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縦・横断サイクリングならこの回り道 ── Route 2 「瀬戸内から太平洋へ、天空の道」

2025.06.03 Tue

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

 その地域ならではを体感し、ロングサイクリングに達成感以上をもたらす「回り道」をご紹介。今回は、「人が何を求め、どのように住処を見つけていったか」に想いをはせるヒルクライムルートです。

■四国山地を越え、歴史ある山暮らしへ(徳島県三好市・高知県大豊町)


坂はきつく遠回りだが、比類なき峡谷の絶景が
谷を深く削る吉野川の急流。ラフティングのメッカだ。
 四国の山間部では高い山肌に家々が点在している。役場や病院、商店など主要な社会インフラは谷底付近にあるので、たいていの人が「不便な場所に、なぜ」と驚く光景だ。
天空の集落では、急傾斜の畑のなかに民家が点在する。
「なぜ」の理由は単純で、そこが住みよかったから。四国で東西に延びる四国山地の地形は急峻だが、谷底よりも山の中腹以上や尾根付近のほうが傾斜はゆるく、日当たりもいい。明治末期に鉄道や道路などが整備されて谷底付近が便利になるまで、人々は山の中腹や尾根を伝って移動し、生活圏を広げ、集落をつくっていった。
このルートには絶景の渓谷も。
 なかには、「この地の先祖は、源平合戦(平安時代末期)に敗れた平家」と伝わる、つまり約千年続く集落もある。サイクリストは、鉄道や自動車が普及するまで永らく喜怒哀楽や文化や経済の中心だった景色を走り抜けるのだ。
谷底は急峻な地形で平地が少ない。
 そんな天空の集落を結ぶサイクリングプランはいくつかあるが、今回は瀬戸内海から太平洋をめざす代表的なルート、「吉野川沿いの国道32号」からの回り道を紹介しよう。起点は標高約180mのJR大歩危駅。ルートの最高地点は標高500m付近になり、腸のようにくねくねとした道が「有瀬」「岩原」など5つの集落をつないでいく。
岩原集落。坂東眞砂子の小説「鬼神の狂乱」の舞台といわれている。
 集落があるのは、たいていが大昔に地すべりしたあとの山肌。地すべりしていない周囲より土地の傾斜はゆるく家も農地もつくりやすいし、ずれた大地の断面からの湧水もある。注目したいのは民家のあいだにある耕作地。畑といえばたいてい平らだが、ここでは斜面(場所によっては斜度40度)のまま。水も土壌も流れ落ちる土地での伝統農業は、「にし阿波の傾斜地農耕システム」として世界農業遺産になっている。
急傾斜の畑。今は茶畑が多いが、ヒエなどの雑穀やソバ、ごうしいも(小ぶりのジャガイモ)などを栽培してきた。
 また、この地域は過疎化が進む限界集落ばかりだが、30~50代の移住者も少なくない地域だ。彼らの多くは、谷底を流れる吉野川のラフティングガイド。時が静止したような山里で、アウトドアな風体の地元民や車とすれ違うかもしれない。古さのなかに新しいライフスタイルも見え隠れする天空の集落を約25㎞すすみ、豊永集落(標高約220m)で国道32号に合流する。

これからクリークを下ろうかという、ラフティングガイドの休日。

 まだヒルクライムする元気があるなら、ここから梶ケ森方面へ登り、八畝集落の八畝観音堂(乳イチョウの巨木がある)の先の分岐(標高約660m)で右折し、JR大杉駅に至る約22㎞もおすすめだ。JR大歩危駅~豊永集落間よりも谷が穏やかで景色は広く、対岸の集落をふくめての大展望を楽しめる。登り区間はなかなかきついが、その先は高原の棚田地帯を爽快に走っていける。
豊永~大杉の辺りは、棚田を造れるぐらい山が穏やかに。
八畝観音堂の乳イチョウ。

⚫︎ミニ情報
・公衆トイレ/大歩危駅、豊永駅
・道路情報/ここで紹介した道のりは、台風や豪雨の後など、災害復旧工事による通行止めがよくある。「道路情報提供システム」でチェック可能。

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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