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ホーボージュン香港のトレイルへ!「トンガリ山と光る海」

(2016.04.21)

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Photo by Yuriko Nakao

日本もその一部である「アジア」をあらためて眺めてみると、
じつはまだまだ知られていない魅力的なトレイルが方々に……!
世界中を歩きめぐってきたサスライの旅人ホーボージュンが
そのアジアへバックパッキングの旅へ出た。
一カ国目は、ネオン煌めく大都市・香港へ!

 

香港にロングトレイルがある?
 香港にトレイルがあるらしい。そんな話を聞いても最初は半信半疑だった。香港と言えば超高層ビルが林立する世界有数の過密都市だ。トレイルといってもどうせ裏山をハイキングするぐらいの「散歩道」なんだろ? と上から目線でバカにしていた。

 ところが調べてみてビックリした。じつは香港は背後に雄大な山稜地帯を背負っていて、海から山へ、山から海へ、そして山から山へと縦横無尽に歩けるハイキング天国みたいなのだ。

 その独自の地形に目を付けたのが英国統治時代のイギリス人だった。彼らは旧来からあった山道を装備したり、新たに山道を切り開いたりして本格的なトレイルを整備した。なかでも70年代に大規模な整備をしたトレイルは「香港4大トレイル」と呼ばれてて、その総延長は300kmにも及ぶという。

「へええええええ~!」

 驚きは好奇心を生み、好奇心は僕を探査モードに切り替えた。hong kong、trail、trekking、camp、backpaking と思いつくまま単語を打ち込んでウェブ検索すると、出てくる出てくるスペクタクルな映像が……! 彼方に多島海を望むリッジライン、雄大な山の連なりをどこまでも繋ぐ細いトレイル、エメラルドグリーンの海に白砂のビーチ、そして雲海の上にそびえ立つ尖った独立峰……。それは僕が知っている香港のイメージとはまったくかけ離れたものだった。

「本当ににこれが香港なのか……!」

 心に冒険の火が点り、バックパッカーの血が騒ぐ。これはもう行くしかないだろう。そこからの行動は早かった。僕は6日間の休みとLCCのチケットを捻出すると、道具部屋のギアラックからグレゴリー・バルトロを降ろし、旅支度を始めたのである。
今回はLCCのバニラエアーで飛んだ。ものすごい狭いけどものすごい安い。片道15,000円ポッキリ。バックパッカーの強い味方だ

バックパックを背負い、一路香港へ
 香港といえばブルース・リーだ。黄色い総タイツにオニツカ・タイガーのトラックシューズ。引き締まった肉体に目も止まらぬヌンチャクさばきは昭和の少年には憧れの的だった。

「アチョオオオ~!」

 香港に着いたら絶対そう叫ぼうと思っていたのに、実際に口から出た言葉は「あぢいいい……!」だった。熱風が身体にまとわりつき、額からダクダクと汗が噴き出す。なんじゃこの暑さは……。気温は20℃ぐらいだが、湿気が高くてねっとりしている。僕の想像をはるかに超えて香港はたっぷりと暑かった。

 さ、て、と。ここから街の中心地までどうやっていくのかさっぱりわからない。恥ずかしながら僕は今回が初香港。香港にディスニーランドがあることも、アジアで「百万ドルの夜景」と言えば、函館ではなく香港だということも今回初めて知ったのだ。
英国統治時代を思わせる2階建てバス。香港では長距離バスも市内のバスもぜーんぶ2階建て
 空港のバスターミナルに出ると巨大な2階建てバスが何十台も並んでいて、ガウガウとアイドリングを続けていた。英国統治時代を思わせる2階建てバスに乗り込み、運転手さんに料金を聞くとひとり17.8香港ドル(約250円)だという。そこで20ドル札を渡そうとすると「メイヨー!(ダメよー!)」と怒鳴られた。おつりがないそうだ。そもそも香港のバスではおつりが出ないらしい。

「えええッ?そ、そうなの???」

 乗り込んでくる人たちを見てみると、みんな入り口でカードをかざし「ピッ!」とやっている。日本のスイカやパスモと同じプリペイド式なのだ。いまどき小銭で払う人なんかいないようで、料金箱らしき金属ケースにはガムテープが貼られていた。んなこといわれてもさー。

 おつりはあきらめて20ドル札を渡し、2階席に上がる。いやあいい眺めだ。いかにも熱帯らしい森の向こうにギラギラと太陽が輝いている。背中のパックを座席に投げ出し深く腰を下ろすと、バスはガウガウと唸りを上げて光るアスファルトの上を走り始めた。
 

自然保護を願って整備された香港4大トレイル
 あらためて「香港4大トレイル」について書いておこう。

 香港に最初のトレイルが整備されたのは1979年のこと。25代総督マレー・マクリホース卿(Load Murray MacLehouse) の着任が大きなきっかけだった。熱心なウォーカーであったマクリホース総督は71年に着任すると「山や海岸は万人のものである」という方針のもと、開発と人工物の設置を一切禁じたカントリーパーク(郊野公園)の整備を指示。76年に郊野公園条例を成立させると、79年までに21カ所もの広大なエリアを郊野公園に指定し、自然保護に乗り出した。

 さらにマクリホース総督は香港の若者たちが気軽にトレッキングを楽しんでくれるようにと、郊野公園をつなぐトレイルを作ることにしたのだ。そして79年に自身の名前を冠したマクリホース・トレイル(麥理浩徑)を開通。香港の背後にそびえる広大な山岳域を東西100kmにわたって貫く香港最長のトレイルが完成した。
青いラインが今回一部を歩いたマクリホース・トレイル(総距離100km)。右端の半島エリアを歩いた。緑色はウィルソン・トレイル(78km)、黄色がホンコン・トレイル(50km)、紫色がランタオ・トレイル(70km)だ/画像は本企画で専用に用意した「香港バックパッキング」Googleマップより(5ページ目に掲載
 このトレイルは大変な人気を博したため、84年にランタオ島(香港国際空港やディズニーランドのある島だ)を往復するランタオ・トレイル(鳳凰徑)、85年には香港中心部の香港島を貫くホンコン・トレイル(港島徑)、そして96年には27代総督デビッド・ウィルソン卿の名を冠した78kmに及ぶウィルソン・トレイル(衞奕信徑)が整備された。

 これらのトレイルは約5~15kmごとの区間(ステージ)で区切られ、接続地点にはバスやタクシーの通る車道が通っている。だから1区間か2区間を歩いて楽しんだあとには楽々街に戻ることができるのだ。街と自然の距離が近いこと、そして誰でも簡単にトレイルヘッドにアプローチできることが、香港4大トレイルの最大の魅力なのである。

 ……って偉そうに書いたけど、これは全部ガイドブックで勉強したこと。香港4大トレイルについては『香港アルプス』(金子晴彦・森Q三代子共著)という丁寧でパーフェクトなガイドブックが刊行されているので、ぜひ山行の参考にしてほしい。(いまのシャレよ)

といっても、じつはぜんぜんピンとこない
 さて。香港4大トレイルの概要はわかったが、じつはどこをどう歩くかはまだ決めていなかった。なにしろ「ぜんぜんピンとこない」のだ。

 香港の山々は地理的にはどれも標高数百メートルしかない低山だが、写真を見るとリッジラインがガリガリに尖ったずいぶんアルパインな雰囲気だ。だからひと口にトレイルといってもそれが北アルプスの3,000m峰を巡るようなルートなのか、それとも高尾山レベルなのかイマイチよくわからないのである。それに途中に沢や水場があるのか、テントが張れる場所があるのかどうかもよくわからない。だから「とにかく現地にいって話を聞いてから決めよう」という超アバウトな作戦でやって来たのである。

 やがて2階建てバスの窓にニョキニョキと高層アパートの姿が見えてきた。うああ、どれも50階ぐらいあるぞ。しかも超オンボロ。窓から物干し竿が突き出し、カラフルな洗濯物がじっとりした無風の空気の中で、ひらりともせずに固まっていた。

 すげー。香港映画で見たまんまだ。
香港名物の超高層アパート。こんなアパートが雨後の竹の子のようにニョキニョキ生えている。アイヤー
 工事中の古いビルには竹で組んだ足場がかけられ、いまにもジャッキー・チェンが飛び出してきそうだった。僕はジャッキーが香港マフィアに追いかけられて裏通りを駆け回り、担々麺をひっくり返されたおじさんが「アイヤー!何するあるよ!」と怒る姿を想像しておかしくなった。アイヤー!ついに来たのだ、香港へ。

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ライター
ホーボージュン

全天候型フリーライター。6,000mの高所登山からシーカヤックの外洋航海まで、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。『山と渓谷』『ビーパル』『PEAKS』『Field Life』などアウトドア各誌で連載中。公式Twitterアカウントは「@hobojun

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