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【低山ガイド】西のよい山ひくい山——穴だらけの山は世界遺産“石見銀山”

(2019.03.01)

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 そこは見るからに、ふつうの里山。しかし、いたるところ穴だらけですが……という世界遺産の低山を訪ねました。

仙ノ山(537m) 島根県大田市・石見銀山
仙ノ山の山肌にはいたるところ穴が。
 そこかしこの大小の穴があり、のぞき込めば得体の知れぬ深みが続く、そんな山にやって来ました。見るからに典型的な里山なのですが、仙ノ山の地下では大小の坑道が縦横に走り、迷路のようになっています。坑道の数は700余り。最長で1500mの坑道もあるようです。
仙ノ山のトレイルにある、古代遺跡のような釜屋間歩(かまやまぶ)。間歩とは坑道のこと。人々は岩を削り、穴を穿ち、地中に富を求めた。
 仙ノ山一帯は20世紀初めまで銀や銅の鉱山でした。戦国~江戸時代前期、日本は世界の銀の3分の1を産出していましたが、その大部分はこの地域からだそうです。そんな歴史的背景もあって、2007年には『石見銀山遺跡とその文化的景観』として世界遺産に登録されました。つまり知床半島や屋久島と同じく、この仙ノ山を含めた山並みも世界遺産の山なのです。

 そして、空想を刺激してくれる山でもあります。
原田駐車場から登り始めると間歩だらけの谷に。枝分かれした先の坑道は大変狭く、ここで人が作業していたかと思うとちょっと恐ろしい。
 銀の採掘が最盛期だったころ(16世紀半~17世紀半)の仙ノ山はいまよりも草木が少なく、要塞のような岩山だったのでしょう。岩壁に空いた穴からは、鉱石を詰めた土嚢を背負うふんどし一丁の男たちが、汗と埃にまみれながら蟻のようにはい出てきたはずです。現代の日本の私たちには想像を絶する職場だけど、それは曾曾爺さんの曾爺さん(ややこしいな)の時代。御先祖が一列に並べば私の6人前ぐらいなのです。
仙ノ山頂上近くの台地。頂上は藪に覆われていてよくわからなかった。
 鉱山区から登り、仙ノ山頂上の広い台地へ。かつてここには鉱山労働者の集落が築かれ、そこでは恋愛もケンカも家族の団欒もあったのだ……などと想像できるのは、史跡の案内版のおかげ。それがなければただの原っぱです。失われると、語るものなければ、歴史上なかったことになる。だから人は墓を建て、金持ちは自分の銅像をつくるのであります。
防衛のため、石見銀山には山城がいくつも造られていた。そのひとつ、山吹城跡(要害山頂上)。
 仙ノ山を下り、次に要害山へ。その山頂には山吹城が築かれていましたが、いまではひな壇の曲輪跡がその歴史を語るのみです。そこから遠望すれば活火山の三瓶山(1126m)。山吹城を守った鎧武者たちも同じように眺めたでしょうか。
山吹城跡からの三瓶山。
石見銀山は16~20世紀前半に操業された鉱山で、いまとなっては山あいの大森集落(上画像)と森が残るのみだが、一時は20万人が暮らしていた。銀の精錬には木材が大量に消費されるのだが、石見銀山では植林をするなど計画的な森林管理を行ない、はげ山だらけにはならなかったらしい。
 ふと、山に魅かれる理由がひとつわかった気がしました。山とはゆるぎない存在であり、「自分がこの世に存在していた」という記憶を託したくなる、巨大な碑なのだと。それを見上げた誰かは、「この山を愛した人がいたな」と思いを馳せるかもしれない……などと少し感傷的になる、冬の世界遺産の低山でありました。
下山後は、これも世界遺産地域である大森の町並みを散策。石見銀山の行政と商業の中心地だった。武家や商家の豪邸や社寺がいまも残り、熊谷家住宅(入場料500円)など見学できる邸宅もある。


地図製作=オゾングラフィックス

■仙ノ山(537m)
 一時期は世界の銀の重要な産出地だった山域にある。仙ノ山の山頂付近は台地状で、かつては銀を露天掘りしていた。また、採掘・精錬もここで行ない、しかも生活の場でもあった。ある程度自然を維持しながら鉱山開発したおかげで、いまでは石見銀山の一帯は見渡す限りの森になっている。鉱山の歴史は、山肌の坑道口が語るのみだ。

■山行コースガイド
〈歩行計=2時間25分〉原田駐車場(45分)仙ノ山の集落跡(40分)龍源寺間歩(30分)山吹城跡(30分)山吹城跡登山口
 
 余裕のある低山歩きなので、銀山の史跡をじっくりと見学しながら歩いてほしい。山中の間歩はどれも見学不可だが、龍源寺間歩は一般公開(大人410円、冬季9:00~16:00、1月1日休)。原田駐車場へは、石見交通バスの福原口停留所下車、徒歩15分(世界遺産センター経由で大森代官所跡~福原口間の路線バスあり)。

 
 
ライター
大村嘉正

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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