で調べてみてください。

Q2、体が温まる飲み物はありますか?
(同じくMさんからの質問)

A2、体が温まる飲み物の代表はココアとショウガです。

 カカオは南国で育ちますが、収穫後に発酵という工程を経てココアが作られるため、体を冷やす陰性から体を温める陽性の食べ物に変化していきます。

 同様に緑茶は体を冷やす陰性ですが、同じ葉を使っていても発酵後の紅茶やほうじ茶は体を温める陽性になります。ショウガ紅茶が体を温めるというのは有名ですよね。

 しかし気をつけたいのが、ココアとして飲む場合には「牛乳や砂糖」を加えるということ。このふたつはとても体を冷やします。なのでミルクたっぷりのものよりも、ココアの分量が多いビタータイプのもののほうが体を温める効果が高くなると思います。

 ショウガは生で食べると血管が拡張して手足の末端が冷える原因にもなるようなので、ショウガは加熱するか乾燥したものを使う方がよいでしょう。

Q3、冬山の寒さ対策として夜ごはんに食べるとよいものはありますか?
(Mさんの奥様からの質問)A3、山での体調管理は最重要ポイントなので、基本的には消化の良いものをゆっくり食べるように心がけましょう。

 冬山だけでなく、1日の行動を終えたあとの食事はその日の疲れを癒し、次の日の原動力となる重要なもの。運動後に肉を食べたくなる人は多いかもしれませんが、ヘトヘトに疲れた体にとって、消化の悪い肉を大量に食べることは逆に内臓を疲れさせてしまいます。

 では何を食べたらよいのでしょうか?

 冬山では体を温めるといことが重要になってきますので、鍋やシチューなどはおすすめです。具は基本的に家で食べるときと同じと考えていいのですが、山では「重さ」と「持って行きやすさ」も考えなければなりません。
 
 そこでおすすめしたいのが乾物。特に高野豆腐は豆腐よりも栄養価が高く、腹持ちもよい。鶏肉や豚肉の分量を少なくし、その代わりに高野豆腐や麩を加えると重量も軽くなり一石二鳥。

 筋肉を作る肉や高野豆腐などのタンパク質と、すべてのエネルギー源となるお米やうどんなどの炭水化物を一緒に食べることも大切です。野菜と肉、高野豆腐の鍋の〆として、ごはんやうどんを入れるのはとてもバランスの取れた食事なのですね。

Q4、雪山での夕食はいつも鍋を作ります。雪を入れて沸騰した鍋に野菜と肉をぶちこんで〆はうどん。でも味付けにいつも困ってしまいます。これを入れればなんでも旨い!温まる!! という調味料の黄金比率を教えてください。ちょっぴり辛いのが希望です。
(長野県在住/山に海に一年中遊びで大忙し!アウトドアフリーライターMさんからの質問)A4、上記でお話したように、鍋は冬山での夕食に最適な料理方法です。しかし味付けが難しいという気持ちもよくわかります。少ない材料で旨味がしっかりした鍋を作るのにおすすめなのは、出汁の出る食材と体を温める調味料です。(写真はイメージ)

 出汁がしっかり出る食材を使うことで、少ない調味料でもしっかりと旨味を感じることができます。また体を温める調味料の代表は味噌と唐辛子。唐辛子は大量に食べると汗をかき、結果冷えの原因になるので、入れすぎには気を付けましょう。

ちなみにMさんに最適なメニューは

「ピリ辛ゆず味噌鍋」!!

ピリ辛ゆず味噌の作り方
 1、味噌に対して1割程度の豆板醤(辛いのが苦手な方は2割のコチュジャンに変えてもよい)と酒を少々加えて混ぜる。
 2、鍋に入れ、水分が飛んでもったりとするまで弱火にかける。
 3、最後にゆずの皮のすり下ろしを少々加えてよく混ぜ、粗熱をとる。(ゆずも体を温める効果があり、また疲労回復効果が見込めるビタミン類も豊富!)
 4、鶏肉や豚肉を味噌に漬け込む。

ピリ辛ゆず味噌鍋に入れるとおいしい食材
ピリ辛ゆず味噌に漬け込んだお肉、白菜、ニンジン、干し椎茸、ネギ、ゴボウ、高野豆腐(ひと口タイプがオススメ)など。


Q5、1月に上高地でテント泊をします。材料が軽く小さい鍋ひとつでことが済み、体が温まりぐっすり眠ることのできるごはんはどうすればよいですか?
(東京都在住/ジャズシンガーという意外な一面を持つアウトドアメーカー勤務 Nさんからの質問)

A5、 軽くて、簡単で、おいしくて、体が温まる料理。という欲張りなご質問ですが、それにすべて当てはまる最適な食材はやはり「乾物」です。

 アルファ米やフリーズドライの食事では味気ないし量も足りないという方は、ぜひ「クスクス」をお試しください。

 粒状のパスタであるクスクスは、お湯で戻すと約3~4倍に膨らみます。
女性が1泊の山で食べるのであれば50gもあれば十分お腹がいっぱいになります。

 最近は味噌汁の具として乾燥野菜やワカメがミックスされた商品がスーパーで買えるので、まず乾燥野菜や干し椎茸、干しエビなどを入れたスープを作り(お好みで無添加のスープの素を足してもよい)、そこにクスクスを入れてかき混ぜます。火を止め、5分ほど蒸らせば完成です。沸騰したスープに入れて蒸らすだけなので燃料の節約にもなります。

 またここにドライジンジャーやゆず、ごま油を少し加えることで、体が温まり寒いテントの中でもぐっすり眠れそうですよ(生のショウガの皮には利尿作用があるので、なるべくトイレに行きたくない人はドライジンジャーがおすすめです)。

Q6、山では野菜が不足気味になります。乾燥野菜を使ったおいしいメニューを教えてください。

(山梨県在住/おいしいごはんが大好き! 山岳ガイドWさんからの質問) A6、野菜がたくさん食べられて、なおかつ体が温まる料理として提案したいのが「野菜あんかけ」です。

 乾燥野菜を入れた中華風の具沢山スープを片栗粉(できれば本葛が好ましい)でとろみをつければ、ラーメンなどのスープを飲み干す苦痛がなく、とろみ効果で料理が冷めにくくなります。魚介類を山に持って行くのは難しいですが、ホタテの缶詰やおつまみ用の鮭とばなどを上手に使えば、山の上でも海鮮五目あんかけ丼が楽しめます。

Q7、冬山では料理がすぐに冷めてしまいます。できれば新しく食器や鍋を買い足さずにすんで、なおかつ温かい料理を食べる工夫はありますか?
(神奈川県在住/なんでも挑戦!アウトドア輸入代理店勤務 Tさんからの質問)

A7、料理を冷めにくくするコツはいくつかありますが、上記のWさんの質問の答えにある「とろみをつける」もそのテクニックのひとつ。それ以外に「油を加える」という方法もあります。

 料理の表面に油の膜ができることで冷めにくくなり、カロリーも高くなるため、山ごはんの夕食に油を使った料理を作るのはよいと思います。もちろん摂りすぎは内臓に負担をかけて逆効果になりますのでほどほどに。

 また自分のコッヘルやカップ専用に保温カバーを作るのもよいと思います。ネットでネオプレーンの生地も買えるので、器用な方は試してみるのもよいかもしれませんね。

Q8、雪山でも固くならないおにぎりはありますか?
(神奈川県在住/スノーボードとビールが大好き!アウトドアライターFさんからの質問)A8、たしかに冬山におにぎりはNG!というのが山での常識ですよね。

 なぜなら、マイナス気温ではお米は凍ってしまい食べられなくなってしまうからです。パンならよいのか?と聞かれれば、たしかにパンの方が凍りにくいのですが、それもパサパサになってあまりおいしいとは言い難いでしょう。

 私はバックカントリースキーのときにもおにぎりを持って行きますが、断熱効果のある袋(干物などを買ったときに保冷袋として入れてくれる銀色の袋)に入れ、防寒着として持って行くダウンなどに包んでザックの中心部分にしまいます。どうやら世の中にはおにぎり専用の断熱袋もあるようなので、気になる方は試してみるのも良いかもしれません。

 それ以外に有効なのは「油を一緒に炊き込む」ということです。

 ゴマ油を入れて炊いたごはんは風味もよく固くならないのは、お米一粒一粒が油でコーティングされるからなのでしょうか? 理由は定かではありませんがぜひ一度お試しください。次回検証予定です。

 いかがでしたか?

 やはりみなさん冬山での寒さ対策についての質問が多かったのですが、実際にはこれを食べればすぐに体が温まる!というようなものはありません。

 寒さが苦手な人にとって一番重要なのは、日頃の生活習慣を見直すことなのです。山だけでなく普段から正しい食生活を送り、ストレスを解消する手段を持っていれば、きっと今まで以上に寒さに強くなれるはずです。

 どうぞみなさんも今まで以上にお身体ご自愛ください。
<文=山戸ユカ、写真=山戸浩介ほか(DILL eat,life.)>

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