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里山活用術! ある日のトレラントレーニング。滑れなくなった日は里山を走ろう【北海道/旭山】

2020.03.23 Mon

さとう アウトドアショップバイヤー

旭山 トレイルランニング

 冬の外遊び、僕はもっぱら山に登って滑る、いわゆるバックカントリーだ。山に登りたい衝動と滑りたい衝動、このふたつを同時に楽しめる外遊びだからだ。

 今日の最高気温はプラス7度の予報で、2月の北海道ではめずらしく春のようなあたたかさ。ここ数日の上がっては下がる極端な気温差で、山での滑走は不安定なコンディションとなりリスキーだろう。ゲレンデで楽しみたいところだがスキー場でも絶望的なコンディションが想像できる。

 滑りがダメときたら、ランナーでもある僕の頭には「トレーニング」の文字がポンと浮かび上がる。

 年末からサボリがちになってしまっているランニング。つい先週、羊蹄山のバックカントリーでの長いハイクアップでバテてしまったという反省もあり、最近、また真面目に走り出したところだ。

パウダー スノーボード 北海道休みの日にはこんなパウダーを期待してしまうが、あいにくのコンディション。山は逃げないと自分に言い聞かせて今日はトレーニングデイ!

「よし、走るか!」

 でも、ただロードを走るだけでは物足りない。

 走るときはいつもロケーション重視なので、市街地はさけ、あえて田舎道を走る。北海道の四季の景色やにおいを感じながら走るのが好きだからだ。ついでに山登りの欲求も満たしたいので、後半は里山のトレイルに入り、山の雰囲気を楽しむ。そして、ロードにもどり帰路につくというコースがいつものルートだ。

 北海道のトレイルランのレースではロード(林道)セクションと山岳セクションがはっきりと分かれているレースが多いため、ロードで走って疲れたころにトレイルのアップダウンがくるルート設定は、レースを想定したいい練習にもなる。

 思い立ってさくっと走るには、距離は10㎞では短いし、30㎞だと長い。間をとって、20㎞がちょうどいいのは経験上知っている。今日のランニングルートはロードを8㎞走り、トレイルを4㎞、そしてまた、8㎞戻ってくる20kmのコースに設定しよう。

夏 旭山 トレイル夏の旭山トレイル。標高わずか295mの里山だが四季の表情が豊かで、飽きずに走ることができる人気の山。

 トレイルは地元でも人気の里山で、動物園でもお馴染みの旭山。僕のホームマウンテン的存在で、足しげく通う大好きな里山だ。走った帰りには近場の温泉に寄って癒しの時間もつくり、休日を満喫するプランである。

 ランニングルートが決まったら準備にはいる。休日のランニングといえども山に入るからには男の冒険だ。準備も入念に行なう。気持ちを冒険モードに切り替える。

 僕はこの準備の時間が大好きだ。バックパックを取り出し、行程を想像しながら必要な装備品を考え、パッキングを進める。そんな贅沢な時間を楽しめるのもアウトドアズマンの特権である。

「そなえよつねに」

 幼少のころのカブスカウトのスローガンを思い出す。

 目的地の旭山までのランニングルート上には自販機、コンビニは一切なく、補給はできない(あえてそういうルートを設定しているのだが)。そのため、行動食もしっかりと携帯する必要があり、本番のレースさながらの緊張感を帯びてくるのもまたおもしろい。

アルティメイトディレクション ULTIMATE DIRECTION FAST PACK15里山といっても山。ダウンの上下、エマージェンシーシートはいつも持っている。帰りの温泉用の着替えもあり、意外と持ち物は増える。携帯トイレの携帯もおすすめしたい。もちろんスーパーフードのバナナはいつも必須である。

 迷うことなくアルティメイトディレクション(ULTIMATE DIRECTION)のFAST PACK15をギア部屋から引っ張り出しパッキングをすませる。アルティメイトディレクションといえばマウンテンベストが定番だが、このFAST PACK15も秀逸な一品である。

 ロールトップ式のベスト型パックは荷物が多いとき、少ないときで容量の調整がしやすい。通勤ランから本格的な山でのファストハイクにも使えるくらい収容量のレンジが広く、気に入っている。帰り際の予期せぬ買い物で荷物が増えても対応が可能だ。もちろんアルティメイトディレクションらしく体にしっかりとフィットし、荷物を入れても揺れない機能性は健在だ。

アルティメイトディレクション ULTIMATE DIRECTION FAST PACK15 十勝岳連邦 富良野岳日帰りのファストハイクでもFAST PACK15は大活躍。残雪の十勝岳連峰、富良野岳を望む。

 さて、準備が整ったらいざ出陣!

 いつも走りはじめは、自分との対話の時間だ。呼吸、姿勢、足の蹴りだしなど、たくさんの確認作業を行なう。スント(Suunto)の腕時計でペースを確認しながら今日の自分のコンディションを把握する。

 今日はとても体が軽い。楽しめそうだ。

 体があたたまり、少しだけペースを上げようと決めたころ、のどかな田舎道へと景色は変わっていく。

旭山 トレイルランニング気温はすでにプラス5度で無風、川沿いはとくに気持ちがいい。

 遠回りしてまでロケーション重視で選んだ道の景色は贅沢なほどのどかだ。おまけに今日は雪が完全にとけてアスファルトが顔を出していて走りやすい。久しぶりのアスファルトの感触、蹴りだしの軽さに戸惑う。

 冬の間は走りにくい雪道を走っていることもあり、自然と足が鍛えられている。アスファルトの反発を利用して走る事ができなくなるからだ。雪道では地面からの反発力がなくなるので、ある程度、足の筋力だけに頼る走法となる。砂浜を走る感覚に近いかもしれない。

 そのため、久しぶりにアスファルトを走るとかなり早いペースで走れてしまう。レッドブルを飲まなくとも翼を授かった状態となり、ついついペースが上がってしまう。その後、早々にばててしまったのは言うまでもないが。

旭山 トレイルランニング久しぶりのアスファルト、テンションも上がる!

 植林された丘が連続しだし、目的の里山、旭山も見えてきた。この辺りは晴れていれば大雪山、十勝岳連峰がきれいに見え、まるで山に向かって走っているようでとても気持ちがいい。今日も登ったことのあるピークが横並びに見えている。今年はどのルートでどの山に登ろう。オンシーズンの登山に思いを馳せる。

 そうこうしているうちに約50分で旭山に到着。今日もいつもどおり遅い。

旭山公園旭山動物園のシンボルともいえる看板。

 旭山は横に並んだふたつの山で構成されており、1周約2㎞の登山道が整備されている。時計まわりではダウンヒルがメインのトレイルとなり、反時計まわりでは登りメインのタフなトレイルとなる。旧スキー場のとなりの山(こちらが旭山の山頂)とも尾根でつながっており、つなげることで約4㎞のバリエーションに富んだトレイルとなる。山の裏側には林道もあり、そこもつなげると10㎞以上のロングトレイルコースとして走ることもできる。

 冬の森は静かで僕以外には誰もおらず貸し切りだ。

旭山 トレイルランニング 踏み抜き昨日、けっこう降ったので雪が深い。ラッセル状態となり、いいトレーニングになる。

 今日は反時計まわりのタフなコースを行く予定でいたが、あまりの気温の高さで雪が溶け、ズボズボと膝まで埋まってしまい走りづらい。ラッセルのトレーニングと割り切り、雪の中を進むことを決意。いつもはスムーズに走れるトレイルも今日は高負荷トレーニングに最適なトレイルに変貌していた。

 思いがけないハードなトレーニングを思いっきり楽しむことにしよう!

 自分にそう言い聞かせるも、あまりのキツさに何度も心が折れながら突き進む。雪が重く鉛のように足にまとわりつく。通常であれば30分程度で走れる所だが、ほぼ歩きで汗だくになりながら倍の1時間をかけてなんとか山頂へ到着。誰もいない森の中を鬼の形相で走るおじさんに脅威を感じたのか、いつもは姿を見せるエゾリスが一度も姿を現さなかった。

旭山 山頂 トレイルランニング最近できた旭山ピークの標柱。

 上がりきった心拍数をなだめるように落ち着かせる。山頂付近の開けた場所で休憩をとりながら下界に広がる街並みを眺める。男らしくパックのメッシュポケットにそのまま入れてきたバナナを取り出しほおばる。バナナの甘さと吹き抜ける風が相まって心地いい。

 里山のいい所は行きたい時にすぐに行ける、ファーストフード的な手軽さだ。単調なロードでの中距離ランも、ルートに里山のセクションを入れるだけでメリハリがつき、飽きのこないアドベンチャー感のあるコースに仕上がる。同時に山の雰囲気も楽しめ、里山は絶対におすすめだ。

 旭山は春にきれいな桜が咲き、カタクリの群生が一面を青く染める。夏には緑の葉が茂り、秋には紅葉が極彩色に色づく、そして静かな冬の森となる。四季の表情豊かな里山だ。山頂からは近くの里山の突哨山や当麻山が見える。反対側には人気のトレイル、キトウシ山もあり、10㎞圏内に4つの里山が存在する。気分次第で山を決められるのも贅沢極まりない環境だ。

 まどろんでいるうちに体も冷えてきた。山頂からの下山はすぐ。林を抜けて山を下りる。この場所が僕はいちばん好きだ。

旭山 トレイルランニング気温が30度をこえる夏の日も、この場所には尾根からの涼しい風が吹き抜ける。トレイルを挟んで右と左では木の植生が全く違うのもおもしろい。

 あとはロードを走り、来た道を戻る。約3時間の僕なりのコンパクトな冒険であった。

 走り終えて、時間はまだお昼前。心地いい疲労感があるが、心身ともにリセットされて爽快な気分。お楽しみの温泉へ直行し、気が向けばビールだって飲める。まだまだ休日を楽しむ時間はたっぷりと残っている。

 里山のすすめ。

 滑りには向かない日だったが、里山があるおかげで良き休日になったことは確かだ。

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