• 道具

【GSI OUTDOORS①】一見、雑多にも見えるGSIのラインナップ。でも、そこには太くてまっすぐで明確な一本の柱が貫かれていた。

2021.06.18 Fri

PR

宮川 哲 編集者

 1gでも軽量化を追求したい。軽さは正義である。

 もし、そう思っているなら、GSIは選ぶべきじゃない。GSIの商品が発しているメッセージは、たとえば数ミリのくぼみに生命を懸けて究極に挑むような人たちには、決して響かない。でも自然とともに在り、その恵みを享受しながらゆるりと生を楽しもうという心持ちには、必ずや応えてくれる。
バガブーキャンパーのポットに記された“GSI OUTDOORS”の名とロゴマーク。ポットの濃紺のカラーリングは、バガブーシリーズの証。
 心に余裕を持つ。それは、人生を豊かにするための道筋でもある。心の余裕は人を寛容にする。いま抱えている問題が、荷物が多少重たかろうがそんなことは関係がない。持て余した時間を愛しみ、上手に過ごすために敢えての労をも楽しむ。それが心の余裕である。そんな豊かな気持ちをほんの少しだけ手助けする。GSIには、そんなところがある。

 GSIとはどんなブランドか。正式名称は、“GSI OUTDOORS”である。1985年にアメリカ西海岸のサンディエゴで誕生した。立ち上げたのは、ダン、イアン、そしてキャシー・スコットの3人。彼らは自然豊かなカナダのブリティッシュ・コロンビアで生まれ育った。創業当初は、メキシコからホーローの食器を、イタリアからエスプレッソのコーヒーメーカーを輸入する小さな代理店だった。
GSIの創業者のひとり、イアン・スコット。彼らはまだまだ仕事も遊びも現役のまま。この写真は数年前に行った生まれ故郷のブリティッシュコロンビアにあるウェストコーストトレイルでの一場面。ながーい梯子の中程にいるのもイアン。本人のおちゃめな様子がうかがい知れる。
 ちなみにエイアンドエフがGSIを扱うようになったのは、現会長の赤津孝夫さんがアメリカのアウトドア用品の展示会で、イアンとダンのふたりに出会ったことがきっかけ。1997年のことだ。この当時、彼らはまだ自分たちでオリジナルの製品をつくっていなかった。上記のように輸入がおもな生業となっていたわけだが、赤津さんが目をつけたのは、前出のエスプレッソメーカーだった。

 この時代、アウトドアでのコーヒータイムといえば、ドリップコーヒーだったり、パーコレーターだったりが「常識」だった。でも、彼らが選んだのは敢えてのエスプレッソ。そのこだわりを見て、こんなにも洗練された時間を楽しんでいるのかと心が躍った、と赤津さんはのちに語っている。カナダ出身の彼らにはフランス流の、ヨーロッパ流の、当時のアメリカにとっては「新しい」スタイルを意識的に持ち込んでいたのである。
ミニエスプレッソメーカーは、創業のむかしからGSIの主要な商品のひとつ。上の画像は2007年のGSIの商品カタログに掲載されていたもの。なんと、エスプレッソだけで6つものラインナップを揃えていた。
 ここに、GSIが創業当時から持っていた変わらぬコンセプトが見て取れる。つまり、「アウトドアでの食の時間を楽しむ」という、単純明快な考え方だ。アウトドアという活動は、登山であれ、フィッシングであれ、カヤックであれ、トレイル歩きであれ、アクティビティそのものが目的となり、食は二の次となってしまうことが多い。自宅の食卓とはちがってアウトドアなんだから適当なものを食べていればよいのだと。とくに当時はそんな傾向が強かった。でも、敢えてその逆を目的とする。せっかくのアウトドアなんだからおいしいものにこだわりを、という思考である。

 言い換えるならば、「アウトドアグルメ」。いまやこれが、GSIのブランドコンセプトとなっている。アウトドアグルメを実現する、という明快なコンセプトを貫くことによって、GSIはその存在感を高めていく。だから、流行り廃りは気にしない。たとえば、チタンは軽くて丈夫なことから一般的にはコッヘルの素材としてもよく使われるようになったが、彼らは使わない。なぜなら、チタンは熱伝導率がよすぎてコゲ付きができる。それは問題である。おいしい食事と引き換えにするのが数グラムの軽さだなんて、それはGSIが求める本質からは外れてしまっていると。

 輸入の代理店だったGSIは、2000年ころになるとオリジナルのクッキングウェアの製造を本格的にスタートする。ちょうどそのころ、GSIはサンディエゴからワシントン州のスポケーンという町に本社機能を移転。とてつもなく大きな古いスーパーマーケットを買い取って、企画開発の拠点としたのだった。ここは故郷のブリティッシュ・コロンビアにも近く、ロッキー山脈のお膝元にもあたる。アウトドア好きも多く、地元採用の従業員もたくさんいた。アウトドアのギアを生み出すにはもってこいの場所だった。
エスプレッソメーカーと同様に、ホーロー、つまりエナメルウェアもGSIのメインギア。こちらは2005年のカタログに掲載されたものであるが、その商品数にはビックリ。全部で52ページのカタログのうち、8ページをエナメルウェアに割いていた。全商品群のおよそ15%強にもなる! もちろん、これは当時のアメリカ本国での話だが。
 自分たちのアウトドアへの強い愛情と経験の深さは、製品開発への情熱を高め、いいアイデアへとつながっていく。好きなモノを好きなだけ生み出すちょうどいい環境に恵まれたわけである。それはおのずと製品の仕上がりにもいい影響を与えていく。ユーザーたちの信頼を得た商品はどんどん数を増やし、気がつけば、アメリカのアウトドアショップの棚にはなくてはならないブランドへと成長していった。

 GSIがわかりやすいのは、そのブランドコンセプトも然ることながら、商品群の明確な区分けの方法にもある。使うシチュエーションを考え、アウトドアグルメを追求するためには、それぞれの場合にどんな仕様が必要なのかを考え抜いている。たとえば、以下のように。

「ハルライト」は、湯を沸かすことに特化したクッカー群。アルマイト加工を施したアルミ製で、必要のないものは極力省く。湯沸かし時にコゲ付きは起こり得ない。よって、コーティング加工も不要となる。そのいっぽうで「ピナクル」には、敢えてのテフロン加工を施している。これは、山の上で湯を沸かし、油を敷いて「調理」をするためのクッカーだから。

「バガブー」シリーズは、複数人でのキャンプがベースのテーマとなり、より調理に適したクッキングセットがその売りとなっている。当然ながら、こちらもテフロン加工済み。ちなみに、アウトドアジャンルでのクッカーで、デュポン社の基準を満たした証となる「Teflon」のシールが貼られているのは、このGSIのみ。あまり知られていないことだが、これも同ブランドの強いこだわりの現れである。
もちろん、似た商品は多々あるものの、アウトドア用のギアのなかで「Teflon」を謳えるブランドは多くはない。そんななか、GSIではきびしいテフロンの基準を自社の製品に取り入れている。また、このブランドがこだわっている点は、ナベ・カマの使い分け方にもある。右写真はそれぞれの特徴を比べたもの。左上がピナクルで「山の上で調理をするため」の仕様(アルマイト加工のうえにテフロンコーティング)、右上がバガブーで「大人数での調理」を想定(焦げつき防止のノンスティック加工およびテフロンコーティング)、右下が「湯を沸かすため」のハルライト(こちらは、アルマイト加工のみ)、左下がグレイシャーで「焚き火」仕様(コーティングのないステンレス)となっている。
 そして、「グレイシャー」シリーズはステンレスの商品群。ズッシリと重くヘビーデューティーなクッカーのセットだ。ならば重さは気にせず、カヤックに一式を詰め込めばいい。浜辺で気にせずに焚き火にかけることもできる。

 こうしてそれぞれの製品の落ち着きどころを見ていくと、思わず納得してしまう。商品数が多すぎるゆえか、一見、雑多にも見えていたGSIのラインナップに意味のある一本の太い柱が見えてくる。それは、まぎれもなく「アウトドアグルメ」であり、「どんなときもおいしく楽しくごはんを食べたい」という明快な答えだった。

 さらに、忘れてはならないGSIならではの仕組みがある。それは、スタッキングの妙。このスタッキング、いまではどんなブランドでも工夫が見られるポイントとなっているが、世界で最初に組み合わせ式のクッカーセットをつくったのはGSIなのである。2010年ころに発表した「n-Formシステム」は、まさしく画期的なシステムだった。その後、他ブランドの多くがスタッキングを取り入れていったことを思うと、GSIで生まれた用具好きがつくったこのアイデアには大いなる価値があった。
写真はバガブーキャンパー。セット一式をすべて広げると、右のような具合に。マグにボウルにプレートが4人分も! さらに調理用の大小のポットとフライパンもある。これだけのセットが、左上の写真のようにきれいにスタッキングできるようになっている。また、商品の外箱にもセット時のイメージが描かれており、見ているだけでもワクワク感がある。つくり手の遊び心がいっぱいだ。
 調理器具を一式まとめて持ち運ぶ。これも、アウトドアグルメを実践するためには、必要なことだった。収まるべきところに収める、収まる。その気持ちのよさも、おいしい、楽しいにつながっていく大事な要素となっている。

 最後に、ブランド名について。GSIとはいったいなんの略語だろうと不思議に思って調べてみると、本国が発表しているブランドからのメッセージにその答えがあった。“Gear” “Solutions” “Innovations”の3つの言葉の頭文字をとった造語である。なにを意味するのか。メッセージの原文を載せておきたい。

——Thirty-five years after our founding, we're still exploring new territory every day: creating incredible Gear, inspired Solutions, and never-ending Innovations for your next meal under the open sky. 

 つまり、創業以来35年を経てもなお、日々新しいものを求め、大空のもとで食べるごはんのために、驚くようなギアを生み出し、いろいろな意見やひらめきを受け入れて、さらに新しい技術革新に邁進していく……そんな意気込みが書かれてあった。

 ギア、ソリューション、イノベーション。

 ブランド名自体に古くなる要素がない。モノ好きな人たちが本当に好きなものを追求し続ければ、製品づくりのコンセプトはブレることなく次の世代へとつけ継がれ、いつまで経っても新鮮な驚きが続くというわけだ。

 さて、次はなにを出してくれるのか。GSIにはついついそんな期待をしてしまう。これもGSIならではの魅力といえよう。

 以降、4回にわたってこの魅力に迫る。次回は上越国境の豪雪地帯に暮らす、あのアウトドアライターの登場!

 

(構成・文=宮川 哲 写真=岡野朋之)
 
 
■商品に関する問い合わせ先:エイアンドエフTEL.03-3209-7575 



GSI OUTDOORSのサイトで詳しく見る


GSI OUTDOORS関連記事はこちら

Latest Posts

Pickup Writer

ホーボージュン 全天候型アウトドアライター

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ

森山憲一 登山ライター

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター

森山伸也 アウトドアライター

村石太郎 アウトドアライター/フォトグラファー

森 勝 低山小道具研究家

A-suke BASE CAMP 店長

中島英摩 アウトドアライター

麻生弘毅 ライター

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

宮川 哲 編集者

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

渡辺信吾 アウトドア系野良ライター

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

Ranking

Recommended Posts

# キーワードタグ一覧

Akimama公式ソーシャルアカウント