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ハイカーは「山タキビ」の夢を見るか?小枝を燃料にする「ソロストーブ」を試した

2016.06.06 Mon

 山でも焚き火をしたい。

 足元に転がる落ち葉や枝を集めて、テントの前で炎を育て、喉の奥へ酒を流し込むたびに視界に入る満天の星。

 そんな山タキビを渇望して早20年。
 
 昔は北アルプスでもハイマツをじゃんじゃん燃やして暖をとり、ライチョウなんかを丸焼きにして食べていたという。しかし、いまは山で焚き火の「た」の字でも口に出そうものならSNS炎上必至という窮屈な世の中である。

 ここ数年、カラダは焚き火を求めて山から沢へ、沢から川へ、川から海へと流れ下っている。山岳雑誌をメインに活動するライターとしては由々しき事態だ。

 そんなところに、小枝を燃料にする「ソロストーブ」がいいらしい、という噂が聞こえてきた。

 もしや、コイツなら誰からも文句を言われずにぼくの煮えたぎる山タキビ熱を満たしてくれるかもしれない。

 いやいや、そんなちっさいステンレスの塊で20年来夢見た山タキビ熱を鎮火させられるわけなかろうもん……

 半信半疑の気持ちで、ソロストーブをパックに詰めて、新緑の低山へ向かった。


コイツがアメリカのテキサスで生まれた「ソロストーブ」。大きさや材質でいくつかのモデルがあり、もちろんモデルごとに名前がちがうが、コイツは「ソロストーブ社」の「ソロストーブ」というモデル。ちょっとややこしい。小枝や落ち葉、松ぼっくりなどを燃料にするポータブルウッドストーブで、小さいながらも効率的に強力な焚き火を育てられるというが、本当か!?

ソロストーブ ¥8,000+税
重量:約255g
材質:ステンレス(SUS304)、ニクロムワイヤー
内容:本体、ゴトク、収納袋、日本語説明書

 収納サイズは直径10.8㎝、高さ10㎝。重量はやや重めで約255g。それは熱に強く錆びにくいステンレス二重構造のためだが、ガス缶や液体燃料をカットできる利点を考えると気にならない重さである。


まずは燃料集めだ。「こんなところにタケノコがあったのか」と通い慣れた山道での新たな発見。薪を集めるということは、さらに自然の中に一歩踏み込む行為なのである。さて、このように3種類の太さの薪を用意した。

財布の中にあったコンビニのレシートを1枚焚き付けにして、束ねた極細の枝を燃す。


本体下部の穴から新鮮な空気を取り入れ、燃焼室に上昇気流が生まれる。この煙突効果で一発着火!


あとは少しずつ太い枝をくべていく。ここまでくれば、あとは調理の準備をしたり、本を読んだりのんびり過ごせる。しかし、炎を育てる親心が芽生え、ついついちょっかいを出したくなってメシどころではない。おお、山タキビ欲求が満たされていく〜。


ソロストーブ本体を内側にスタッキングできるクッカー、「ポット900」を火にかけ湯を沸かす。約900mlの水を10分程度で沸騰できた。ガスやガソリンストーブに比べると時間はかかるが、薪が爆ぜる音をBGMに酒を食らえば、そんな時間こそ愛おしい。なによりも薪で沸かしたお湯は、どことなく柔らかく、重みがあって、コーヒーや焼酎お湯割りがめちゃんこうまいのだ。

ソロストーブ/「ポット900」
¥4,500+税
重量:約220g 容量:900mℓ
材質:ステンレス(SUS304)


ゴトクは径の1/5くらいがオープンになっていて、そこから薪をくべることができる。つまり、コッヘルを載せたままでも火力を強くできるというわけ。


おき火でイワナやタケノコを焼くことができるのも、ネイチャーストーブの大きなメリット。次回は小さな金網を用意したい。

 燃料は細くて短い枝で、煙突効果による上昇気流で薪はどんどん燃えていく。すなわち火の持ちが悪い。じゃんじゃんくべないと一定の火力をキープすることは難しい。

 だがそれは、デメリットではない。次はどこの隙間にどのくらいの太さの薪を投入すれば効率的で理想的な火力を得られるか? という疑問を常に抱えることになり、焚き火を育てるプロセスを無意識のうちに勉強できるのだ。

 また、その忙しなさがヒマなテント生活を充実させてくれるのである。この手間は、山に泊まる楽しみがひとつ増えたととらえるべきだろう。

 さて、本体の内部構造をみてみよう。燃焼室の底にはニクロムワイヤーが網状に張られ、燃え尽きた灰のみが下へ落ちる仕組み。

 本体はステンレスの二重構造。この二重構造がミソである。

①燃焼室は空気層によって囲まれている。
②空気層で熱された空気が内側の上部に見える複数の穴から再び燃焼室へ送り込まれ二次燃焼を促す。だから薪はキレイに燃え尽き、サラサラの灰となる。
③底面、側面に空気層があるので外へ熱が伝わりにくく、地面の草が燃えるという心配がない。スムーズな燃焼はもとより、安全面にも十分配慮されている構造である。

 乾いた薪があるトレイルや沢で使うなら、毎日の煮炊きの熱源として活躍するポテンシャルが、ソロストーブにはある。

 熱効率も高いから、裸火で調理をするよりもずっと自然へのインパクトを小さくすることができる。

 しかし、あっけらかんと「これ楽しいぜー」と誰にでも推奨できる道具ではない。自然の中で裸の火を扱うということは責任重大である。特定の人を特別扱いするのは嫌いだが、山や森で使う場合に限って、自由に火を操れる人のみが手にすべき道具だ。

《ソロストーブ使用のココロエ》
・燃え移りそうな枯れ草や枝を地面から取り払う。
・風が強い日は、ことのほか注意すること!
・万が一に備え、消火用の水、もしくはビールを手の届くところに置くべし!


薪が少ないフィールド、雨の山へ向かうときは、別売のアルコールバーナーを予備として持っていくといいだろう。ソロストーブ本体を風防&ゴトクとして使うことができ、内側にぴったりスタッキングできる。
ソロストーブ/「アルコールバーナー」
¥2,500+税
重量:約99g 材質:真鍮


風が強いときは別売の風防があると心強い。火の持ちもよくなり、少ない薪で効率よく調理ができる。使わないときはまな板にもなるしね。
ソロストーブ/「ウインドスクリーン」
¥2,500+税
重量:約209g 材質:アルミニウム

 これまで人間のそばにはいつも火があった。ぼくたちは火とともに生き、進化してきたのだ。裸の火を使わなくなったのは、ここ半世紀くらいのことである。

 火を操れなくなった現代人は、これまで火の周りで行なわれてきた肉体の進化を放棄したことになる。たとえば、祖先がそうしてきたように毎日薪から火を育てることを続けていったら、皮膚は鉄のように固くなり、素手で炎を持てるように進化していくかもしれない。

 いまこそ火を取り戻し、祖先が続けてきた人類の進化にのっかりたい。ぼくたちで肉体の進化を止めてしまっていいのか?という後ろめたい気持ちもある。

 ボタンをポチではなく、足で薪を集め、手でバキバキ折って、肺から空気を送り、ときには火傷をしながら火と向き合っていきたい。町でも山でも家でも、どこででも。 

 だから、ソロストーブなのだ。

問い合わせ先
アンプラージュインターナショナル
TEL072(728)2781

文=森山伸也
4年前に北信の山村へ移り住んだアウトドアライター。著書『北緯66.6° 北欧ラップランド歩き旅』(本の雑誌社)
Twitter:@moriyamashinya
Instagram :@shinya_moriyama

写真=大森千歳

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