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フリークライミングの黄金時代を駆け抜けたクライマーがクライミングアパレルブランド「ROKX」を立ち上げるまで

(2019.06.27)

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若き日のマイク。実力があれば年齢は関係ない世界。フットボールやパーティに夢中になる同級生を尻目に大人たちと岩場に通った。

 下半身はジーンズか白いセーラーパンツのどちらか。上半身は裸でいることが多くて、長髪が邪魔なのか、お約束のようにバンダナを巻いている。フリークライミングが黄金期を迎えた1970年代のヨセミテ。粒子が荒い、ちょっとボヤけた写真の向こうにいるクライマーたちは、だれもみなクールに見える。

 なかでも、若き日のマイク・グラハムはずば抜けてイケメンだ。モテたでしょうと聞くとニヤっと笑い、「モテましたね」と悪びれもせず答えた。ただし、あの着こなし(?)は、モテたいがためのものではなかったようだ。

「ファッションでああいうスタイルになった訳ではなくて、あの頃はそれしか選択肢がなかったんですよ」

 ジーンズについてはいうまでもない。普段着のまま登っていたということ。セーラーパンツはネイビーの払い下げだ。安くて丈夫だったから、みんなが穿いていた。上着を脱いでいたのは、「暑かったし、日焼けしている方がイケてると思っていた」から。長髪にしていた理由も単純だ。「床屋に行くお金がなかったんですよ(笑)」。

 ロックス(ROKX)創業者のマイク・グラハムは、アメリカ・カリフォルニアで生まれた。クライミングをはじめたきっかけを尋ねると、少し考えてから「映画を見たことかな」と答えた。

「スペンサー・トレイシーとロバート・ワグナーが出ていた“The Mountain”という映画で、ロープとカラビナを使ってレスキューするシーンを見て、自分もやってみたいと思いました。母には心配されましたが、アルパインクライミングでは死ぬこともあるけど、ロッククライミングは大丈夫と誤魔化していました(笑)」

 青春時代を過ごしたのはニューポートビーチ。その頃は海岸の岩場でボルダリングを楽しんでいた。ジョシュアツリー国立公園まで車で2時間ほど走れば本格的な岩場があったが、高校生のマイクは免許すら持っていなかった。

「携帯電話もインターネットもなかったので情報を手に入れるのもたいへんな時代でしたが、海沿いの街なのに何故か“スキーマート”というスキー専門店があって、そこでは少しだけクライミングギアも扱っていました。幸運にも15才のときからそこで働くことができたんです」

 クライミングの知識も技術も、その店で手に入れた。なにより、車で岩場まで連れて行ってくれる少し年上の仲間ができた。マイクはいちばんの年下だったが、登れたのでクルマに乗せてもらえた。

 毎週末のように通ってホームグラウンドとなったジョシュアツリーには、さまざまなエリアからクライマーが集まっていた。そのなかでマイクはみるみる頭角を現わし、ますますクライミングにのめり込んでいく。

「同級生がパーティをしたり、フットボールに夢中になっている頃、私はひとりでクライミングに熱中していました。女の子からパーティに誘われることもあったけど、クライミングに行くから興味がないって断っていたんです」

 ストイックなイケメンが、モテないわけがない。
 

グラミチからロックスへ。尽きることのないものづくりの情熱

 高校を卒業するとヨセミテに入り浸った。70年代半ばのヨセミテには、いまや伝説となったクライマーが集結していた。ジム・ブリッドウェル、ジョン・ロング、リン・ヒル、ジョン・バーカー、ロン・コーク、トビン・ソレンソン……。

写真集「THE STONE MASTERS 〜CALIFORNIA ROCK CLIMBERS IN THE SEVENTIES〜」に見つけた20歳のマイク・グラハム(中央の緑のバンダナ)。1976年、エルキャピタンを登ったあとの記念撮影。「奥にいる青いバンダナのロン・コークがロープを引っ張ってカメラのシャッターを押したんだよ」と裏話を教えてくれた。手前はジョン・バーカー。

“登れる”クライマーたちの間で自然発生的に生まれたストーン・マスターズという集団の中心にいたマイクは、クライミングの世界で生きていこうと決意する。ものづくりが得意だった彼は、クライミングギアの制作に本格的に取り組むようになった。

「最初につくったのはポータレッジでした。ヨセミテのビッグ・ウォールを登るには時間がかかりましたが、当時の寝具はプアでしたからね。できあがったものはネイティブアメリカンの岩の住居にちなんでクリフトウォーリング(Cliff Dwelling)と名付けました」

 ポータレッジをつくったのが1978年。4年後の1982年にウェアを手がけ、グラミチを立ち上げる。ネイビー払い下げの白いセーラーパンツから、マイクはたくさんのことを学んでいた。

「セーラーパンツはベルボトムになっていたんですが、それには理由があって、裾を縛ると空気を含んで浮くことができるのだと、海軍にいた叔父に教わりました。ウェアに機能があるということを、そのときはじめて知ったんです」

 製品第一号は白と黒のパンツだった。太陽の光を反射する白いパンツは夏用。吸収する黒は冬用。伸縮性のないコットンだが、股下にはガセットクロッチ(ひし形のマチ)を設けてストレスなく足を開けるようにした。ウエストには片手で簡単に引けるウェビングベルトを使い、足元が見やすいように裾はタイトに絞った。

「セーラーパンツは、正直動きやすくはありませんでしたから。ガセットは私のアイディアではなく、空手パンツからの応用です」

 ご存知のようにグラミチは一大ブランドへと成長した。その後マイクはグラミチを去ったが、ものづくりの情熱冷めやらず、2000年にロックスを立ち上げる。ブランドの名は「岩(ROCK)」とクライミングを意味する「エクストリームアクティビティ(EXTREME ACTIVITIES)」からなる造語で、アメリカ、カナダ、南米、オーストラリア、英国と世界各地でクライミングをしてきたマイクのクライマーとしての経験とライフスタイルの集大成だ。

 ロックスの特徴は、そのまま街を歩いても違和感のないカジュアルさを備えていながら、いつでも、どこででもクライミングができること。

「私自身はもう現役ではありませんが、いまもクライミングと繋がっています。ふたりの息子もクライマーで、彼らを通した若い世代との交流もあります。そうして知り得たのが、自分の経験や知識は、まだ十分通用するということでした。いまの人たちが知らない古い道具にも発想のヒントは見つけられます。人が見落としているものを、私は見つけることができるようです」

考案中のバックパックのイラスト。商品になるかどうかは不明。次から次へとアイディアは尽きない。「マットレス付きのポータレッジなんて、おもしろいと思わないか。ちょっと重いかな……」。1956年生まれのマイク・グラハムは現在62歳。南カリフォルニアで暮らし、ロックスをはじめ、さまざまなデザインやものづくりに関わっている。

 新しいアイディアは常に持っているとエネルギッシュに語る。これからもものづくりを続けていきたいと話すその目は、好奇心で輝いている。未知のルートを見つけたクライマーは、きっとこんな顔をしているのだろう。
 

(文=伊藤俊明 写真=森山憲一、ROKX)
 

(左)MGデニム ウッド クロップス 6分丈の人気モデル「MGウッド クロップス」のデニムバージョン。独自のカッティングと180度の開脚も可能な股下のガセットクロッチにくわえ、ストレッチ性のある生地でデニムとは思えない快適な穿き心地だ。肉厚の裾リブは、裾が邪魔にならないだけでなく見た目のアクセントにもなっていて街でも履きやすい。サイズ:XS〜XL 価格:8,900円+税 (右)MGカムフラージュ ショーツ 定番「MGロックス ショーツ」をベースにしたカモフラージュ柄のモデル。コットンの快適な着心地はそのままにストレッチ性をプラス。股下のガセットクロッチや片手で調節できるウェビングベルトなど、クライミングパンツのディテールはもちろんそのまま。カラーは全4色での展開。サイズ:S〜XL 価格:8,900円+税

 
 
ライター
Akimama編集部
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