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¥6,000で21W!? ANKERのソーラーチャージャー「パワーポートソーラー 」は災害時や野外で活躍するか?

2016.05.09 Mon

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者


 無補給の長期旅行や、災害などで自宅が停電したときに活躍するソーラーチャージャー。光を電気へと変換できるため、太陽が出ている限り世界のどこでも電子機器を充電することができる。

 ふだん使っているヘッドランプやコンデジなどの機器を、USB充電できるモデルで揃えていけば、電源が取れない状況や場所でもソーラーチャージャーから充電できる。

 今回試したのは、約¥6,000という価格のわりに出力が大きいANKER「パワーポートソーラー 21W」。1年のなかでも太陽高度が高く、これ以上の条件はない5月の快晴の日を選んで、野外で使うことの多い電子機器を充電してみた。

そして……いきなり結論。

①iPhoneの充電では大活躍! 
②1A程度で充電する電子機器にもいい感じ
③充電はパネルを静置して使うのがおすすめ
④¥6,000なら、買ってもいいかな
⑤でも、出力は21Wじゃなかった!

 なぜいきなり結論なのかと申しますれば、極力わかりやすく書いたけれど、電気的な知識がない方には難しくなってしまったから。それでも読むぜ! という方は以下をどうぞ。ソーラーチャージャーの購入を検討されている方には、有用だと思います!

ANKER「パワーポートソーラー 21W」

「パワーポートソーラー 21W」は収納サイズがA4の2/3程度で、パネルの出力は21W。2つのUSBポートを装備し、同時に2台の電子機器を充電できる。

 2016年5月9日現在、amazonでの販売者となっている「アンカーダイレクト」の価格は¥5,999。同程度の出力のほかのチャージャーと比べて、だいぶ安めになっている。

メーカーによれば「エネルギー利用効率は21.5%-23.5%と高く、2つの機器を充電するのに十分な出力を実現しました」とのこと。素材はポリエステル布地と、高耐久PETポリマーのソーラーパネルを採用し「どんな天候でも耐えられるような頑丈設計」と書いてある。しかし、パネルへの加重や折り曲げ、水濡れは極力避けた方がよいだろう。

 USBの規格なので出力電圧は5V。2つあるポートのうち、片側だけ使用した場合には最大で2.4A、2つのポートを同時に使用した場合には2つ合計で最大3Aの電流が得られる、ということになっている。

Anker独自技術の「PowerIQ」を搭載。接続したデバイスを認識し、最適な電流を送り込むという。

試した機器はUSBから充電できるiPhone、iPad 、ブラックダイヤモンドのヘッドランプ「リボルト」、オリンパスのコンデジ「TG-4」、そしてANKERのモバイルチャージャー「パワーコア20100」。

重量はパネルのみで実測503g。野外で使うことの多い電子機器への充電装備一式(モバイルバッテリーと付属のケーブル、iPhone、ヘッドランプ、コンデジ等のケーブル)を合わせても重量は931g。長い旅に持ち出す重量としてはギリギリ許容できる重さか。

スマホを充電

 最初に充電してみたのはiPhone5C。5Cのバッテリーの容量は1500mAhほどだが、購入から2年を経ているのでバッテリーの容量はもっと小さくなっていると思われる。

 パネルから直接充電をすると、5V・1A前後の電圧・電流で充電が開始された。約1時間30分で、ほとんど残量がない状態から96%まで充電!このあとも充電し続けると、2時間を待たずにiPhoneは満充電された。

ソーラーパネルは太陽光に対してパネルの向きが直角になるほど発電効率が高くなる。また写真ではiPhoneは日向に出ているが、直射日光の下に置くと高温になるため実際には日陰に置いて充電した。
電池残量が5%から96%になるまでに要したのは約1時間半。

電圧、電流は別売のチェッカーで確認した。左側の写真が充電開始時で右側が充電終了後。チェッカーのモニターの見方は電圧Vが左上、電流Aが左下、右下の「mAh」は充電を開始してからの積算電流量を示している。充電開始と終了時のふたつのモニターを見比べると、5V前後の電圧が安定して得られており、バッテリーの容量がない間は1A前後で充電し、バッテリーがいっぱいになるにつれ電流の値が小さくなっていることが読み取れる。開始と終了の間までには1200mAhの電流がバッテリーに供給されている。

モバイルバッテリーを充電

 テストに使ったモバイルバッテリーはANKERの「パワーコア20100」

 その名の通り容量は20100mAhと大容量で、充電に必要な入力は5V・2A。ネット上の情報ではiPhoneを5〜7回満充電にできるとのこと。

 空にしたパワーコア20100に充電を開始したのは午前9時。太陽高度が最も高くなる正午をはさんで15時まで、約6時間充電し続けた。

ANKERのリチウムイオンバッテリー「パワーコア20100」。上面の4つのインジケーターにより電池の残量が25、50 、75、100%のどのあたりかわかる

 パワーコア20100は2Aで充電することができ、パワーポートソーラーも最大で2.4A出力できる設計。そして、太陽光はこれ以上はないというほどの強烈さ。

 当然、上限の2A前後で充電され続けるのかと思いきや、チェッカーの値は1A〜2Aの間を上下したのち、なぜか0.5A前後で安定

 何度かケーブルを抜き挿ししてみて、その度に一度は2A前後の値をはじき出すものの、その後はやっぱり0.5A前後で安定する。そのまま15時まで充電した結果、パワーコア20100には4059mAhの電気が充電された。

 この値はパワーコア20100の容量のほぼ1/4 。0.5Aの4倍となる2Aで充電し続けられれば、太陽高度の高い時間内で満充電にできたはずだ。

 ネット上の「パワーポートソーラー21W」のほかのレビューでは、2A前後でモバイルバッテリーに充電できている人もいるようなので、このあたりはパネルかバッテリーの個体差、あるいはパネルとバッテリーの相性でも変わるのかもしれない(パネルも電池もANKERだから、相性良くないのは困っちゃうけど)。

 そして、覚えておきたいのがリチウムイオン電池の性質だ。リチウムイオン電池は充電できる回数に上限があり、数百回の充電で損耗してしまう。

 しかも、この充電回数は「充電した電流の総量」ではなく、「充電回数」でカウントされてしまうので、容量に満たない半端な充電をすると、本来のポテンシャルを引き出す前にバッテリーがへたってしまう。

 パワーポートソーラーと組み合わせる場合は、欲張って大容量で高価なモバイルバッテリーを使うより、安価な5000mAh程度の容量のバッテリーを使ったほうが無駄がないかもしれない。

こちらも、充電中はモバイルバッテリーを日陰に置いて充電。右側の黒いブツがモバイルバッテリー。

開始直後のチェッカー。0.9A〜2Aの周囲で電流が上下。機器に応じて最適な電流を認識して充電するという、PowerIQが迷っているよう。

結局、電流は0.5A前後で安定。9時から12時までで1918mAh、15時までで4059mAhを充電。


モバイルバッテリーから充電

 充電したパワーコア20100からiPhoneとiPadを充電してみたところ、それぞれ1.43A、2.35Aと安定した電流が供給された。充電時の電流の大きさや安定感にシビアな機器は、一度モバイルバッテリーに充電したのち、バッテリーから充電したほうが間違いがない。

充電時に2A程度の安定した電流が必要な機器や、不安定な電流を送り込みたくない繊細な機器は、一度モバイルバッテリーに充電し、バッテリーから充電したほうが安心感が高い。

そのほかの機器を充電

 オリンパスのTG-4、ブラックダイヤモンドのリボルトにはスムーズに充電できた。ただし、2A前後で供給されてよいはずのiPad(iPadは2Aで充電する設計がされている)へはなぜか0.5Aで充電。

 iPadの電池容量が11560mAhであること、約6時間の充電でモバイルバッテリーがやっと4059mAhぶん充電できたことを考えると、iPadは1日がかりでも半分程度の容量しか充電できないことになる。


TG-4はオレンジのインジケター、リボルトはグリーンのインジケーターが点灯し、スムーズに充電。しかし、iPadへの充電はなぜか0.5A

2つの機器を同時に充電
 それぞれ2Aでの充電が可能なiPadとパワーコア20100を同時に接続。ANKERの公表した値では、2つのポートを合わせて3A供給できるので、ポートひとつあたり1.5A前後が供給されるはずだ。

 ところが、実際に供給されたのはそれぞれのポートから1A前後。合わせても2A程度だ。この結果からすると、パワーポートソーラーの本当の出力は5V×2A=10W前後と考えたほうがいいかもしれない……と書いたところで気がついた。

 2ポート合計3Aが最大なら、5V×3A=15Wだから、このパネルの出力が21Wって表記がそもそもおかしい! しかも、改めて調べたら、ANKERはこのアイテムの出力を「21W」って言ってない! 

iPadとパワーコア20100を同時に接続。どちらを差し替えてみても、ポートひとつあたり1A前後でしか電流は流れなかった。 

 ややこしいので整理しよう。

 ANKERのサイトでの、このアイテムのモデル名は「PowerPort Solar」。どこにも21Wの文字はない。しかし、スペックの掲載先・購入先としてANKERサイトから飛ばされるamazonでは「パワーポートソーラー21W」となっている。

 この製品について調べる、あるいは購入しようとするとANKERが指定するamazonに飛び、そこには出力が21Wと思わせられるような情報が載っている。しかし、購入して説明書をよーく読むと、本当の出力が5V×3A=15Wだとわかる。しかーも、実際に計測すると5V×2A=10W程度の出力というのが実情のようだ。

 ……うーん、スレッスレですね!

 海外ではどうなのだろう、と本国サイトのレビューをチェックしてみると、

「21Wと勘違いさせる表記をして、買ってみたら15Wじゃねぇか! 15Wならよそんところが6ドル安いモデルを出してる。どうしてくれるんだメーン! バッドなプレイじゃないか、アンカー!」

 といった調子のレビューを発見。海外でも、状況は同じようだ。


まとめ

 ひと月程度、パワーポートソーラーをいろいろ試してみた結果、私は以下のように結論づけた。

①1A前後で充電するアイテムにはとても有効
②実際の出力は10W程度と割り切って使うべし
③バックパックにつけて行動中に充電するのは難しい

①について
 ヘッドランプ、コンデジなど充電時のアンペア数の設定が低いものはスムーズに充電できる。反面、2Aで充電するのが望ましいiPadや大容量モバイルバッテリーとの相性はイマイチ。ただし、時間をかかるけど充電は可能。

②について
 今回の私のテスト方法に瑕疵がなければ、メーカーの公表するスペックと体感できる性能にはずいぶん差がある、という印象。しかし、本当の実力が10W程度の出力で、一度に充電できるのが2つのポートを合わせて2A程度だったとしても、実売で6000円前後の価格なら、アウトドアで使うなら十分な性能だと思う。

③について
 この手のソーラーチャージャーの使い方として、バックパックにつけて行動しながら充電する、という方法が紹介されているが、この方法だと上から射し込む太陽光に対して、パネルが平行になってしまう。

 また、木の影の下や屈曲した道を歩くと、パネルへの光の当たり方がめまぐるしく変わり、供給される電流が変動して電子機器に負荷をかけてしまう。

 そしてこの製品に関しては、パネルの4隅にはハトメがああるものの、「パネルの4隅」であって「製品の4隅」ではないため、端子を収めたバッグ部分はパカパカ動いてしまう。

 しかも、このバッグ部分はベルクロ留めで、充電したい機器を入れるとすぐに脱落してしまう。布地も熱を吸収する黒なので、収めた機器も高温になってしまう。行動中に充電する場合は、なんらかの工夫が必要だ。

 行動中に光の当たり方によって出力が上下する点は、一度モバイルバッテリーに充電する、という解決策もある(これもバッテリーには負荷がかかってしまうけど)。これで、不安定な電流を電子機器に送り込むことを避けられるが、バッテリーぶんの重量増を考えるとハイカー向きではないかもしれない。

 以上、今回のテストをふまえると、スマホ、ヘッドランプ、コンデジの3つを携えるバックパッキングでは、キャンプ地などでパネルに直接機器を接続して充電する、という方法が重量と効率の面で現実的といえそうだ。

 パネルの重量は500gなので、単4電池(12g)と換算すると約42本分。行動期間中に電池を42本以上必要とする旅なら、電池の代わり、あるいはバックアップとしてソーラーチャージャーを携える意味がある。

 そして、アウトドア以上に活躍しそうなのが、相次ぐ自然災害の被災時だ。大規模な停電が起きた時も、通信のインフラは生き残ることが多い。スマホさえ充電できれば情報を取ることができる。また、電気が復旧したあとも、避難所のコンセントは電気を求める避難者の電子機器でいっぱいになる。

 被災時に通信手段と灯りを確保できること、気兼ねなく使える電源を得られることを考えたら、¥6,000の投資は安いものだ。
 
 ANKERに限らず、同程度の出力を持つソーラーチャージャーは災害への備えとして持っていたほうがいいだろう。

ANKER/パワーポートソーラー
¥5,999
(2016年5月9日現在)
サイズ:収納時28×16cm/展開時67×28cm
重量:503g(実測)

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