• 山と雪

クロスカントリースキーを通して実感した、長野県飯山の自然文化とフィールドの魅力【前編】

2021.03.10 Wed

渡辺信吾

渡辺信吾 アウトドア系野良ライター

 クロスカントリースキー(ノルディックスキー)と聞いて、みなさんはどんな印象をお持ちだろうか? ソチ五輪、平昌五輪でメダルを獲得し、今まさにワールドカップでも活躍している渡部暁斗選手(白馬)や、かつて兄弟で日本代表として活躍していた荻原健司選手・次晴選手(草津)の名前とともに、レースの映像が頭に浮かぶ人も多いだろう。また、最近では、トレイルランナーのオフトレとしても人気が高まっているという。いずれも競技的側面が強いが、じつは誰もが手軽にはじめることができて、雪さえ積もればどこでも、身近な場所がフィールドになる、冬のアウトドアスポーツだ。 とくに今回訪れた長野県飯山周辺は、誰でも手軽にクロスカントリースキーを楽しむことができるクロカン天国でもある。そこで、実際にクロスカントリースキーに挑戦し、アクティビティの楽しさ、そしてフィールドの魅力、さらには飯山から始まった日本のスキーの歴史や文化について紹介したい。

 話は昨年の秋に遡る。斑尾高原にオープンするグラベルライドパークについて取材をした折に、長野県飯山市にあるKokuto iiyama homeというゲストハウスに宿泊した。その日の晩、オーナーの服部正秋さんとお話をしたのだが、このゲストハウスのすぐ横にある妙専寺の境内に向かうなんの変哲もない坂道が、長野県で初めてスキー滑走が披露された記念碑的な場所であること。そして、寺町として栄えた飯山、特に愛宕町は、仏壇仏具などの商売が盛んで、スキー作りを命じられた同町の家具職人小賀坂濱太郎がスキー製造を始め、現在の小賀坂スキーとなったこと。また、その当時ロウソクを取り扱っていた服部さんの生家「穀藤商店」がKOKUTO WAXというスキー用ワックスを作って販売していたことなど、じつに興味深い話をお聞きした。以来、日本のスキー黎明期に、飯山という町が担った役割や、現在に至るスキー文化と雪国の暮らしなどについて純粋な探究心が湧いてきた。

 また、服部さん自身も、ノルディックスキーの元競技者であり、現在もインストラクターとして活躍されていて、飯山周辺にはクロスカントリースキーを楽しめるフィールドがたくさんあることなども聞いていた。
「ぜひ、冬にはクロスカントリースキーも体験しにきてください」とクロスカントリースキーの魅力について語ってくれた服部さんのすすめもあり、実際にクロスカントリースキーを体験しながら、飯山の歴史や日本のスキー文化ついても取材することとなった。

 雪のちらつく2月、私たちはKokuto iiyama homeにチェックインする。服部さんによると、飯山界隈にはクロスカントリーのフィールドが8カ所もあり、そのうちいくつかは無料開放されているという。言われてみれば、関田山脈と志賀・野沢の山々に挟まれるように流れる千曲川沿いの開けた谷筋一帯は、広大な平地と緩やかな丘陵を擁し、クロスカントリースキーのフィールドとしては絶好の地形なのだろう。そんな恵まれた環境から、周辺の地域ではクロスカントリースキーは生活にも根付いていて、小学生の授業の一環としても盛んに行なわれているという。

 ちなみにノルディックスキーとも呼ばれるように、クロスカントリースキーは北欧が発祥でありメッカでもある。北欧もまた急峻な山というよりはなだらかな丘陵地が多いらしく、山岳地帯であるヨーロッパアルプスのアルペンスキーやスキーモ(SKIMO = Ski Mountaineering)とは違ったスキー文化が形成されている。

 翌日は宿からクルマで10分ほどで行ける“長峰スポーツ公園”のクロスカントリーフィールドで、服部さんにクロスカントリースキーを教えてもらうことになった。

長峰スポーツ公園は、飯山市の公共施設。体育館、テニス場、野球場などもある。多目的グラウンドが冬季はクロスカントリーのフィールドとして整備されている

 千曲川と旧信濃平スキー場に挟まれた小高い丘陵地にある長峰スポーツ公園には、陸上用400mトラックに作られたフラットなオーバルコースから、アップダウンを含む本格的なロングコースがある。しかも無料で利用が可能。この日は朝から快晴。夜のうちにきっちりと整備されたフィールドが青空の下に広がっていた。

 クロスカントリー用のスキー板は、ブーツよりも細く、長さは190cm前後、足裏部分に短いシールやウロコが施されている。キャンバー構造でエッジは無い。ビンディングはブーツの爪先だけロックして、ご存知のようにかかとはフリー。ストックの長さは自分の肩の高さぐらいまである長いものを使う。

まずは、レールに乗って滑る練習からスタート

 コース内はしっかりと圧雪され、コースには、トラックと呼ばれる2条の溝がレールのように掘られている。私たちはまずクラシカルという走法から。トラックにスキーをセットして、まずはストックを突いて歩く練習からスタート。レースなどの映像ではスキーを逆ハの字に開いたスケーティングをイメージされる方も多いだろう。しかし、まずはトラックの中をスキーをまっすぐに、リズム良く滑らせるクラシカル走法が基本なのだそうだ。交互にスキーをゆっくりと滑らせ、恐る恐る歩き始めるが、少し大股で踏み出したスキーに乗って行こうとすると、グラグラして思うように進めない。普段からスキーを楽しまれている方には苦もないことかもしれないが、スノーボードやサーフィンなど、横乗りばかりやっている私には縦乗り?の感覚がつかめず苦労した。

 それでも、なんとかスタスタ進めるようになり、緩い坂を登っていく。足裏にあるシールを効かせるように体重をしっかりとかけて、交互にスキーを踏み出していけば登っていけるのだが、ちょっと体勢が崩れると、シールが効かず、板が後方に滑ってしまう。

「さあ、ではこの斜面を下ってみましょう」と言われ、斜面を見下ろしてみると、斜度にして3度ぐらいのゆる~い斜面なのに、かなりビビる。「体勢を低くして後傾にならないように、前に手を前に出して」とアドバイスをもらい、トラックに板をセットして恐る恐る滑り出すのだが・・・・・・。案の定、バランスを崩し転倒。
「慣れですよ、慣れ」と、慰めてもらい練習を重ねる。するとしだいに、トラックを使った歩行には慣れてきたので、次はトラックが切られていないコースに向かう。歩くだけならもう大丈夫だと思ったが、「トラックがないだけでこんなにもスキーがブレブレになるのか・・・・・・」と自分のシュプールを見て凹む。それでも、だんだんと転ぶのもまた楽しくなってきた。

これで3度から4度の緩い斜面

タキザー氏はゴキゲン

「次はコースの外も歩いてみましょうか」と服部さんがコースを外れて、トレースのない新雪の中に入って行った。それに続くように歩いて行くと、これまた気持ちいい。スノーシューのように足を持ち上げて歩くのではなく、すり足のように板を滑らせていくので非常に楽だ。しかもノートラックの雪面に足を踏み入れる快感はバックカントリーと同じだ。それどころか雪崩の心配もないからリラックスして歩ける。

圧雪コースの横はノートラックの雪面が広がっている

 この長峰という小高い丘陵地からは、周辺の山々はもちろん、その裾野から千曲川流域に広がる広大な平野まで見渡せる。真っ白な雪で覆われた田畑と思しき平地は、はるか遠方までずーっと続いている。服部さんによると、クロスカントリースキーを履いて、飯山市街から戸狩温泉ぐらいまで、野山や田んぼを突っ切って歩いていけるそうだ。そこまで雪の中を自由自在に歩けるようになるには、まだまだ練習が必要だと思うが、雪が切れ間なく続いていれば、どこまでも歩いて行けるのだと想像すると心が躍った。

小高い丘陵地からは山々と麓の街並みまで見渡せる

 午後から別の仕事があるという服部さんと別れ、私たちは別のフィールドにも行ってみることにした。

飯山駅構内にある信越自然郷アクティビティセンター

 飯山駅内にある信越自然郷アクティビティセンターを訪れ「クロスカントリースキーをしたいんですけど、おすすめの場所はありますか?」と聞いてみたところ、“なべくら高原・森の家”を紹介してもらった。

なべくら高原 森の家のセンターハウス

 飯山駅からクルマで20分ほどで、なべくら高原に到着。“森の家”のセンターハウスでスタッフの方に確認してみると、さまざまな体験ツアーなど、有料のツアーも実施しているが、ここでは、レンタルスキーもあり、圧雪されたコースをクロスカントリースキーで歩く分には無料とのことで、午前中に覚えたばかりのクロスカントリースキーを履いて、敷地内にある「せつげんコース」というルートへ向かった。

せつげんコースにはまさに大雪原が広がっている

 こちらのコースは、一周1kmぐらいの圧雪されたコースがあり、その横の非圧雪の雪原も歩くことができる。そこはまさに信越トレイルの山々を見渡せ、遮るものもない一面の雪原! おじさんふたりテンション上がりまくりである。

関田山脈から苗場山まで信越トレイルの山々が見渡せる大パノラマが広がる

 せっかくなので、雪原の中で山をバックにコービーブレイクでもしましょうと、スキー板を並べて簡易的な椅子とテーブルを作り、ひと休み。晴天でほぼ無風。歩いているとポカポカ暖かいが、じっとしているとやはり寒い。誰もいない雪原で飲むコーヒーが臓腑にしみわたる。まさにこういうことがしたかった!

 午前中にレクチャーを受けて、午後には誰もいない雪原や森を歩くことができる。これなら大人から子どもまで、だれでも気軽に安全に雪山を楽しめる。しかもスキーやスノーボード、そしてスノーシューとも違う。一歩一歩、ゆっくりと雪山を味わいながら、ノルディックスキーという文化がなぜ飯山で盛んなのか、少しだけ身をもって実感できた気がする。

 宿に戻ると、服部さんから、夜に子どもたちにクロカンを教えているので、いっしょに来ませんかとのお誘いがあった。

 行ってみると、午前中に練習した長峰スポーツ公園にはりっぱなナイター設備があり、小学校の低学年から高校生に至るまで、たくさんの子どもたちが、寒さにも負けず、楽しそうに練習をしていた。しかも、昼間の自分には信じられないスピードで、鬼ごっこをしながら、滑りまくっている。

 ナイター照明に照らされて嬉々として楽しそうに走り回る子どもたちの姿、そして、それを温かく、見守り支える親や地域の人たち。そんな光景を眺めていると、飯山という自然環境がもたらす歴史、そして、雪国の生活文化などの奥深さが垣間見えた気がする。

 次回、服部さんへのインタビューを通して、飯山を起点としたスキーやスキー産業の歴史や飯山というエリアの生活に根差したクロスカントリースキーの文化、そして将来像などについてお伝えしたい。この続きは後編へ。

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