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【GSI OUTDOORS②】放浪の末に出会ったホーロー・クッキングツール

2021.07.01 Thu

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森山伸也 アウトドアライター

 1日のはじまりはポットの水を火にかけることからはじまる。

 家にいてもテントにいても、目覚めのあたたかい一杯を煎れるために。用を足し、犬に餌をやって顔を洗い、豆を挽くとポットがコトコト鳴りはじめる。人類が火を手に入れてから何万年と繰り返してきた崇高なデイリー・ルーティン。あるときは薪ストーブで、あるときは流木で、またあるときはシングルバーナーで。

 ある日、妻のつぶやきがその単調な日課に変化を与えた。

「ホーローでつくると、コーヒーも味噌汁もなんだかまろやかだね」

 そう言われてみると、そんな気もしないでもない。

 ホーロー(琺瑯/英語でエナメル)とは、金属の表面にガラス質の釉薬を焼き付けた素材のこと。サビやすいけど丈夫な金属と、もろいけれどうつくしいガラスを結合させることで、両者の弱点を補いつつ、長所を伸ばしたハイブリッド材質である。その歴史は古く、あの煌びやかなツタンカーメンの黄金マスクもホーローだったという。
 
 装飾品に用いられていたホーローは艶やかで鮮やか。シルエットは西洋チックで、鉄瓶が日本人ならホーローは欧州人だ。金属溶接で生じた角はガラスでコーティングされ、ふくよかで妖艶な金髪美女を彷彿とさせ、薪ストーブの上でコトコト踊るその容姿にうっとりさせられる。

 それでいて、コーヒーや料理をおいしくしてくれるというならこれ以上のクッキングツールはない。

 これまで電気ポット、鉄瓶、銅製ケトル、アルミポット、ステンレスヤカン……さまざまな湯沸かし器具を手にとり、使ってきた。ついに、いまホーローに落ち着きつつある。

 まさに「放浪」→「さすらい」の末にたどり着いた「ホーロー(琺瑯)」なのである。

 では、わが家のホーロー・ライフの一部をここで紹介しよう。
 
 

———湧水で極上コーヒーを煎れる———

 10年前に首都圏から過疎化がすすむ雪深い山村へ移り住んだ。

 山に住んでいながら海の向こうから運ばれてきたガスや灯油を使うのはナンセンスなので、熱源はなるべく森から調達している。暖房と煮炊きは、薪ストーブの出番となる。

 ホーローのフライパンに生豆(今回はパプアニューギニア産)をざっくりと敷き詰め、薪ストーブの中へ。熾火でじわじわゆっくりと、フライパンを振りながらローストする。ホーローのフライパンは焦げにくく、豆が転がりやすく、熱が均一に満遍なく伝わるようで、焙煎には調子がいい。

 熱伝導がいいというのとはちょっと違う。ガラス+鉄+ガラスの3層を通して表面に伝わってくる熱に厚みがあるというか、ずっしりとした熱を食材へ均一に伝えられるのだ。
GSI/ジャバミル 6,380円(税込)豆の粗さを調節できるセラミック素材の円錐形グラインド構造。269gとさほどな重さでもないので、山でも川でも気軽に携帯できる。

 剥がれ落ちるチャフ(表皮)を息で飛ばしながら、お好みの加減まで焙煎。熱々の豆をザルにあけて風通しのいいところで冷ます。いつもは電動ミルを使っているが、極上コーヒーを目指すべくGSIのジャバミルを使用した。ゴリゴリと手に伝わる削り音が心地よく、豆の香りが加速する。

 荒く挽いた豆をパーコレーターのバスケットへたっぷり投入。これでだいたい1ℓのコーヒーを煎れられる。沸騰したお湯が中央の筒から湧き上がって、コーヒー粉に満遍なく降り注ぐシンプルな抽出システムだ。

 蓋についた透明ツマミに吹き上がってくるお湯が、お好みのコーヒー色に染まったらできあがりだ。

 沢水を引いている自宅の水道水でもよかったが、極上の一杯をめざすべく裏山の湧水を汲んできた。一年を通して一定の水温を保つ豪雪地に湧く清水である。ブナの原生林に濾された湧水は、雑味や角がなく、甘味をともなって喉をスッーと気持ちよく流れる。

 一般的な抽出方法であるペーパードリップに比べるとパーコレーターは、所作も風味もワイルドだ。挽いた豆を入れて火にかけるだけ。雑味も旨味もえぐみもすべて隠すことなく現れる。抽出されたコーヒーは直火で加熱されつづけるため、酸化が進み豆本来の味を楽しめないというコーヒー愛好家もいる。だが、ざっとお湯をかけただけのシンプルな工程から得られる豆の香りと味は、悪くない。同じ豆でもまったく違う飲み物と化し、ときどき猛烈に口が、鼻が欲する。毎日は嫌だけどときどき会いたくなる癖の強い友人と似ている。

 その丈夫さと手軽さから、アウトドアで用いられることが多いパーコレーターだが、薪ストーブが稼働する季節を中心に、わが家ではコーヒーポットのスタメンとして定着しつつある。

 ホーローのカップは、飲み残した一杯をそのままストーブに乗せてあたためたり、一杯だけ熱々のカフェオレをつくったりできるので、なにかと便利である。
 
 

———食べずに夏は迎えられないタケノコ汁———

 冬になると4mもの積雪に閉ざされるわが村は、雪解けから6月いっぱいまで裏山が山菜パラダイスとなる。

 ウド、ゼンマイ、ウルイ、タラノメ、ワラビ、コシアブラ、アケビの芽……。なかでもこれを食べなきゃ暑い夏は乗り越えられないと断言する山の恵は、雪国でタケノコと呼ばれるネマガリダケだ。

 皮がついたまま炭で焼いてもいいし、皮をむいて天ぷら、汁や煮物にももってこいの万能高級食材である。

 タケノコは小さすぎても、大きくなりすぎてもよろしくない。ちょこちょこ山へ通いつつ、タイミングを見極めてタケ藪へと突っ込む。炭鉱夫のためにつくられたリーバイス・ジーンズに穴が開くほど過酷な藪漕ぎ山行ではあるが、もっとも充実感に満たされる山菜採りだ。

 採ってきてからの処理がまた大変で、ひたすら皮を剥き、食べられる柔らかいところを包丁でカットする。ビールをぐびぐびやりながら西陽に照らされ手を動かすと、いよいよ暑い夏がやってくるという覚悟ができる。

 わが家のタケノコ汁の具材は、タケノコとじゃがいも、サバ缶(水煮)、自家製味噌のみ。妻いわく、タケノコからいい旨味が出るので、昆布や煮干しなどの出汁はいらないのだとか。

 ホーローのボウルによそって、炊き立ての白米と交互に口へかきこむ。
 
 ああ、なんてうまいんだ。この瞬間、長く厳しい冬の除雪の苦労が報われる。ホーローの器のいいところは、直接火にかけられることだ。電子レンジを使うことなく、冷蔵庫に保管しておいた料理や白米を薪ストーブの上であたためられる。火が近くにあれば、いつでも熱々の食べ物、飲み物をおいしくいただくことができるのだ。
 
 

———和製ハーブティー・クロモジ茶———

 最近、ハマっているのが山から採ってきて煎れるクロモジ茶だ。クロモジとはクスノキ科の落葉低木で、玄関から徒歩5分圏内で手に入る身近な植物である。香りの強い樹木で、和菓子などに付いてくる菓子楊枝の材料として用いられている。

 採ってきたクロモジをタワシでゴシゴシ水洗いし、名前の由来となる黒い斑点を落とす。細い枝の部分をハサミでカットし、2週間天日干しにする。

 バスケットを取り出したホーローポットに乾燥クロモジと水を入れて、薪ストーブで30分〜1時間ほど煮出す。すぐに家中が柑橘系の芳香で満たされる。アロマオイルとしても人気のようで、この香りだけでも火にかける意味がある。

 GSIのパーコレーターは、クロモジ茶にもってこいの構造だ。やや径が大きめの茶こしが付いているのでストレスなくカップに注げて、風味もまろやかに。出費ゼロ円の和製ハーブティー、ぜひお試しあれ。
 
 

———愛用しているGSIのエナメルキッチンセット———

GSI/パイオニア16Pキャンプセット 26,400円(税込)100年以上前から多くの人々に愛されてきた4人用のホーローキャンプセット。西部開拓時代に広まったというパーコレーター、鍋、フライパン、ディナープレート4枚、ボウル4枚、カップ4個。丈夫で加工がしやすい鉄にホーロー加工を施したベストセラーだ。プレート、ボウル、カップ、パーコレーターは単品での販売もあり。

GSI/ホウロウコーヒーパーコレーター8cup 5,280円(税込)カラー:ブルー、フォレストグリーン、ブラック サイズ:φ14.8cm×H23 容量:1.2ℓ
GSI/ホウロウマグカップS 990円(税込)カラー:ブルー、フォレストグリーン、ブラック サイズ:88×82mm 容量:350㎖ 重量:114g
GSI/ホウロウマグカップL 1,540円(税込)カラー:ブルー、フォレストグリーン、ブラック サイズ:105×97mm 容量:700㎖ 重量:162g
GSI/ミキシングボウル 990円(税込) カラー:ブルー、フォレストグリーン、ブラック サイズ:φ15×H6cm 重量:96g
GSI/ミキシングボウルL 2,200円(税込)カラー:ブルー、フォレストグリーン サイズ:φ24.6×H10cm 重量:460g
GSI/ディナープレートS 1,320円(税込)カラー:フォレストグリーン、ブルー サイズ:φ21.6cm
GSI/ディナープレートL 1,540円(税込)
カラー:フォレストグリーン、ブルー サイズ:φ25.5cm

プレート、ボウル、カップのリムにステンレスを巻いている。ぶつけても欠損しにくく、熱いものを入れてもくちびるが火傷しにくい工夫だ。

 薪ストーブのある山の生活は、キャンプのそれに似ている。

 薪を山から集めてきて、毎朝火を熾し、その熱源に家族が集まり、調理をはじめる。寝るときはケトルのお湯で歯を磨き、湯たんぽに注ぎ、朝はそれで顔を洗う。火を中心に生活が回っていく。

 このパイオニアキャンプセットは、焚き火を中心に暮らすキャンプシーンを想定してつくられたクッキングツールだという。ならば、山の生活にマッチしないわけがない。
 
 一世紀以上変わらないクラシックで艶々しい普遍的なデザインは、キャンプの粋を飛び越えて、日常の風景に置きたい生活道具である。

 

 (構成・文=森山伸也、写真=大森千歳)
 

■商品に関する問い合わせ先:エイアンドエフTEL.03-3209-7575 
 


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