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【A&F ALL STORIES】北極圏の荒野が産んだテント一筋「ヒルバーグ」

2018.10.26 Fri

森山伸也

森山伸也 アウトドアライター

2013年、北極圏の孤島アイスランドを北海岸から南海岸へ1か月かけて歩いて縦断。寝床は2人用の非自立テント、ヒルバーグのナロ2GT。トンネル構造で風に強く、前室が広いモデルだ。
 1972年から今日まで約半世紀に渡り、こだわりのある作りと斬新なデザインで世界中のアウトドアズマンを虜にしてきたテント専門メーカー「ヒルバーグ(HILLEBERG)」。ヨーロッパを旅していると必ず見かけるほど、欧州では知名度が高く、多方面から信頼され、誰もが憧れるテントメーカーである。

 A&Fがディストリビューターとしてヒルバーグの取り扱いをはじめたのが2003年。ヒルバーグが日本にやってくるまでの経緯をA&Fの赤津孝夫会長に聞いた。

「アウトドアテントのトップメーカーとしてヨーロッパで地位を確立したヒルバーグは、アメリカへ市場を拡大しようとして2002年のORショーに出展していました。わたしの親友でもあるフェザークラフトの創設者ダグラス・シンプソンが、ずっとヒルバーグを愛用していて『これはいいテントだよ』と、創設者であり当時社長であったボー・ヒルバーグを紹介してくれたんです」

 赤津会長はテントを目にする前に、ボー・ヒルバーグの人柄からブランドの実直さを感じたという。
父が作ったテントでくつろぐヒルバーグ一家。右が創設者のボー・ヒルバーグ。左から妻のレネー、娘であり現CEOのペトラ、息子のロルフ。こうしたファミリーキャンプがヒルバーグの原点である。
「ボーとはじめて会ったとき、生粋のアウトドアズマンだなと思いましたよ。北欧人らしく大柄で、物腰が柔らかく、喋り方からも筋の通った律儀な人間性を感じました。情熱を持ってテント一筋で生きてきた人なんだなと。それからテントを見せてもらって、それは確信にかわりましたね。ガイラインをひとつとっても、独創的で作りが繊細。アメリカのブランドはどこも似たようガイラインを使っているけど、ヒルバーグは赤と白でスタイリッシュに統一され、コンパクトな自在パーツもオリジナリティーが溢れていた。なによりも驚いたのが、テントの生地がツルツル、テカテカしていたこと。その生地はシリコンで被覆したKerlonという素材でした。その表面にナイフで切れ目を入れて、引っ張ってみろって言うんです。いくら引っ張っても切れないじゃないですか。おお、これはすげーって。軽さと強さを持ち合わせた、これまでにない新しいテントに出会った感じがしました」

 とはいえ、ヒルバーグを輸入するにあたり、不安要素はいくらかあった。値段は少々高めで、寒いフィールドを想定した4シーズンテントばかり。日本の市場は受け入れてくれるだろうか? そんな危惧を払拭するかのように、赤津会長はみずからヒルバーグの実力を肌で感じるため、極北のアラスカを子どもたちと旅したことがある。

「2005年の夏だったかな、息子と娘を連れて、写真家星野道夫さんの足跡をたどるためアラスカを旅しました。3人用の大きいヒルバーグを持って。釣りをしたり、パイプラインを見に行ったり、デナリ国立公園を歩いたり。キャンプをしながらアラスカを一周しました。これまでのテントは、雨に降られると狭い空間に閉じこめられ、調理さえもままならないものでした。だけど、すぐに立てられて前室が広いヒルバーグは、家のようにくつろげて、前室で3人で食事ができました」
ヒルバーグの故郷、スウェーデンを代表するロングトレイル、クングスレーデン450㎞を歩く。テントは2人用モデル、ナロ2GT。広い前室にバックパックやシューズなどの荷物を置けて、調理もらくらくできる。
 テントの構造上もっとも特徴的だったのは、フライシートとインナーテントが一体になっていることだった。

「インナーテントはフライシートに常時吊り下げられるかたちで、誰が張ってもふたつの生地の間に空間ができる構造でした。だから雨が降ってもインナーテントはドライで、室内まで雨が入ってこない。外気温が低くても、その空気層があるおかげでテントの中は比較的あたたかい。暑い日は複数のベンチレーターで高い通気性を確保できる。どんな天気でも快適に過ごすことができて、よく考えられているテントだなと感心しましたね」
シリコンで被覆したKerlonというオリジナル生地は、雨や風を弾き、摩擦にも強い。縫製箇所は、シーム・シーリングなしでも雨が染み込んでこない独自の技術を採用している。だから経年劣化を心配することなく、長持ちする。
 いいものは、熱意を持って伝えれば、国境をも越えて広がる。そんなA&Fのセオリーが実を結び、いまやヒルバーグは全モデル53点(タープやビバノラックなども含む)を展開する主力ブランドとなった。

「ブラック、レッド、イエロー、ブルーと4つのレーベルに分けて、ユーザーが選ぶ基準をわかりやすくカラーで表示しています。もちろん市場に出回っている山岳用軽量テントのようにもっと軽くすることはできます。だけど、そうすると耐久性が落ちてしまう。北欧スウェーデンを舞台に、ひとつの機能に偏らない絶妙なバランスを考えて、作られているテントなんです」

2014年夏、ノルウェーの北極圏、ロフォーテン諸島をキャンプ道具を背負って100㎞ほど歩いた。テントは2人用の自立型、アラック。砂礫のような不安定な地面でもポールを3本ドーム型に組んで、耐久性を保てるモデルだ。
 ユーザーが手に取るうえでネックになるのがその値段だ。ソロテントを一般的な国産モデルと比べてみても、2倍以上の価格である。でも、それにはちゃんと理由があって、聞けば誰もがうんうんと納得するこだわりの製造工程が背景にある。

「スウェーデンからバルト海を挟んだ対岸、バルト3国のエストニアに自社工場があります。エストニアは職人気質の人が多く、手先の器用な人がたくさんいて、日本のものづくりの風土と似ています。ヒルバーグのオリジナル生地Kerlonは、ツルツルして薄いから扱いにくく、縫製に時間がかかる。それに縫製の職人は、ひとつのテントにひとりという徹底ぶり。最後に職人の名前の入ったタグをインナーテントの内側に縫い付けます。職人ひとりひとりが、自分の仕事に責任感を持って、ひと張ひと張に命を注ぎ込んでいます。さらにそのあと検品作業があって、検品した人のサインもタグに入る。この全行程を動画で見たことがありますが、ここまで製造工程を丸裸にできるメーカーって少ないですよね。多くのメーカーは下請けの工場に頼っていますから」

 ヒルバーグの生まれ故郷スウェーデンに比べ、日本の夏はジメジメとして高温多湿。氷河に押しつぶされたのっぺりしたツンドラとは打って変わって、日本の山岳地帯は急峻で標高も高い。それゆえ、日本のフィールドにあった新たなモデル開発をリクエストした。その要望がカタチになったのが、ニアックやエナンなどの3シーズン用モデルだ。

「インナーテントをメッシュ地にしたモデルも作ってほしいと、ずっとリクエストしてきました。でも、本国の開発者はインナーをメッシュにしたらフライシートの結露がメッシュを通して室内に落ちてくるという。たしかにその意見はもっともです。しかし、何度かお願いするうちに、フライシートを短くすることで通気性を高め、結露を軽減したインナーメッシュのテントを開発してくれました。アメリカへ進出したことをきっかけに、山だけじゃなく、いろんなフィールドで使われることを想定しないといけない。南国のビーチへ持って行きたい人もいるでしょう。ヒルバーグのもうひとつのよさは、そういった幅広いユーザーに応える柔軟性が備わっていることです」
上段左:大人8人が円になって寝ることができるヒルバーグの最大テント、アトラス。上段右:日本からのフィードバックで誕生した3シーズン用テント、ニアック1.5。フライシートが地面と接していないところがポイントだ。下段:非自立型3シーズン用テント、エナンのメッシュインナーと本体。
 本国を含むヨーロッパや北米では、トレッキングや高所登山、スノーキャンプなどでおもに愛用されるヒルバーグだが、日本では昨今のキャンプブームが追い風となり、新たな使い方が話題になっている。

「各国の軍隊や、極地遠征で使われるベースキャンプ用の大きいテントが、日本ではオートキャンプに使われているんです」

 2016年秋、日本ではじめてヒルバーグのオーナーズミーティング「HILLEBERG Roundup 2016」が開催された。全国からヒルバーグユーザーが280人以上集まり、テントの数は100張を超えた。このイベントにあわせて来日した創設者ボー・ヒルバーグの娘で、現CEOのペトラ・ヒルバーグは、会場のある光景を見て驚いた。「アトラスがこんなにたくさん立っているのは見たことがない!」と。
2016年に富士山の麓、ふもとっぱらキャンプ場で開催された「HILLEBERG Roundup」(photo by sumi⭐︎photo)
 アトラスとは、大人8人が横になれるヒルバーグ最大の自立型テントだ。高所登山や軍隊のベースキャンプとして開発された大型で頑丈なアトラスが、平和なファミリーキャンプ場に何十張と並ぶ風景に度肝を抜かれたのだ。

 山岳地帯や荒野といったフィールドへ背負って持っていき、あらゆる気象条件下でも快適に過ごせる空間を作り出すヒルバーグのテント。全天候に対応する本格的な機能を持ち、独創的でユニークなデザインのテントは、目が肥えた日本人キャンパーたちの目に止まった。

 15年の歳月を経て、ヒルバーグは日本のアウトドアに溶け込むどころか、日本の気候や風土、日本のキャンプシーンから大いなる刺激をもらい、これまでにないベクトルへ成長しようとしている。

 
【写真=大森千歳】 
 


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