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野外技術、製材、最新のモノ作りを学ぶ「ダイナミックラボ」を鹿児島に。カンパのお返しは野外技術だ!

(2017.02.03)

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 近ごろ、野外活動やブッシュクラフト、適正技術に興味がある人のSNSタイムラインを賑わせているニュースが「鹿児島の廃校に、家も作れる日本最大のファブラボ『ダイナミックラボ』を作る!」というプロジェクト。

 現在、クラウドファンディングを支援するサイト「CAMP FIRE」にて、プロジェクトへの応援者を募っています。
 
 発起人はヒッピーのテンダーさん。その自称に違わず、長髪にチューリップ帽子、足元は冬でもサンダル、と一度見たら忘れられないルックスです。

 見た目はちょっと怪しげですが、その知識と技術の幅は驚異的。

 北米先住民ゆずりの技術でその辺の草と枝で火を起こしiPhoneを自力で脱獄し裏山の罠で肉を獲り大学には講師に呼ばれ自費出版したオフグリッド発電の本は5000部以上を販売。テレビで特番も組まれています。

 以前、Akimamaにも「その辺のもので生きる」というタイトルで外遊びと電子工作を組み合わせた遊びを寄稿していただいたこともあります。

 現在彼は鹿児島市郊外の山すそに年間の家賃が1万円の家を借りて暮らしており、水は裏山から引いた沢水、火は裏山の薪、電気は屋根に置いたソーラーパネルから自給しています。ロケットストーブ、太陽光発電、太陽熱温水器、沢水の濾過システム。

 そう、テンダーさんの生活はまさに「その辺のもの」を活用して営まれているのです。

 そんなテンダーさんがぶち上げた「ダイナミックラボ」とは、鹿児島の廃校に、「ファブラボ」を作るプロジェクト。

「ファブラボ」とは聞きなれない言葉ですが、「多様な機械をそろえ、あらゆるものを作ることができる市民に開かれた工作室」といえるでしょうか。現在、世界的なブームとなっており、東京や福岡などにも開設されています。写真は「FABLAB HAKATA」。3Dプリンターやレーザーカッターを備え、一般のユーザーも利用可能。

「ダイナミックラボ」では、廃プラスチックを再び素材にする機械や3Dプリンター、レーザーカッターをそろえ、製材や溶接スペース、廃物のリサイクル広場や介護予防ジムなども同時に展開する予定だといいます。

 加えて、火おこしや野営などのワークショップも行ないます、とテンダーさん。しかし、ファブラボと火おこし、一見まったくつながりのない事業のように思えるのですが……。

「そんなことはありませんよ! 私が作りたいのは地域の問題を地域の力で解決していく場所です。その点で火おこしから最新の工作機械、介護ジムまでひとつの大きな枠に収まっています」 

「現在、日本の山林は飽和状態。しかし、身近に山がある人も材木が必要なときにはホームセンターで買ってきてしまいます。そのほうが楽だからです。しかし、近所に自分で手軽に製材できる場所があったらどうでしょうか? 家の裏の木を自分で伐って、必要な材木を得ることができます。そうすればお金がかからず、裏山は適度に間伐され一石二鳥です。そしてその人は、自分で挑戦してやり遂げたという体験も手に入れます」テンダーさんの住む「てー庵」は年間家賃1万円で山林つき。伸びすぎたスギを間伐しては自分で製材。家の改修の材料にしている。

「製材機に加えてレーザーカッターがあれば、幅の細い板の端にジクソーパズルのような刻みを入れることができます。それぞれの板を組み合わせれば、家の壁面に使える大きな板を作り出すこともできるでしょう。製材機とレーザーカッターが同所にあることで、作れるものの幅が飛躍的に高まるのです」FABLAB HAKATAでのレーザーカッターでの製作物。レーザーで集成材に切れ目を入れることで薄板から箱が作れる。ダイナミックラボではより出力の大きいものを導入し、右のような構造の板の成形を行う予定。

 なるほど。地域の資源を地域で使うというわけですね。でも、廃プラスチックの再活用に鹿児島の片田舎で取り組んだところで、社会は大きくは変化しないんじゃないですか?

「確かに私たちが再利用できる廃物の量は多くはないかもしれません。しかし私は再利用した量よりも、そのカルチャーと精神に地域の人や子供たちに触れてもらうこと、その精神を伝播させることが大切だと思っています。ダイナミックラボに触れた人が、より大きなシステムの新しいラボを開くかもしれません。ここを訪れた幾人かの子供たちは、いつか世に出て社会を動かす要職に就くかもしれません。ダイナミックラボは、ものづくりをしながら人づくりをする場所でもあるのです」

「また、ビニール袋のようなプラスチック製品は、製品としての寿命がほんの数分ということがよくあります。そんな使い捨ての道具も、廃プラスチックを再生できる機械があれば、より寿命が長い道具に生まれ変わらせることができるのです。工業製品が溢れかえった現代においては、新たに資源を採掘するより、廃物を新たに生まれ変わらせたほうが合理的になりつつあります。廃物の再利用は、これからますます重要になります」廃プラスチックの破砕マシーンはすでに完成。砕いた欠片を熱して、液状化することで、再度素材として蘇らせる。

 

 ふむふむ。それでは、そんなものづくりの場で火おこしのような原始的な技術のワークショップをするのはどんな理由なんでしょうか?

「野外活動、ひいては先住民技術には暮らしのエッセンスのすべてが詰まっている、と私は考えています。現代の私たちの生活は、たくさんのものに囲まれ、複雑になっていますが、それらをひとつずつ単純化していくと、自分の命を維持するためのごくごく基本的な技術に行き着きます。温まり、調理するための焚き火、体を濡らさないためのシェルター、体温を保持するための衣類などです」

「焚き火を例により詳しく説明しましょう。焚き火が燃え続けるためには、薪、酸素、熱の3つの要素が必要です。このどれかひとつが欠けても焚き火はうまく燃えていきません。焚き火を上手に燃やすには、この3つの条件について知っていること、火を観察して何が必要か判断すること、適切にコントロールすることが求められます。そしてこれらの知識・判断・制御のプロセスは、すべてのものづくりのプロセスに通底しています」

「また、焚き火からは有限性についても学ぶことができます。薪を集めるには労働力が必要で、多く燃やせばすぐになくなり、一帯の木質燃料は枯渇してしまいます。焚き火に取り組むうちに、誰もが必要最低限の大きさに焚き火をとどめるようになるでしょう。焚き火からは世界が有限であること、必要量を判断して使うことの重要さを学ぶことができます」

「このように、野外活動には実体験を通じた学びがあります。だからこそ、最新の機械のある場所には、ローテクな技術が伴っていてほしい。技術はそれを適切に運用できる思想が伴ってこそ。思想が伴わず、技術だけが肥大してしまうと取り返しのつかない失敗につながります。私たち日本人は、すでにそれを学んだと思います」

 ダイナミックラボが作られるのは鹿児島の中心部から30分ほどの場所。地方とはいえ、ちょっと都市部から離れています。それに、ものづくりから介護予防ジムの運営までテンダーさんと仲間たちだけで運営できるんでしょうか?

「ダイナミックラボが入るのは、廃校になった小学校。子供の少なくなった地域だからこそ、これだけのスペースを借りることができました。鹿児島も農村地域では人口の流出と高齢化が続いています。大きな産業もなく、疲弊しているように捉えられがちです。しかし見方を変えれば、都市部よりも農山村のほうが、地域にあるもので社会を支えているぶんだけ盤石です。生産地=生活の場なので、大きな自然災害や政情に暮らしを左右されづらい。私はダイナミックラボを通じて、地域にあるものに根ざした、次の世代の暮らし方のモデルも作りたいと思っています」

「また、今回提案している全ての事業をいちどきにスタートするわけではありません。クラウドファンディングで掲げたのはいわば決意表明。私と仲間でできることからひとつずつ取り組んでいきます。より専門的な知識が必要な先端技術、医療、コミュニケーション術などはエキスパートにご協力いただきます」テンダーさんの協力者のみなさん。(左)小原幸三さん...鹿児島大学元教授、電子工学研究者。現在は葉っぱの商品開発を研究、インドネシアにて商品展開を広げる。 (中)石川世太さん...鹿児島のファシリテーター。行政や企業の会議にて、調整役の依頼多数。(右)森田洋之さん...財政破綻した夕張市の病院、夕張市立診療所の元院長。医療崩壊の結果、健康度が上がった夕張の話を「 医療崩壊のすすめ」としてTEDxプレゼン.16万いいねを得る。

「ダイナミックラボでは現代の地域の抱える問題、これからの日本がぶつかる問題を解決する方法をハードとソフトの両面から扱いたいと思っています。具体的には表現や交渉、合意形成の方法などをワークショップで展開します。個々人がこれらの技術を身につけるだけで、大きな予算や設備がなくても解決できる問題がたくさんあるからです。今回のファンディングのお返しプランに、一見ものづくりと関係ないものが含まれているのは、そういう理由なのです」

 なるほど、荒唐無稽なプロジェクトと思いきや、そんな思いによって立ち上げられたプロジェクトだったんですね。

 ……と、ここまで取材者の体で記事を起こしてきましたが、実はこの記事を書いている私も、プロジェクトを意気に感じて寄付の代わりにワークショップを無償でプレゼントしました。

 そのプランは「テンダーと藤原祥弘の自然技術伝承キャンプ!」

 テンダーさんと私、藤原が鹿児島の秘密の浜辺で野外活動の基本技術を1泊2日でみっちり伝授します。

 内容はパトロンになってくださった方の希望に応じますが、焚き火の技術、ナイフの選び方・使い方、基本のロープワーク、タープの張り方・考え方、水の確保、海・川の食材の採集と調理などなどを予定。

 2日目の終了時には、きっとナイフ1本で野にあるものだけで火がおこせるようになり、投網が打てて、草でロープを作れるまでになっている……はず!

 こういった技術は手と手を介して教わると簡単に習得できるのに、本や動画から独習するのは難しいもの。プランの金額は¥120,000と高めですが、1回の申し込みで5名様まで受け入れるので、1人分では¥24,000です。

 世界のどこでも死ぬまで使える技術で、かつ、私たちが個々の技術の習得にかけた時間に比べると、かなりおトクかと思われます!

 このほかにも、出資のお返しには「火おこしセット」など、魅力的なプランがたくさん用意されています。みなさま、ぜひクラウドファンディングのページをご覧ください! (そして、カンパしてくださっても、いいんですよ!)

↓プロジェクト詳細はこちらからどうぞ!

 
 
ライター
藤原祥弘

採集系野外活動を中心に執筆とワークショップを展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。好きな獲物はカンパチとノコギリガザミ。twitterアカウントは@_fomalhaut

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