• 登山

新刊『親子で山さんぽ』は、子どもたちを山に連れていきたい親のための貴重な指南書である。

2020.06.02 Tue

宮川 哲

宮川 哲 アウトドアライター、編集者

 表紙の一部をなしている帯をペラリとめくると、本の雰囲気がガラリと変わる。見た目は子ども向けの絵本のようだ。裏表紙も合わせて表紙周りを見まわしてみる。するとそこには、親子3人、山への憧れにはじまり、実際に山頂でお弁当を食べるまでの物語がていねいに描かれていた。

 さらに1ページ目を繰ってみれば、「絵本」そのものが展開される。イラストレーターのなかむらるみさんのほんわかとしたタッチで、あーちゃんとおとうさんの山登りの話がはじまっていた。なかむらるみといえば、話題となった『おじさん図鑑』(小学館)の著者......じつは山の絵もたくさん書いているんですね。

 さて、本書の中身のほうだが、これ「子ども目線の編集」のフリをしているけれど、じつは子どもたちを山へ連れ出したいおとうさん、おかあさんのための本なのである。しかも、かなりディープに、かなりていねいな編集を心掛けているようだ。

 絵本からスタートした本は、「大島に行ってきました!」という著者本人の親子登山のルポへと続く。ここにはちゃんと書き手の仕掛けがもうけられていた。「パパのもくろみ」というコラム集で構成され、連れて行く側の親向けのヒントがギッシリと詰まっている。

 そのルポが終わるとやっと、「もくじ」が登場する。そして紹介ルートのインデックスマップ、さらに「親子で山さんぽ 私の場合」として3家族のインタビュー記事へとつながっていく。

 これは雑誌のつくり、そのものじゃないのか!? と、そんな目線でさらにページをめくってみる。「特集」は「親子で山さんぽ テーマ別ルート37」。「まずは自然を歩いてみよう」「移動も楽しい乗り物ハイキング」……「いつか挑戦したい山」など、テーマごとに具体的なルートガイドを豊富な写真とマップで構成、さらにアクセスやトイレ事情、コンビニ・スーパーの活用法など読者に有用な情報をしっかりと織り込んでいる。

 タイトルにもあるように全部で37のルートが掲載されているが、どれもこれもすべてのルートを製作チームが実際に歩いていることはまちがいない。通り一遍のガイド本とはちがうのはこの点だろう。実際に親子で「見て、歩いて、感じた」ことをベースに書かれているだけに、その信頼性も高い。ある意味、登場している家族たちの山の日々が思い出が、「ガイド記事」として再編集されたような具合である。

 このルートガイドの合間あいまには、ミニミニ図鑑として「春の花」「木の花」「里山の虫」といったコラムページもある。また、巻末には特集を補填するように「〝山力〟アップ レッスン帳」と題した「第2特集」もしくは「巻末特集」まで付けられている。

 この「2特」の内容は、まさに子どもを安全にかつ楽しく、山へと連れていくためのノウハウ集である。そして本の最後のページ、奥付の前には「登山計画書(届)」までちゃんと掲載されているではないか。

 なるほど、これは完全なる「山雑誌」である……それもそのはず。著者の木村和也は某山の出版社でながらく山雑誌の編集を続けてきたその道のプロ。現在では、フィールド&マウンテン発行の『山歩みち』の編集人を務めている人物だ。

 これは木村の処女作であるが、なるほど緻密でいてやさしく、正確な情報をていねいにつくり上げるそのやり方や、子ども向きの顔をしながらそのじつ、大人たちへメッセージを送ることを主題とするなど、いい意味でのひねくれ具合がとっても彼らしいと思う。

 奥付の名前を追ってみると、本当に懐かしい人たちの名前がずらり。前出のなかむらるみさんもじつはかつての山雑誌仲間。かくゆう僕もそのひとり。

 山の専門誌で長年培ってきたノウハウの集約がここにある。


『親子で山さんぽ』
木村和也 著
1,300円+税
交通新聞社
A5判 144ページ

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