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台風19号で甚大な被害を受けた千曲川のリンゴ農家を支援するリンゴスタープロジェクトにボランティア参加してきた。
2019.12.02 Mon
菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ
10月12日に上陸した台風19号(アジア名ハビキス)。台風としては初めて特定非常災害に適用されるなど、各地に甚大な被害がもたらされたことは記憶に新しい。長野市津野で千曲川の堤防が70メートルにわたって決壊。住宅地などに濁流が流れ込んだ。少し下流の赤沢地区での濁流は2メートルほどの高さになった。津野から上流の穂保にも逆流し、むしろ体積した泥は穂保のほうが深かったという。
数々のフェスでデコレーションや空間プロデュースを行っているCANDLE JUNEさんは、東日本大震災をはじめ災害時における緊急支援とその後の継続的な支援活動をしているLOVE FOR NIPPONの代表も務めている。長野入りしたJUNEさんは「被災地のボランティアは、民家の泥出しが優先され、農地はすぐには稼動できない」という話を聞く。民家は暮らしの基礎であることは間違いないのだけど、農家にとって働く場所である農地は家族の未来を築く場所でもある。JUNEさんは被災した千曲川周辺のリンゴ農家と繋がり、継続的にリンゴ農家を支援していくために「リンゴスタープロジェクト」をスタートさせた。
このプロジェクトで最初に始めたのが、手つかずとなっている農地の泥出し作業。ホームページでボランティアを募集。週末に活動日を設定し作業を畑だけに限定することで、家族連れでも参加できる仕組みにした。11月中旬からはじまった畑の泥出しボランティア活動。12月1日の活動日に参加した。
12月1日のボランティア活動日には長野や首都圏だけではなく、各地から70人もの人が参加した。家族連れも多い。
長野市の千曲川沿いの赤沼地区のリンゴ畑。LOVE FOR NIPPONやJUNEさんのつながりもあり、全国からボランティアが集っていた。リンゴ畑に入ると、土は泥に覆われていた。泥によって根が覆われてしまうことで、一本一本のリンゴの木の呼吸ができなくなってしまう。木の命をつなぐために、木の根元を半径1メートルくらいの大きさで泥をかく。これがこの日の午前中に課せられた参加者へのミッションだった。
ミッションではあるのだけど、達成しなければならないことではなく、楽しみながら活動すること。それがLOVE FOR NIPPONやJUNEさんの根幹の思いだ。
幹から半径1メートルほどの泥をかいていく。深く掘るとミミズもうじゃうじゃ。土が肥沃であることも教えてくれる。
集合場所から泥出しする場所まで歩いていく。いったい何本のリンゴの木があるのだろう。ほとんどが手つかずのようだ。スコップを借りて作業をはじめる。草が生えはじめたところや泥がむき出しのままのところなど様々だ。流れてきたゴミが幹に漂着したままの木もある。スコップを入れることで、土の中の違いも直に感じられる。深いところで20センチ以上。泥は浅いところでも10センチくらいはあっただろうか。何度か参加しているボランティアの人の話によると、朝の最低気温が氷点下になったことで泥が固まり、泥出しの作業は前よりも楽に感じたという。これはあくまでも比較の問題であって、半径1メートルの泥出しは予想していた以上に重労働だった。4人で一本の木の泥出しをするのに10分程度かかる。なかには30分もかかってしまうほど苦慮する木もあった。難しい作業ではないので、やりながらより負担のかからない方法を模索していく。子どもたちは、泥遊びを楽しむように泥出しをしている。
泥は深いところで20センチ以上。浅いところでも10センチはあった。
一本の木が終わり、次の一本へ。今回のボランティアで初めて会った人たちと、作業をしながら会話するようになっていた。ちょっとでも、今ここでこうしていることを共有したいという思いがあったのだろう。どこから来たのか? どんなきっかけで? そんなことを聞いていた。
9時半頃に始めた作業。一本一本、木を泥から救出する。来年は、美味しいリンゴを実らせてくれよ。そんな思いが自然と生まれてくる。その思いは、腕や足、腰の疲れが増すことで大きくなっていく。
写真を撮ることを口実に、作業をはなれることもしばしば。
13時からランチタイム。なんとこの日は、九州博多から秀ちゃんラーメンが炊き出しに駆けつけてくれた。秀ちゃんラーメンは、救州ラーメンプロジェクトとして311以降にいろんな被災地に赴き、炊き出しを続けているという。本格的な博多ラーメンは、ボランティアとして参加した人たちだけではなく、被災した農家のみなさんのお腹と心も暖かくしてくれた。
博多からスープや麺を持って長野まで来た秀ちゃんラーメンのふたり。人気博多ラーメンを野外でみんなで野外で味わう。
午後の作業は木になっている実を落とすこと。これがなかなか難しい。枝を揺すってもなかなか落ちてこない。実はほとんどが手の届かないところにある。子どもたちにとっては、泥出しよりもリンゴ落としの方が楽しかったようだ。折れた木の枝を使ったり、様々な方法でリンゴの実を落としていく。
赤沼地区のリンゴ畑でも1.5メートルほどの冠水があったという。確かに枝にはまだ泥がついている。木の上の方についた実は、しっかり洗って皮を剥けば食べられないわけではない。けれど商品としての出荷はされていない。地面に落ちたリンゴの風景を見て、参加する僕らは「もったいない」と思ってしまったけれど、そのリンゴを作った農家さんにとっては無念以外の何ものでもないのかもしれない。
千曲川の決壊がなければ、どこかのマーケットなどで売られていたリンゴたち。
リンゴ畑にいたのは、たった7時間程度だ。それでも被害を実感することで、19号がどんな台風で、長野にどんな被害をもたらしたのかが近く感じられるようになった。終わってみると作業の辛さをはるかに超える充実感が残っている。時間が許するのなら、再び訪れたいと思う。
毎年のように自然災害が起こる日本。気候変動の影響などもあり、日本では自然災害が少なくなることは考えにくい。もしかしたら2020年は、自分が、自分の家族が自然災害の被災者になってしまうかもしれない。
ボランティア活動によって、被災した思いを共有し、被災地を身近に感じること。被災した方々とつながること。ボランティアとしてどうすれば被災地に足を運んでもらえるのか。福島、熊本、そして長野と支援活動を続けているCANDLE JUNEさんの思いが、リンゴスタープロジェクトにも表出されている。
リンゴスタープロジェクトの支援としてCHROMEがアウターを提供。自宅が濁流に飲み込まれた農家さんも少なくない。
リンゴスタープロジェクト(長野県千曲川周辺リンゴ畑支援)
ボランティア活動予定日:12月7日(土)、12月15日(日)、12月21日(土)
活動場所:長野市赤沼地区のリンゴ畑
参加条件:下記の持ち物をしっかり持参することができる方、高校生以上の方(中学生以下の方は保護者同伴に限り参加可能)、集合時間に間に合う方(現地9時、都内6時頃)
持ち物:長靴、マスク、軍手、汚れてもいい服装、着替え、雨対策、寒さ対策、マイコップ
参加費:1日500円(ボランティア活動保険、昼食、飲み物代含)