- 道具
【バイヤーさとうのALL TIME BEST】ウルトラヘビーハイカーにおすすめ! テン泊用、最強の大型バックパック。カリマー 「クーガー」
2020.08.28 Fri
さとう アウトドアショップバイヤー
海、山、川、原野……。
それぞれのフィールドを遊ぶ達人たちに
長年連れ添った相棒を聞く連載【ALL TIME BEST】
第8弾は、現役のバイヤーで道具への知識が深い
バイヤーさとうのお気に入りです!
ぼくにとっての「ALL TIME BEST」を考えた瞬間、迷うことなくひとつのモノが頭に浮かんだ。それは、数あるお気に入りの山道具のなかでも長年連れ添った相棒で、すでにぼくの体の一部となっている。
ぼくが「ALL TIME BEST」として紹介したいのは、カリマー(karrrimor)が誇るバックパックの傑作「クーガー(couger)」。パック界ではいぶし銀の存在感だ。
昨今の超軽量パックのトレンドとは逆行しているが、背負い心地だけを追求する、まさに男気の塊のような無骨なパックである。荷物がヘビー級に重いハイカーには、いまでも絶対的な信頼があるパックであることはまちがいない。ぼくも長年使っていて、愛着もハンパではない。たくさんの大型パックをもっているがどうしてもいつもクーガーを手にとってしまう。
10年以上前、ぼくは御茶ノ水のとあるアウトドアショップで働いていて、バックパックの専門フロアを担当していた。そこでクーガーと運命的な出会いを果たすこととなる。
そのころの売り場の先輩は3歳から登山をやっているという生粋の山ヤ。スーパーヘビー級の重さを背負って、北アルプスのバリエーションルートも走破するツワモノだ。いまでも軽量化せずに荷物が重いのは彼の悪い影響のせいであるw。彼は山のルートはもちろん、ウェアからギア、当然、バックパックについても非常に詳しく、いろいろと学ぶことが多かった。当時のぼくは山に没頭していて、彼の話はどれもおもしろく刺激的で、もっともリスペクトする人物であったのは言うまでもない。
ある日、そんな彼に「なんかいいバックパックないですかね~?」と聞くと、くい気味に「カリマーのクーガーだね。それ以外にないでしょ!」と一言。
「クーガーっすか??」
よく売れているし、もちろん知ってはいるけど重いというイメージだった。
当時のぼくはグラナイトギア(GRANITE GEAR)の「ニンバストレース(nimbus trace)」(かっこいいし、流行ってましたw)を使用していて、バックパックは軽いものが好みだった。
彼がいいというならば使ってみたい気もする。でも、重い。ニンバストレースからクーガーへパックを変更するとなると約1㎏も重くなる。テント泊装備において1㎏重くなるのはなかなかだ……。葛藤するなかでなにげなくストックルームを整理していると、なんと、クーガーのサンプルがあるではないか。しかも55~75ℓのサイズ。これは運命だ、もう使ってみるしかない。さっそく、週末に予定していた、2泊の八ヶ岳縦走に使用してみることにした。
家でパッキングを済ませ、試しに背負ってみる。「ん? なんか異常に軽いぞ! なんか入れ忘れたか?」装備品のチェックリストで確認しても忘れものはない。それくらい軽く感じた。
当然、その山行は驚異的に楽だったと記憶している。軽いだけではなく、さらにすごいのはその山行中、いつもは痛くなっていた肩や腸骨に痛みがまったくでなかったことだ。下山後、その足でお店に立ち寄り、同じクーガーを購入して帰った。それ以来、ずっと使い続けているパックがクーガーなのだ。
初代のクーガー55-75。八ヶ岳、北アなど、さまざまな山域で連れ添った相棒。このころはすべてのものを自力で運搬することにこだわっていて重量はとてつもなく重かった。そんな重量をものともせずにいつも快適に背負えるパックがクーガーだ。
クーガーが荷物を軽く感じる理由はいくつかある。
まずはショルダーハーネスやウエストベルト、背面パッドのクッショニングがいい点だ。ウルトラライトブームもあり、年々どのブランドも競争するかのように、ザックの自重を軽くすることに躍起になっている。秀逸なバックパックもアップデートで軽量化されてしまい、背負い心地が悪くなることも多い。ただ、ユーザーからは1gでも軽いものを求められるので、メーカーとしても売るためには軽い製品をつくらなければいけないという背景もある。背負い心地よりも軽さを追求するという矛盾が生じてしまうのはしかたがないのかもしれない。
バックパックを軽量化するとき、いちばん最初に重さを削る部分がじつは背負い心地の肝となるショルダーハーネスやウエストベルト、背面パッドの部分だ。
クーガーの厚みのあるショルダーハーネスとガッチリと大きいウエストベルト。クーガーに限らずカリマーの大型パックはパットが太くて厚い。表面のメッシュ構造にも工夫が凝らされている。パット自体が体温であつくなるのを防ぐため、動くたびにパット内の熱気が外へポンプのように排出される仕組みだ。
素材を軽いものに変更したり、パッドを薄くすることで、自重は軽くなるがそれだけ背負い心地は悪くなる。肩や腸骨にあたるところがでてしまい重く感じるのだ。ここ10年の間にほとんどのブランドが軽量化するなか、カリマーだけは軽量化をほとんどしていない。同じくらいの60~70ℓ級のパックで比較すると、クーガーは2,740gと重量がダントツで重いが、その分パッドのクッショニングはとてもいい。ブランド名の由来である「CARRY MORE」の意味どおり。軽く感じるからこそ、たくさんの荷物をもっと運べるのだ。
そして極めつけはクーガー最大の魅力にして最高のシステム「SAシステム(SIZE ADJUSTシステム)」。このシステム、かんたんに説明すると背面長が無段階で調整ができる夢のシステムなのだ。無段階というところがポイントで、どんな人の背中にもピンポイントでフィッティングすることが可能となる。
SAシステム。オレンジの目印が肩の真上にくるように調整するのだが、前後に少しずつずらすことで肩へのあたりを軽減できる。長時間パックを背負っていると肩の同じ部分に荷重がかかりどうしても痛い。ショルダーストラップを緩めて、背面ストラップをしめると肩へのあたりがずれるのもSAシステムのいいところだ。
どのメーカーも男性用、女性用のモデルを発売しており、男性が47㎝前後、女性は42㎝前後に背面長が設定されている。じつはここにうまくフィットしない理由が隠されている。スタイルがいい最近の若者などは、このサイジングである程度フィットする場合が多いが、昭和生まれのぼくのような胴長短足の体形には、身長の問題もあるが47㎝前後の背面長は正直短い。ぼくのような体系は昭和生まれの日本人ではデフォルトの体形なので、短いと感じる人は少なくないはずだ。
背面長が短いと肩と腰に重さの分散がうまくできないため、バックパックの本来もつ性能を100%生かせないのである。とくに重量が重くなる大型パックではその背面長の微妙なズレの問題は顕著だ。フィット感の低下につながり、結果重く感じてしまう。
ただ、クーガーの場合はどんな背面長にも調整ができるので通常通りにすべてのストラップを締めたあとに、仕上げとしてレール式になったSAシステムの背面のストラップを最後に引くだけで100%のフィッティングが可能だ。
いやはやすばらしい! どのパックでも満足できなかった背面のフィット感をクーガーはすべて満たしてくれる。
パックの外側に配置されたポケットも独創的で使いやすいのもまたクーガーの魅力だ。
センターにひとつと両サイドにひとつずつ。二気室となるパックの内部以外で外側に合計3つの大容量ポケット(*1)を配置している。このポケットがまた巨大で、外側のポケットだけで20ℓ以上の容量がある。
(*1) この大容量ポケットはファスナーなしで、ファスナーつきのポケットはさらに計4つ(センター・両サイド・雨蓋)そなえている。
クーガーのパックサイジングは現行のモデルで45~60ℓ、55~75ℓ、75~95ℓ(*2)と約20ℓのサイズレンジの幅がある。その理由のひとつがこの巨大なポケットなのだ。センターのポケットにはすぐに取り出す必要があるレインウェアの上下をいれたい。それでも余裕があるので、さらにグローブ、ウインドシェルを入れるのがぼくの定番だが、これだけ入れてもまだまだあまるほど大きい。両サイドのポケットには意外とかさばるゴミや使用済みの携帯トイレなど、内部に入れたくないものを収容できるスペースが十分にある。
(*2) 女性モデルのクーガー グレース(cougar grace)は45〜60ℓ、55〜70ℓの展開。
とにかく着たり脱いだりが忙しい縦走中には、大きなポケットが側面にたくさんついているとざっくりしまえる。じつにテント泊のハイカーの気持ちを理解していて、使い勝手を熟知している。必要な要素がしっかりと反映されている。
両サイドのポケットも大きいが、センターポケットも巨大で、なんでも収容できる容量がうれしい。レインウェアはいつもセンターのチャックつきポケットに入れている。かさばる大きさだが、余裕で飲み込んでしまう。
パックの生地は厚く、420デニールもあり内容物をしっかりとホールドする。生地が厚くなればなるほどザックは重くなる。生地を薄くすることもうってつけの軽量化であるため、どのブランドも210デニールが主流だ。そんななか、クーガーは重くなることは承知で倍の420デニールで武装している。北海道の山ではハイマツのやぶ漕ぎを強いられるルートが多いが、これだけぶ厚い生地であれば破ける心配はほとんどないのでガシガシ歩いて行けるってもんだ。大雪山でのハイマツ漕ぎ、知床連山でのハイマツ漕ぎなどで、ぼくの歴代のクーガーにはいたるところに松ヤニのシミがある。それはそれできびしい山を走破した勲章なので気に入っている。
ぼくの使っているクーガーのサイズは55〜75ℓ。荷物が少ない1泊だけでなく、2~3泊の縦走でも巨大なポケットで容量が調整できるので対応が可能だ。それ以上に荷物が増えてポケットがいっぱいになってもリッドが上に伸びるのでまだ容量を増やすことができる。パック容量の増減幅が大きいのもクーガーの魅力である。
ぼくはカリマーのつくるバックパックを全面的に信頼している。クーガーのほかにも30ℓのリッジ(ridge)は大定番で人気だし、さらに小さいランクス(lancs)、デール(dale)、タトラ(tatra)などはどのショップに行っても定番品としておいているくらいだ。しかも小さいながらもどのモデルにもしっかりとしたウエストベルトがついている。さすがだ。やはり餅は餅屋というわけだ。
現在は廃番となったが、生地が210デニールと薄いクーガーの軽量版のジャガー(jaguar)。パット部分やウエストベルトがクーガーと同様なので、背負い心地がよく気に入っていた。歴代のカリマーパックはいいものが多い。いっしょに山へ行く仲間もカリマー率が高い。
長年愛されるスタンダードには必ず理由がある。クーガーの唯一無二の機能性は、だれもが納得せざるをえない背負い心地を実現している。機能性に裏打ちされた無駄のないデザインは、見れば見るほどにうつくしく、ぼくは完全に魅了されてしまっている。
アルプス、八ヶ岳、大雪山、いろいろな山を歩いてきたが、いつも背中にはクーガーがあった。
ぼくが山を登り続ける限りは、これからもずっと使い続けていくだろう。