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ヒマラヤ山麓を結ぶロングトレイルGHTから見えてきた伝えるべきコト。写真家・飯坂大の道行き
2017.04.12 Wed
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
今シーズンから、アウトドアのさまざまなシーンで活躍するプロフェッショナルたちがグレゴリークルーとして始動します。アルパインクライマーやバックカントリーガイドから、トレイルランナー、写真家、イラストレーターなど、グレゴリーのバックパックを背負って世界のフィールドを縦横無尽に駆け巡る彼らの活動をグレゴリーが応援します。そこで【REAL BACKPACKING WITH GREGORY】では、今回、グレゴリークルーとなったメンバーのプロフィールやこれまでの旅のハイライトを紹介。第1回目はヒマラヤ山麓を結ぶロングトレイル、グレートヒマラヤトレイルを旅する写真家・飯坂大さんです。
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世界の屋根たるヒマラヤ山脈。エベレストをはじめとした8000mを越える高峰が知られる一方で、その山裾には古くから人の暮らしがある。
鬱蒼とした森があり、沢が流れ、目のくらむような深い渓を削り、石をつみあげて拓かれた田畑――。
ネパールの東西を貫くヒマラヤ山脈の麓にはそうした暮らしがあり、それらの集落を結ぶ生活道が編み目のように張りめぐらされている。そんな古くからの踏み跡をつないだロングトレイルがグレートヒマラヤトレイル(GHT)だ。
GHTにはふたつのコースがある。標高3000~6000m以上におよぶUpper Route(山岳ルート)と標高1000~4000m以上のLower Route(丘陵ルート)。総延長距離は、山岳ルートで1700km、丘陵ルートで1500kmほど。より長い山岳ルートを2014年から歩きはじめ、知られざるネパールの魅力を伝えているのがGHT Projectであり、同チームで撮影を担当するのが写真家の飯坂さんだ。
「年に一度、ひと月からひと月半ほど旅しているのですが、歩き終わってからが勝負というか。伝えることに全力をかけていて、そこがひとりでの旅とは違う部分ですね」
http://ghtproject.com/より転載
旅と写真
大学時代まで野球に打ちこんでいた飯坂さん。卒業を前に、広い世界を知りたいと旅への憧れを募らせる。そうして、なにかを伝える人間になりたいという思いも。
「それまで野球しかしてこなかったので、地球上で人がどう暮らしているのか、自分がこれからどう生きていくのか……世界を知るツールとしてカメラを手にしたのだと思います」
卒業を待ちきれず、最後のテストを終えた翌日に出国、バックパックにニコンと200本のフィルムを忍ばせ、8カ月の旅に出た。
タイ、インド、バングラデシュ、チベット、ラオス、カンボジア――アジアの国々を渡りあるくなか、ネパールへ。そうしてヒマラヤの山々をめぐるトレッキングに足を伸ばす。初めての登山で心に残ったのは、岩と雪が織りなす絶景以上に、自然に寄り添う暮らしのあり方と人々の表情だった。
「もっと山の奥へ入り、生活を見せてもらいたいと思ったけれど、言葉や山の技術の壁があり、踏みこめなかったんです」
再訪を誓うとともに、もうひとつの思いが芽生える。それは、日本をなにも知らなかったということ。
「それもあり、今度は国内を旅してみようと思ったんです」
自転車にまたがり、南から北へ。八重山や飯豊など、心を動かされた土地では職を求め、腰を据えて撮影に取り組んだ。
「その土地の生活を撮るならば、風土に触れるべきだと思ったんです」
撮影を重ねるとともに、本格的に山登りを始める。さらに技術を高めるため、アウトドアメーカーに、そして写真スタジオに勤務し、腕を磨く。2012年、30歳のときにフリーランスの写真家として独立し、ふたたびヒマラヤへ。そうして2014年からはGHT Projectに写真家として携わってきた。
旅することで見えるもの
ヒマラヤのすばらしさをたずねると、自然の神々しい存在と土地の力、とこたえ、少しの間、黙りこむ。
ヒマラヤを歩きながら、似たような景色を、例えば八ヶ岳の森を思いだす。旅を繰り返すことで、東京から遙か遠く離れた異境としてではなく、毎日の生活にひとつながりがあるものとして、ヒマラヤを、山を、とらえられるようになる。東京もカトマンズも、山の裾野であるという感覚、水道をひねると山の水が流れているという感覚は、ある豊かさをもたらしたという。
「ネパールの祭りや山岳信仰を調べていくと、日本のそれとの共通点の多さに驚くんです。自然の恵みを受けて人が暮らしていく。その循環を見ていくと、大きな違いはないのだと思います」
前述したように、GHT Projectは歩くことが目的ではなく、これまで紹介されなかったネパールの魅力を、そこで得た考える種を伝えることを目的としている。報告会は都心はもちろん、地方でも積極的に開催しており、参加者とともに里山を歩き、地のものを食べながらながら、旅の模様を伝える。そうすることで、一方的に旅を伝えるだけではなく、その土地の魅力を再確認することになれば、という願いがある。
「ロングトレイルを歩きたいという人、身近な山に登りたいという人、暮らしを見直して自然に近づこうという若者、地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちに、ぼくらの旅がなにかのきっかけになれば思っています」
最終的にはネパールでも報告会をし、まとめたレポートを翻訳、写真を渡すことができればと頬を緩める。
「GHT Projectは、奪う旅ではなく、還すことのできる旅、誰かになにかをギフトできる旅になればと思っています」
バックパックに求めるもの
4~5年をかけて歩き続ける「GHT project」。山岳ガイドの根本秀嗣さん、ライターの根津貴央さんのメンバーに加え、ガイドのプラカスさんをはじめとした3名の現地スタッフと旅をともにする。
それまでひとり旅が多かったこともあり、ガイドやポーターと旅することに抵抗もあったというが、日本人だけでは得られなかったパーミッションや情報、なによりも、彼らと過ごすことで垣間見させてもらえる山暮らしの機微。
エベレスト街道のように世界中からバックパッカーが集まるトレイルがある一方で、訪れる者のない、中世から続くかのような素朴な暮らしを紡ぐ村があるという。
2015年に起きた震災の傷跡は各地に残っているが、そうした農村に悲壮感を覚えることはなかった。
「そうした集落には水はあるし、食べ物はつくることができる。生きることに必死な姿が印象的でした。逆に都市が弱かったのは、日本と同じだと思いました」
もちろんウエルカムな空気の村だけではない。ネパール語が通じない奥地の村では、拒絶感を覚えたことも。そんなときに頼りになるのがネパール人のスタッフ。なんとか言葉を通わせて、滞在の許可をもらい、撮影をさせてもらったという。
「知られざるネパールの姿を伝えたいという思いは、現地スタッフにも通底しており、チームには家族のような一体感があります」
4度目となる今年以降の旅には、6000m以上の峠が3つ待ち構え、懸垂下降を強いられるような難所もあるのだとか。
「3日ほど食料補給の見通しが立たない場合、機材を含めて25kgほどの荷物を背負います。なので、バックパックはタフであることが第一条件ですね」
フィット感などの使い勝手もさることながら、旅する写真家が求めるのは、ハードな環境から機材を守ること。
「そのうえで、こいつならば大丈夫、という信頼感。リスペクトできるものしか、旅をともにできません」
(取材・文=麻生弘毅)
(いいざか・だい)
1981年東京都生まれ、広告や雑誌などさまざまなメディアで活躍する、旅する写真家。自転車による日本縦断、ニュージーランドやアルゼンチンなどのトレイル歩きなど、旅した国は20数カ国におよぶ。2014年より、山岳ガイドの根本秀嗣さん、ライターの根津貴央さん、ネパール人スタッフとともに『 GHT Project 』を仲間と立ち上げる。
●バルトロ65
価格39,000円+税
重量:S2.2kg、M2.3kg、L2.3kg
容量:S61L、M65L、L69L
カラー:NAVY、BLACK、RED
飯坂さんが旅のパートナーとして選ぶのは、「道具を快適に運ぶ」というグレゴリーの遺伝子を忠実に受け継ぎ、進化を重ねてきたバックパッキングモデルのベストセラー「バルトロ」。
「今年からはこのモデルと道行きをともにします」