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【A&F ALL STORIES】創業者・赤津孝夫さんに聞く、はじまりの物語

2017.12.18 Mon

長く使える道具。
たとえ壊れようとも、直しながら、使い続けられる道具たち。
世界中から、そんな一生の友となり得る道具たちを集めては、
アウトドアズマンに広く紹介してきたのが、1977年創業のA&F。
40周年を迎えた同社の会長・赤津孝夫さんにお話をうかがい、
道具をめぐる物語を紐解いてみました。

今年69歳になるという赤津孝夫会長。英語は苦手といいながら、世界中に友人を持つ秘密は……きっとこの笑顔。
「今度こういう本を出すんですよ」

 今年(2017年)、創業40周年を迎えたA&F。その歴史を振りかえるべく話をうかがいに、創業者であり現会長の赤津孝夫さんをたずねると、挨拶もそこそこに美しい装丁の一冊を手渡された。

 その表紙には『美を見て死ね』。著者は先年亡くなったスペイン在住のアーティストで、十年来の友人だという。

「いつか俺の本をまとめてよと遺言のように言われていてね。ようやく約束を果たせたんです」

 質実剛健なアウトドア道具を扱うことで知られるA&Fは、2014年から、版元として出版業にも携わっている。

「もとはというと、創業当時から洋書を扱っていたんです」

「アウトドア」という言葉が一般的ではなかった1977年、バックパッキングやサバイバル、フライフィッシングなどの釣りの情報は国内には存在せず、熱狂的なマニアは洋書にその知恵を求めるしかなかった。

「そこで、毎年1ダースほどの本を輸入していたんです」

 のちに「アウトドア」と呼ばれる新しい世界を彩る道具には、ものに宿る魅力以上の、知的好奇心をくすぐるなにかがあった。

「父は戦前、自ら満州に渡った野心家でした。戦後、故郷の塩尻(長野県)に戻ってからは自営業を営む傍ら、狩猟や釣り、山菜やきのこ採りなどを楽しむ、いわば、道楽者でしたね」

 そんな父のもと、幼いころから自然に親しんだ赤津さん。高校生になると、必要最小限だけの道具を背負い、北アルプスのジャンダルムを駆けていくような登山に興じていた。大学では写真を志して上京、卒業後はファッション誌の世界で写真家として頭角を現す。

「ところが、やはりコンクリートに囲まれて暮らしていると、どこかでバランスが狂うというのか、自然が恋しくなるわけです」

 そうしてダイビングの世界に傾倒してゆく。山育ちの目から見ると、海中には世界のもう半分が広がっているかのようだった。

「ダイビングの道具は国内にはないので、仲良くなったショップで自分たちの欲しいものを輸入するのですが、しだいにその仕組みに興味を持ったんです」

 懇意にしていたダイビング店はハンティング用品も扱っており、どちらの世界でも命を左右する道具として、ナイフが重要だった。そんなナイフを求めて、アメリカのアウトドアショーへ。

「アメリカのものづくりはT型フォードをはじめとして、オートメーションで大量生産するのが当たり前だと思っていたんです。ところが、おのおのの手に合わせてカスタムしたナイフをつくる職人がけっこういる。そのひとりがカスタムナイフの開祖として知られるR.W.ラブレスだったんです」
R.W.ラブレスから贈られたというナイフ。刻印されたシリアルナンバーは002という貴重な一本。
 ショーにはバックパックメーカーやテントブランドも出展していた。そうして触れたアウトドアの世界を通じて、バックパッキングの名著『遊歩大全』の訳者であり『フライフィッシング教書』の著者である芦澤一洋さんの知遇を得る。

 ナイフにとどまらず、精巧なアウトドアの道具を輸入するというアイデアーーA&Fはこうした縁から生まれていった。

 それまで見たことのないコンパクトなストーブや軽量なダウンジャケット。そして、山頂にとらわれず自然の懐深くへ、たったひとりで入りこむバックパッキングという旅の手法ーー。

「それらは目新しいだけじゃなく、背景にローインパクトを旨とした自然思想をまとっているからこそ、魅力的だったんです。新しい道具を売るだけじゃなく、その文化を伝えたい。そうした思いから、A&Fを創業したんです」

 そうして40年にわたり、A&Fはいくつもの道具を扱ってきた。そのなかにはライフツールやスタンドカイトなどの大ヒット商品があったし、長く語り継がれるグレゴリー(GREGORY)のバックパックやフェザークラフト(Feathercraft)のフォールディングカヤックなどの名品もあった。
亡くなった作家・開高 健が『プレイボーイ』誌上で紹介し、爆発的にヒットしたライフツール。パイロットの装備でもあった。
「たとえば、ぼくらが扱いはじめた当時、グレゴリーはREI(アメリカ最大のアウトドアショップ)には売っておらず、ヨセミテのマウンテンショップくらいでしか手に入らなかったんです」

 米軍規格に沿う高密度のミルスペック生地を、より強度が求められる「トップステッチ」という縫製を用い、縫い代をバインディングテープにくるんでさらに縫いこむ。そうして、デイパックのショルダーストラップにでさえ、肩の丸みに合わせた立体的なテーパーデザインを採用しており、フィット感を調整するための機能を持ち合わせている。小さなパックには、当時、無名のデザイナーであったウェイン・グレゴリーの「世界でいちばんのバックパックを」という思いがこめられていた。

「それだけに、当時で20,000円というとんでもない価格になってしまうのですが、それを補ってあまりある機能が詰まっていた。宮大工じゃないけれど職人気質を尊ぶというのかな、日本人だからこそわかる、こだわりだったのかもしれないですね」

 サンディエゴはエルカホンのバックナイフの工房にはリペアルームがあり、いちばんのベテラン職人が修理を担当していた。

「そこではじめてライフタイムギャランティー(生涯保証)という言葉を聞いたんです。使えば減るナイフを、ユーザーの生涯にわたって保証する。だからこそ、つくるより難しい修理をいちばんの腕利きが受け持つ。これこそがものづくりの神髄だと思ったんです」

 いい道具を使い続けること。

 長い時間をともにすることで、道具は無二の宝物になるーーA&Fにリペア部門があるのも、こうした思いからだという。

 そうして、道具を見極めるその要諦は、人につきるという。

「おもしろい道具を見つけたら、まずは作り手に会いにいく。そうして言葉を交わせば、金儲けの手段なのか、魂をこめたものなのかがわかりますから」

 そして、道具がよくできていても、作り手に魅力がなければタッグを組むことはないとにっこり。
心が通じた職人と、世代、国境を越えた信頼関係を元に、ビジネスを展開する。「カブー(KAVU)」の創始者ベイリー・バーと。
「今度扱うあるブランドの作り手の元に、うちのスタッフがお邪魔しにいったんです」

 広大な牧場には鱒の泳ぐ川が流れ、鹿をはじめとした動物たちが悠々と暮らしている。オーナーは日本からの客人とともに川の畔でキャンプを楽しみ、そこからともにOR(アウトドアリテーラー)ショーへと向かったという。

「そうした暮らしをするのは彼の夢であり、そこで使う道具をつくるのは、彼の人生観に裏打ちされた結晶だと思うんです」

『美を見て死ね』は、古今の作品--絵画や建築、器などの意義を、芸術家・堀越千秋が軽妙かつ本質的な筆致で綴っていた。

 とはいえ、なぜこの本をA&Fが。そんな疑問は、ページを追うごとに霧消していく。

 そこには、変わり続ける世の中にあり、けっして流されることのない、毅然とした美が綴られていた。
アウトドアの基本はナイフと火を使いこなすこと、という赤津さん。サバイバルキットを使い、あっという間に火を起こす。
 
(文=麻生弘毅 写真=伊藤 郁) 


*「A&F ALL STORIES」では、同社が取り扱っている各ブランドとA&Fとの繋がりをテーマに、これから約一年を掛けて物語を展開して行く予定です。お楽しみに!

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