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【がんばれフェスおじさん 1】星野リゾート アルツ磐梯で人生初滑り。大人のスキーデビュー。

(2019.02.20)

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「新しいことにチャレンジする。それは何歳になったとしても決して遅いということはない」

 何かを成し遂げた人は、挑戦することに対してこんな言葉を発している。自分にとっても挑戦し続けることは大切なことなんだと頭では理解していても、年齢を重ねるごとに「新しいこと」が億劫になっている自分もいる。「今からやっても楽しくなるまでは時間がかかりそう」とか「失敗している姿を見られたくない」とか、そんな言い訳が先にたってしまう小さな自分。

 2018年の暮れ、新しい年の抱負として「今まで尻込みしていたことにチャレンジする」ということを口に出すようになった。やりたかったけれど足を踏み入れていなかったことって、本当に多い。アウトドアアクティビティも、やっていないことばかり。

 例えばフェスに対しても同じことだろう。同年代、もしくは年上の世代から「フェスに行って楽しめるだろうか」と質問されたとしたら、「何歳になっていたとしても、自分が楽しむ心を持っていれば楽しめますよ」と間違いなく答えるだろう。おじちゃん、おばちゃんが楽しんでいるフェスって本当に素敵だと思う。

 今からでもまだ遅くない。フェスおじさんのアウトドアチャレンジがスタート。

55歳のワクワクドキドキの初スキー

 北国に生まれ育ったとはいえ、一度もスキーをしたことがなかった。小さかった頃の冬の外遊びといえば、もっぱらソリ。映画『私をスキーに連れてって』の80年代後半のスキーブームも、世代としてはドンピシャなのだけど、そのブームを斜に構えて見ていた。

 春から秋に開催されていたフェスもシーズンがどんどん長くなり、冬にもフェスが開催されるようになったのが10年ちょっと前。新潟の豪雪JAMや岩手のAPPI JAZZY SPORTなどに参加していくうちに、「スキー、やってみてもいいかな」と思うようになっていた。

 大好きなアメリカのバンド、ストリング・チーズ・インシデントにインタビューした際に、それぞれ出身地が違うのに、なぜ結成の地であるコロラドに集ったのかという質問に対して、メンバー全員が「スキーがここにあったからさ」と答えてくれたのも、スキーに自分の気持ちが向かっていった理由のひとつだった。

 誰かに背中を一歩押してもらうことも、踏み出せない自分にとっては大切なことなのだろう。取材という名目だが、50代も半分が過ぎて、ついに初スキーとなった。場所は福島県のアルツ磐梯。東北最大級のゲレンデを有する星野リゾートが運営しているスノーリゾートだ。50代のビギナーにとっては「もったいない」と思える施設だ。

東京から郡山まで最速の新幹線で80分弱。郡山からバスで60分。乗り換えがスムーズなら2時間半。アルツ磐梯の魅力はそのアクセスの良さにもある。

 初スキーのスケジュールは一泊二日。まずはプライベートレッスンからスタート。初日は寒くもなく風もない絶好の初スキー日和となった。

 スキーブーツをはくのはこれが2回目。初めてはいたときは、こんなに自由がきかないものなのかと感じた。ハイカットのトレッキングシューズともまったく違う。ブーツをはくところからレッスンはすでにスタートしている。やっとの思いでブーツに足を入れ、つま先の方のバックルから順に足首へ上がっていくようにバックルを締めていく。さらにしっかりと、つま先を締め直す。ブーツの中で足が動かないように。きつくしっかり締めることによってケガの防止になるという。初スキーのミッションのひとつが「ケガをしないで終える」ことだった。

自分のサイズにあうスキー、ストック、ブーツをレンタル。ブーツをはくのにも一苦労。

 ウェアも装備も完璧にしてゲレンデへ。片足にスキーをはいて、傾斜のない平らな場所を歩くことからスタートした。片足が慣れてきたら両足で歩く。一歩一歩がスーッと前へ向かう。なるほど、雪の上を滑るっていうことはこういうことか。次に教えてもらったのが滑っているときの姿勢。中腰で前かがみ。腕は肩幅よりやや広いくらいで前に出す。

 滑る前のレッスンはまだ続く。続いて雪の上でのスキー板のはき方。板を山と谷に対して平行において、谷側から装着させる。山側から装着させると、谷側をはく際に滑ってしまう可能性があるという。

 ゲレンデでの板のはき方まで、しっかりとその理由を教えてくれる。「子どもは身体で覚えるんですけど、大人は頭で覚えることからはじめる。スキーというものを理解すれば、滑りそのものも変わってきますから」と、わかりやすく説明してくれるスクールの佐藤徐庶さん。

 おそらく机上の勉強だったら、頭に入らなかっただろう。スキー板をはくという初歩的なことでも、ブーツの底に雪がついていたらビンディングにうまく装着できないし、なかなか思うようにはいかない。雪の上だからこそ、ひとつひとつをクリアしていっている実感がある。

ゲレンデでのプライベートレッスン。無鉄砲にチャレンジできる年齢ではないから、頭で理解しながら、スキーに向き合っていく。

 そして滑るレッスンに突入していった。ここでの最初のレッスンは「止まる方法」。八の字にするプルーク。八の字の角度と足の力の入れ方を、ほとんど傾斜のないところで教えてもらった。八の字にすることで、スキーの内側にエッジが立ち、エッジによってスピードが落ちてやがて止まる。それを理論として教えてくれる。

 中腰&前かがみで手は前方へ。この教えてもらったスタイルで、いざゆかん。ゆるゆると重力によって滑りはじめた。動き出したのはいいけれど、止まることで頭がいっぱい。内股と土踏まずに力が入っていることがわかる。ふだんはほとんど使っていない筋肉。なんとか転ばずに止まることができた。

 上から下へ。滑り出して止まる。その反復練習が何度も続いた。少しずつ距離も長く、傾斜もきつくなっていく。少しずつ滑っている感覚も味わえるようになってきている自分がいる。自分の力ではなく、地球の力で動く。なんとも気持ちいい。傾斜がきつくなり、スピードが上がれば、八の字の角度を広めればいい。左右同じようにエッジを立てればいい。頭でわかっているのだけど、なかなかこれができない。まっすぐ目標に向かって降りていっているつもりが、どっちかに曲がっていってしまう。「この止まる感覚は、何度も滑ることで必ず獲得できますから」と佐藤さん。

八の字に必死にしているつもりなのに、なかなかその形にならない。目標に向かってまっすぐ向かっているはずなのに、自然と右か左のどちらかに曲がってしまう。

 たっぷり2時間。中腰を続けたことで、足の疲れを感じて来たころ、佐藤さんがスノーエスカレーターに乗って降りてきましょうと促してくれた。スノーエスカレーターで登り、そこからゲレンデを見下ろす。わずか30メートルくらいの距離だろう。けれどそこから見下ろした景色は、それまでに見ていた景色とはまったく違っていた。左手前方には磐梯山がそびえている。ここから自然のなかを降りていくんだという快感。滑れるのかという怖さも確かに同居していたけれど、この自然と共にあるという感覚がスキーの魅力なのだろう。

 まだ止まる技術が未熟だと考えた佐藤さんは、八の字を固定するように自分のスキーを抑え一緒に滑ってくれ、初日のレッスンを終えた。

わずか数十メートルの違いなのに、上から見える風景は違っていた。次はもっと上から。

 佐藤さんは、これまで、最高齢は80代のおじいさんにも教えたことがあるという。そのおじいちゃんは若いころにスキーをたしなんでいたけれど、やらなくなってだいぶ時間が開いてしまった。お孫さんが大きくなって、一緒に滑りたいという気持ちでレッスンを受けたという。スキーはそれだけ年齢を重ねた後でも楽しめるスポーツ。だったら50代の自分がはじめたとしても、決して遅いわけではない。どう自分が楽しむか。楽しむ気持ちを持つことができるか。

夏は青森でニンニクなどを育てている農家さんという側面を持っている佐藤さん。夏場の農業と冬のスノー。一年中アウトドア。

 夜から本格的に降りはじめた雪は、朝にはかなりの積雪となっていた。 50センチ以上は積もっている。

 東京へ帰るのは午後になってから。午前は自由時間。板もブーツもレンタルしたまま。昨日の教えてもらったことを頭の中で反芻しながら、ひとり雪が降り続くゲレンデに出て、スノーエスカレーターに乗った。スキーをはいて、いざ滑降。滑るって気持ちいい。そう思った瞬間に、スピードが出すぎてしまって見事に転んでしまった。次の目標はリフトに乗って、もっと長い距離を降りてくること。他人からすれば小さな目標なんだろうけど、目標が持てるってことが、なんとも誇らしい。

豪雪となった2日目は、朝一番でCATに乗って、ゴンドラでもリフトでも行けないゲレンデへ。もちろん、ここからは滑ることができるわけもなく、戻ってきて、前日に教えてもらったことを再確認。

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ライター
菊地崇 a.k.a.フェスおじさん

フェス、オーガニック、アウトドアといったカウンターカルチャーを起因とする文化をこよなく愛する。フェスおじさんの愛称でも親しまれている。

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