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<特別寄稿>服部文祥、モーラナイフを使う。 in北海道

2015.11.19 Thu

今春の本格上陸以来、
「切れ味鋭く、価格は安い」ことで
愛用者が増えているモーラナイフ。

釣り、狩猟、野営、焚き火……
あらゆるシーンで活躍するモーラを
サバイバル登山家の服部文祥さんに
チェックしてもらいました!

※ 注意!
今回の記事にはエゾシカの解体シーンなどがあります。


服部さんが北海道に携行したナイフ。右から「コンパニオン」「モーラ2000」「フィッシング コンフォート スケーラー」「748MG」「マッシュルームナイフ」


山旅とナイフ  服部文祥

 山登りにいいナイフは何ですか? と聞かれたら、やや戸惑いながらも、正直にこう答える。

「山登りにナイフなんていりませんよ」

 たとえテント泊で自炊だったとしても、刃物を使わないのが、今の登山である。ガスストーブ(コンロ)でお湯を沸かし、ドライフードの封を切って、入れるだけ。そこにナイフの出番はない。ジャガ・タマ・ニンジンでカレーを作っていた二〇年前だって、登山ナイフは野菜を切ることにしか使われなかった。ちなみに女の子といっしょに山に登ってリンゴを剥くのは、ハイキングであって登山ではない。

 実は登山に持っていくナイフとは、それだけで、山に対する態度や思想を表してしまうものなのである。極限のクライマーは持って行かない。持って行くとしてもせいぜい万が一の事故時にロープを切るための最軽量ナイフである。
 長期縦走などの重厚な登山をおこなう人は、荷物にならない安い刃物かハサミ。ハサミはアウトドアで思いのほか役に立つ。私に登山を教えてくれた和田城志というおっさんはオルファのカッターを使っていた。曰く「よく切れ、軽く、安く、手入れも簡単(刃を替えるだけ)、二週間の黒部横断にはぴったりやで」。

 刃物が野外活動でその存在感を表すのは、生活用具を作り出すときや、原材料から調達して料理をするときである。

 私は現地調達の登山を志してはいるものの、生活用具は作り出してはいない。住居はタープとロープで屋根を掛け、アルミの鍋を持ち歩いている。刃物を使うのは、料理と焚火くらいである。

 それにあわせて刃物は二つ持っている、小さな包丁とノコギリである。これでほとんどすべてできる。ちなみに包丁は木屋のエーデルワイスNo.160、ノコギリはシルキーのゴム太郎300ミリ。ただ小さな包丁は、冬山で大物獣を解体するのに心もとない。問題なく大物獣もばらばらにできるのだが、刃が繊細なので欠けないように気を遣う。というわけでケモノを解体できて、料理も気ままな刃物がないものかな、と探していた。

 ここで正直に告白する。今回使った様々なモーラナイフは自費で購入したわけではない。「北海道に遊びに行く」とある編集者に話したら、試しに使ってみてほしいと頼まれたのだ。

 ただ、モーラナイフは使ったことがあった。先シーズンの後半、ナイフを研ぎ忘れて猟に出たときに、友人がファイヤースターター付きのモーラナイフを貸してくれたのだ。見た目は可愛いのだが、手に取ると本物具合が伝わってきた。切れ味も良かった。そして、貸してくれた友人からの情報、「モーラナイフは総じて安価だ」というのも気に入った。

 高級な道具を持って山に入るのが苦手なのだ。値段が気になって道具として使い込むことを躊躇したり、失くさないか必要以上に気を遣ったりと、へたに上等なものは行為そのもののペースが乱される気がするのである。機能が必要充分で、値段が安い。それだけで道具としては優れている。

 目立つ(色が明るい)というのもモーラナイフのいいところだ。ナイフはパッと置いて別の作業をして、また手に取るということがよくある。とくに解体ではそんなことが多い。刃物を手に持ったまま、別の作業をするのが危険だからだ。合間の作業が長引いて「あれ、ナイフどこに置いたっけ?」ということもよくおこる。目立つというのはじつはアウトドアナイフの重要な機能である。

 見やすくて、持ちやすくて、よく切れて、安い。気になっていたモーラナイフを試用させてもらうのは、実際のところ楽しかった。

※服部さんのナイフレビューは次頁から!

ニジマス 「フィッシングコンフォートスケーラー098」を使用

 10月になれば、本州の渓流は禁漁になる。だが北海道の川は可漁禁漁が河川ごとに決まっていて、10月以降も釣りをできる川もある。晩秋の北海道は、銃猟とテンカラ釣りが同時にでき、獲物系登山者にとってのパラダイスである。目下の悩みは、北海道で野性繁殖しているニジマスが絶品であること。刺身を食べると「鹿を撃つ必要ないじゃん」と思ってしまうのだ(鹿の刺身もうまいけど)。
 

 晩秋のニジマスは繁殖のために渓流を溯っている。産卵のための栄養補給で毛バリへの反応も悪くない。ただ、曇りや雨で虫が飛ばないときは活性が低い。
 冷たい流れに耐えながら、数尾のニジマスを釣り上げることができた。フィッシングコンフォートスケーラー098の出番である。フィレナイフ形状のナイフで魚をさばくのは初めてだ。聞くところでは、フィレナイフとは不器用なアングロサクソンでも上手に魚をおろせるようにつくられたナイフなので、使いやすいということだ。実際、その通りだった。刃身が厚いことを細くすることで補っており、刃は抵抗なく、ぶれずに魚へ切れ込んでいく。そして苦労なく、きれいに三枚におろすことができた。包丁派としてはちょっと悔しいが、いいナイフだ。ただ、冊から刺身にする過程では、刃の薄い包丁の方にすこし分があるかもしれない。


モーラ・ナイフ/
フィッシング コンフォート スケーラー 098
¥3,000+税

ムキタケ  「マッシュルームナイフ」使用

 2015シーズンはキノコが全国的によくないようだ。今回の北海道でもそうだった。ようやく見つけた、キノコがムキタケ。6日間の山旅を通しても、数カ所でムキタケを見つけたにとどまった。
 ところでこのキーホルダーのようなキノコ専用ナイフ。何よりも先に目に付くブラシに、北欧のアウトドア仲間たちのキノコに対する真摯な姿勢が垣間見えて微笑ましい。ただ、もっとも洗練された機能は、ブラシではなく、丸く小さいのに握りやすいグリップと、先端が丸い刃の形状だと見た。狭いところにも手を入れやすく、窮屈な姿勢でもキノコを切り落とすのに手首に負担を感じない。美しく切り取られたキノコは必要があればブラシで処理すれば、いっしょに収穫したキノコを汚さず、すぐに料理に使えそうだ。このナイフ、春先の山菜に使ったらどうなのだろう。来年の楽しみが増えたようだ。


モーラナイフ/
マッシュルームナイフ レッド
¥3,400+税

エゾライチョウ  「コンパニオン」を使用

 エゾライチョウは、本州のライチョウとは違う種で、狩猟鳥獣。今年は数が多いようで、5羽確認して2羽仕留めた。実は今シーズンの銃猟最初の獲物がこのエゾライチョウ。ついつい興奮してしまい、自分の胸ポケットにコンパニオン オレンジが入っていることを忘れて、友人のナイフを借りてしまった。同行の友人が出したのは、なんとコンパニオンの緑。安くて良さそうだから購入したとのこと。
 鳥を撃ったときは、肛門から木の枝を突っ込み腸を引き出すように引っ張り出しておくと肉が傷まない。うまく引き出せずに腸が切れてしまった場合や、散弾が腸に入ってしまった場合は、肛門の下あたりを切り開いて腸を出し、洗っておく。
 ちなみにエゾライチョウの味は、ニジマスやエゾ鹿よりすこし落ちる。


モーラナイフ/
コンパニオン オレンジ
¥1,900+税

鹿の解体(止め刺しから) 「コンパニオン」、「748MG」を使用

 シーズン一頭目という焦りもあり、発情期の牡鹿(くさい)を撃ってしまった。止め刺しを大動脈でするなら、刃の長い748MGは使い勝手が良さそうだ。鹿の止め刺しは、おもに二通りの方法があるようだ。心臓のすぐ上にある大動脈を切るか、頸動脈を切るかである。大動脈を切るのが良いとされるが、毛皮の上から、上大静脈をうまくさけて、大動脈だけ切るのはむずかしい。静脈を切れば、心臓に入ってくる血流も止めることになり、心臓をポンプにした血抜きの意味が薄れるのではないかと思う。頸動脈を切る方が、効果的なのではないのだろうか? どちらにせよ、心臓が動いているうちに止め刺しをしないと血抜きの効果は薄い。この時はコンパニオンで頸動脈を切ったが、切れ味はよく、手間取ることはなかった。

モーラナイフ/
748MG
¥3,400+税

鹿の解体(内臓だし) 「コンパニオン」、「モーラ2000」を使用

 コンパニオンはどのような状況にも対応するオールラウンドな形状だ。鹿を解体していても、とくに使いにくいという場面はない。
 2000は肉への切れ込みを重視した形状で、刃先の曲線がコンパニオンより丸み帯びている。これが思いのほか使いやすい。この牡鹿は、背骨に弾が入り、止め矢としてさらに首を撃った。メスや子鹿なら止め矢は撃たずに止め刺しをするが、大きな牡鹿の場合は角が危険なので、止め矢を撃たせてもらうことが多い。
 内臓にはまったく傷が付いていない獲物だったので、内臓をきれいに出すのは必須。2000の緩やかなカーブは、腹を開く時や内臓の奥の筋を切るときに自然な手返しを生み、首尾よく内臓の内容物をまったく出さずに、処理することができた。

モーラナイフ/
コンパニオン オレンジ
¥1,900+税

鹿の解体(精肉) 2000を使用

 肉への切れ込みを考えて設計されたらしい2000。設計者の思惑通り、刃の切れ込みも、手返しもよく、解体作業をしようとすると、複数のナイフから無意識で手に取ってしまう。刃先の絶妙なカーブも解体に適している。
 四つ足動物の最高部位といえば内ロース。肉の量まで考えたら背ロースの方が上だろうか。どちらの肉も背骨に沿って、背骨を支えるように付いている。高級部位なのできれいに無駄なく取り外したい。モーラナイフ2000で内ロースと、背ロースをストレスなく取り外すことができた。

モーラナイフ/
モーラ2000
¥3,800+税


<総評>
 今回試用したものから、汎用ナイフとして1本選定するなら、私はモーラ2000を選ぶ。というか、実際に本州の狩猟解禁以降、このナイフを相棒に山を歩き、獲物の解体をしている。
 野外での雑作業をこなすのに十分な刃渡と刃の厚みがあり、切れ味と使いやすさ、刃の丈夫さのバランスがいい。動物の剥皮、解体、精肉をストレスなく行なえる。色は視認性が高いオレンジが気に入っている。

 もっともこの選択は、ごく短い時間、この猟期から使ってみた感想によるものである。今後、研ぎやすさや素材の違いによる錆やなまり具合などを、もう少し現場で調べてみたいと思っている(その事はまた報告したい)。なお、ステンレス素材のモーラは血の付いたまま放置しても、いまのところまったく錆は浮かんでいない。
 来シーズンの渓流が始まったら、フィッシュナイフかコンパニオンか。いずれを選ぶにせよ、モーラは総じて使いやすい。錆びないのに切れ味がよい。刃持ちも充分なほど硬度も高い。野外で使うナイフの購入を考えているなら、候補に加えてもいいだろう。

 これからは、山におすすめのナイフを聞かれたら「モーラを買っておけば問題ないでしょ」と口にすることになりそうだ。

服部文祥(はっとり・ぶんしょう)
登山家。作家。山岳雑誌『岳人』の編集者。1969年神奈川県生まれ。96年にパキスタンのK2(8611)を登頂したほか、剱岳八ッ峰北面、黒部別山東面などの初登攀の記録をもつ。自身の登山をより深めるため、食料を現地で調達する「サバイバル登山」を実践する

<撮影=速見 ケン>

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